原初の竜でも友達が欲しい   作:伊つき

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大英雄の剣舞

 

『―――――――――ッ!!』

 

「ア、アルテミス様……」

 

女神アルテミスを水晶に閉じ込め、それを見せびらかし吠えるアンタレス。

その目の前で、【アルテミス・ファミリア】の団員は血まみれで身体の部位(どこか)を抑えながら、敬愛する女神と忌々しい怪物を見上げる。

しかし、そこには以前あった慈悲がない。

アルテミスの矢が精製され、その矛先は彼女の愛に満ちているはずの眷属(こども)達へと向けられた。

 

「アルテミス様、酷いよぉ……」

 

朦朧とする意識の中で限界を迎えた思考。

彼女達は愛した女神を恨みながら死んでいくのか。

 

『――――――ッ!!』

 

「ひっ……!」

 

矢が飛んでくる。

終わりだ。

その矢は彼女達を貫いて、【アルテミス・ファミリア】は今度こそ全滅。

彼女達が敬愛する女神の力を用いて、悪趣味なモンスターによって殺される。

その未来を覚悟して、彼女達がボヤける視界の中、覚悟を決めて目を閉じると。

 

 

「―――【マキシマム・グレア】ッッ!!」

 

『……!?』

 

【アルテミス・ファミリア】だけではない。

アンタレスも突如、彼女たちの背後から飛び出してきたその英雄に驚いた。

そして、同時に本能で瞬時に警戒する。

今、アルテミスの矢を全て焼き尽くしたこの炎は―――恩恵(ファルナ)じゃない。

―――危険だ!!

 

リョーカは、剣を振り下ろしたあと、炎を(カリバーン)で払って、【アルテミス・ファミリア】の前に降り立つ。

 

「あんた……なんで……」

回復薬(ポーション)、使って。あと喋らないで。何も……見ないで」

「……っ!」

 

リョーカは所持してる回復薬を全て彼女たちの前に落として、自分は強敵へと歩み進んでいく。

アルテミスを救える保証も、アンタレスを救える保証もない。

できれば目を閉じていて欲しい。

下を向いていて欲しい。

そう告げる、彼女の。

剣を持つ、その背中は。

 

「……!御伽噺の……【大英雄 アルバート】……?」

「……」

 

その言葉をかけられてリョーカは顔を顰める。

彼女達はリョーカの背中しか見えない。

 

『―――――――――ッ!!』

「……」

 

対峙するリョーカ。

彼女を警戒して吠えるアンタレス。

リョーカは、背後にいる【アルテミス・ファミリア】を見て。

そして、アンタレスの腹に捕らわれたアルテミスを見て。

下唇を噛む。

 

アンタレス(お前)も、ルシア(お前)も……!」

 

リョーカが殺気を込めて睨みつける。

どうして、力を持ってる奴の中に誰かから奪おうとする奴がいる?

どうして、強くて優しい人達のようになれない?

どうして、人をそこまで踏みにじれる?

 

 

なんで……!なんで……!!

 

 

「―――命を傷つけるんだっ!!お前たちは!!」

 

両者の睨み合いは続き……先に動いたのは、吠えたリョーカ!

 

「【ストライク・エーラ】!!」

『―――――――――――――――ッ!?』

 

リョーカが繰り出した風の突きは、アンタレスの胸に突き刺さり、奴を吹き飛ばした。

壁に背中から衝突するアンタレス。

しかも、土埃が晴れると、奴の胸には傷がついていた。

 

「嘘……!」

「攻撃が、効いてる……」

「あの子、何者!?」

 

後ろの観衆(ギャラリー)、【アルテミス・ファミリア】が騒ぐ。

リョーカは、それに目もくれず、アンタレスを睨み続ける。

 

『――――――』

 

「……っ」

 

壁から抜け出し、瓦礫から身を起こすアンタレス。

リョーカは下唇を噛む。

確かに攻撃は効いている。

けど、"軽い"。

この程度の技では勝てない。

ストライク・エーラもマキシマム・グレアもLv.4に到達してからはノーリスクで撃てるようになった。

けど、効かないんじゃ意味がない。

戦う相手がどんどん強くなるんじゃ意味がない!!

