「……っ」
「アイズ!起きたか」
「リヴェリア……?」
瞼を開けたアイズの視界に飛び込んだのはリヴェリアの顔。
彼女を視認し、意識も戻ったアイズは身を起こそうとする。
「うっ……」
「無理をするな。治癒はしたが、お前の身体は断裂している。本格的な療養をしない限りは動けない」
「そんな……じゃあ、この先は……」
「戦いは無理だ。今回の件が終わるまでは大人しくしていろ」
リヴェリアに諭されて、アイズは天井を見上げる。
今回はすんなり受け入れられた。
やり切った感触がある。
前回負けたルシアに勝った。
リョーカを虐める彼女を倒せた。
……多分。
目標を達成し、あの覚悟を持った一撃と、あの力を使えばこうなることは大体予想できていた。
だから、腑に落ちて納得できる。
「ここからは私とガレス、ロキがベート、ティオネ、ティオナを率いる。お前とフィンはここに置いていく。皆はお前達の護衛だ」
「フィンも……?」
アイズがフィンに目を向ける。
すると、彼も膝をついて動けなくなっていた。
「ルシア・マリーンによるブレスの火傷が酷い。それに、どうやらあの竜炎には呪いも付与されてるようだ」
「そっか。フィンも一緒なら……いいや」
「アイズさん!私も一緒です!」
「レフィーヤ……うん。レフィーヤも一緒。嬉しい」
「アイズさん……!」
アイズの傍によるレフィーヤが感動する。
アイズも微笑みを向け、リヴェリアはそんなやり取りを穏やかな表情で見届けながら、立ち上がる。
「よし、我々は先へと行くぞ―――」
『カァァーーーリィィィーーーー!!!!」
『……!?』
突如、響き渡る女の怒号。
揺れる地面。
―――瞬間、パーティの進行ルート、ドゴォ!!と壁を破壊して女の狂戦士が出現した。
『なっ……!?』
「カァァァーーーリィィィーーーー!!」
「ひぃぃ!?妾を守れ、アルガナ!」
「ふざけるな!ふざけ……っ」
「た、助けて―――
東エリアに飛び出してきたアマゾネスの
「うきゃああああ!?」
「死ねッッ!!カァァリィィーーー!!」
「い、嫌だ……!助けて、カーリー!」
「ひっ……!」
振り被る狂戦士。
その手に持つのは人間。
アルガナを持ち、照準を目の前のカーリーに目掛ける。
カーリーも青ざめる。
「――――――ッッ!!」
「うあああああ!!」
アルガナが容赦なく投げられた!
しかも凄まじい速度。
人間がまるで弾丸のように叩きつけられ、壁を破壊した。
しかも追い打ちで飛び蹴りをかまし、カーリーが避けて逃れてるのも知らずに、アルガナの腹にLv.9相当の蹴りがぶち込まれる。
「………………っぁ……」
『~~~~~っ!!』
一同目を逸らす。
余りに惨い。
もはや声にすらならない干からびて死に絶える者のような乾いた音だけがアルガナの口から出た。
彼女はそれで白目を剥き、泡を吹いて失神する。
「避けるな!カーリー!!」
「避けるわ!死にとうないわ!」
「死ね!カーリー!」
「死にとうないわ!」
「死ね!!死ねッッ!!死ねぇぇぇーーー!!」
「話聞いとらんやないかーー!!」
狂戦士が跳躍し、カーリーがそれを見上げて青ざめて引けた腰のまま四つん這いで逃げる。
すると、さっきまでカーリーがいた場所に足が踏みおり、地面が紙のように簡単に砕け散り、クレーターができた。
そして、逃げたカーリーをその狂戦士は顔を上げて見る。
その手には、殴られすぎて顔が変形しているヴァーチェが泣きながらカーリーに縋り訴える。
「た、たすけて。かーりー……」
「ふざけるでない!其方が妾を助けろ!!なんの為に育ててやったと思っとるんじゃ!妾を楽しませ、妾に尽くす為じゃ!その逆はない」
カーリーが泣き叫ぶ。
ヴァーチェは下を向いた。
期待するのをやめたのだ。
そして、自身の命を諦めた。
「ヴァーチェを離せ!」
「テメェ!いい加減にしやがれ!」
「……!」
顔面に蹴りを入れるティオネ。
腕に武器を振り下ろすティオナ。
ヴァーチェが驚く。
しかし、攻撃された本人は。
「……カーリーの臭いがする」
『は?』
真顔。
1ミリも動いていない。
まるでダメージが通っていない。
彼女は呟くと……また白目を剥いた。
「お前達からもカーリーの臭いがするぞ!!カァァリィィーーー!!」
「うわっ!?」
「は!?ちょ……!」
ティオナの腕を、ティオネの足を引っ張り持ち上げる。
ヴァーチェは解放され落とされるも蹴り飛ばされた。
そして、ティオナとティオネの頭を戦力で衝突させる。
Lv.9相当のパワーで。
「かはっ……!?」
「……」
2人とも一瞬で気を失った。
頭がかち割るかと思った。
否、頭蓋骨は割れた。
そして、その2人を地面に沈め、窪む。
「カァァリィィーーー!!」
「ひぃ……!」
アマゾネスを全て倒し、吠える。
カーリーは腰が引けた。
「待つべ」
「……!」
狂戦士が出てきた壁穴。
彼女自身がそちらを見る。
すると、血まみれのアマゾネスが変な方向に曲がった右腕を抑えながら出てきた。
狂戦士も驚く。
「……まだ生きてるのか。貴様、不死身か?」
