「~~~~~~~っ」
地上を見下ろし、女神タレイアは唇を噛んでいた。
【女神連合】の目的のひとつがマイアの討伐であることに気付いた。
知っていれば、最初にマイアをパーティに潜り込ませるなんて危険な博打は打たなかった。
「ふざけるな!彼の資産価値は1300億ヴァリスだぞ!?彼の技術は何にも変え難い!失えば損失どころの騒ぎじゃない!」
タレイアは戦況把握のために卓上に広げた地図をバンッ!と叩く。
そして、無能な役者共に憤り、鬼の形相を浮かべて顔を上げる。
『【
「……!」
「……っ!」
「~~~~~~~!」
瓦礫の山を吹き飛ばし、起きるはルシア。
彼女はなんとか這い出て、千里眼でマイアの居場所を掴み、壁を破壊する。
外に出なくてはいけない。
しかし、その背後に。
「―――ルシア。貴女を行かせはしません」
「……っ。リュー……さん……!」
ルシアが瞠目する。
そこには守りたい仲間のひとりが。
しかも近い。
この距離では予言が発動して死んでしまう。
「リューさん。申し訳ありませんが、貴女に構ってる暇はありません」
「そうですか。私にはあります」
「リューさんじゃ私には勝てません」
「そうでしょうか?貴方はボロボロだ」
「早く消えろって言ってるんです!!滅ぶぞ!!」
「滅びません」
「……!?」
ルシアが驚く。
そして、彼女がたまたま起動させていた千里眼は捉えた。
ニューの背中。
その紋章が……違う。
「リューさん……!
「そういうことです。さぁ、私の相手をしなさい。ルシア!」
木刀を構えるリュー。
ルシアは、動揺し、やがて、顔を上げる。
「【竜人形態 モード斬撃竜】ッッ!!」
「【今は遠き森の空】」
2人の、戦闘が始まった。
『フィルヴィス!テシレア!マイアを救出しろ!』
「……っ」
「……!」
タレイアからの司令が下る。
フィルヴィスは俯く。
「フィルヴィスさん!言うことなんて聞いちゃダメです!」
「レフィーヤ……」
フィルヴィスの手を取るレフィーヤ。
タレイアの声で彼女の名前もわかった。
レフィーヤの真剣な眼差しに、フィルヴィスの瞳も揺れる。
『フィルヴィス!何をしているんだ!新世界でまた同じ目に合わせてやってもいいんだぞ!』
「……!」
フィルヴィスが目を見開く。
彼女がタレイアに協力しなくとも、タレイアは新世界を再構築する力を得る。
新世界のフィルヴィスは人間だ。
けれど、そこからまた同じ目にあったら意味が無い。
フィルヴィスだけ救われていない世界になる。
タレイアに協力したい、から協力しなければいけない、に今変わった。
「フィルヴィスさんは私が救います!」
「レフィーヤ!?」
立ち上がるレフィーヤ。
瞠目するフィルヴィス。
彼女は天空の女神の声に反論する。
「今すぐ方法は思いつかないけど……絶対にフィルヴィスさんを人間に戻す方法を見つけてみせる」
「レフィーヤ……」
「だから、タレイア様に協力しないでください。それに、どんな姿になっても私はずっとフィルヴィスさんの傍にいます。方法も見つけます。それじゃダメですか?」
「……っ」
悩むフィルヴィス。
根拠の無い言葉でも嬉しいし、自分を受け入れてくれる存在も嬉しい。
しかもデュオニソスやタレイアと違って下心がない。
あるのは純粋さだけ。
そんな彼女を……神よりも選びたいと思ってしまう。
ここでレフィーヤと出会えたことが、彼女の足を止めてくれる。
そして、ここで足踏みする時点で、タレイアは舌打ちする。
『ルシア・マリーン!!』
「……っ。わかっています、がっ……!」
「はあああっ!」
西ブロックではリューの猛攻に圧されるルシアが。
アイズにやられたダメージの蓄積と、素面でリューを相手にすることに戸惑い攻撃も乗り切れない。
逆にリューは迷いがない。
覚悟はとっくに決めている。
「リューさん!貴女は異常です。私の救いを待っていればよかったのに……こんな危ない橋を渡って!リスクを犯す必要なんてなかったのに!」
