神月祭。
当日。
ナァーザに連れられて、ベル達にも誘われて。
スズネリアは祭りに参加した。
そこで催しを目撃する。
「さぁ!この槍を引き抜く―――英雄は誰だ!?」
人集りに混ざると、ヘルメスが催しをしていた。
何やら伝説の槍を抜ける選ばれし者を選定しているようだ。
何やってんだと思い微妙な顔をするスズネリア。
その視界の端にリョーカが映る。
「母上!?なんでまだオラリオにいんだ?」
「スズネリア。ルシアが他にやることがあるって。それを待ってる」
「他にやること?あぁ……」
スズネリアは自身が
「じゃあ、祭りを楽しんで明日にでも出発って感じか?」
「いや、私達は今日行く。ルシアを待ってたけど、まだ身支度があるとかで時間かかるみたいだから」
「そっか。行く前に祭りに寄ったんだな」
「うん」
頷くリョーカ。
確かに彼女はいつもより荷物が多い。
とっくに身支度は済ませて、遠征用の荷物は市壁の門にでも置いているのだろう。
それにしても、リョーカが祭りごとに興味があるのは意外だった。
何せスズネリアの中で彼女は厳格で麗しく逞しくカッコイイからだ。
……だいぶ
「母上、あの槍興味あるのか?」
「うん。あれ、冒険者がやるやつ。絶対そう。やりたい。体験したい」
「おぉ、いつにもなく食い気味……」
「ってな訳で行ってきます」
「お、おい!」
スズネリアの制止も聞かず、リョーカは壇上へ上がってしまう。
その姿を見てヘルメスは2度見したあと、瞠目を隠してなんとか司会を務める。
「おーっと!ここで緊急参戦。都市最強派閥の団長、【騎士王】様の参戦だーーーー!!」
『うおおおおおぉぉぉぉ……!!』
「うへっ、気持ちいい。ぼ、冒険者っぽい。成りきれてる!う、うおお……!」
「何やってんだ母上……」
盛り上がるリョーカに理想が崩れていくスズネリア。
彼女は冒険者マニア。
冒険者そのものはやりたくないが、冒険者っぽいことはやりたい。
体験くらいならしたいのだ。
彼女はルンルンで槍に近付く。
―――すると、その瞬間。
『ガタガタガタガタガタガタガタガタ!!』
「えっ」
リョーカが近付くと、槍が高速で振動し始めた。
もはやその勢いだけで抜け落ちそうなほどだ。
彼女は距離をとる。
すると、槍の振動はピタリと収まり、また不動の槍となった。
今がチャンス!!
一気に距離を詰める。
『ガタガタガタガタガタガタガタガタガタガタガタガタガタガタガタガタ!!』
「おーっと!彼女には英雄の才能がありすぎて近づいただけで槍が反応してるぞー!これは触る前から抜けそうだー!」
「そ、そんな……この身体、冒険者っぽいこと、挑戦できない……」
「なんとノックダウーーーン!!リョーカちゃん。まさかの挑戦せずにギブアップしてしまったー!」
「は、母上ーーー!!」
ショックを受けて、両手と両膝を地に着くリョーカ。
撃沈した彼女に、嘆くスズネリア。
何これ?
「ほら、気が済んだでしょ?リョーカちゃん、行くよ~」
「うぅ……まだ体験してない……」
リョーカはユウカに引きずられて撤収した。
槍は途端に静かになる。
「アイズさん!抜いてやりましょう!」
「うん」
次の挑戦者はアイズ。
しかし。
「抜けない……」
アイズはダメだった。
次に挑戦するのは。
「お、ベルくん。次は君か」
「はい。よろしくお願いします」
頭を下げてから挑戦するベル。
すると。
―――『見つけた』
「えっ?」
ベルが槍に触れた瞬間、声が脳内に流れてきた。
そして、彼がまだ一切力を込めてないにも関わらず。
氷は砕け、槍は抜けた。
「槍を抜いたのは【ヘスティア・ファミリア】の【
『うおおおおお!!』
槍に選ばれたのはベル。
そして、ヘルメスはスポンサーとしてアルテミスを呼んだ。
彼女がベルに抱きつき、一行はいつもの教会に集まり、ヘルメスの話を聞いた。
「―――つまり、観光とは名ばかりで」
「アルテミス様がご依頼されたモンスター討伐のクエスト、ということですか?」
「さすが!鋭い!」
一行はため息をつく。
道理で話が上手すぎると思ったわけだ。
「母上が向かったのはそのモンスターのところか?」
「……っ!そうか、【騎士王】が……。ヴィヴィアンか」
「ってことはそいつは神を食ったモンスター、【アンタレス】のことだよな?
「
「んなのありかよ……!」
スズネリアの言葉に一同目を丸くする。
ヘルメスはアチャーと帽子を深く被った。
バレてしまったものは仕方ない。
「そうさ。奴には
「えっ。僕……?」
肩を組まれるベル。
アルテミスも。
「貴方をずっと探していた。オリオン。貴方ならアンタレスを倒せる」
「僕が……?」
アルテミスに見つめられるベル。
そこにヘスティアが頭突きしてわちゃわちゃし始める。
その光景を見つめつつ、スズネリアは訝しむ視線をヘルメスを向ける。
「なーんか胡散臭ぇなぁ……」
その後、スズネリアはアルテミスの依頼を受けてワイバーンに乗るという皆との同行を拒否した。
キリエを連れていくから後で合流すると言って。
アンタレスが神を食ったというスズネリアの言葉にヘスティアが引っかかるのは旅の途中、また別の話だ。
一方、スズネリアが実際に向かった場所は。
「よぉ、ルシア。ちょっと相談があんだけど」
「……本当に実家くらいの頻度で帰ってきますね。君は」
丁度身支度を済ませ、今にも出かけようとしていたルシアの前にスズネリアは立つ。
彼は、真剣な眼差しを彼女に向ける。
「……勝算はあんのかよ?」
「リョーカさんと私なら攻撃が通ると思います」
「それだけかよ。倒せるんじゃねえのかよ」
「それは……どうでしょう」
ルシアは、スズネリアを通り過ぎるが、足を止める。
これから向かうのは死地かもしれないと再認識した。
しかし、行く意味はある。
「なんで請け負ったんだよ。なんで行くんだよ。死ぬだろ」
「まあ、そういう契約ですから。私は黒竜もアンタレスも興味ありませんけど。迷宮攻略と引替えに協力するとヴィヴィアン様に誓いましたからね」
「……もう一度聞く。勝算はあるのかよ」
スズネリアが振り返って尋ねると、ルシアは少しだけ振り返ったその目を彼に向ける。
「ありません。私はそれくらいいつも覚悟を持って戦ってるんです。仲間を救う為に。どんな危険な戦いでも厭わない」
「そうかよ。じゃあ、質問を変える。アンタレスに取り込まれた女神様を救う方法って……ねえのか?」
「わかりません。気持ちは分かりますが、私の頭脳も神の事柄にまでは届きません」
「じゃあ神に相談しろよ。グウィネヴィアだって、相談くらい乗ってくれんだろ?」
「……そうですね」
ルシアは空を見上げる。
一理ある。
無策で行くよりずっといい。
彼女は、スズネリアの考えを取り込むことにした。
「わかりました。神様に相談します。グウィネヴィア様ではありませんが」
「お、おう?」
グウィネヴィアやヴィヴィアンでなければ誰に相談するんだと思いながらも、スズネリアは首を傾げてキリエの元へ向かう。
ルシアは、都市の外に足を向けていたが、踵を返し、ある隠れ家へ向かった。