「タレイア!」
【アストレア・ファミリア】が先行して、アリーゼが隠れ家の扉を破壊する。
けれど、そこはもぬけの殻。
「まあ、こんだけの大所帯を連れてくりゃバレるわな。だが、奴だ。逃げたりはしねえ。大方私達を驚かせようと夜な夜な準備して出迎えてくるはずだ」
―――『さすがだ。ヴィヴィアン。その通りだよ』
上空から声がする。
ヴィヴィアンを始めとして全員が見上げた。
そして、瞠目する。
迷宮都市オラリオ、上空。
歴史上初めての出来事が襲い来る。
都市を覆う大きな影。
空を飛ぶ建造物。
その名も―――
『見たまえ!空中人造迷宮【ア〇ンク〇ッド】だ!」
「完全にアウトな名前付けやがって……」
ヴィヴィアンが見上げる。
空に浮かぶは文字通り迷宮。
まるでダンジョンが浮いてるようだ。
「ちょい、待ちぃ!どうやってあそこまで行くねん」
「安心しろ。自慢しいのあいつだ。どうせ待ってりゃなんとかなる」
ヴィヴィアンの言う通り、空中迷宮から階段が伸びて、地上に繋がる。
ほらな、とヴィヴィアンは親指で背中越しに指した。
「よし、行くぞ」
「罠じゃないの?」
「罠でも行くんだ。攻め込まなければ始まらない」
「そういうことだ。ついてこい」
ヴィヴィアンを先頭に冒険者達も続く。
空へ続く長い階段を登った後、建造物の中に入るとまるでその景色はクノッソスだった。
「なるほど。中は使い回し設計か。どうりで建造がはえーわけだ」
「と、言っても大きさからしてまだ1回層も完成していない。広さもダイダロス通りくらいだろうか」
「そもそもどういう原理で飛んでいるんだ、これは」
「考えるだけ無駄だ。あいつが考える建造物なんて、大抵意味わからん」
ヴィヴィアンが鼻で笑う。
そんな彼女を先頭にとりあえず前へ進んで走る。
「まずはマイアを探す。おそらく
「よーし!そうと決まればレッツラゴー!」
「おう。そうだ――――――は?」
ヴィヴィアンが振りかえる。
パーティ全体の視線がその男に集まった。
そして、全員が瞠目する。
その男は探していたマイアだった。
『なっ……!?』
「うんうん!ビックリするよね。溶け込むの上手いよね。だってそれが僕の―――【
いつの間にかパーティに混じっていたマイアが口角を上げる。
技術とスキルで溶け込んでいた彼は指を鳴らす。
それは罠を展開する合図。
―――瞬間、大量の魔剣が降ってくる。
「は!?」
「魔剣の雨だと……!」
「しまった!散れーーーーーー!!!!」
フィンの叫びに全員が散り散りに避ける。
瞬間、全ては爆炎に包まれた。
そして、部屋のギミックが作動し、パーティは分断されてそれぞれが様々な空間に吹き飛ばされる。
マイアは爆発する寸前、駆け抜けたテシレアに回収された。
「皆、無事か!」
「―――これから無事じゃなくなります」
「……っ!!」
【ロキ・ファミリア】は纏めて東ブロックに飛ばされた。
フィンがすぐに身を起こし、体勢を立て直そうと呼びかける。
が、返ってきたのは背後のエルフの声。
「【エクリプス・クロス】!」
「……っ!」
背後から剣を振るってくる仮面の剣士に、フィンはなんとか槍で防いで後退する。
「僕達の元に現れたか、ルシア・マリーン……!」
「正体はバレてますか。ならこの兜ももう要りませんね」
ルシアは、兜を脱いで捨てる。
本当は動揺しているが、バレているとわかれば開き直るのが1番効果的だからすぐに切りかえた。
適当に見繕った剣を1本放り投げて、カリバーンを構える。
「前回仕留め損ないましたからね。今日は逃しません。滅ぼします、【ロキ・ファミリア】」
「生憎まだやる事が山のようにある。ここで滅びる訳にはいかないな」
対峙するルシアとフィン。
フィンの前に、アイズが出てくる。
「フィン。私が戦う」
「わかった。君を先頭に僕たちはフォローに回る。いいね?」
「了解」
アイズは剣を抜き、ルシアを前に構える。
ルシアも……相手にすることにした。
「ハッ。いかにも小心者のアイツらしい。私が動き出して、焦りまくりってわけか。1番つえー奴を寄越すとはな」
「……私は2番目だ」
【ヴィヴィアン・ファミリア】の前に立ち塞がるのはテシレア。
アマゾネスの怪人。
Lv.9相当。
「オラが相手だべ」
「アマゾネスか。カーリーの眷属になったことはないな。惜しいが、殺してやる」
アルキュオラとテシレアが睨み合った。
「……随分と舐められたものだな。私達【アストレア・ファミリア】に寄越されたのは最弱の
「貴様たちのステイタスは他より低い。当然の配役だ」
「リオンに一度やられたくせによく言うわっ!」
「アリーゼの言う通りだ。もう一度倒してやる!」
「……前回は油断した。今度は本気だ」
木刀を構えるリューに、フィルヴィスは仮面の怪人エインとして、魔法を唱える。
すると―――フィルヴィスは、増えた。
「なっ!?」
「分身魔法だと……!」
「Lv.7相当が複数。お前たちでは勝てない」
数体のフィルヴィスに囲まれる【アストレア・ファミリア】。
分身で戦闘経験と経験値を稼ぐやり方の逆転の発想だ。
それで強くなった分、集約して実力を発揮するのではなく、増えた個体も本体と同じ強さにする。
怪人歴の長いテシレアの指導の元、実現できた技。
しかも本体のフィルヴィスは巨大な半怪物となってしまった。
Lv.7MAXアビリティの本体と、Lv.7相当の分身4体。
【アストレア・ファミリア】は……終わりだ。
「……っぁ」
リューが愕然とし、木刀を構えながら固まる。
【アストレア・ファミリア】全員が言葉を失った。
圧倒的すぎる。
勝てるはずがない。
「……オッタル」
「はい。彼女達に協力します。しかし、今の私では……」
「それでも行くのよ。足掻きましょう。私は地上に降りて、貴方は冒険者になった。だったらここで諦める質じゃないでしょう」
「ハッ」
オッタルがフレイヤに頭を下げて前線に上がる。
隣に並ぶ彼をリューは見た。
「【猛者】……」
「期待するな。上振れても分身を2体始末できるかどうかだ」
「……っ。わかりました、いないものとして考えます」
「よく言った」
2人とも構える。
オッタルの指導を受けて、リューの思考も最前線の第1級戦力のものとなった。
他人に期待するな。
常に最悪を想定し、動け。
「……っ」
オッタルが顔を顰める。
正直、胸の内が痛い。
体内に魔剣や呪詛、様々なものを致死量流されてそのダメージが残っている。
逆に言えばそこまでしてもまだ満足に戦えることが異常だが。
今の彼は、Lv.7の実力をギリギリ発揮できるかどうかくらいだ。
苦しみを常に感じながらも……現場の第一線で動くくらいは求められる。
ベヒーモスの呪いを背負いながら戦うザルドはこんな気持ちだったのだろうかと思うが、きっとベヒーモスの呪いの方が何百倍もキツイだろう。
「……フッ。ますます最後の役目だな」
「何を言っているのですか。こんなところで負けては困ります。行きます!」
「あぁ!」
リューとオッタルは、共に駆けて、フィルヴィスへと挑む。