「私は元から仲間の為なら心が折れない限りどんな敵にも立ち向かえる。ルシア、異常なのは貴女も同じだ!仲間の為に自らを堕とし、他者を踏みにじる手段に出た!」
2人は剣を交え、走りながら言葉を交わす。
リューの言葉にルシアは……うっすら涙を浮かべる。
「だ、だって!そうするしかないじゃないですか!私だけ、私だけ……っ!あんな予言ばっかり聞かされて!見せられて!私がなんとかしなきゃいけないんだって思うに決まってるじゃないですか!!」
「……っ!」
ルシアが剣を振るう。
リューが防御して地に足を擦る。
「だから、殺したんです!邪魔になる奴は皆殺したんです!!必要なら他人を踏みにじった!支配した!皆を救う為だって言い聞かせて!!」
「~~~~~っ!!かはっ!?」
ルシアの飛び蹴りを防ぐも、リューは後退しすぎて壁に背を打ち付ける。
唾液を吐き、1度上体をぐったり下げるも……やがて、上げる顔は慈愛に満ちていた。
気持ちが、わかるから。
わかるから、責めれない。
自分に投影して顔を顰める。
「ルシア。貴女は私と似ている」
「……!?」
リューはルシアの胸の痛みがわかった。
決して、同情しては、共感してはいけない痛み。
都市の有力派閥に所属する者は、ルシアを悪だと斬り捨てなければならない。
けど、できないし、やらない。
正義を捨てた彼女を断罪しない。
仲間だから、好きだから、身内贔屓だから。
見捨てられない。
それに。
「私も……逆の立場なら同じことをする。追い込まれるとやりすぎてしまう。きっと、私がルシアなら……罪のない人も殺していただろう」
「そ、そんなことは……」
「私と貴女。違うとすればそれは、貴女は立派な価値観を持ち、仲間の為に動いていたこと。私ならもっと感情に支配される」
「……っ!」
ルシアが目を見開く。
確かに千里眼があるとはいえ、カッとなって暴力を振るうことはなかった。
これがもし仲間を救う為ではなく、仲間をあの時ジャガノートに奪われ、復讐だったらどうだっただろうか。
「……」
疲れきった目のルシア。
最近、考えすぎて頭が痛い。
目の下のクマも酷い。
でも、これだけは言える。
復讐の為には働けない。
ルシアの倫理観と価値観に反するのはそうだが、彼女はこれまで何も持ってなかったから、喪失に慣れていない。
きっとそうなっていたら、無気力になっていただろう。
生きてる仲間の為なら戦える。
でも、死んだ仲間の為には戦えない。
「私は貴女を尊敬していた。それは、私の延長線上に貴女がいて、目指せる理想だったからかもしれません」
「……っ!」
「私はあの頃の、尊敬に値する貴女を取り戻す!」
「馬鹿な……!リューさんが私を……!」
リューの剣がルシアの剣に勝っている。
有り得ない。
アイズから受けたダメージが痛む。
「うっ……!」
「はあっ!」
「ぐあっ!?」
隙を見逃すリューではない。
ルシアのカリバーンを斬り飛ばし、両手が空いた彼女の胸を突く。
彼女は吹き飛び、転がり、顔を上げて迫るリューを見る。
「……トドメです」
「リューさん……っ!まさか本気で私を……!」
リューはルシアを倒す覚悟がある。
仲間への暴力に躊躇いなどない。
それが仲間のためになるのなら。
甘んじて受け入れる。
そうできるように、散々身内と戦ってきた!
「ルシア。我々は貴女を取り戻す。例えそれで我々が滅びようとも。正義の地位に貴女を戻すことを、都市中に反対され、全てが敵になろうとも!」
「リューさん……!」
「我々は厭わない!世界を敵に回してもいい。我々は貴女を受け入れる。その為なら正義を捨てても構わない!」
「リューさん!!」
「ルシアぁ!」
リューとルシアが衝突する。
一方、フィルヴィスも。
「フィルヴィスさん。私は貴女を受け入れます。貴女がどんな姿でも。抱きしめます!」
「レフィーヤ……」
抱き寄せられるフィルヴィスに、もう戦意はない。
もう彼女は自身の展望の為に、身を売れない。
―――この2人は、使い物にならない!!
