原初の竜でも友達が欲しい   作:伊つき

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ジャガーノートの異端児(ゼノス)

 

命が散った。

終わった。

こんなところで。

そう思っていたのに……どれだけ目を瞑って待っても、全く痛みが来ない。

それほどまでに一瞬で逝ってしまったのかと、ルシアは震えるが。

 

「ふざけるな!!いい加減目を開けろ!!私一人では持ち堪えられん!!」

「……っ!」

 

その声に、覚醒する。

目を開けたルシアは、キメラ・ジャガーノートと対峙し、ルシアから奪った剣で二刀流スタイルを作り、なんとか渡り合っていたリョーカの背中を前にする。

だが、肩で息をして、背中を見つめてるだけでかなりギリギリなのがわかる。

 

「リョーカさん!?どうして……!」

「考えを変えた。やはり貴様は私が殺す。それに、奴が私を見逃す保証もない」

 

リョーカが剣を構える。

彼女が予想以上に強かったのだろう。

キメラ・ジャガーノートも先程の余裕たっぷりな態度とは異なり、彼女と距離を取って様子を伺っている。

互いの間合いで走る緊張感。

ルシアはまだリョーカが助けてくれたことを不思議に思うが、これ以上の追求は彼女の集中を欠いて足を引っ張ることになるのもまたわかる。

故に、黙って彼女の隣に並ぶ。

 

「勝算はあるんですか?」

「貴様があると言ったんだろう!私と2人なら渡り合えると!今更撤回するならば殺すぞ!!」

「あ、はい。そうでした。すみません」

 

確かに言ったなと反省する。

ルシアは、隙も見せず、警戒も一切解かず緊張感を保ちながらキメラ・ジャガーノートを見る。

奴は推定Lv.8。

ルシアとリョーカはLv.8相当。

ルシアがドラゴンになれば推定Lv.7とLv.8相当。

2人が力を合わせれば恐らく勝負にはなるだろう。

 

「……【エックス・バースト】を使えば、奴にダメージを与えることくらいはできる」

「いえ、それはダメです。効くからこそ初手で切るカードではありません」

 

ルシアは首を横に振るう。

切り札は相手が消耗し、隙を見せ、最もダメージを与えるタイミングで切る。

贅沢に聞こえるかもしれないが、相手が格上だからこそ賭けに出る必要がある。

ここを逃げ切るにはそれしかないと思え。

それに、【エックス・バースト】はリョーカの大英雄剣術の集大成。

1度それを見せれば彼女の剣筋が大体見えてしまう。

それで不発でしたでは洒落にならない。

今、元気なうちの奴に使うべきではない。

敏捷自慢の奴に回避されたら最悪だ。

 

「ならば、どうする?」

「連携して隙を作りましょう。負傷させてトドメを刺す方式は実力差的に不可能です」

「……了解した」

 

リョーカは二つ返事で頷いた。

気に食わないが、ここまでリョーカが強くなったのはルシアが強化に付き合ってくれたからだ。

つまり、リョーカが強くなるための修羅場はルシアと共に乗り越えている。

それだけの戦場を共に過ごしていれば、連携もこれ以上ないものになる。

一級品の連携で奴を攻め立てる。

不快感は凄いが、理にかなった作戦ではある。

 

「……行くぞ」

「今、頭の中で凄い葛藤しませんでした?」

「くだらん事を言っている場合か」

「そうでした」

 

ルシアも構える。

待っていたキメラ・ジャガーノートも戦闘体勢に入る。

万全のルシア達を叩き潰したい。

彼の欲求はそんなところだろう。

―――その慢心、後悔させてやる!

 

「【ストライク・エーラ】!」

『――――――ッ!!』

 

まずはリョーカの先制。

キメラ・ジャガーノートは跳躍して避けた。

そして、天井に張り付く。

そこに目掛けて。

 

「【サラマンドレア・ブレス】!!」

『―――――――――』

 

ルシアが砲撃で天井を焼き尽くしたが、簡単に避けられた。

キメラ・ジャガーノートは壁に飛び移り、そして、次はすぐに蹴る。

しかもこちらへ突っ込んでくる!

 

「くっ……!」

『―――――――――ッ!!』

 

狙いはリョーカ。

勢いに任せて突っ込み、斬撃の嵐を浴びせる。

リョーカはそれを二刀流で捌きまくるもいくつかは攻撃が通って彼女の身体に切り傷が発生して、鮮血が吹き出している。

それでも、キメラ・ジャガーノート推定Lv.8の連撃を受けてその程度のかすり傷複数で済んでいるのは凄い。

 

「リョーカさん……!」

 

キメラ・ジャガーノートと斬りあっているリョーカの名を叫び、駆けつけるルシア。

今はなんとか対応しているが、このまま続けばリョーカはおそらく疲弊したところで隙を突かれて身体を貫かれる。

そうなる前にこの接近戦を中断させる!!