 

「……はぁ」

 

リョーカは下を向く。

薄々気付いていた。

強くなれ、強くなれと言われ、ダンジョンを連れ回されて命懸けで苦労した結果。

どうせ何も得られない。

さらに手が届かない相手がまた現れるだけ。

こんな堂々巡りを、しかも前向きじゃない気持ちでやり続ける。

正気を保てるわけがない。

でも。

それでも。

今。

その時、その時。

目の前に現れた相手を前に、必死にやるしかない。

 

「【エーラ】!」

『―――――――――ッ!!』

 

リョーカが風の精霊の加護を受けて飛ぶ。

アンタレスはリョーカを見上げ、矢で撃ち落とそうとする。

 

「【エーラ】!【グレア】!」

 

リョーカは矢を風と炎の斬撃で相殺する。

そして、アンタレスの視界が晴れた時、彼女の構えは突き。

 

「【ストライク・エーラ】!!」

 

『――――――ッ!!』

 

リョーカの風の突きにアンタレスの顔面は殴られ、身体は地面に叩きつけられる。

それでも、まだ全然ダメージは通ってない。

そこに追い討ちをかける。

 

「【マキシマム・グレア】!!」

 

『――――――ッ!!』

 

炎の一振りをお見舞いしてやった。

手応えはある。

ダメージは通ってる。

しかし、通っただけだ。

多少ボロくなったアンタレスが爆炎から飛び出る。

 

「……っ!【エーラ】!」

 

『――――――ッ!!」

 

風の精霊に命じて足裏に加速(ブースト)

アンタレスも接近戦に切り替えて、リョーカと斬り結ぶ。

時には交錯して、空中と地上が入れ替わり、アンタレスが壁を蹴って斬撃と共に戻ってきて、それをいなしてまた入れ替わる。

それを何度も繰り返して、今度は定位置で互いに斬撃のバトルを繰り広げる。

剣と爪が何度もぶつかり、交錯する。

金属音が響き続ける。

リョーカは、誰もなし得なかったアンタレスとの互角の斬り合いを披露している。

 

「す、凄い……」

「いいぞ……!いいぞ!」

「やっちゃえ!」

「頑張れ……!!」

 

リョーカの戦闘を眺める【アルテミス・ファミリア】。

満身創痍の彼女たちはリョーカから貰った回復薬でなんとか動けるようになり、拳を握ってリョーカを鼓舞する。

彼女達の瞳にはリョーカが救いを齎す英雄に映る。

 

「……っ」

 

そんな彼女たちの応援と期待を背負うリョーカ。

彼女たちには悪いが、そんな盛り上がりとは裏腹に、当の本人はこの戦闘に焦りを感じている。

アンタレスと斬り結び、顔を顰める。

このままではジリ貧だ。

アンタレスを倒すことは出来ない。

戦いが長引けば、アンタレスの神の力(アルカナム)行使は遅らせられるかもしれないが、次期にリョーカの体力が尽きる。

そうなったら、リョーカは負けて、アンタレスは自由となり【アルテミス・ファミリア】を殺して世界を神の力(アルカナム)で滅ぼす。

そのことに気づいたリョーカがアンタレスの攻撃を避けて、奴の懐に入り、風で一気に加速して地上に戻った。

足でブレーキをかけて、止まったと同時に振り返り、また奴と対峙する。

そして、頭の中でグルグルと素早く思考を循環させて、土壇場の情報量を処理する。

奴を倒す方法を、見つけないと。

 

大英雄剣術究極奥義(エックス・バースト)は……やりすぎ。女神様も斬り裂いちゃう。でも、上手く上体だけに絞れば……!」

 

リョーカはカリバーンだけでなく、右腰のモルガーンにも手をかける。

低く構えて、アンタレスと睨み合い、横にジリジリと移動していく。

決め技は攻撃範囲が広すぎる。

なんせ二刀流による16連撃だ。

確かに奴の上から下まで切り刻んでやるのが手っ取り早くはある。

けど、そんなことをするわけにはいかない。

他でもない、彼女たちの前で。

どうにか狙いを上の方にすれば。

アンタレスの頭上の虚空から斬撃を始めれば後半の八連撃くらいは当てて、上手い具合にダメージを制御出来るかもしれない。

とにかく、アンタレスを倒すとなると、リョーカの中で有効な技はその最強技しかない。

奴を倒して、アルテミスをどうにか剣で分離させる。

リョーカの脳みそで思いつく作戦は、そんなところだ。

 

