原初の竜でも友達が欲しい   作:伊つき

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隣人

 

「嫌な神が動いてるわね」

「……と、言いますと」

 

フレイヤは、件のアンタレスの一件で暗躍する女神に目をつける。

あろうことか彼女はベルに接触した。

しかも、女神とベルを同化させるという厄介なことまでしてくれた。

例えそれが特に意味の無いことでも、いい気持ちはしない。

 

「……タレイア。なんで今になって再び出てきたのか知らないけれど、ベルにちょっかい出してタダで済むとは思ってないわよね?」

「如何なさいますか」

「出陣よ。タレイアを潰すわ」

「わかりました」

 

フレイヤが玉座から立ち上がり、オッタルを連れて階段を下る。

外へ出向くため、本拠の庭へでた。

 

「あ、フレイヤ様!オッタルくん!やっほー!」

「マイア。今日の庭師は貴方なのね」

「うん、そうだよ。フレイヤ様は今日もすっごく綺麗だね!」

「あら。ありがとう」

 

フレイヤは愛想笑いを返す。

彼女に声をかけたのは庭師のマイア・クワイア。

小人族(パルゥム)の男……だが、女のような格好をしていて、顔も女にしか見えない。

しかも美しい。

だから、フレイヤは気に入っている。

容姿も魂も美しいから。

基本【フレイヤ・ファミリア】は外注をしない。

しかし、フレイヤの眷属のプライドの高さは、汚れ仕事もしない。

ブルーカラーな仕事だけは外注しているのだ。

それでも、質も決して軽視しない。

一流の職人しか呼んでいないのだ。

マイアもそのうちの一人だ。

 

「あら。ここの花壇、花を変えたの?」

「うん!あれ?お気に召さなかった?」

「いえ。逆よ。貴方はセンスがいいわ。花言葉もわかってる。……いい香りね。流石だわ」

「えへへ。フレイヤ様に褒められるのが1番嬉しいよ!仕事のやりがいだね!」

「だといいけれど」

 

庭師と談笑するフレイヤ。

彼の人柄も気に入っている。

話していてまるで不快感がない。

これは眷属と比較しても珍しい。

だから、フレイヤはマイアが好きだ。

彼の仕事はできるだけ【フレイヤ・ファミリア】にいくようにコントロールすらしている。

 

「フレイヤ様。そろそろ」

「……ごめんなさい、マイア。もう行くわ」

「はーい!足止めちゃってごめんね?今日も気をつけてね!」

「えぇ」

 

手を振り見送るマイアを背に、フレイヤは髪を耳にかける。

オッタルはそんな彼女を見て機嫌が良くなったと察知する。

マイアにはフレイヤの気分を上昇させる明るさと話術がある。

曇りひとつない無邪気な友愛をフレイヤは気に入ったのだ。

 

「……アレン、ヘグニ」

『ハッ』

 

フレイヤが呼ぶと眷属が2人どこからともなく現れる。

跪く2人。

彼らにはある命令を出していた。

 

「タレイアの居場所は掴めたかしら?」

「ハッ。奴は都市の外れ、民家に隠れています」

「そう。意外と堂々としてるわね。気に入らないわ。真剣に隠れる必要はないと言ってるみたい」

 

フレイヤは顔を顰める。

記憶が正しければタレイアは眷属と離別中のはず。

あの眷属のヒューマンがいるならともかく、タレイア単体がそこまで身を隠していないのは癪に障る。

まるで、その気になればフレイヤやロキ、ヴィヴィアンに目をつけられても返り討ちにできるとでも高を括ってるようだ。

 

「行きましょう」

「しかし」

「心配しないで。ちょっと脅すだけよ。彼女も無策ではないでしょうし。食えないのもわかってるわ」

 

オッタルも知ってる。

ゼウスやヘラが勢力の幅を効かせていた時、タレイアは普通にファミリアを持ち、活動していた。

彼女の眷属の活躍も、オッタルの記憶にはあるだろう。

同時に女神タレイアが簡単にいかないのも覚えている。

だから、警告してくれた。

けれどそんなものは百も承知だ。

それでも一言いってやらなくてはいけない。

それくらいベルに手を出した罪は大きい。

 

「ここね」

 

フレイヤがタレイアの隠れ家を見つける。

扉の前に立ち、その戸を開けようとしたその時。

 

「―――やあ、何か用かな?」

「……タレイア」

 

彼女は外にいた。

庭で丸太に腰をかけ、本を読んでいる。

フレイヤとオッタルが訪問してきたというのにそちらには微塵も目をくれず、本をページをめくるのに夢中だ。

視線をずっと落としている。

その態度も気に入らない。

 

「タレイア。もう察してると思うけど、貴女に用があってきたの」

「ベル・クラネルだろ?安心したまえ。僕は彼に興味ない」

「……その割に余計なことをしてくれたわね」

 

フレイヤがタレイアの前まで行き、鋭い視線で見下ろすと。

彼女も視線だけ上げて、ふんっと鼻を鳴らす。

 

