原初の竜でも友達が欲しい   作:伊つき

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マイア・クワイア

 

その男は、信頼されていた。

 

「精が出るな。貴様の活ける花は美しく、女神に相応しい。今後も精進しろ」

「えー!ヘディン君、ありがとー!」

「君付けするな」

 

気難しいエルフもこの通り。

それだけではない。

 

「わ、わわわ我が盟友クワイアが草木を彩る刻、女神もまた花を慈しむ。我らが眷属の栄光も拓かれん。故にその所作が我らを向上させるのもまた僥倖」

「わー!ヘグニ君褒めてくれてありがとー!全然言ってる意味わかんないけど!」

「ふへっ!?ひ、否定されなかった……!しれっと友達って言ったのに否定されなかった……!」

「んー?なんてー?」

「い、いや何でもない!」

 

咳払いをして取り直すヘグニ。

闇のエルフもまた、懐柔されている。

 

「……いつも感謝している」

「ハッ。テメェが仕事を完璧にすんのは当たり前だろうが。……だが、ウチの庭はテメェ以外には任せられねえのは事実だ」

『いつもいい仕事をしてるな!さすがだ!』

 

最強の猪も。

素直ではない雄猫も。

逞しい4兄弟の小人も。

その庭師に信頼を寄せていた。

誰もが仕事上だけでなく、日常会話も楽しみ、心を許していた。

 

 

 

―――それが、彼の『能力』。

 

 

 

「【隣人ノ如(ネイチャー・ムーヴ)】。行動・言動・脈動、全てが自然になる。そうして僕は隣人となる。このスキルのおかげで仕事は楽になったけど、なーんか本質見失ってる気もするんだよね~」

「おい!テメェ、何のつもりだ!」

 

拘束され、吊るされているアレンは吠える。

いつもの庭師の格好ではなく、仕事の黒い軽装を纏うマイアは、振り返って彼を見て口元を緩める。

 

「ごめんね~!アレン君。でも、やっぱりステイタスって凄いね。Lv.6もあると、任務にかかる費用も正直痛いよ~」

「テメェ……敵か。だが、テメェは」

「そう!Lv.1で威圧感(オーラ)もない非戦闘員の雑魚、だよね~!」

 

マイアは笑う。

別におかしいからでも、悪役の笑みでもない。

彼の仕事の癖だ。

やり方が接待(コミュニケーション)だから、笑顔と談笑が染み付いてしまった。

だから、彼は常に笑っている。

喜の感情しか見せない。

 

「やっぱり女神様も眷属も相手にステイタスがあるのはわかるんだね~。まあ僕のはほとんど初期ステイタスだけど」

「初期でスキルが身についてんのか。一体どんなスキルを使った?俺を翻弄するなんて、代物じゃねえ」

「さっき言ったのと、もう一個。かな。でも、もう一個は仕事で使ってないよ」

 

マイアはルンルンで背中を向ける。

背中を見せる。

その態度がアレンの怒りをさらに駆りたてる。

Lv.6を相手に背中を見せても余裕だとLv.1がほざいている。

だが、アレンも相手がただのLv.1じゃないことは見抜いている。

じゃなきゃこんなに翻弄されるわけがない。

恐らくカラクリは……奴から感じるモンスターに近しい気配。

胸に輝く魔石。

 

「ぶっぶー!不正解!」

「あ?」

 

心を読んだかのように、アレンの脳裏に浮かんだ可能性をマイアは否定する。

彼は両指をこねくり回す。

 

「あぁ~……まあ厳密には間違いじゃないというか。確かに僕は怪人(クリーチャー)として皆より強い。けど、僕闇討ち(これ)しかダメなんだぁ。凄い身体能力を与えられても上手く使えない。だから、アレン君達にはこの力、使ってないよ」

「……待て、『()』、だと?」

「……あはっ。気付いちゃった?」

 

マイアが口角を上げる。

落とし穴に、これでもかと言う呪詛武器。

無力なマイアの誘導に油断してついてきた第1級冒険者たち。

高濃度のカースに満たされた空間と、四方八方から飛んできて身体に突き刺さる魔剣。

そして、身体の中から流される爆炎や雷撃。

それらを持ってしても身動きが取りづらく動きが鈍くなったり、ボロボロになってもアレンのように喋れる程度のダメージ。

やはりLv.6は凄い。

 

アレンが気付いて、すぐ。

霧が晴れて。

中庭に無数の同じ姿の仲間がいることが発覚する。

 

「は……?おい……ヘディン……ヘグニ……嘘、だろ……っ!?」

 

同じくやられた強者の仲間たちを前に、アレンが瞠目する。

ガリバー兄弟も同じ目に合ってる。

けれど、彼らはLv.6。

この程度では死なない。

 

「いやぁ、やれることはやるけど。アレン君達も殺せないだろうなぁ。先にオッタル君も罠にかけて魔法も仕掛けたけど多分生きてるし」

「なっ……!?オッタルももう……!」

「殺し屋失格のセリフになっちゃうけど、まあ君達くらい強ければ永久に戦闘不能にするだけで実質殺したようなもんだよね!」

「は?テメェ、何言って……」

 

