キリエに会いに行く途中。
スズネリアは路地裏で視線を感じて止まる。
「あ?」
「見つけたぞ、はぐれ狼」
「こいつはこいつはがんクビ揃えて暇な奴らだな。おい」
スズネリアを囲むのは【アポロン・ファミリア】。
要するに計画が破綻になったから八つ当たりしにきたのだ。
彼は口角を上げる。
「ハッ。初めて会った時からよ、テメェらの狙いがベルだってのは分かりやすすぎるんだよ」
「ならば邪魔するな。悔しいが、アポロン様はあの愚兎をお求めだ」
「ハッ。その主神に伝えとけ。そんなに欲しけりゃ正面から求めろってな。じゃなきゃヘスティア様の誠実さには一生敵わないぜ!」
「貴様……一度ならず二度までも。あの方を侮辱するか」
「敬ってんならテメェが惚れた姿に戻してやれよ。そうやって諦めてっからどんどん落ちぶれていくだけなんだろ」
「黙れ!知ったような口を……!」
ヒュアキントスが剣を抜く。
周りは他の団員が囲んでいて抜け出せない。
やるしかない。
「知ってるさ。ついこの前、真実を全部知ってきたところだ。それでも絶望しねえ。そんな暇があったら自分が望む未来を勝ち取るぜ。お前もそうしろよ」
「説教垂れるな!Lv.1風情が……!」
ヒュアキントスが武器を取る。
周りからも殺気を感じる。
スズネリアは見渡して……諦めて溜息をつく。
「仕方ねえ。やるか」
「ハッ。貴様はもう終わりだ。Lv.1でこの状況を切り抜けられまい」
「いんや、悪いが俺様は前とは違うんでね。使えるもんは使うって決めたんだ。その結果、自分が強くなればいいってな」
「なに?」
クラレンターを抜くスズネリアにヒュアキントスが訝しむ。
彼はプライドを捨てた。
どんな経緯でも、たどり着きたい未来がある。
それを掴み取るために。
悠長にはしてられない。
「【迸れ】ッ!【ライトニング】!」
「帯電!?……魔法か」
スズネリアが稲妻を纏い、ヒュアキントスが瞠目し目元を腕で覆う。
だが、彼は口角を上げる。
「ふんっ!魔法を使ったくらいで差が縮まると思ったか……!」
「―――【
「……!!」
スズネリアは火炎石を摩擦で発火し、それをクラレンターの刀身へと流し込む。
赤く輝くクラレンターが完成し、そこに雷撃が加わる。
「
「まあ……見てろって」
「……っ!」
ヒュアキントスに煽られても、スズネリアは汗を流しながら危険な笑みを浮かべるだけ。
その表情を見て初めてヒュアキントスがたじろぐ。
本能と経験で察知した。
相手をただのLv.1だからと、これから放たれる攻撃をマトモに受けてはいけない。
何か考えがあって、奴は剣を振るおうとしている。
それも只事ではない何かだ!
「くっ……!ここは退くか!」
「もう遅せぇ!ヒュアキントス!てめぇに本物の聖火ってモンを魅せてやるっ!!」
「……っ!」
スズネリアが胸を抑える。
鼓動がなる。
それは鐘のごとく一定に鳴り、思い浮かべるは暖炉の火。
女神の寵愛が彼に宿る。
「……っ!!」
瞼を開け、その瞳に捉えるは群れの長。
すなわち『王』。
これは叛逆の狼煙。
王を討ち、かの暴虐な振る舞いを止めるため。
かつての王を美談のままに終わらせるため。
王の為にその胸を貫く。
スズネリアのスキル――― 【
それは、王を討つ時のみ、並外れた補正をかける狂化の呪い。
正気を保ってはならぬ。
王を確実に楽にするのだ。
負けてはならぬ。
それは、多くを解放するために。
止めなくてはならぬ。
それは、何より王の為に。
泣いてでも、苦しくても、この手で救ってやらねばならぬのだと。
例えそれが、叛逆と言われようとも。
その烙印を拒まない。
「何だこの圧力は!?本当にLv.1か!?」
「ヒュアキントス!もう逃げられねえぞ!ベルを狙う奴は俺が全員叩き潰す!!」
「正気か!?そんなものを放てばLv.1の貴様も耐えられるはずがない!」
「あぁ、そうだ。散るぜ!でも、無残じゃねえ。華々しく散る暖炉の火だ!オレはそれを雷光で付けるぜっ!」
気持ちを曲げないスズネリア。
彼にとって望む未来は王と竜王だけではない。
仲間の未来も掴みとる。
そのための障害は排除する。
そのてっぺんの首を落とす!!
「血統の望みと暖炉に宿る温もり!それを委ねた雷光!オレの雷は―――」
スズネリアはクラレンターで自身を斬り、血を弾かせる。
その血は放電に加わり、雷は赤色に変わる。
「赤雷だ!!」
赤雷に包まれるスズネリア。
天雷の如し、紫電を迸り、雷光へと至る。
同時に彼のスキルがもう1つ発動する。
【
それは、王を想う。
彼女へ届くための一撃。
「―――【
「うおおおおおおあああああぁぁぁーーー!?」
スズネリアが振り下ろした剣は凄まじい威力の赤雷を放った。
前方の全てを灼き飛ばし、地上は塵と化す。
その抉れた地面の上で……ヒュアキントスはその表情を歪めた。
「ぐっ……うああっ……!?や、奴め!い、痛いぃ!痛い!!」
彼の腹は抉れ、大きな傷と血が。
足は痺れて動けない。
恐らくもう二度と歩けないかもしれない。
腹を抑えてのたうち回るヒュアキントス。
彼は、自身の顔付近に踏み込む足を見て、彼女を見上げる。
「ラ、【
「……以前の私なら助けていたかもしれないね」
いつまで経ってもスズネリアが合流場所に来ないので迎えに来たキリエ。
彼女が満身創痍のヒュアキントスを見下す。
その目は慈悲か冷めた目付きか、彼女自身も悩んでいた。
そんな彼女に彼は手を伸ばす。
「キ、キリエェ!!頼むぅ……!」
「どうかな。君は彼に討たれた。彼が討つという判断を下した相手。ならば私の意思も彼と同じさ」
そう言ってキリエは歩き出す。
ヒュアキントスはLv.3。
スズネリアがいくらランク以上の攻撃力を発揮しようと死に至らしめることは不可能に近い。
放っておいても死にはしないだろう。
だが、彼に重症は負わせた。
おそらく早期治療が大事だ。
それが後々彼に障害を残すか否か分け隔つだろう。
「ま、待て。見捨てるのか!?【ガネーシャ・ファミリア】の貴様が……!」
「私はもうガネーシャを信仰してないよ。私の王はスズネリアさ。彼が下した決断なら、私も良しとしよう」
「なっ……!?ま、待て!キリエ!待て、助けてくれぇ!」
手を伸ばすヒュアキントスをキリエは置いていく。
怪我を治せばまた彼は王を狙う。
ならば、敵だ。
慈悲は与えない。
そう思いながらもキリエは
彼が痺れた足を引きずり、凄まじい痛みに耐えながらそれを拾える根性があれば、救われるだろう。