『テシレア!!』
「うっ、ぐっ……うぐああああ!?」
『……!?』
突如、苦しみ出すテシレアにその場にいた全員が驚く。
彼女は傷口からクリーチャーが溢れ出す。
それらは彼女の体を内部から食い破り、魔石も砕いてしまった。
しかも別の生命体として彼女から分離したあとも動き出す。
そして、彼女は絶命する。
『なっ……』
「ま、当然の結果だな。年季の入った怪人が侵食されてねえわけがねえ。こっちにLv.9相当を殺せる戦力はねえが、そもそも殺す必要はなかったわけだ」
ヴィヴィアンは述べる。
リョーカにやられてダメージを受けた時点で、脱力した奴の隙をクリーチャーが逃すわけがないと。
もう既にカーリーに負けて退場したくせに。
欲を持って再び建国を目指した者の末路。
その者の断罪は、不当な方法でLv.9相当なんて力と寿命の延長を手に入れた代償だ。
「Lv.9相当の力は宝の持ち腐れだったな」
『テシレア~~!!』
「さぁ、クライマックスだぜ」
ヴィヴィアンが口角を上げる。
テシレアが死んだ。
フィルヴィスはもうダメだ。
ルシアはリューが足止めしている。
これでもう駒は全部潰した。
確実にマイアを殺れる!!
「あ、あれ……?」
オッタルに自分は殺せない。
そう自負していたマイア。
しかし、いつの間にか自身の胸に収められた魔石にナイフが突き刺さっており、割れるのを見下ろす。
口からも気づいたら吐血していた。
そんな自分の状態に驚く彼の背後。
忍者は最後の言葉を告げる。
「ここは現実。役者は要らぬでごじゃる。死をもって、退場するがいい」
「なん、で……っ」
「拙者達本格忍者は他人を信用しないように育てられているでごじゃる。信じるは主のみ。それ以外は嘘偽り悪敵。アルキュオラ殿ですら信用しておらぬ。ゆえに拙者に自然体は効かぬ」
「……っ!」
マイアが膝をつく。
もう終わりだ。
割れた魔石がポロポロと胸から落ちて、彼自身の肉体も紙屑のように分解されていく。
愚痴る時が来たのだ。
「そんな……僕は、僕の技術は……っ!神様にだって……届く、はず。なのに……」
「認めるでごじゃるよ。もう時代は変わったと。拙者の技術も足しになる程度でごじゃる」
天に手を伸ばすマイア。
その手も崩れ落ちる。
フレイヤとオッタルがその姿を見つめる。
マイアも2人に気付いた。
「あ!フレイヤ様、オッタル君やっほー!」
『~~~~~~~っ!!』
朽ちゆくその瞬間。
最後にネジが外れて狂った合図。
最後まで笑顔で隣人のまま手を振るマイア。
自身が最後までなぜ技術を披露し、仕事をしているのかわからないまま彼の体は風に流されて、消えていった。
その風の行先を、御門は見上げる。
「1000年間、仕事に縛られた哀れな子供の終わりでごじゃる」
マイアに背を向けて路地裏に入る御門。
誰も気づいていない。
御門の忍者装束は血が目立たないから。
「『忍者が要らぬ時代に忍者を全うし、天命を迎える』。女神ヴィヴィアン様。契約は……果たされたでごじゃる」
誰もいない薄暗い路地裏で膝から崩れ落ちる御門。
その際も、グシャッと血の音がした。
彼女は、片脚から半身の脇まで失っていた。
マイアの用意した罠を掻い潜る際に、罠が作動し、身体の3分の1が消し飛んだのだ。
しかも、呪詛を込められたナイフや、魔剣の短剣が服の下では何本も刺さっている。
御門は、誰にも目撃されずに倒れる。
その虚ろ目は次第に瞼が重くなっていく。
「我が主、ヴィヴィアン様の野望が果たされんことを。拙者は……永遠の、影………な、り…………」