 

『オオオオオオォォォォーーッッ!!』

『―――――――――ッ!!』

 

ドラゴンとなったルシアがキメラ・ジャガーノートの横っ腹に飛び込み、リョーカから引き離す。

そして、突進の最中、奴を壁にぶん投げた。

 

『――――――ッ!?』

 

『サラマンドレア・ブレスッッ!!』

 

打ち付けられたキメラ・ジャガーノートに追撃の砲撃をお見舞いする。

しかし、手応えはない。

おそらく避けられた。

ルシアは竜人形態 モード斬撃竜に戻り、ブレスの反動で片手を地面について腰を折り低姿勢で着地する。

 

「リョーカさん!後ろです!!」

「……っ!!【モルガーン・エッジ】!【エーラ】!」

『――――――ッ!』

 

千里眼によるルシアの警告。

背後に現れたキメラ・ジャガーノートに瞬時に反応し、振り返りざまに技を繰り出すリョーカ。

初撃をモルガーンでいなして、あとはエーラの風で受け流した。

そして、エーラの出力とグレアの火力で地面を叩き斬り、その衝撃で素早く後退することで最後の致命傷の一撃も回避する。

 

「……っ!奴は速すぎる!隙など作れんぞ!」

「ならば……!」

 

ルシアは翼を肥大化させる。

モード斬撃竜(エンチャント)飛竜……!!

 

「敏捷勝負でも負けません!!」

『――――――ッ!!』

 

高速で移動する2体。

あらゆる所で斬撃の衝突が繰り広げられ、狙いを定めるその照準に獲物は撃ち抜かれる。

 

「【ストライク・エーラ】!!」

『――――――!』

「なっ!?避けただと!?」

 

否、撃ち抜けなかった。

キメラ・ジャガーノートはルシアと高速戦闘を行う最中、後衛に切り替えたリョーカのことも視界の端に捉えていた。

そして、高速移動の途中に急停止し、遠距離攻撃を当たらずに済んだ。

敏捷だけではない。

恐ろしい反射能力だ。

しかし、停止を選んだのは間違いだった。

 

「それも隙だろうがッ!!【グランドインパクト】!!」

『――――――ッ!?』

 

遂に1発入る。

リョーカの攻撃を避けるために動きを一瞬止めたキメラ・ジャガーノート。

その瞬間に肉薄するのを忘れずに、リョーカの攻撃に当たるかもしれないことを恐れずに動き出し早く突っ込んできたルシアから放たれる鉄拳。

ちょうどリョーカの【ストライク・エーラ】がキメラ・ジャガーノートの視界を横切り、前が確認できなかったその瞬きの一瞬を狙い、ルシアは【ストライク・エーラ】が通過して彼の視界が拓けると同時に拳を飛び出させた。

その鉄拳はキメラ・ジャガーノートの顔面に決まり、彼は初めて胴体を地面に接地させ、擦りながら滑り飛んでいく。

 

「今です!リョーカさん……!!」

「―――【エックス・バースト】」

 

言われるまでもない。

既に構えているリョーカ。

彼女による究極の16連撃が始まる。

しかし。

 

『――――――ッ!!』

 

「なっ……!?」

 

リョーカの構えと威圧感を前に、もう避けられない、しかも致命傷になると悟ったキメラ・ジャガーノートは捨て身の戦法に出た。

逃亡と回避を捨てて、近くにいたルシアに突っ込んできたのだ。

それでリョーカの命中率は上がった。

その確率を上げてでも、どうせ斬られるならルシアを殺してから斬られたいと賭けに出たキメラ・ジャガーノート。

もしくはリョーカが纏めて斬ってくれると思っているのだろう。

その予想は的中。

最初こそ驚いていたもののすぐに切りかえてリョーカはしめたと口角を上げ、ルシアごと着る準備をしている。

あとはキメラ・ジャガーノートの爪がルシアを突き刺すのが早いか、リョーカが2体を纏めて滅多斬りするのが早いか。

 

「舐めるな!!モード斬撃竜+赤竜!【プロミネンス・フレア】!!」

『――――――ッ!?』

 

ルシアは大爆発を起こして向かってきたキメラ・ジャガーノートを飛んで火に入る夏の虫にしてやった。

ルシアの自爆でキメラ・ジャガーノートにはバリアでダメージは入らないが、爆発の風圧で吹き飛び、ひっくり返る。

すぐに起き上がって離脱できるが―――それよりリョーカの剣の方が速い!!

 

「【エックス・バースト】……ッッ!!」

 

『~~~~~~~~~~ッッッ!?!?』

 

キメラ・ジャガーノートの異端児(ゼノス)ですら驚く、2本の聖剣による乱舞。

それは途中で離脱しようにも次から次へ剣で搦められ、身を戻され逃がされない。

斬られて、さらに斬られて、もっと斬られて―――これはいつまで続く!?