「素に戻ってるべ。カーリーがいなけりゃもっとマトモだったべ。可哀想だな」
出てきたのはアルキュオラ。
Lv.9相当とほぼ1対1で潰されても尚、まだ五体満足。
アマゾネスで頑丈な奴はあまりいない。
だが、タフな奴はいる。
それの極め付きみたいな奴だ。
さすがに元女王もここまでの奴は見たことがない。
「……チッ。Lv.8相当と睨んでたが、ルシアより遥かに強えーじゃねえか。Lv.9相当ってとこか?しかもカーリーが
「何気に酷い扱いじゃな!?妾!」
これもまた頭から血を流すヴィヴィアンがアルキュオラの後に続く。
カーリーは泣きそうだった。
「ヴィヴィアン!なんやねん、あれ!ほんでなんでカーリーは狙われとんねん!訳分からんわ!」
「あ?説明めんどくせぇ……」
「奴は妾がテルスキュラを建国する前にあの地に国を築いておったアマゾネスの元女王じゃ!」
「テルスキュラを建国する前やとぉ?……それ、最近の話ちゃうやん」
ロキが違和感を覚える。
彼女の指摘通り、フィンも気付いた。
「
「ったく。んなもんばっかり引っ張り出しやがって。タレイアのやつ歴史偉人博覧会でも開く気か?」
ヴィヴィアンが吐き捨てる。
太古の殺し屋に、昔のアマゾネス女王。
タレイアが用意する駒達は神の恩恵が流行る前の前時代的なものばかりだ。
「なんでまだ生きとるんじゃと思っとったが、そういうことじゃったか!」
「カーリー。貴様の国を討ち、私は私の国を取り戻す!手始めに……貴様の兵、眷属を皆殺しにする!」
「うわああああ!?」
また暴走を始めるアマゾネス元女王、テシレア。
気を失ったヴァーチェ、ティオネ、ティオナを四方八方に吹き飛ばして、吠える。
「よせ!彼女たち眷属はカーリーの傀儡となっていただけだ!罪は無い!」
「罪は、カーリーの血を浴びたこと。カーリーの眷属はカーリーの民だ。カーリーの国を滅ぼすために、民を死滅させる。各々の事情など知らぬ。可哀想な目にあったというのなら、カーリーの眷属に身を落とした自身の愚かさを呪え!!」
『無茶苦茶だ!』
リヴェリアの素晴らしい倫理観すらよくわからない自論で打ち砕かれた。
そして、咆哮を再開する。
それは【
全員が動けなくなり、誰も勝てないのもわかる。
このテシレアは手が付けられない。
これがマイア、エイン、ルシアと共にタレイアが揃えた手札。
全て、都市では手に負えない代物!
「大丈夫」
「なに?」
全員が心の内では絶望する中、動けないアイズがそう口にする。
動くことすらできない彼女がそれを言う。
不思議に思ったリヴェリアだが、振り返ると、彼女の表情には"信頼"が宿っていた。
「―――来てくれた」
アイズが、天井を見上げる。
すると、その頭上を過ぎる剣士の姿。
彼女はこの場にいる全ての冒険者を超え、前に立ち、背中を見せてくれる。
「【エーラ】」
「リョーカ・アーサ!」
リヴェリアが彼女の名を呼ぶ。
リョーカは誰よりも前線に立ち、少し顔を振り返らせるだけで応えた。
リヴェリアにこの対応ができるエルフは同じハイエルフとかエルフとして意識が低い彼女しかいない。
だが、それでも。
その態度にこの場のエルフは誰も嫌悪感を抱かない。
それほどまでの圧倒感。
彼女は誰の前でも希望になってしまう。
「お前もカーリーを庇うかッッッッ!!」
「えっ。誰?それ」
「邪魔をするなら死ね!カーリーを差し出せ!死ね、カァァリィィーーー!!」
「リョーカ・アーサ!」
襲い来るテシレアに、リヴェリアが呼びかける。
しかし、リョーカは動じない。
落ちていたカリバーンを足で拾い上げて、二刀流で構えを取る。
そして。
「【エックス・バースト】」
「なっ―――」
二刀流。
16連撃。
それは、瞬きの一瞬。
テシレアの身体は斬り刻まれ、血を吹き出す。
そして、斬撃を終えたあと、あとから衝撃が来て、後退によろける。
「かっ、はっ……!」
『……!?』
「……」
視認できない間にテシレアがダメージを受けていて、一同が驚く。
リョーカは無言で立ち、剣を収納した。
「お前はもう斬った」
「ぐはっ……!?」
背を向けるリョーカ。
テシレアは倒れた。
これが大英雄剣術究極奥義、エックス・バースト。
Lv.9相当にすらダメージを与える16連撃。
「なぜ……来てくれたんだ」
「ルシアを懲らしめるチャンスだから。それに……昔、剣を貸してくれたから。お返し?」
リョーカは倒れているアイズを見る。
アイズは笑みを浮かべ、リヴェリアは驚いた。
そんな前のことをまだ返そうとしていたなんて。
つまり、彼女がここにきた半分は、テシレアの暴走にアイズが巻き込まれて死ぬのを防ぐため。
アイズを守るためだ。
「この前は、酷いこと言ってごめん。でも……本当に私、貴女のお父さんと殆ど関係ないから」
「ううん。私の方こそ……ごめん。もう貴女に、お父さんの面影は重ねない。リョーカだから、好き」
「そ、そっか。それはそれで……照れるな」
リョーカは屈んでアイズと話し、2人はそっくりな笑顔を浮かべた。