「こいつ……!強いぞ!」
「……っ!」
「フッ」
ベルとヴェルフを圧倒するマリウス。
彼は口角を上げる。
しかし。
「マリウスくん。もういいです。通してください」
「……!かしこまりました、
扉の奥から声が聞こえて、跪き頭を垂れるマリウス。
それと同時に扉が開いた。
王座のある部屋へと道が拓く。
「えっ?」
突如、通されるベル達は困惑して顔を見合わせる。
だが恐る恐る前へ進んだ。
すると。
「ようこそ、王の間へ。私は【
「……っ!」
ベルが息を飲み、警戒する。
噂のルシア・マリーン。
彼女が最も恐ろしい存在だ。
しかし、彼女はもっと恐ろしい存在がその奥にいるという。
「侵入者、ベル・クラネルくん。よくぞここまで来ました。そんな貴方に紹介しましょう。彼女こそが、我々の王―――リョーカ・アーサです」
「……」
王座に座るリョーカは視線を落とす。
あまりにも茶番だ。
「侵入したことは……ごめんなさい。でも、僕たちは……!」
「スズネリアくんですよね?いいですよ、直接話してください」
「えっ」
ここまで抵抗した割にはあっさりと承諾するルシア。
彼女にとってベルの妨害をしていたのは美の女神を満足させ、妙な因縁をつけられないためだ。
ベルの成長に貢献すれば不干渉の契りを破ってもあまり文句は言われないだろう。
まあ、そもそもルシアからベルに接触したわけではないが。
なので、ここまでくれば義理は果たした。
あとは勝手にすればいい。
そう思い、奥の部屋から出てくるスズネリアに場所を譲る。
「スズ……!」
「ベル……マジでここまで来たのか」
スズネリアは驚き、彼と対峙する。
「スズ!戻ってきてよ。スズならまた冒険できるよ!」
「ベル。俺は……」
ベルに声をかけられて彼は俯く。
そして、リョーカを見る。
「俺には、母上を守れない。強くなれない俺には……無理だ」
「これから強くなればいいよ。僕達がスズの助けになる。一緒に強くならない?」
「ベル……」
ベルの言葉に揺れ動くスズ。
彼は、ルシアと向き合う。
「ルシア……っ。俺……!」
「―――この時を、待ってた」
『えっ』
スズが決意しようとしたその時、リョーカは王座から立ち上がる。
そして、双剣を手にルシアとスズの間に入る。
彼女は……ルシアに向けて剣を構える。
「母上!?何を……!」
「これだけ部外者がいれば、マリウスも手を出しにいくい。キリエもそろそろ上がってくる。今が、貴女を倒してイブキを解放する絶好の好機!」
「……そう来ましたか」
リョーカを前に呟くルシア。
まさか【フレイヤ・ファミリア】対策が彼女に隙を与える結果になるとは。
「ルシア……貴女を倒す!」
「そうですか」
双剣を抜き、二刀流スタイルでルシアと対峙するルシア。
ルシアは冷めた返しをする。
だが、この状況についてこれない者が多すぎる。
「は、母上……?どういうことだよ」
「スズネリア。邪魔しないで。この人を倒せば、私は親友のイブキを取り戻せる。そしたら命令に従う必要もない。グウィネヴィアの神威だって、いつかは解いてみせる!」
「待てよ。意味わかんねえよ!えっ?どういうことだよ!」
リョーカの言葉が理解できないスズネリア。
頭を抱えて混乱し、ハッとしてルシアを見る。
そう、その判断は正しくて間違っている。
理論的に返せるルシアに聞けばいいという判断。
だが、ルシアが冷静な理由はすなわち彼女が黒幕だからだ。
「ルシア!どういうことだよ?なんで母上はルシアに……!」
「簡単な話です。私がリョーカさんを無理やり戦わせていたんです。人質を取って、その人を傷つけて」
「は?なんでそんなこと……なんで……!」
「仲間を救う為に決まってるでしょう!!」
『……っ!』
突然叫ぶルシアにスズネリアもベル達も驚く。
そして、ヘスティアは思い出した。
このファミリアは異常。
全員が狂っている。
それはこの実質的なリーダーである彼女も同じ。
寧ろ、彼女が1番狂っている。
「遅かったか……!」
汗だくで上がってきたキリエが扉を開けて入ってくる。
だが、一瞬で状況を理解する。
そして、彼女の背後には刃が。
「まだ終わっていませんよ!」
「くっ……!やだね、デートは切り上げ。夕暮れさ!」
マリウスとの戦闘に戻るキリエ。
2人はまた廊下へと戻った。
そして、スズネリアのショックは続く。
「ルシア!仲間って……!」
「……貴方達のことではありません」
「……っ」
瞠目するスズネリア。
ルシアは、拳を強く握り、見つめる。
