「追うぞ、リオン!」
「輝夜、待て!」
「……!?」
逃げたフィルヴィスを追おうとした輝夜を、リューが制止する。
彼女は既に振り返り、背後にいる仮面の剣士に目を向けている。
輝夜もリューに声をかけられてやっと気づき、その剣士を警戒する。
その者の威圧感はフィルヴィスよりもさらに凄まじい。
リューは、身体も振り返り、数歩歩いて対峙する。
「お前も先程の
「……【
リューに問われ、答えるルシア。
2人の間に殺気が流れる。
そして。
合図もなく、開戦した。
「ぐあっ!?」
「……」
初手はルシアが取った。
当然だ、格が違いすぎる。
ルシアは木刀を手に詰めてきたリューに対し、その木刀が振り下ろされるのを剣でいなしてから、彼女の顎に膝蹴りをかました。
ついでに頭突きもお見舞いする。
「ぐっ……!」
「お前では私に勝てない。絶対に」
「【今は遠き森の空】」
「……!」
頭突きで後退したリューが、足でブレーキをかけながら詠唱する。
ルシアは仮面の下で顔を顰める。
「並行詠唱……!」
「【無窮の夜天に鏤む星々】」
ルシアが距離を詰めて、剣を振るい、リューが木刀で防ぐ。
しかし、その木刀を握る手元を膝蹴りし、木刀が頭上に浮く。
見上げるリューの腹をルシアは殴り、彼女を後退させる。
「……っ!【愚かな我が声に応じ、今一度星火の加護を。汝を見捨てし者に光の慈悲を。来れ、さすらう風、流浪の旅人】」
「……」
木刀が降ってきて、それを掴むルシア。
そして、2本構える。
リューも詠唱しながら瞠目する。
その後ろで輝夜が叫ぶ。
「二刀流だと……!」
「【空を渡り荒野を駆け、何物よりも疾く走れ——星屑の光を宿し敵を討て】!!」
「……」
二刀流で待ち構えるルシア。
リューは駆けながら容赦なく至近距離で魔法を放つ。
「【ルミノス・ウィンド】!!なっ……!?」
輝夜が投げた双葉を受け取り、砲撃と共に突っ込むリュー。
しかし、ルシアは、リューの魔法を全て剣で捌き、リューの懐に飛び込んだ。
―――フリテン王国剣術。蝶の型。【エクリプス・クロス】。
「かはっ……!?」
一瞬による8連斬。
リューはめった斬られ、倒れ伏せる。
折れた双葉が後から床に刺さった。
『リュー!』
「お前たち、来るな……!」
騒ぎを駆けつけた仲間たちがルシアの後ろに出てくるが、輝夜が戻れと叫ぶ。
だが、姿を現したらもう遅い。
仮面の剣士の間合いの中だ。
背中を見せたら死ぬ。
「うっ……ぐっ……!」
「リオン……!」
仲間を守るため、なんとか身を起こし、片膝をつくリュー。
しかし、ダメージは深刻だ。
そんな彼女の前に、ルシアは木刀を放り捨てる。
「……っ」
「……」
リューが見上げると、仮面の剣士が見下ろしていた。
トドメを刺そうとしない。
それどころが得物を返した。
完全に舐められている。
もう勝ちを確信されている。
事実、勝負はもうついた。
「……貴様はルシア・マリーンを救うと言ったな」
「……!?」
仮面の剣士に言われ、リューが瞠目する。
「ルシアを知っているのか、お前は!」
「……貴様に奴は救えない。ルシア・マリーンからも、我々からも、手を引け。強くなるな。無力なまま篭っていろ」
「……っ!」
「リオン!奴はお前が強くなるのを恐れている。聞く耳を持つな!」
輝夜が叫ぶ。
仮面の剣士はそちらを見た。
それだけで、輝夜は息を呑み、脱力してしまう。
二人の間には差がありすぎる。
「……断る。私はルシアを救うまで、決して屈しない!」
「ならば死ね」
リューの首にルシアが剣を振り下ろす。
しかし。
「……?」
「……時間切れです」
剣はリューの首に届く前に止まり、ルシアは踵を返した。
彼女が口にした言葉はタレイアに向けたもの。
千里眼が煌めいている。
ルシアが【アストレア・ファミリア】に近づくと、【アストレア・ファミリア】は滅びる。
その予言の効力が発生しそうになった。
これ以上彼女達と接触できない。