数字にすれば単純。

技の対象となった被害者からすれば永遠に感じる一撃一撃が全てこの世でこれ以上の無い大英雄の必殺。

それが16連。

中盤で標的の悲鳴が轟く。

 

『―――――――――ッッッッ!!!!!』

「逃がさん!!」

 

10連まで来たところでリョーカの瞳は相手の魔石を捉えていた。

肉を削ぎ、斬撃をいなし、骨を砕き、その先、もっと奥へ。

深く、敵の懐へ、深淵へ、突き進んでいく。

斬撃で拓かれていく敵の隙にあともう二太刀。

もうすぐ……その刃は魔石に届く!!

 

『―――――――――ッッ!!』

「なに!?」

 

追い込まれたキメラ・ジャガーノートが取った行動にリョーカは目を見開く。

奴は攻撃を捌くことも反撃も諦めて丸くなり、外表を盾に完全に防御体勢に入った。

魔石も中へと入り込み、それを守るように奴は縮こまる。

 

「くっ……!」

 

リョーカは表情を歪める。

この技は途中でやめることができない。

中断すれば凄まじい反動が戻ってきてリョーカは絶命する。

やり切るしかない!

 

「うおおおおおおおッッ!!」

『~~~~~~~~ッッ!!」

 

力尽くで叩き斬って守りを崩そうとするリョーカ。

外表を全て砕いて、四肢も斬って、魔石(いのち)以外の全てを剥いで、リョーカの斬撃は最後の一振りを終えた。

そして、剣を振り切り、キメラ・ジャガーノートの間合いから離脱する。

 

「くっ……!仕留めきれなかったか!」

「いえ、上出来です!トドメは私が刺します!!」

 

後退したリョーカと入れ替わるようにルシアが飛び出して岩石竜の鉄拳を用意する。

標的のキメラ・ジャガーノートはもう無防備だ。

まだ瀕死ではないが、もうあの敏捷は発揮できない。

だが、間合いの中ではまだあの攻撃力は残っている。

 

「よせ!罠だ!!」

「えっ……!?」

 

リョーカの叫びに突っ込もうとしていたルシアが驚いて振り返る。

 

 

 

その時。

 

 

 

 

『ウオオオオオオオオ……ッッッッ!!』

 

 

 

 

新たな咆哮が轟いた。

ルシアとリョーカの視界に飛び込んでくるのは人型。

屈強な肉体。

鋭利な角。

彼は、防具と斧を装備している。

 

 

 

それは、ミノタウロス。

 

 

 

闘争を求める漢の名は―――アステリオス。

 

 

 

「……大丈夫か?」

『竜ノ娘。竜ノ娘!竜ノ娘……!!』

「また負けたのか。0勝2敗。次こそは」

 

アステリオスがキメラ・ジャガーノートを背負う。

悔しそうに呻く彼の気持ちが痛いほどにわかる。

そのミノタウロスは、ジャガーノートを連れて階層から姿を消した。

 

 

 

 

 

 

「……っ!……っ!」

「くっ……!」

 

ミノタウロスが現れて岩陰に咄嗟に隠れた2人。

リョーカは大技の反動で動けず、息を切らしている。

ルシアは自爆技の後で状態が悪い。

胸の動悸が酷い。

だが、この冷や汗の大半の要因はあのミノタウロスだ。

 

「な、なんですかあれ。なんなんですか!あれ!!」

「……っ。……私が知るか」

 

リョーカに尋ねるも、彼女も冷や汗を流しながら素っ気なく対応する。

ルシアは厳密には知っている。

千里眼で見た。

ダンジョンでベル・クラネルが戦っていたミノタウロスの異端児(ゼノス)だ。

実力でいえばルシア達の方が強い。

連戦でなければ圧勝できる。

だが、今は無理だ。

しかもあのミノタウロスはレベル以上に鍛え上げられている。

他の異端児とは違う。

ジャガーノートもまだ技術は全くなく生まれ持った能力のみで戦っている。

冗談じゃない。

あの2体が共に行動しているということは、あのミノタウロスから戦闘の術を教わる可能性がある。

ただでさえ二人でなんとか全力を出して互角だったジャガーノートがさらに強くなるかもしれない。

それはとんでもないことだ。

今回切り抜けたからといって安心できない。

そもそも今回何とか生き延びたのもあのミノタウロスが乱入したおかげだ。

あれがなければルシアは突っ込んで死んでいた。

ミノタウロスに救われたわけだ。

でも、次はあのミノタウロスのせいで殺される。

もう何がなにかわからない。

複雑な感情が目まぐるしい。

 

「つ、疲れた……」

「まったくだ」

 

2人はさっきまで殺しあっていたというのに、一緒にぐったりと脱力して肩を寄せあった。

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