「私は彼女達を助けるならなんでもやります。その為なら、誰を踏みにじろうと厭わない!!」
「……っ!」
「私は大切な者を救う為なら、それ以外を不幸にする道を選びます」
「なっ……」
マトモではないことを言い切るルシア。
その表情があまりにも真顔すぎる。
取り乱してるわけでも、狂ってる訳でもない。
正気だ。
彼女は嘘をひとつもついていない。
そのことがわかるスズネリアは……愕然として、両膝をつく。
「じゃあ……今まで俺が見てきたルシアは……」
「全て嘘です。これが私の本性。真実です」
「……なんで俺には黙ってんだよ」
「それは……贖罪です」
「贖罪?」
「昔、君を怖がらせてしまったので。そのお詫びです。あとは……なぜか君の前では良い人でいたかったんです」
「……っ!」
スズネリアが俯きながら瞠目する。
そんな彼をルシアは通過して、剣を構えるリョーカと対峙する。
「さて、リョーカさん。今なら撤回を許しますが。どうします?」
「する訳ない。イブキを解放しろ!」
「そうですか……」
ルシアはため息をつく。
本当に……この女はずっと馬鹿だ。
そう思い、口角を上げる。
「Lv.8相当になり、私と肩を並べた今、サシなら勝てると思いましたか。浅はかですね。誰がその力を与えたのか忘れたんですか?」
「……えっ」
リョーカが目を丸くする。
ルシアが、戦闘体勢に入るのではなく、ただ両手を前に出すポーズを取ったからだ。
彼女は困惑する。
だが、次の瞬間。
「カリバーン。モルガーン」
「えっ!?」
突如、リョーカの手から双剣が離れた。
それは引力に導かれるように真っ直ぐと飛び、ルシアの両手に収まる。
一瞬で剣を失ったリョーカ。
瞠目して、震えながらルシアを見る。
「あれ?言ってませんでしたっけ。この2本の剣は私を素材に作った剣。私が呼べば、私の元に還ってくるんですよ」
「なっ……!?」
瞠目するリョーカ。
そして、一気に顔が真っ青になり、彼女は後ずさっていく。
その姿を見て、ルシアは嘲笑う。
「ハッ。それで?今が好機でしたっけ?ならやりますか?この2本を失って究極奥義が使えますか?Lv.8相当の力が振るえますか?この剣に匹敵する剣を持ってますか?剣がなければ―――貴女は無能、でしたっけ?」
「~~~~~~~~~っ!!」
下唇を噛み、顔面蒼白になるリョーカ。
終わりだ。
戦う前から決着が着いた。
彼女に勝ち目はない。
彼女もまた、膝から崩れ落ちる。
「母上……!」
「はははっ!見ましたか?スズネリアくん。これが現実です。貴女の母上は私の支配下にある。ただの奴隷です!」
「ルシア……!」
ルシアを睨むスズネリア。
その視線をルシアは甘んじて受け入れる。
これでいい。
私は悪に堕ちたのだと。
「な、何が一体どうなってるんだい?」
状況に置いていかれてるのは完全部外者の【ヘスティア・ファミリア】だ。
ヘスティアはポカンとしてから、ハッとしてグウィネヴィアの姿を探す。
何にせよ、これだけの子供たちが目の前で苦しんでいる。
監督者である神を問い質すのは
だが、肝心な時に彼女はいない。
いや、敢えて姿を見せていないのだろう。
そして、ついていけていないのはヘスティアだけではない。
「よくわからねえが、あのチビがとんでもねえ極悪人なのは分かるぜ……」
「―――違う!」
「……!?スズ坊……?」
ヴェルフが声のした方を訝しむと、這いつくばっていたスズネリアが……徐々に立ち上がる。
彼は顔を上げてキッ……!と鋭い目を前に向ける。
「確かにルシアは悪い事してるかもしれねえ……!でも、悪人ではねえはずなんだ!!」
「この期に及んで何を……!」
リョーカに睨まれるスズネリア。
けれど、彼は折れない。
「だって、そうだろ!俺の前では良い人でいようって思ったのも、どう考えても贖罪からだろ!ルシア!お前は、子供の命を奪えるほど……正義が死んじゃいねえんだ」
「……っ!」
ルシアは瞠目する。
信じられないものを見るような目で彼を捉える。
その瞳に映る、彼は。
「確かに悪い奴かもしれねえ。けど、悪人じゃねえ!ルシアの心ん中に、まだ善意はある!!俺は知ってんだ。知ってるんだ!!」
遂に完全に立ち上がり、自身の胸を叩くスズネリア。
彼は、ルシアとリョーカと向き合う。
これは……子供が大人になるその1歩。
「俺が見てきたルシアも嘘じゃねえ。リリルカを助ける時、知恵をくれたのはルシアだ!あの善意を誰にも否定させねえ!!」
「……っ!」
ルシアが、後ずさる。
瞳が揺れ動く。
心が―――ダメだ、ブレるな!!
