原初の竜でも友達が欲しい   作:伊つき

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階層主の異端児(ゼノス)

 

「……階層主、ですか」

 

ダンジョンへ逃げ込んだルシアは37階層まで到達した。

そこで階層主、アンフィスバエナの出現を予感する。

ここまで必死に逃げてきたから、千里眼でリョーカの追跡を確認する余裕はなかった。

 

「……っ」

 

地面が揺れる。

生まれるのだ。

階層主、アンフィスバエナが。

 

『オオオオオオォォォォーー!!』

 

巨蒼の滝(グレート・ウォール)を伝って現れた二頭の竜が降りてくる。

ルシアは構えた。

水面に飛び込み、波を生み出し、泉に浮かぶ竜。

その竜はルシアをジッと見て、固まる。

 

『グルル……』

「……?」

 

身構えたが一向に向かってこないアンフィスバエナにルシアが訝しむ。

彼女が竜を見上げると……竜はその2つの頭をルシアの前に垂れた。

 

「えっ」

 

『くぅーん……』

 

なぜかルシアに顔を擦り付けてくるアンフィスバエナ。

困惑するルシア。

え、意味がわからない。

どういう状況?

 

『くぅーん』

「ちょ、やめてください。なんですか、何が起きてるんですか」

 

えらく懐いてくるアンフィスバエナの顔を押しのけるルシア。

こんなことは前代未聞。

ルシアは、困り果てながら、この異常事態の考察を脳内で捗らせる。

そして、1つの仮説を得た。

 

「ま、まさか……階層主(アンフィスバエナ)異端児(ゼノス)……なんですか?君は……」

 

『キューン……』

 

やたら甘い声で鳴くアンフィスバエナ。

ルシアは「えぇ……」と困惑する。

まさか階層主の異端児が存在していたとは、驚いた。

しかし、考えてみれば階層主だってモンスター。

有り得ない話ではない。

だが、フェルズという者も、ルシアが助けた異端児も、千里眼で捉えた彼らも階層主とやり取りをしてる様子はなかった。

ということは彼らの仲間ではなく、野良の異端児。

しかもさっき誕生したばかりだ。

 

あ、わかった。

 

「なるほど……階層主は定期的に討伐される。だから、異端児が産まれても知らずのうちにすぐに殺されていたわけですか」

 

『きゅーん……』

 

「そして、私に一目惚れしたわけですか……いや、なんでやねん」

 

思わず変な口調で突っ込むルシア。

どうしてこうなった。

リド達と違い、周期で殺される。

目撃されてないのも無理は無いという結論に至りはしたが、半分ドラゴンとはいえ一目惚れされる方は意味わからない。

果たしてどうしたものか。

 

「はっ。こんなことしてる場合ではありません。すみません、敵意がないなら通してもらっていいですか?」

 

『キュオーン』

 

「いや、求愛いいですから!擦り寄らないで!邪魔!!」

 

アンフィスバエナが顔を擦り付けてきて前に進めない。

無下にもできないし、困った。

 

「見つけたぞ。……何をしている?」

「アッ。いや。何……してるんでしょうね?」

 

アンフィスバエナを前に足止めをくらっている最中、リョーカに追いつかれてしまった。

ルシアの背後に現れた彼女は……復讐しようとしたが、目の前の異様な光景に困惑する。

ルシアもなんと返していいかわからなかった。

 

「ふざけているのか?」

「わ、私もそう言いたい気分ですけど……」

「まあいい。貴様を殺す」

 

『……!』

 

剣を構えたリョーカに、その殺意を感じとって顔を上げたアンフィスバエナ。

彼はキッ……!とリョーカを睨んで、火を噴く!

 

「なに!?」

「アンフィスバエナくん!?」

 

ルシアも驚き、彼を見上げる。

竜の息吹は両断され、通じなかった。

 

『グルル……!』

「貴様……!」

 

睨み合うアンフィスバエナとリョーカ。

しかし、その間にルシアが入る。

 

「ま、待ってください!リョーカさん。彼は異端児といって、我々人間と同じ意思を持ったモンスターです!殺してはいけません!」

「人間と同じ意思を……?えっ」

 

素に戻り、見上げるリョーカ。

確かに無闇に襲ったりしてこない、普通のモンスターよりは攻撃性が低いモンスターだ。

だが、ルシアの言うことなど信用出来ない。

そう思い、彼女を睨むが……本気で潤んだ瞳でリョーカを見つめ両腕を広げる彼女に、リョーカはこれは事実だと読み取れた。

故に驚く。

 

「そ、そんなモンスターがいるなんて……」

『グルル……』

 

困惑するリョーカ。

果たしてどうしたものか。

一瞬考えたが、結論は変わらない。

 

「ルシア。そのモンスターは殺さない」

「わかってくれましたか!」

「あぁ。だから、その階層主を無視して貴様を殺す」

「えっ」

「私の実力ならこの竜の攻撃など取るに足らん。無視して妨害を受けながらでも充分貴様を始末できる」

「……まあ、そうなりますよね」

 

