原初の竜でも友達が欲しい   作:伊つき

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分子と凍結

 

「それで?僕の元に来たと?」

「はい」

 

タレイアの問いにルシアは頷く。

本を読んでいたタレイアは失笑した。

 

「久々に姿を現したから何事かと思えば、君は僕との契約を忘れてないかい?ギブだけのつもりかな?」

「そんなつもりはありませんが。壮大な計画と、凄まじい理論を完成させたタレイア様なら女神アルテミス様を救う方法も知ってるかと思いまして」

「……ないね。あったとしても言わない。大体君は僕との契約条件をサボりすぎだ。まさかLv.8相当如きで満足してないだろうね?君にはもっと強くなってもらわなくては困るよ」

「わかっています。ただ、到達できる階層を考えると、摂取できる魔石の質も上限があります。これまでのように効率的にいかないのは仕方ないかと」

「ふん。それらしいことを言う」

 

タレイアは鼻を鳴らす。

確かに彼女に協力を煽るなら、契約におけるルシアの成長をもっと見せるべきだ。

迷宮完全攻略に必要なのはモンスターでもあるルシアの力。

それを高めることで最下層の攻略が可能になるという。

つまりルシアにとっても自身の強化は大事だ。

迷宮完全攻略を達成すれば、仲間を救えるのだから。

そのために必要な自身の強化をサボる理由は無い。

 

「ま、君の言うことも一理あるか。ただし、あまり悠長にされては困るな。そんなに効率が問題なら黒竜の魔石でも食ってきたらどうだい?」

「……恐らく暴走しますよ。そうなったら迷宮攻略もクソもないのでは」

「ふん。危ない橋を渡りたくないだけだろう。所詮君はその程度の覚悟か。なら、異端児(ゼノス)にでも乗り換えようかな」

 

タレイアの一言に、ルシアの瞼がピクリと動く。

 

「わかりました。黒竜の魔石も食えばいいんですよね?その時が来たら食べます」

「最初からそう言いたまえ。君に選択肢はない。君の仲間を救うには私の世界再構築以外の道はないのだからね」

「……」

 

正直魔石を食うことにまだ若干の抵抗はある。

人間であることを証明したいルシアにとって、それは真逆の行為だからだ。

だが、それでも仲間の命の方が優先だ。

仕方なしに頷くしかない。

 

「で?モンスターに取り込まれたアルテミスを救う方法だったかな」

「はい」

「まあ、結論から言えば……ない。神の事象だ。そう簡単には解決できない」

「……そうですか」

 

ルシアは下を向く。

やはり、女神は救えないのか。

 

「これを持っていきたまえ」

「えっ?……っ。これは……?」

 

タレイアはルシアに投げ渡した。

ルシアがキャッチしたものを見下ろすと、それは2本の試験管だった。

厳重にゴムで蓋を閉じてある。

回復薬(ポーション)のような見た目だが、明らかに中身が違う。

それに……この中身、凍ってる?

 

「それは神の力(アルカナム)だ」

「えっ!?」

 

ルシアが手元の試験管を2度見した。

突然手が滑りそうになる。

 

「分子を司る神の神の力(アルカナム)を、凍結を司る神の神の力(アルカナム)で冷凍保存したものだ。天界で知神(ちじん)から仕入れてね。下界に持ってきたんだ」

「な、なぜこんなものを……。というかこれを使ったらどうなるんですか?」

「試験管1本につき対象の生物1体に向けてかける。そうすればその生物は一度分子レベルで分解される」

「それは……!まさか。つまり……」

「そう。アルテミスとアンタレスを分離させることが出来る」

「……っ!?」

 

ルシアが瞠目する。

いきなり解決策がでた。

もうこれでいいじゃないかと思うと同時に、とんでもない代物を手にしていると汗が出てきた。

 

「まあ、分離してもアルテミスは分子レベルになるわけだから視認できないけどね。そのままじゃほぼ死んでるのと変わりないさ」

「あ、確かに」

「―――だから、2本目がいる」

「……!」

 

タレイアの言葉にルシアは息を飲む。

今、自分はとんでもない話を聞いていて、物語(ミィス)の核心に触れている。

そんな気がした。

 

「2本目の試験官でアルテミスの分子を結合させる。それで彼女は人型へと戻る……はずさ。理論上では」

「それ、試したことないんですか?」

「どこにそんな状況(シチュエーション)があるんだ。馬鹿か、君は」

「……確かに」

 

タレイアの言う通り、そんな代物があっても基本使いどころがない。

あるとすれば。

 

「……【絶対存在(アブソリュート・デア)】の為に用意した、というわけですか」

「鋭いね。まだそれが何かもわかってないだろうに」

「いえ。なんとなく。それとそんな大切なもの貰ってもいいんですか?」

「あぁ、大切さ。だから、大事に使ってくれたまえよ」

 

そう言うと、タレイアは卓上の何かに被せていた風呂敷をとる。

すると、大量の試験管が出てきた。

ルシアは瞠目する。

 

「こんなに沢山……」

「だが、ここにある分しかない。くれぐれも失敗しないでくれよ」

「ちなみに下界で神の力(アルカナム)使って大丈夫なんですか?」

「生物1人に作用する程度のものだ。フレイヤが『魅了(権能)』を使ってもダンジョンはピクリともしないだろう?」

「なるほど。わかるようなわからないような」

 

なんだか騙されてるような気もしながらルシアは試験管を懐にしまう。

 

「それでは、アルテミス様を救いに行ってきます」

「あぁ、よろしく。被検体第1号になってくれてありがとうとでも伝えておいてくれ」

 

タレイアは回転式の椅子で背面を向け、窓から外を眺めてしまった。

もうこれ以上話すことはないとでも言うように。

ルシアも立ち去る。

この試験管で、どうにか女神を救うと意気込んで。

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