「よし……!」

 

覚悟を決めて、リョーカがモルガーンを抜こうとする。

すると。

 

『――――――ッ!!』

 

「えっ!?」

 

アンタレスはリョーカが何か危険な技を使ってくると本能で察知して、アルテミスの矢で彼女の足場を撃ち抜いた。

無論、リョーカの足場は崩れ、奈落へと瓦礫と共にその身体は落ちていく。

 

「うあっ……!?……っ!」

 

リョーカはなんとかモルガーンを抜いて、それをまだ残っている地面に突き刺して、なんとか落ちるのは避けられた。

しかし、瓦礫が右手に当たって、カリバーンを持っていた手を離してしまう。

 

「しまった……!」

 

『―――――――――ッ!!』

 

ケタケタと笑うアンタレス。

剣を1本失い、ガクッとリョーカの戦闘力が下がったのを本能で察知している。

カリバーンは奈落へと落ちて、闇の中に消えた。

リョーカはなんとかモルガーンを両手で掴んで力を込め、這い上がって【アルテミス・ファミリア】の前に戻ってくるが。

奈落を見下ろし、歯を食いしばる。

顔面も蒼白だ。

 

「そ、そんな……」

 

『――――――ッ!!』

 

「……っ」

 

カリバーンを追い求めてる場合ではない。

リョーカは顔を上げる。

どこか機嫌のいいアンタレスが嗤い声のような鳴き声をあげて、リョーカの前で左右に踊った。

リョーカは下唇を噛み、キッ……!と目付きを鋭くする。

 

「モルガーン1本で倒すのは無理。でも、女神様を解放する……!」

 

リョーカはモルガーンを構える。

黒い聖剣に、闇の精霊の力が宿る。

これは、Lv.3に到達し、Lv.7のアビリティオールS相当の力を手に入れた時に、発現した技。

否、元から精霊に教えられていたが、その時に使えるようになった技。

それは、反転した英雄、反英雄の一撃。

闇を斬り裂く搦手!

 

 

「【モルガーン・エッジ】……!!」

 

『―――――――――ッ!?』

 

 

アンタレスが驚く。

リョーカは黒い聖剣が纏う闇を伸ばし、リーチが伸びたその剣を器用に操った。

アンタレスの腹にある水晶の周りをくり抜き、剣先で水晶を掬う。

そして、アンタレスとアルテミスを分離し、なんと女神を奪い取った!

 

『~~~~~~~~~ッ!!』

 

「……っ」

 

女神を奪われ、怒りに震えるアンタレス。

同時に、力の喪失による反動と、斬り抜かれた痛みで狂い暴れた。

それにより破壊される領域からリョーカは後退して避ける。

 

「アルテミス様……!」

「……」

 

アルテミスが救い出されて名を叫ぶ【アルテミス・ファミリア】。

けれど、リョーカは闇のエネルギー剣で水晶を所持したまま、アンタレスを睨み、動かない。

まだ彼女たちに返すのは早い。

アンタレスからアルテミスを守れるのは自分だけ。

それに、さっきまでは月に意識を割いていたアンタレスが、その月夜の力も霧散し、今度は目の前のリョーカに集中力の全てを持ってくる。

女神アルテミスをも敗った奴に、勝てる自信は……正直ない。

ここからが本番だ。

どうにかして、ルシアが来るまでの時間を稼がなくてはならない。

あまりにも格上の相手を前に、だ。

 

『――――――』

「……っ」

 

アンタレスが痛みに慣れて、戻ってきた。

奴はジッとリョーカを見下ろす。

リョーカも水晶を自身の背後に置いて、剣を構える。

しかし、予想していた無謀な戦いとは、別の展開がこの後起こる。

ある意味そちらの方が驚く展開だ。

 

『――――――ッ!!』

「えっ!?」

 

