「な、なんですか。これは……」
星屑の庭を千里眼で覗いて、動揺するルシア。
こんなことが起きてるなんて知らなかった。
まだ誰も死んでないようだが、彼女達は本気で相手を殺すつもりで戦っている。
そして、リューは1人で他全員を相手にしている。
意味がわからない。
異常だ。
こんな狂った価値観を、【アストレア・ファミリア】が有しているなんて……ルシアは知らない!
「ギルドに報告していないようだが、リュー・リオンはかなり強くなっている。君の知っている彼女はもういないよ」
「なっ……。そんな、馬鹿な……有り得ません」
ルシアが狼狽え、後退り、足をぶつける。
タレイアは初めて見せるその姿に口角を上げる。
なるほど。
【アストレア・ファミリア】が関わるとここまでポンコツになるか。
「こ、こんなこと……ダメです。やめてください。あっ、危ない!……っ!」
千里眼で見た景色を実況してくれるルシア。
それを聞きながらタレイアは紅茶を口にする。
実に楽しい娯楽だ。
「さて、どうする?【アストレア・ファミリア】は力を持った。そして、人が力を求める理由は一つだ。フレイヤやロキの派閥同様ね」
「……っ!そ、それは……」
ルシアが目を泳がせる。
ここまで動揺した姿を、暗黒期終了時以来、ルシアは見せたことがない。
「正義を掲げる彼女達が、二大派閥を沈黙させた存在を無視するかな?」
「~~~~~~~っ!」
ルシアは、下唇を噛む。
タレイアの意向を叶えないと、契約は破棄になる。
それは絶対ダメだ。
ルシアにとって、その契約は希望だ。
【アストレア・ファミリア】を救うための微かな道筋なのだ。
絶対に失う訳にはいかない。
だが、邪魔になるからといって彼女たちを潰すことなどできない。
彼女たちを助けたいからやってるのに、彼女たちを倒したら本末転倒だ。
それでも……ここで回答を間違えれば全てがお釈迦。
「……滅ぼす必要は、ありませんよね?」
「ほう」
ルシアが恐る恐る絞り出すと、タレイアは笑いを堪える。
彼女は、視野が狭くなり、本気で交渉できてると思い込む。
「【ロキ・ファミリア】同様、戦意を削げばいいと思いませんか?あまり有力派閥を潰すと、後々困りますし」
「……どうかなぁ」
「……っ」
「ま、そうかもね」
「~~~~~っ」
ルシアが深く息を吐く。
安堵したのが丸わかり。
タレイアは噴き出しそうなのを我慢するので大変だった。
「まあ、【アストレア・ファミリア】は別に放任していてもいいと思うよ。けど、リュー・リオンは別。彼女は危険だ」
「リューさんが?」
「あぁ。ベル・クラネルや【
「……!ま、まさか……」
「そうだ。彼女だけは潰せ。【フレイヤ・ファミリア】のようにね」
「……っ!?」
ルシアが瞠目する。
だが、ここまでの流れとは違う。
タレイアが真剣に言ってるのは、ルシアもわかった。
つまりリューがベルやアイズより危険だと言うのも本当の見解だ。
壮大な理論を組み立てるタレイアがそう言うのだ。
まだ理由は聞いてないが、既に説得力がある。
「ルシア・マリーン。【疾風】を叩け」
「そ、それは……!」
「
遂に下された。
最悪の命令。
ルシアは、動悸が激しくなる。
瞳が揺れる。
選択を……迫られる。
「……わかりました。やります」
「頼むよ」
ルシアはなんとか頷いてタレイアの隠れ家から出る。
だが、リューを殺すなんて無理だ。
やりたくない。
どうにか、どうにか殺さないで済む方法を。
それか最悪……自分の手でやらずに済むように。
「フィルヴィスさん」
「……!」
ルシアは同じく解散しようとしていたフィルヴィスを呼び止める。
「フィルヴィスさん。私は連戦で疲れています。次は手伝ってください」
「……【ロキ・ファミリア】より容易い相手だろう」
「【ロキ・ファミリア】の時、参戦しませんでしたよね?そろそろ働いてください」
「それはお前が参加するなと―――」
フィルヴィスが言い終わる前に、ルシアは一瞬で肉薄して彼女を壁に押し付ける。
そして、足ドンし、胸ぐらを掴んで睨みつける。
「ぐっ……!」
「戦わないんですか?じゃあタレイア様の計画のために働けないということですか?なら契約は破棄しますか?」
「ま、待て!貴様……!」
まさかの脅迫にフィルヴィスは顔を顰めるも、どれだけ力を込めて彼女を腕を掴んでも解放されない。
フィルヴィスがエインになってもLv.7相当。
ルシアはLv.8相当。
ルシアの方が格上だ。
「返事は?」
「わ、わかった!協力する。だから、離せ!」
「はい」
ルシアはフィルヴィスを解放した。
咳き込むフィルヴィス。
そして、キッ……!と睨みつける。
「かつての仲間を殺せない。それを誤魔化すために脅迫か」
「さて、なんのことでしょう」
「女神タレイアならともかく、お前に契約をどうこう言われる謂れはない!」
「……で、やるんですよね?」
ルシアは尋ねる。
その目は、下らないことを言うな。
無駄な会話はいらない。
頷いてやれ。
それだけこなせ。
そう告げているようだった。
フィルヴィスは襟元を整え、ルシアを睨む。
「わかっている。【疾風】を殺せばいいんだろう?」
「物分りが良くて助かります」
ルシアは満足げに頷く。
これで実行役をフィルヴィスになすりつけられた。
あとは、ルシアが裏方に回ってリューの死亡を偽装するだけ。
加えてリューを脅して戦意を奪う。
完璧な計画だ。