ルシアも納得してしまった。

まあ、普通に考えればそういう流れになる。

リョーカやルシアの実力を前に、アンフィスバエナなど雑魚なのだから。

アンフィスバエナがルシアの味方になろうと構うことは無い。

 

「【モルガーン・エッジ】!」

『キュオーン!?』

「アンフィスバエナくん!!」

「案ずるな。殺してはいない。次は貴様だ。貴様は殺す」

「……っ!」

 

アンフィスバエナを闇の剣から伸びる闇を鞭のように使い、身体を絡めて投げ飛ばしたリョーカ。

視界がスッキリして今度こそルシアに歩み寄る。

 

「【ストライク・エーラ】!なに!?」

『キュオーーーーーン!!』

「アンフィスバエナくん!?」

 

リョーカの攻撃をアンフィスバエナが身をていして受けた。

ルシアを守ったのだ。

有り得ない。

モンスターがルシアを守った。

リョーカも動揺する。

 

「こ、攻撃するつもりなかったのに……」

 

狼狽えるリョーカ。

彼女の攻撃を受けたが最後、アンフィスバエナの命は長くない。

 

「アンフィスバエナくん……」

『キュオーーーン……』

「えっ。い、いや、できませんよ。そんなこと……」

『キュオーーーン……』

「……っ。アンフィスバエナくん……」

 

倒れたアンフィスバエナに寄り添うルシア。

ルシアには彼の言葉が理解できる。

その様子を、リョーカは怪訝そうに見ていた。

 

「……何を会話している?」

「……っ!」

 

少し殺気を込めて近づくと、ルシアはそんなリョーカを見て覚悟を決めた顔をした。

そして、アンフィスバエナの胸に斬撃竜の刃を通す。

 

『キュイ!?キュオーーーン―――』

 

「なっ!?トドメを刺しただと!?貴様、何をする気だ……!」

「……こうするんですよ」

 

アンフィスバエナの胸から魔石を取るルシア。

本人に頼まれたことだ。

リョーカは目を見開く。

魔石を失ったことでアンフィスバエナの身体は消失した。

所詮周期ごとに駆られる存在。

身を隠して生き延びようとすればギルドと冒険者に怪訝に思われる存在だ。

どうせ死にゆくならば、せめて愛する者の糧となりたい。

その思いが今、ルシアの口の中に運ばれる。

 

「そんなことはさせん!!」

「……っ!」

 

リョーカが一瞬で肉薄し、剣を振り下ろす。

しかし、その剣を……ルシアは遂に腕の鱗で受け止めた。

 

「なに!?」

「私はまだ死ぬ訳にはいきません。仲間を救う為にも。アンフィスバエナくんの為にも!」

「貴様……!」

「ダンジョンを完全攻略するその時まで!!モード斬撃竜!!」

 

剣を堪えながら立ち上がるルシア。

リョーカと至近距離で睨み合う。

その時。

 

 

 

 

 

 

『―――――――――』

 

 

 

 

 

 

聞こえた。

確かに耳に入った。

それは、忘れることのない声。

仲間の破滅の原因だったモノ。

骨の髄から発される金切り音。

 

ダンジョンの死神。

最速の殺し屋。

 

 

ルシアは、青ざめる。

 

 

「な、なんで……」

「どうした?」

 

競り合う中、気が散っているルシアにリョーカが訝しむ。

彼女も辺りを見渡す。

だが、何もないではないか。

ルシアは千里眼を使っている。

 

「ここまでの階層も、この下の階層も破壊されてないのに……なんで……!」

「さっきから何の話をしている」

「リョーカさん!戦いは中止です!ジャガーノートが来ます!」

「ジャガーノート、だと?」

 

知らない単語に眉をひそめるリョーカ。

だが、次の瞬間。

 

 

『――――――ッ!!』

 

「なっ!?」

「【サラマンドレア・カリバー《スラッシュ》】!」

 

 

階層に現れたと思ったら一瞬で天井まで移動し、ルシアとリョーカが衝突しているところに上から突っ込んでくるジャガーノート。

驚くリョーカ。

彼女が唖然と取られていて反応が遅れた分を補正(リカバリー)する為にルシアは彼女からカリバーンを奪って咄嗟に必殺の火炎斬撃波を放つ。

それはジャガーノートに命中し、ルシアはリョーカを蹴り飛ばして離脱させ、自身も後退して場所を空ける。

さっきまで2人がいた地点に、火だるまになったジャガーノートは落ちた。

そして、衝撃波と瓦礫を飛ばし、それは風圧を起こす。

 

「なんだ!?モンスターか……!」

「厳密にはモンスターではありません!とてつもなく速いです!気をつけてください!!」

「……っ!」

 

ルシアに言われるまでもなく、土煙の中で起き上がるその影を見て、リョーカが警戒する。

モルガーンを手に、低く構える。

ルシアもカリバーンを手に、低く構える。

両者が挟むその殺戮者は、凄まじい威圧感を放ち、顔を上げ喉を鳴らす。

 