アンタレスが何やらエネルギーの鞭のようなモノを無数に伸ばし、リョーカが警戒するも、その鞭は全てリョーカを無視してその背後に向かった。

リョーカも驚いて、振り向く。

まさか、と思ったそのまさか。

鞭は水晶を絡めとって、またアンタレスの腹へと戻っていく。

そして、謎の力でまた接合した。

月に浮かんでいた神の力(アルカナム)も、一度は消失したが、また一から再開する。

リョーカは、その一連の動きに瞠目する。

 

「な、なんで……!」

『――――――――――――ッ!!』

 

剣を構え、動揺するリョーカ。

ケタケタと嗤うアンタレス。

疑問は2つ。

完全にくり抜いたはずなのに、なぜ戻った?

やはり、物理的に奪うだけでは奴と女神の不可視の繋がりまでは断ち切れていないのか。

もうひとつは、なぜそこまでして奴が女神とその力の行使に拘るのか。

正直アンタレス単体でも世界を滅ぼすには充分な力がある。

本気を出せば、モンスターの力だけでリョーカも殺せた。

寧ろ、月に気が散る今より、その方が勝率は高い。

【ロキ・ファミリア】や【フレイヤ・ファミリア】、学区などには苦戦するかもしれないが、辛勝できるかもしれない。

なのに、女神をどうしても欲しがり、今ここでリョーカに苦戦してでも圧倒的に世界に勝利する方を選んだ。

優先順位がわからない。

理解できない。

どうして、そこまで女神と神の力(アルカナム)に拘るのか?

やはり、天界で自由に振るった際の神の力はモンスターすら魅了してしまうのか。

何にせよ、マトモな判断力ではない。

 

『――――――ッ!!』

 

「しまっ……!」

 

考え事をしすぎた!

アンタレスがアルテミスの矢を無数に放ち、リョーカは反応が遅れてからそれを剣で捌く。

しかし、動き出しが遅すぎた。

全てを捌ききれない。

何本かはリョーカに命中し、彼女は吹き飛び、壁に背中から突っ込んだ!

 

「かはっ……!?」

 

血反吐を吐くリョーカ。

彼女は攻撃力だけはLv.7相当以上だが、耐久はLv.4だ。

アンタレスの攻撃をマトモに受けて、無事であるはずがない。

彼女は頭をふらつかせたあと、意識を失い、その身体は重力に引かれて地面に叩きつけられた。

そして、うつ伏せのままピクリとも動かなくなる。

 

「……」

 

『――――――ッ!!』

 

戦闘不能になり、無防備のリョーカに嬉々として歩み寄るアンタレス。

トドメを刺そうとその爪を振り上げたその時。

 

 

 

「―――カリバーン」

 

 

 

 

『……!?』

 

 

 

 

突如、呟きを合図に奈落に落ちたハズの聖剣が凄い勢いで戻ってきて、下からアンタレスの顎を撃ち抜いた。

そして、その剣は天へと一直線に昇り。

月夜を背景に、遺跡上空の穴から侵入した者の小さな手に渡る。

その少女は、飛来し、剣を振り下ろし、アンタレスを両断する。

 

 

「竜人形態 モード斬撃竜ッ!!

【サラマンドレア・カリバー《ブレイク》】!!」

 

『――――――ッ!?』

 

竜の放炎(ほうえん)でカリバーンの刀身に、竜の獄炎を宿し、その剣で一太刀浴びせた。

舞い降りたルシアは、斬り伏せたあと、空中で背面から一回転し、地面に着地したと同時に両翼を畳む。

広げた両足と真っ直ぐ下ろした片手を地につき、顔を上げる。

そして、アンタレスをその瞳に映し、口角を上げる。

 

「よぉ、そっちは神の力(アルカナム)使用なんてズルしてんだ。連戦だけどハンデってことでいいよな?」

 

ルシアは、ゆっくりと立ち上がり、親指で鼻をかく。

 

「さぁ、第2ラウンドだぜ」

 

『―――――――――ッ!!』

 

剣先を下に、剣を後ろに、竜化した左手を前に身体を低く構えるルシア。

口角を上げる彼女と、アンタレスが対峙する。

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