原初の竜でも友達が欲しい   作:伊つき

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獅子王リチャード VS 【ロキ・ファミリア】

 

黄昏の館に大胆に潜入したルシアは、リチャードを名乗り、ゆっくりと立ち上がる。

その手にはカリバーンという名の両手剣が、片手で握られている。

 

「何の目的でやって来たのかは……大体想像つくよ」

「そうですか」

「女神タレイアの差し金かな?実にタイムリーだね。まさかこんなに早く仕掛けてくるなんて」

「……」

 

ルシアは沈黙。

ノーコメント。

それが回答となり、フィンは眉をピクリと動かす。

視線で指示を出して、幹部に彼女を囲わせた。

全員が武器を持ち、Lv.6が包囲網を完成させる。

だが、ルシアはまるで焦っていない。

囲まれている間も気づいていながら対応しなかった。

そして、包囲網が出来上がるのを待って、彼女は顔を上げる。

 

「【ロキ・ファミリア】を、殲滅します」

『……っ!!』

 

ド低音で篭った声を発するルシア。

彼女は、宣言すると、その場から消えた。

 

『なっ!?がはっ……!?』

「……」

 

瞬きの間。

彼女を囲っていた冒険者全員が腹を斬られた。

それは一瞬の出来事で誰も視認できなかった。

逃れられたのはなんとか致命傷は防いだガレスと、後衛のリヴェリアだけだ。

 

「くっ……!跪いてる時間はない!ダメージを無視しろ!来るぞ……!!」

『……っ!?』

 

またしても姿を消したルシアに、フィンが叫ぶ。

全員がルシアの居場所を掴めない中、団長を信じてとりあえず防御体勢を取った。

すると。

 

「……っ!見つけた!」

「……やりますね」

『……!』

 

アイズの剣と衝突し、金属音が鳴り響く。

全員が彼女の方を見た。

そこには競り合うルシアとアイズが。

 

「アイズ……!」

「今行くわ!」

 

ベートとティオネがアイズに助太刀しようと地を蹴る。

しかし、ルシアは後ろを見ずにそれを察知。

先に地を蹴って、後退し、2人を通過。

入れ違いになり、すれ違い様に2人の背中を斬る。

 

「なっ……!?かはっ……!?」

「何よ……こいつ……!うあっ!?」

「ベートさん!ティオネ!」

 

倒れる2人。

アイズが叫ぶ。

立っているのはルシアだけ。

それは、勝者の証だ。

 

「この……!」

「【吹き荒れろ(テンペスト)】!」

 

ルシアの背後から得物を振り下ろすティオナ。

正面からルシアのスピードについて行こうと風の力を借りて突進するアイズ。

そんな2人を嘲笑うかのようにルシアは剣を巧みに扱う。

まずは背中に剣を回してティオナの攻撃を防ぎ、身体を回転させて逆にティオナの背後に回り込む。

そして、回り込むその最中に、彼女の腹を斬り、身体を蹴り飛ばして壁に突っ込ませた。

 

「うあっ!?」

「……っ!?ぐっ……!」

「……」

 

ティオナを離脱させて、さらに深く斬りこんでくるアイズにはその斬撃を剣でいなす。

エアリアルを使用しても尚、向こうには余裕がある。

防御に徹してるのはその方が攻撃に繋がるからだ。

―――それも致命的なダメージを与える攻撃に。

 

「……!!」

「かはっ……!?」

 

アイズが攻めまくって、ルシアが全て剣で防いでいた。

しかし、たった1回。

防御ではなく回避を挟まれて、空を斬った剣を次の手数に移行させるその時間でルシアは剣を捨ててアイズの腹を全力の拳でぶち抜いた。

幸い、左手による鉄拳だったが、それでもアイズは唾液を吐き、廊下の1番奥の壁までめり込ませられる。

彼女の足は、浮き、腕はプラーンと放られた。

 

「アイズ……!」

「なるほど。恐ろしく強い」

 

リヴェリアがアイズの名前を叫び、フィンが斬られた箇所を抑えながら槍を手に立ち上がる。

残るは三大幹部だけだ。

ルシアも振り返る。

 

「よそ見してんじゃねえ!!蹴り殺すぞ!!」

「調子に乗ってんじゃねえ!!チビ野郎が!!」

 

ルシアの背後に迫る狼人の蹴りとアマゾネスの拳。

剣を捨てた彼女は無防備。

今が好機だ。

 

「と、でも思いました?」

「なっ……!?」

「かはっ……!?」

 