「別に規定路線(ミィス)に差し障りはないさ。ただ彼の中に女神が多少混じっただけ。融合は不完全。彼はこれまでと大して変わらない。影響がないんだから、問題ないだろ?」

「あるわね。また似たようなことをされて、それを繰り返されたらベルに何が起きるかわからないでしょう」

「さっきも言ったが彼に興味はない。実験動物にする価値も感じない。今回はたまたま都合よくそこにいただけだ。もう関わる気はないよ」

 

タレイアはそう言って読書に戻る。

フレイヤはピクッとこめかみを動かして、本を勢いよく奪い、その本を適当に捨てた。

 

「鼻につくわね。貴女の態度。天界にいた時も、ゼウスとヘラの時代もそう。貴女はいつもそうやって冷笑していた」

「……そりゃしたくもなるさ。君もデュニソスのように、僕の計画を読み解くかい?」

 

タレイアは「今ならサインつきだよ」と脚本を手にして提示する。

が、タレイアはその本も叩き落とす。

タレイアは落とされ、踏みにじられた脚本を見下ろす。

 

「……今度ベルに手を出したら、貴女を潰すわ」

「……痛い女王様だ。偽りの地位と王座に縋るそのみすぼらしい姿は、まるで喜劇の女優だね」

「偽りですって?」

「あぁ。ゼウスとヘラが消えて繰り上がっただけだろう?それに、君も僕の眷属を知ってるはずだ」

「……っ!」

「本来なら君はトップじゃない。あぁ、グウィネヴィアにとっくに抜かされているんだっかな?」

「……よく言うわ。その眷属(おとこ)に逃げられたくせに。過去の栄光を今のことのように語るのは恥ずかしいわよ」

「……なんだと」

「……」

「……」

 

女神と女神が至近距離で睨み合う。

フレイヤはタレイアの地雷を知っている。

その逆も然り。

互いに互いを踏み荒らし、一触即発となった。

やがて、痺れを切らし、大人になったのはタレイア。

 

「やめだ。ここで君と睨み合っていても生産性がない。ベル・クラネルに手を出さなければいいんだろう?あい、わかった。これでいいかな?」

「……それでいいわ。それじゃあ」

 

タレイアが適当に謝って、ハンモックに身を預けて本を顔にかぶせる。

フレイヤもこんな馬鹿らしいことに時間をかけてられないと、ため息をついて背を向ける。

そして、オッタルを連れてタレイアの隠れ家を後にした。

彼女の姿が小さくなった時。

タレイアは……本を僅かにズラして、凄まじい形相と鋭い視線を彼女の消えていく背中に向ける。

 

「……珍しいな。怒っているのか」

「ふん。女優が脚本家に噛み付くなんて、言語道断だ。舞台で踊っていればいいものを。わざわざ降りてくるなんて」

 

テシレアが声をかけると、タレイアは身を起こし、足だけ地面に下ろした。

そして、本を怒りのまま投げ捨てる。

 

「ああいう態度だけ大きくなり、プライドで勘違いした女優は嫌いだね。裏職にも敬意がない」

「あの女神の派閥は強い勢力なのだろう?目をつけられて計画に支障はないのか?」

「ないね。けど、気に食わない。だから、潰す。どうでもいいから泳がせていたが……やめだ」

 

タレイアは立ち上がり、フレイヤが踏みつけた脚本を拾い上げる。

そして、ページをいくつか破り捨てた。

それは、フレイヤとその眷属に活躍してもらおうと用意した見せ場のシーンだった。

 

「女優は舞台から降りてはならない。格を保つのも仕事だ。我々に近づいてはならない。そんなことも守れない演者は、不要だね」

「……ならば」

 

テシレアが拳に力を入れてフレイヤ達の後を追おうとする。

が、タレイアは彼女を止める。

 

「待ちたまえ。君は行かなくていい」

「何?なぜだ。奴らほどの勢力ならフィルヴィスでは太刀打ちできんだろう」

「……逆さ。侮ったんじゃない。強者と認め、こちらの1番いいカードを切った」

「まさか」

「あぁ。そのまさかだ」

 

タレイアが肯定すると、テシレアは完全に脱力した。

Lv.9相当の彼女がそこまで信頼する相手。

自分の出る幕じゃないと思うほどのカード。

それを、【繁栄の役者(アクターズ)】は有している。

その中で、最強はテシレアではないと。

 

「奴を行かせるほどなのか?」

「そうだ。フレイヤを舐めるな」

「……そうか。なら私は動かない。過剰戦力になる」

「そういうことさ」

 

テシレアは隠れ家へ戻った。

完全に今回の件には不干渉を決めた。

タレイアは、フレイヤが消えた先を見つめて口角を上げる。

 

「フレイヤ、残念だ。君のことは嫌いではなかったというのに。君を認め、活躍の場も与えようとしていたのに。残念だ。非常に残念だよ」

 

タレイアは、髪をかきあげる。

そして、さっき破ったページを燃やした。

それは、夕日に照らされる。

 

「―――フレイヤ、君は『降板』だ」

 

焼けたページは風に持っていかれて、空に霧散した。

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