 

『―――――――――』

 

 

「あ、あれは……た、ただのジャガーノートじゃない……。そんな……なんで……」

 

 

その姿を確認できて、ルシアが動揺する。

ジャガーノートはモンスターを取り込み、魔石が発生していた。

それはルシアが追い詰めた個体の特徴と酷似している。

まさしくキメラ・ジャガーノート。

 

 

―――彼もまた、異端児(ゼノス)だった。

 

 

 

『竜ノ娘。ソノ仲間。憎シ。復讐ノ刻。貴様、死スルベキ。死ネ』

 

 

「……!?」

 

 

人語を解するジャガーノートにルシアが瞠目する。

リョーカも驚いた。

カタコトながらもハッキリと言語を発する彼の目には、ルシアだけが映る。

ルシアにやられた恨みを晴らすために、地獄から舞い上がったのだ。

 

 

「……ふ、ふざけないでください。なんで。どいつもこいつも……仕方ないじゃないですか。仲間を救う為なんだから、仕方ないじゃないですか……っ!!」

「……っ!貴様ぁ……!!開き直るか!!クズめ!!」

 

激昂するリョーカ。

だが、構ってる余裕は無い。

キメラ・ジャガーノートの視線はルシアに釘付け。

殺意が常に研ぎ澄まされている。

隙を一瞬でも見せれば、殺される。

 

「ふざけるな!今更現れて、私に勝てるわけがありません!」

 

『愚カナ。試シテ、ミルカ』

 

「上等です!【サラマンドレア・カリバー《ストラ―――」

 

一閃。

そして、一瞬。

ルシアは腹に体当たりをくらい、吹き飛ぶ。

壁に一直線に背中から突っ込み、血反吐を吐いた。

 

「かはっ!?」

 

地に落ちるルシア。

倒れ伏せた彼女を前に、余裕をこくキメラ・ジャガーノートはケタケタと嗤う。

 

『リドガ言ッテイタ。フェルズガ言ッテイタト』

 

「……っ!な、何を……」

 

肉薄しながらもトドメを刺そうとしないキメラ・ジャガーノート。

先程の攻撃もルシアを真っ二つにできたはずなのに、欠損しない攻撃法を選んだ。

すぐに弱らせては気が晴れないからだ。

全ては復讐のため。

自身の欲求を満たすため。

そんな彼の言葉にルシアは苦しみながらも顰めた顔を上げる。

 

『我ノ実力ハ、推定レベル8。リドガ言ッテイタ。貴様達人間ハソウ表現スル。ソシテ、我ノソレハ、竜ノ娘ヨリ【上】ト』

 

「……っ!」

 

ルシアが苦虫を噛む。

確かにルシアはモンスターとしては推定Lv.7。

勝てない相手だ。

彼が小馬鹿にして見下ろしてるのがわかる。

表情からはわからないが、おかしくて仕方ないのもわかる。

きっとリドからその話を聞いた時、興奮でおかしくなりそうだったに違いない。

憎い相手よりも遥かに強いというのだから。

それを耳にしたその瞬間から、復讐相手が自分の玩具となることが確定したのだから。

 

「うっ……ぐっ……!」

 

ルシアは、立ち上がろうとするがすぐに力尽きてまた伏せる。

力が入らないだけじゃない。

本気を出して、ドラゴンとなっても勝てないと分かりきってるからだ。

ルシアがここまでの絶望感を得たのは、戦闘では初めてだ。

狂化し、強化してから初めての挫折。

今になって、勝てない戦いに直面した。

 

「リョ、リョーカさん……助けて……」

「……!」

 

ルシアが涙目で縋るようにリョーカを見る。

リョーカは目を見開いた。

まさかいつも自分を虐げていたあのルシアが自分に助けを求めるなんて。

 

「ふ、二人で戦えば切り抜けられるかもしれません!お願いします、協力してください!助けてください……!助けて!!」

「……」

 

顔を顰めるリョーカ。

ルシアはまだ縋るように自分を見ている。

だが、リョーカはため息をついた。

 

「ふざけるな。誰が貴様など助けるものか。寧ろ、ここで貴様がそいつに殺されるのであればそれ以上はない。ここで死ね、ルシア」

「~~~~~~~ッ!!」

 

ルシアの表情が絶望に染る。

当然の結果だ。

キメラ・ジャガーノートの狙いはルシアとその仲間のみ。

仲間ではないリョーカは対象外なのだから、無理に戦う必要は無い。

だというのに、ルシアは追い込まれてそんなこともわからなくなっている。

 

『カカカ。見捨テラレタ。愉快。死ネ、竜ノ娘』

 

「……っ!」

 

振り下ろされるキメラ・ジャガーノートの爪。

ルシアは目を伏せる。

こんなところで、終わってしまう。

みんなを助けられずに―――死ぬ。

 

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