やはり。
やはりこの子供は危険だ!!
「俺は母上の友達を助ける!母上の代わりに戦う!そんでルシア、お前も止める!」
「ふざけないでください!誰にも止められません。この足を止めたら、皆が……!」
「だったらお前の仲間も俺が助ける」
「~~~~っ!?」
スズネリアは真剣だ。
だが、無理だ。
物理的に不可能だ。
お子様の理屈だ。
「馬鹿なんですか!?君にできることはありません」
「知らねえよ。誰の納得も要らねえ。俺が納得して前を進めりゃいいんだ。全員、俺が救う」
リョーカも、ルシアも、イブキも、【アストレア・ファミリア】も。
当然、【
「俺の進むべき道は決まった。決まったぞ、キリエェ!!」
「
マリウスと剣を交えながら、彼の突きを捌いて、避けた隙に出来たその時間で立ち止まりスズネリアを指すキリエ。
彼女は懐から剣を抜いて、投げた。
それはスズネリアの手に渡り、彼は床に刺す。
「ここに俺達の独立を宣言するぜ!俺とキリエで
「しょ、正気ですか」
「なわけねえだろ。お前のその狂気に寄せられた俺達の、頭のネジが正常でやってられっかよ」
スズネリアはハッと笑う。
そして、口角を上げる。
もう彼は守られるだけの子供じゃない。
今ここに自立した。
「ルシア。俺はお前が好きだ。けど、ホントは怖かった。どんなにお前が優しくても、あの時の恐怖が拭えねえんだ」
「……」
「だが、もう怖くねえ。お前の全てが理解できたからだ。お前の悪意も善意もひっくるめて抱きしめる。俺様の救済を受けな!」
スズネリアは剣を構え、ルシアに向ける。
ルシアは……無意識に口元が緩む。
「……馬鹿ですか」
「ふざけないで!!」
「……!」
ルシアが下を向くと同時に、リョーカが叫び、そちらを見る。
彼女は信じていたスズネリアに裏切られ、彼を睨む。
「ルシアは悪魔だ!私を、私達を苦しめる……!悪い奴なんだ!」
「……本当にそう思うのか?母上」
「えっ」
鋭い視線をルシアに移したリョーカが目を丸くしてスズネリアに視線を戻す。
「母上が見てきたルシアは、最初からずっとそうだったのかよ」
「……っ。それは……」
リョーカが詰まる。
彼女は下を向く。
「ルシア。母上達をあまり虐めないでやってくれ。まあ、頼んでも無駄だろうけどな」
「……それは」
「母上、ごめんな。まだ苦しい日々が続くかもしれない。でも、絶対にいつか助ける。だから、待っててくれ」
「……スズネリア」
スズネリアは2人に言い放って、背を向ける。
もうここに用はない。
強くなる。
そして、2人を救う。
一分一秒が惜しいんだ。
「悪いな、ベル。茶番見せて。家出も長くてよ」
「スズ……!じゃあ!」
「あぁ。お前の元に帰るよ。んで強くなる。絶対に」
スズネリアは、振り返り、最後に2人の姿を目に焼き付けてから城を後にした。