故に、ルシアは窓から飛び出し、屋根から屋根へ移動した。
その途中、タレイアがいて、その隣に肩を並べて反対を向き、立ち止まる。
「彼女の首を跳ねるくらいはできたんじゃないか?」
「万が一があります。予言が発動すれば、例え世界再構築が可能だったとしても、私が貴女に協力する意味がありません」
「ここまで混乱の渦に巻き込まれてまだ目的と手段を履き違えないか、食えない女だな。君は」
「……その目的が私の全てなので」
ルシアはそれだけ言ってタレイアを通過し、帰っていく。
残されたリュー・リオンをタレイアは見る。
「……さて、英雄を焚きつけるだけ焚きつけるとは、1番最悪な結果だ。彼女はどこまで強くなるかな?」
突如、刺客リチャードが去り、呆然とするリュー。
やがて、アストレアの一声で我に返り、【アストレア・ファミリア】は本拠の後片付けをする。
「……勝てなかった」
リューは瓦礫を片付けながら歯を食いしばる。
「仕方ない。相手が強すぎる」
「それで済ませていいものですか!負ければ悔しい。それが冒険者だ」
「それをわかっているのなら、お前はもっと強くなれる。満足するな。止まるな。誰にも負けるな。駆け抜けろ、Lv.8まで」
「輝夜……」
一切リューを見ず、瓦礫を拾いながら淡々と告げる輝夜。
そんな彼女の横顔をリューは見つめる。
そこに。
「えっと……お客さん、なんだけど」
「【疾風】はいるか?」
セルティが恐る恐る連れてきたのは【フレイヤ・ファミリア】、オッタル。
突如【アストレア・ファミリア】の本拠に現れた大物にリューと輝夜が思わず立ち上がり、構える。
「【
「生きていたのか!」
2人は驚く。
オッタルは女神を連れている。
「フレイヤ!貴女……」
「久しぶりね、アストレア」
女神同士が挨拶をかわし、オッタルはリューたちと向き合う。
「女神タレイアの使者を追っていた」
「女神タレイア……?」
「奴らを率いる女神の名だ」
「【
「そうだ。そして、俺達はタレイアにやられた【フレイヤ・ファミリア】は俺以外もう戦えん。俺も本格的な戦いはもう無理だ」
「そ、そんな……」
「【ロキ・ファミリア】もやられた。残るは、【疾風】。お前だけだ」
「コソコソと全て見ていたというわけですねぇ。それで他派閥の本拠にも乗り込んできたと」
「そういうことだ。さっきの戦いを見せてもらったが、【疾風】。お前がこれほど強くなってるとは知らなかったぞ」
「……っ。しかし、私も負けました……」
リューは下を向く。
これでオラリオの有力者全員が敗北したことになる。
女神タレイアと【
彼女達が何を目的に動いてるのかは定かではないが、もはや彼女達の暴挙を許すしかないのは確かだ。
「まだ諦めるには早い」
「えっ?」
リューが目を丸くしてオッタルを見上げる。
すると、オッタルの瞳にはリューが映っていた。
それはまるで、希望を見つけた目だ。
「この短期間でここまで強くなり、尚且つ、精神の成長が凄まじい。才能も技術も【
「私が……【
オッタルが頷く。
「そうだ。俺はお前に、お前だけに期待する。俺はもう戦えん。無能になった最強に課せられた、最後の仕事は一つだ」
「最後の仕事仕事……?」
オッタルは視線を落とす。
死の七日間を想起した。
かつて、背中を追いかけた冒険者は、自身の栄光を諦め、後身の育成に身を捧げた。
オッタルにもその順番が回ってきたのだ。
「【疾風】。俺がお前をLv.7にしてやる」
「なっ……!?」
瞠目するリュー。
Lv.6になってそれほど月日が経ってないリューをLv.7に到達させるというオッタル。
これは女神の意思でもある。
「フレイヤ……【
「タレイアにやられたまま癪だもの。だから、【フレイヤ・ファミリア】の栄光の後釜を貴女達にしてあげる」
フレイヤもリューに期待することにした。
眷属達がほぼ全員【ディアンケヒト・ファミリア】送りになり、地位を失い、派閥が縮小した彼女の最後の悪あがきだ。
こうして、オッタルによる特訓が始まった。