マイアは決してアレンと距離を詰めない。

近づけばアレンは束縛など簡単に解いて、マイアの首を跳ねると気づいている。

莫大な資金をかけて大量のカースを用意し、動きが鈍くなっていてもLv.4くらいは動ける。

それもわかってる。

マイアがいかに肉体はLv.7相当でも対象と戦うことが仕事では無いマイアはきっと勝てないだろうと自身で見込んでいる。

だから、戦うのではなく、殺す。

実は戦うと殺すって別の競技なのだ。

 

「さてと、聞かれたことベラベラ話すことってないんだよね。殺し屋って。情報漏洩ってやつ?厳しくてさ」

「ちょ、待て……!テメェ、何するつもりだ……!」

「さぁ?そういうことだから、理解できずに―――殺られてよ」

 

マイアは、無数に吊るしたフレイヤの眷属の中心で。

【フレイヤ・ファミリア】の中庭で。

詠唱を始める。

 

 

「【発動するまでは大変。でも、最期は簡単。トドメの一撃。最後の一手(ピース)。足りないモノ。その上で僕に資格のあるモノ。僕とアナタ、異なる領域(ステージ)。その差を埋める神の手助け。それがこの―――】」

 

 

 

「【ラスト・アクション】」

 

 

 

途端。

中庭に鈍い発光が齎された。

対象者を一定以上追い詰めれば、理を無視した必殺を放てる魔法。

それを彼らに使用した。

マイアが強くとも弱くとも関係ない。

この無法な魔法はマイアが何も手を加えなくてもトドメを肩代わりしてくれる。

 

 

―――瞬間、【フレイヤ・ファミリア】の中庭は血で染まった。

 

 

真っ赤に彩られた中庭。

それは庭師の最高傑作だった。

一気に飛び散ったその血飛沫が、血潮が、花を全て薔薇に変える。

 

庭師の男はただ1人、その中心で真っ赤に染って笑顔を浮かべ、女神を見上げるだけ。

 

 

「こんにちは~!どうも、庭師で~す」

「……っ。貴女、何者?」

「あれれ?フレイヤ様ぁ?僕だよ?マイアだよ?なんで腰引けちゃってるのかなぁ」

 

部屋に上がり込んできたマイア。

血まみれだ。

そして、ずっと笑顔だ。

それはまるで毎朝談笑してた時のような普遍的な笑み。

それが気持ち悪くて仕方ない。

あれだけのことをして、あれだけのことがあって、この男はいつもの通りを装うのだ。

いや、装っているようにも見えない。

自然だ。

いつもの彼そのままだ。

全部が本気で、それがまた不気味。

 

「答えなさい!貴女は何者なの?」

「僕はマイア・クワイア。でも、名乗っても意味はないよ。だって、関係が薄ければみんな僕を忘れるし、関係が濃くても特定できない。僕は仕事の為に人権を捨てたからね」

「人権を……捨てた?」

「そう!僕は皆の隣人。ただの隣人。どこにでもいる隣人。そして―――どこにもいない隣人」

「……っ」

 

フレイヤが後ずさる。

その笑顔が怖い。

女神が震えている。

この男は、人間を在る種超えている。

その見立ては、間違ってはいない。

 

「ごめんね、フレイヤ様。フレイヤ様のこと、僕大好きだよ。嘘じゃない。全部本当に言ってる。でも、ごめん。これも仕事なんだよねぇ~」

「女神に嘘はつけない……。貴女が嘘をついてるようには見えなかった」

「だから、嘘じゃないんだってぇ。僕は嘘つかないよ。全部本心で本当で本気だよ。だから、見破れないんだ。神様(フレイヤ様)だって」

「~~~~~~っ!!そんなはずないわっ!有り得ない!」

「そんなこと言われてもなぁ。それが技術っていうか……ごめんね、僕上手く説明できないや」

 

マイアは後頭部をかき、ペロッと舌を出す。

本気でお茶目だと思ってる舌ペロだ。

それすらゾッとする。

この男は、全部本当。

今もただ日常のあの時の態度の延長だと思っている。

普通じゃない。

異常だ。

 

「貴女はどうやってオッタル達を倒したの?その肉体も使ってないんでしょう」

「だからぁ、『技術』だってぇ。んー、恩恵(ファルナ)が常識の人って受け入れてくれないんだよなぁ。まあ別にいいけどね。分からず死ぬだけだし!」

「……っ!」

 

また笑顔で言う。

怖い。

フレイヤは後ずさる。

マイアは近づいてくる。

 

「質問を変えるわ。なんでこんなことをするのかしら。貴女が私達に恨みを持ってるようには見えないけど」

「まあ仕事だからね~。依頼されて、やるだけ?」

「依頼?誰に頼まれたというの」

「それは機密だよぉ。代わりに僕のこと教えてあげる!」

「貴方のこと?」

「そっ!僕って実は1000年前の人なんだけどぉ」

「…………………………………は?」

 

目を丸くするフレイヤ。

衝撃の発言がでたが、マイアにとっては常識なので彼は淡々と言葉を紡いでいく。

 