ふたりが飛び掛る時、それより早く通過した白い残像。

それはカリバーン。

ルシアの手に渡り、振り返りざまに横薙ぎに払い、2人を斬った。

さらにルシアは跳躍し、ベートの顔面を踵で蹴り飛ばし、その勢いのままティオネの肉体を斬り伏せる。

 

「ぐああああ!?」

「かはっ……!?こふっ……!」

「ティオネ!」

 

フィンは槍を手に駆け出すが、ルシアが剣を向けて彼の足を止める。

壁を突き破り部屋に侵入し、その部屋の壁も破って外へ放り出されたベートはともかく、ティオネはまともに斬られた。

ボタボタと血を垂らし、美しい身体の上から下まで綺麗で深く大きな切り傷が出来ている。

真っ赤で目立つ鮮血が痛々しい。

傷の形も誰が見てもハッキリわかるほどパックリ皮膚が首から太ももまで割れている。

彼女はまだ立っているが、それは痛みが強すぎて動けず倒れられないだけ。

やがて、血反吐を吐き、前から倒れた。

 

「貴様……!」

「よくもウチの若いモンを傷物にしてくれたのぉ!」

「……」

 

鬼の形相のリヴェリア。

武器を構えるガレス。

フィンは……壁の穴から覗く外の景色を見る。

 

「ベート……!」

 

顔を顰めるフィン。

ティオネほど命にかかるほどでないにしても、彼も恐らく脳震盪を起こしている。

放っておくのは不味いだろう。

一刻も早くティオネ、ベートの順に助けなければいけない。

しかし、目の前の剣士は強すぎる。

そして、彼女がいる限り迂闊に動けない。

 

「次は、お前たちだ」

『……っ!』

 

剣先を3人に向けるルシア。

3人とも眉間に皺を寄せる。

正直言って勝てるか怪しい。

仮に勝てたとしてもかなりの苦戦と長い時間を要する。

そんな事をしているうちにティオネとベートは死ぬ。

ファミリアのヒーラー達はこの戦闘区域には侵入できない。

ベートを手当はできても、ティオネはルシアの間合いの中にいる。

ヒーラーが足を踏み込めば五体は一瞬で泣き別れだろう。

そして、そうこう考えてるうちにも……ルシアは1歩1歩にじり寄り、剣を構える。

 

「……わかった。降参だ」

「フィン!?」

 

槍を置き、両手をあげるフィンに、リヴェリアは信じられないようなものを見る目で2度見する。

しかし、フィンは正気だ。

加えて勝算もある。

 

「君の強さは充分わかった。僕ら【ロキ・ファミリア】が女神タレイアの勢力にまるで敵わないのも、君一人に手こずってるようでは認めざるを得ない」

「……!」

「……」

 

リヴェリアが瞠目する。

フィンの考えがわかった。

この場を収めるには単純だ。

野生動物に対する心得と同じ。

こちらに敵意がないことを示せばいい。

 

「僕らは今後一切、女神タレイアには干渉しない。約束する。誓約を交わしてもいい。なんなら代償も払う。だから、どうにか見逃してくれないか」

「……」

「頼む。僕達は仲間を失ってまで君達を倒す意味が無い。そんなリスクは犯せない。女神タレイアには手を出さない。それで手を打って欲しい」

「……」

 

フィンが語りかけるも、ルシアは足を止めて沈黙したまま。

やがて、彼女は上を向く。

 

「……関係ありません」

「えっ」

「下された指令は、【ロキ・ファミリア】の殲滅。貴方達に敵意があろうがなかろうが、それは抵抗して滅ぼされるか、抵抗せず滅ぼされるかの違いでしかない」

「なっ……!?」

 

リヴェリアが瞠目する。

ダメだ。

話が通じる相手じゃない。

まだレヴィスの方が可愛げがある。

フィンも自身の過ちを認める。

まさか相手が思考をはなから放棄しているとは思わなかった。

彼女はただ実行しているだけ。

頭脳は別のところにある。

交渉など、最初から無駄だったのだ。

 

「【吹き荒れろ(テンペスト)】!!」

「よくもティオネを!許さないからねー!」

「ダメだ、2人とも!【ヘル・フィネガス】!!」

「ぬおおおおお!!」

 

対話を諦め、絶望し、諦めて攻める4人。

しかし。

 

 

―――フリテン王国流剣術。竜の型。

 

 

―――【マキシマム・サーベラ】。

 

「なっ……」

「かっ……はっ……!」

「馬鹿、な」

「ぐはぁ!!」

 

