よく分からないけど、アンタレスとかいうのと戦いたくない。
だって、そんな相手、私が戦うしかないから―――。
「あれ?オラリオの方角……違う?」
リョーカは勘を頼りに来た道を戻って草木を分けていた。
しかし、そのつもりが、いつの間にか迷子になってアンタレスの遺跡付近に来ていた。
彼女は寧ろ移籍に近づいてることに気づいていない。
彼女に危機察知能力などない。
剣を手に取っていない時はただの一般人だからだ。
「道、間違えたかな……急がないと。今のうちにオラリオに戻って、イブキを解放する。ルシアも不意打ちなら倒せるかも」
リョーカは甘い考えを良し!とし、迷いなく突き進んでいく。
彼女の知能も平凡だ。
剣を持っていなければただの一般人だからだ。
浅はかな計画が本気で上手くいくと思っている。
「……」
さらに草木を分けて進んでいくリョーカ。
次第に、彼女の足は棒になり、その場に膝を抱えて座り込んだ。
「疲れた。この森、怖い。1人寂しい。イブキぃ」
泣き言を行って、なんならちょっぴり涙を浮かべながら枝でつんつんと岩をつつく。
親友が恋しい。
やっぱり一人ぼっちは辛い。
『――――――ッ!!』
「ひっ……」
近くでモンスターの咆哮が聞こえた。
見上げると、遺跡がある。
アンタレスの鳴き声だ。
けれど、彼女はとっくにアンタレスの近くから離れていると思っているのでただのモンスターの遠吠えだと思っている。
だが、それでも、不安を駆られて膝を抱えて小さくなる。
「……怖いよ、イブキ。私、死にたくない。皆が勝てないモンスターなんかと戦いたくない。なんで私だけ……」
彼女は膝に顔を埋める。
肩が僅かに振動した。
泣いているのだ。
アンタレスが怖い。
奴には
頼みの綱は自分だ。
つまりほぼ1人で戦うのとなんら遜色ない。
なぜ自分だけがそんな強大な敵に挑まなくてはいけないのか。
理屈はわかってる。
でも、納得はいかない。
戦いなんて、戦いたがる奴がやっていればいいのに。
「うわっ。ビックリした。えっ、誰?」
「……っ!」
急に草木を分けて人が現れ、その声にリョーカもビクッと肩をならして顔を上げる。
すると、声の主だけでなく、他にも何人かいた。
パーティだ。
そして、彼女たちの装備のどこかには同じ紋章がある。
ファミリアだ。
リョーカは涙を拭って彼女達を見上げる。
「えっと、何?あんた、【グウィネヴィア・ファミリア】の人だよね?えっ。ここで何してんの?」
「……【アルテミス・ファミリア】」
リョーカは彼女達の紋章に見覚えがある。
ヴィヴィアンに覚えろと言われた紋章だ。
確か、今回の保護対象【アルテミス・ファミリア】だと気付いた。
「あ、貴女達こそなんでここに……」
「あー……。まあ見られたからには仕方ないか」
目を丸くするリョーカに【アルテミス・ファミリア】の団員達は後頭部をかく。
「私達、アルテミス様を助けに行くの。お願い。止めないで。邪魔しないでね」
「えっ。でも……アルテミス様ってもう……」
「―――絶対に助けるのっ!!」
「……っ」
リョーカの言葉を認めたくない彼女達は、リョーカを通過したあと、その足を止めて想いを口にする。
絶対に諦めたくない。
主神アルテミスを救いたい。
助けたい。
例え、あのアンタレスがいかに強大でも。
アルテミスが手遅れでも。
眷属である自分たちの手で解決したい。
他派閥なんかに任せられない。
無駄死にでも挑みたい。
そんな気持ち……リョーカには理解できない。
「行ったら、死ぬ……と思う。や、やめといた方が」
「わかってる!わかってるわよ!でも、大切な人が捕らわれててもあんた同じことが言える!?」
「……っ!」
掴みかかられてビクッとするも、その言葉にリョーカはハッと瞠目した。
思い浮かぶは地下室。
牢獄に囚われた、ズタボロの親友。
骨すら剥き出しの惨い姿で吊るされている。
だから、リョーカに制止はできない。
目を泳がせて、口ごもる。
「そ、それは……」
「わかったら黙ってて。これは【アルテミス・ファミリア】の問題だから」
「……」
リョーカを離して【アルテミス・ファミリア】は死地へ向かった。
このまま行かせれば彼女達は確実に死ぬ。
しかも無駄死だ。
けど、彼女たちの言う通り、これは彼女たちの問題。
リョーカには関係ない。
「どうでもいい。関係ない。私には、関係ない……。私は……戦いたくない」
リョーカは念仏のように呟き、彼女達が去った方とは真逆に歩き始めるも数歩ですぐ止まる。
そして、また膝を抱えて小さくなる。
耳を塞ぐ。
「関係ない……!関係ない……!」
リョーカの念仏は大きくなる。
精霊達が囁いてくる。
"死にゆく彼女達を見捨ててもいいのか?"
うるさい。
"それでも大英雄か?"
うるさい。
―――私は、大英雄なんかじゃない!!
『―――お願い、この戦いに巻き込まれた多くの罪なき人々を助けてあげて』
「……っ」
リョーカは瞼を開き、地面を見つめる。
彼女の頭の中にずっと残っている言葉。
赤くて、温かくて、まるで暖炉にあたってるかのように気持ちがポカポカになる。
彼女の声音を思い出すと、不思議と
怖くても、立ち向かえる。
「……【エーラ】」
リョーカは立ち上がり、剣を抜き、逆の方向のまた真逆へと駆け出す。
月夜の下で、風を受けて、空中を階段のように跳ねていく少女が遺跡へと飛び込んだ。