「家族を養うために極東で殺し屋やってたんだけどさぁ。気付いたら家族みんな死んでて、僕仕事に夢中で気づいてなかったんだよね!気付いたら、みんな死んでるのになんの為に働いてるんだ~!?ってさ!」

「……っ」

「それである日、神様が降りてきてぇ。恩恵くれたんだよねぇ。で、スキルとか魔法とかでたけど性にあわなくてさぁ。しかも家族死んでるし。あー、僕も死のーって思った時にさ」

 

マイアは笑顔で話す。

笑顔で話す内容では無いのに。

 

「『大切な家族を忘れてまで没頭した仕事を極める気はないかい?』ってある神様に言われたんだよね!」

「……っ!!」

 

フレイヤは、ここで誰の差し金がわかった。

同時に震える。

少し脅しただけでここまでするか。

というかこれほどの駒を持っていて、これまで何もしなかったのか?

どれほど相手は余裕なのか?

やっと気づいた。

彼女は本当に余裕だから余裕をこいていたのだと。

触れてはいけなかった。

あの女神は最も恐ろしい女神だった。

 

「で!怪人(クリーチャー)になって寿命も伸びて、仕事の腕を磨き続けたんだよね。1000年!」

「1000……年……っ」

「そそっ!僕の延長付き人生を変換した技術、神様にも届いちゃうくらい凄いでしょ?」

「……っ!」

「ねっ!褒めて褒めて!」

 

マイアは無邪気に笑う。

フレイヤは、へたりこんだ。

勝てない。

勝てるわけがない。

Lv.1だからとか、怪人(クリーチャー)だからだとか、Lv.6とか、Lv.7とか関係ない。

 

そういう恩恵の理とは別の領域にいる。

目の前にいるのは1000年1つの仕事を極め続けた怪物だ。

彼からすればLv.6だろうが、Lv.7だろうがただの若者でしかない。

 

「ま、オッタル君達を倒すのはどんなに技術を鍛えても無理だったけどね~。結局スキルと魔法頼りだから。やっぱり神様の恩恵(ちから)って凄いね」

「……さっきの魔法、あれは何?」

「【ラスト・アクション】。僕が手を加えなくても勝手に相手を殺してくれる。『事象』を齎す魔法さ」

「そんな法外な魔法……!」

「いやいや。僕の魔法、戦いの流儀も知らない僕自身が追い詰めないと発動しないんだよね~。全然万能じゃないでしょ?ま、その代わりぶっ壊れてるよねっ!わかるわかる~!」

 

マイアは笑顔で頷く。

これまでどんな相手もこの魔法で絶望させてきた。

それがどんな格上でも。

そんな相手の声を何度も聞いてきたから、その理不尽に理解を示すようになった。

これもまた本心による同意。

 

「とにかく僕の技術である『隣人』とそれを補正するスキル。そして、トドメの魔法。これがあれば僕は誰とでも友達になって寝首をかける」

「オッタル達が貴方の殺意に気づかないはずないわ」

「殺意なんてないよ!あはは!仕事の作業する時にいちいち本気で気持ち込めるの?毎回?」

「なっ……」

 

ダメだ、価値観が違いすぎる。

マイアにとって殺すことは作業でしかない。

彼にとって庭木の枝を切るのと一緒なのだ。

 

「色んな職業に化ける時もあるから、色々やってきたけど今回の庭園は力作だったなぁ。1000年の間に色々やりすぎてそっちも上手くなっちゃったよ」

「……っ」

 

確かにプロの所業だった。

完璧な庭作り。

見抜けないわけだ。

彼は本当にそれをもうひとつの仕事にできるくらい、しかも上澄みのスキルを身につけたのだ。

それも1000年もあったからなし得たこと。

 

「でも、庭師になるつもりはないかな。やっぱり僕の仕事は殺し(これ)。家族を忘れて没頭した程の価値が、この腕にあるのか……精査したい。その為に強者を狩る。それがたまたま今回フレイヤ様達だったってこと」

 

マイアは、口角を上げる。

 

「オッタル君達。みんな生きてると思うよ。主要メンバー以外は殺すつもりなかったし、オッタル君達も強すぎて無理。けど、もう二度と戦えないくらいの障害は負ったかもね。それはヘイズちゃんも一緒だから回復もできない」

「……っ」

 

フレイヤが瞠目して、瞳を揺らし、下を向く。

終わった。

負けた。

実質滅ぼされた。

そして、そのことをマイアが宣言する。

 

「だから、これで終わり。……あっ、じゃなかった。えーっと。なんだっけ……。あっ!そうだそうだ。思い出したぁ~!」

「……っ!」

 

最後まで明るい彼に、恐怖と怒りを抱き、顔を上げてせめて最後に睨んでやろうと思ったフレイヤ。

けれど、それはくじかれる。

ナイフを逆手に、初めて笑顔が不敵になった彼を見て。

 

「さようなら、フレイヤ様。これで降板だ…………ってさ!じゃあね~!!」

 

マイアは、手を振って元気よく正面玄関から帰っていった。

そのセリフは天界で何度も聞いた女神の口癖だった。

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