原初の竜でも友達が欲しい   作:伊つき

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独りぼっちと独りぼっち

 

 あぁ、もう死のう。

 ルノアを庇い、自身が投降した時。あっさりと下した決断をした。

 本当はもう少し生きたかった。だって、望んでこんな身体で生まれた訳じゃないのに、そのせいで苦しむだけ苦しんで終わるなんて不公平だと思うから。

 

 だから、最期くらい幸せに逝きたかった。でも、大切な人や恩人に迷惑をかけるくらいならその最後の望みも瞬時に捨てられる。

 誰かを犠牲にしてまで、ましてやそれが彼女達なら尚更、そこまでは求めていない。

 

 ……とはいえ、今は自分のこの性格を恨む。他人のことを想える人間性を。散々他人に傷つけられたのに、自分のことだけ考えて生きられないこと。

 もっと自分勝手なら良かったのに。

 

「ハハッ」

「なんだ? 何を笑っている? 自暴自棄になったか。無理もない、貴様のような弱者。この状況に陥れば絶望物だろう」

 

 ルシアが漏らした自棄的な乾いた笑いを、異なる解釈をしたオリヴァスが愉快そうに揺れ動く。

 そんな気分の良さそうな彼を見ながらルシアは、さてどうやって隙を見て自害しようかと考えていた。

 

「……」

 

 場所は古びた教会。

 ルシアは縄で縛られ、座り込まされ、後ろに組まされた腕は十字架に固定されている。

 見張りは十数人程。オリヴァスと、ルノアに魔剣を浴びせた者たちだ。

 

 彼らの会話から【アストレア・ファミリア】への脅しの材料に、自分がなっていることは既にわかっている。というより狙われた当初から予想はしていた。だから、捕まらないようにルノアに特訓をつけてもらっていたのだ。……それもあまり意味を為さなかったが。

 

「……」

 

 闇派閥(イヴィルス)に、彼らにはまだ自分がドラゴンだとは勘づかれていない。そもそもそんな発想に至ることもないだろうが、襲撃された時に服が焼けたりして身体を見られる、なんてことがなかったのは不幸中の幸いだ。

 正直言って、拘束は緩い。人に対しては充分なのだろうが、(ルシア)にとってはあって無いようなものだ。これなら、隙を突いて解き、自害することも可能。闇派閥(イヴィルス)が止めようにも間に合わないだろう。

 

「報告します。工業区への襲撃を開始して数時間が経ちましたが、【ガネーシャ()ファミリア()】の出動は確認できても【アストレア・ファミリア】に動きはありません」

「いいぞぉ! 有効だとは思っていたが、どうやら期待通りの効果がありそうだな。素晴らしい。これで第二級冒険者11人、正義の眷属共が私の操り人形に……! 我らの強力な味方になるぞぉ!」

 

 構成員の報告にオリヴァスが興奮する。正義を掲げる派閥が仲間を見捨てることは無い、そう考えてはいたが、確信は危険だ。

 世間には一族の希望を名乗り、【勇者(ブレイバー)】と呼ばれる者がいる。だが、彼はそんな印象(レッテル)とは裏腹に決断力が異常で、必要とあらば残酷な選択も躊躇なく結論を出す。それも、そういう時は限って()()優先だ。悪の提示する、犠牲を強いた選択肢にある意味屈しない。

 

 本当のところは、彼も善人寄りではあるし、葛藤が全くない訳でもないだろう。だが、彼を相手取る者たちからすればあの冷酷な判断は容易に行っているように思える。恐ろしい判断能力だ。そう思わせる『早さ』が彼にはある。

 

 そんな存在がいることが、相手取っている日常が、逆に闇派閥(イヴィリス)の気を引き締め油断をしない悪へと成長させている。

 故に、人質を用いた脅しも始めは様子見を選択した。彼らは暗黒期が織り成す荒波において、冒険者達と対立する中で、『試す』ということを学習したのだ。

 

「……」

 

 闇派閥(イヴィルス)達は思惑が上手くいき、注意が散漫している。監視が緩い。

 今なら自害できる。これからも利用される前に、恩人達の迷惑になる前に、終われる。

 普段短くしている尾っぽを徐々に伸ばす。竜の尾は自らの肉を貫き、胸の内の魔石にまで到達できる。あとは締めて割ればルシアは絶命する。

 

「……っ!!」

 

 逝ける。そう確信し、尾を一気に伸ばそうとしたその時。

 ドゴッ!! と強烈な爆音。

 教会の天井を打ち砕き、凄まじい爆裂音で聴覚から、崩れ落ちる屋根で視覚から。全ての注目と衝撃を一点に集中させた侵入者が現れた。

 

 破壊された天井は瓦礫となって一つの人影と共に舞い落ちる。その衝撃で地鳴りが響く。教会にいた者全員の足場を揺らし、体勢を崩す者もいる中で、出現した人影だけがゆっくりと身を起こす。

 

「邪魔するよ」

「ル、ルノアさん……」

 

 土埃が晴れてその姿を見せたのはルノア・ファウスト。

 ルシアが全く予想だにしていなかった展開。たった一人の為に利益もなく飛び込んできた。

 これは。こういう人間は。そうだ、そう呼ぶ。

 

 稀代の大馬鹿者。とある独りぼっちの為にのみ利害を無視した勇気を絞り出す、愚かな英雄だ。

 彼女自身も独りぼっちだった。そして、今も。ルシアもまた、昔も今も独りぼっちだ。最初はそうは見えなかった。でも、彼女も本質は同じだ。何故かは分からないが、それだけは分かる。

 

「【黒拳】だと!? 馬鹿め、何故乗り込んでた……! あそこでくたばっている方が遥かにマシだった筈だ。何の得があってここへ来た!? あの愚者を助けに来たとでも言うつもりか……!」

「さぁ。なんでだろうね」

 

 助けに来たのは、馬鹿だからだ。それ以外の理由なんてない。

 そんでなんかほっとけない馬鹿を気に入った。

 

「あの傷で我らを追ってきた!?」

「どうやってここが分かったんだ……!」

 

 予期せぬ侵入者(イレギュラー)闇派閥(イヴィルス)が戸惑う。

 

路地裏(ストリート)育ち舐めんなよ」

 

 ルノアが拳を鳴らし、構える。

 そんな彼女をルシアは信じられないものを見るような目で捉えた。

 

「ルノアさん……どうして……」

「行くよ、闇派閥(イヴィルス)

「いいだろう。その無謀さに応えて、この私が貴様を送って殺る。来い、【黒拳】……!」

「うらぁぁあーーーーー!!」

 

 ルノアはたった一人、オリヴァス達に殴りかかった。

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