ルシアは4人を一瞬で滅多斬りにした。

背中から重力に引かれる4人。

その最中、フィンは彼女の剣を見る。

【グウィネヴィア・ファミリア】の【騎士王】が持っている剣なのは全員気付いている。

だが、背丈が余りに違いすぎる。

それに、 リョーカ・アーサの本来の性格を知ってる彼らにとって、彼女がこんなことをするなど1番最初に選択肢から外す。

だから、全てがスローになる世界で、フィンは目の前の剣士を睨む。

ルシアは魔法も、ドラゴンの力も鉄拳以外は使ってない。

使用しているのは普段あまり使用しないフリテン王国の剣術のみ。

それが仮面の剣士の正体を闇に葬っている。

故に、フィンは訝しむ。

 

 

―――お前は、誰だ……!!

 

 

「うぅ……」

「……っ」

「ぐっ……!」

「ぬぅ……!」

 

「……」

 

倒れ伏せた4人を放置して包囲網から抜けるルシア。

ガレス以外はそう簡単に立ち上がれないだろう。

いつでもトドメを刺せる。

それよりも優先すべきは、法外な威力の魔法を持つ後衛。

 

「……っ」

「……」

 

リヴェリアへと歩み寄るルシア。

彼女が眉間に皺を寄せ、下唇を噛む中、ルシアはカチャカチャと甲冑の音をたてながら近寄っていく。

そして、目の前まで来た時、彼女を見上げた。

 

「……っ。……?」

「……」

 

暫く見つめてくるルシアにリヴェリアが困惑する。

ルシアが攻撃してこない。

かと言って魔法を使う隙はない。

ここまで詠唱する余裕も、エルフの仲間が割って入ることもできなかった。

もうリヴェリアにできることはない。

そして、それよりも……この身長差に何故か覚えがある。

 

「……殺します」

「……!」

 

ルシアは、リヴェリアを殺していいかエルフとして多少考えたが、やはり殺すことにした。

剣を振り上げる。

リヴェリアは瞼を閉じる。

覚悟を決めたのだ。

相手は強すぎる。

ここまで圧倒的に差があると、リヴェリアだけでなく、【ロキ・ファミリア】は人類の先頭だからこそ、諦める。

彼らほどの存在がその判断を下すのだから避けられない災い。

それはやがて、世界の総意となる。

 

「……?」

 

しかし、いつまで経ってもリヴェリアは自身の首が跳ねられる感覚に襲われない。

恐る恐る瞼を開けると……仮面の剣士はリヴェリアと対峙していなかった。

彼女は振り返り、廊下の奥から歩いてくる男を警戒して動きを止めている。

 

 

その男とは、世界を喰い尽くす"悪食"。

 

 

「君……は……!」

「【暴食】、ザルド……!」

 

「……」

 

【ロキ・ファミリア】の本拠に現れたのは【ゼウス・ファミリア】のザルド。

何とか声を絞り出し、膝をついて身を起こすフィン。

リヴェリアが彼の言葉の続きを紡いで、ザルドの名を呼ぶ。

ザルドは鎧を鳴らし、ルシアへと歩み向かう。

その手には既に武器が取られている。

 

「……堕ちたか」

「……」

 

ザルドは、眉間に皺を寄せて、ルシアを見てそれだけ告げた。

同時にどこか虚しそうに視線を落とす。

期待していた者がこうも簡単に、あっとういう間に闇に堕ちた。

残念極まりない。

 

「お前にベヒーモスの呪いを解いてもらったおかげで、俺はまた試練を乗り越えられる肉体となった。今の俺はLv.8。お前と対等だ」

「……っ!」

「どうする?結果がわからん殺し合いを貴様は好むか」

「……」

 

挑発の意味も込めた撤退を促す言葉。

ザルドの真意を理解しつつ、ルシアは直立不動。

微動だにせず、暫く考える素振りを見せる。

 

……やがて、仮面の剣士は背を向ける。

 

「なっ……」

 

リヴェリアすら無視して通過して歩き去っていく仮面の剣士。

彼女は正面玄関から帰って行った。

そして、残ったザルドに視線が集まる。

 

「【ゼウス・ファミリア】の……【暴食】。まさか生きていたとはな」

「ハイエルフの王女。【九魔姫(ナイン・ヘル)】か。こうして話すのは中々珍しいな」

「なぜ奴を討たなかった?」

「討って欲しかったのか?尻拭い歓迎とは、衰退も目に見えている。それに……俺に友は殺せん」

「なに……?」

 

困惑するリヴェリア。

ザルドはそれだけ言って、去ってしまった。

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