原初の竜でも友達が欲しい   作:伊つき

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それでも2人は殺し合う

 

「邪魔はいなくなった。復讐を再開するぞ」

「も、もうちょっと休憩しません?」

 

ジャガーノートとミノタウロスが去ってすぐ。

リョーカはスクッと立ち上がり、剣を構える。

ルシアは正直さっきの戦闘で疲労困憊すぎて動けない。

それに比べてリョーカは元気だ。

彼女も相当消耗しているだろうに、殺意パワーでやる気満々。

 

「ルシア。貴様を殺す。立て」

「……万全な私を倒したいとかそういうのは」

「ない。モンスターと一緒にするな」

「ですよね」

 

モンスターや戦士のような平等精神も屈服精神も彼女は持ち合わせていない。

なぜなら彼女は元々戦う人ではないのだから。

戦闘を楽しむ者の趣向などはなから持ち合わせていない。

ルシアは諦めて立ち上がる。

 

「先程も言いましたが、私はこんなところでやられるわけにはいきません。抗わせていただきます」

「この期に及んで罪を認め、首を差し出さんとは……救えんな」

「イブキさんを死なせてしまったことは謝罪します。しかし、仲間を救うまでは断罪を受け入れるわけにはいきません」

 

ルシアはあくまでリョーカの怒りを受け付けないと言う。

リョーカは彼女の言葉に……青筋を立てる。

 

「―――謝罪だと?」

「……っ!!」

 

即座にモード斬撃竜になって斬撃を防ぐルシア。

リョーカの憤りは目にも止まらぬ抜剣に込められていた。

 

「罪を犯すだけでなく、謝れば済むと言うか。絶対に許さん!!」

「後で贖罪すると言ったんです!ただ、今ではありません!!」

「貴様ァ!!」

 

今すぐ償えと気持ちの昂りのまま剣で攻め立てるリョーカ。

それを捌きながら後退していくルシア。

2人の戦いは激化し、リョーカはルシアを斬り飛ばす。

 

「ぐあっ!?」

「先程の戦闘でかなり消耗したようだな。都合がいい。トドメを刺してやる。死ね、ルシア!」

「……っ!」

 

尻もちをついたルシアに容赦なく斬りかかるリョーカ。

そこへ。

 

「【ファイアボルト】!!」

『……ッ!!』

 

二人の間に飛び込む火弾。

爆雷が弾け、2人は戦闘を中断して放った者を見る。

そこには、ベル・クラネルの姿があった。

 

「クラネルくん……?どうしてここに……」

「ラ、【白兎の脚(ラビット・フット)】?」

 

困惑する2人。

彼は1人だった。

アステリオスとの対決を終えて彼はLv.4へと至っている。

そんな彼がたった1人、リョーカとルシアの前に現れた。

 

「……どういうつもりだ、貴様」

『……ッ』

 

リョーカがベルを睨み、にじり寄る。

彼女は今や都市で1番強い人型。

その威圧感に、Lv.4のベルが耐えられるわけがない。

 

「……っ。あ、貴女達こそ、何をしてるんですか!?2人が殺し合うなんて……!」

「貴様には関係の無い話だ。失せろ」

 

剣を向けるリョーカ。

至極真っ当な意見だ。

これはルシアも同意する。

 

「クラネルくん。お気持ちは有難いですが、君が割って入れる領域ではありません。危険なので立ち去ってください」

「で、でも……」

「……自分の身は自分で守ります。女だからといって守られる弱者ではありません。私は」

 

ベルが度々「女の子だから守る」と言っているのを千里眼で口の動きを読み、知っている。

だが、迷惑千万だ。

ルシアからすればただの性差別。

別に男に守られたい欲求などない。

英雄(ヒーロー)ならルノアで間に合っている。

 

「……っ」

 

助けようとした対象にさえキッパリ断られたベルは、緊張する。

2人の、部外者は消えろという威圧が重い。

それでも、ベルはその足を後退させるわけにはいかない訳がある。

例え求められてなくとも、2人を止めねばならない理由がある。

それが、大切な家族が抱いた夢だから。

 

「……できません」

「はい?」

「スズは、2人とも救いたいと言っていた!お母さんを止めて、ルシアさんに罪を償って欲しいって!スズの最期の願いが、それだったんだ!だから、僕が代わりに果たす!」

『……!』

 

ベルが叫び、ナイフと剣を構える。

正直、彼の言ってる意味は理解できない。

知らない背景と勝手な事情で突然話に割って入ってきた様子のおかしい奴にしか見えない。

しかし、その手に持っている聖剣に、ルシアもリョーカも目を見開く。

なぜ彼がそれを持ってるのか。

問いただす必要がある。

その聖剣の名は、クラレンター。

スズネリアの剣だ。

 

()()……?」

 

ルシアは訝しんだ。

その口の動き、最後ではなく最期の発音だった。

やがて、ルシアはまさかと驚く。

 

「ま、待ってください。えっ。スズネリアくんは……し、死んだんですか……?」

「えっ」

 

ルシアの問いかけに隣で殺意を向けていたリョーカも驚きすぎて目を丸くしてベルを見る。

この一瞬だけ、彼女にとって復讐心より優先された。

 

「……スズは、死にました」

『……!?』

 

衝撃を受ける2人。

ここまで殺しあっていた2人を唯一止める情報がそれだった。

2人とも、そんなまさかと受け入れられず、動揺して目を泳がす。

リョーカに至っては目眩がして片膝をついた。

 

「リョーカさん……!」

「そ、そんな……スズネリアが、死んだ……?そんな……嘘だ……っ」

「……っ。リョーカさん……」

 

リョーカは目を瞑り、天を仰いだ。

そして、その頬には一筋の涙が伝う。

そんな彼女を見て、ルシアは複雑な表情をする。

そして、千里眼で地上を確認し、スズネリアの遺体を確認した。

 

「……っ!そ、そんな……本当に……」

 

事実を目撃して膝から崩れ落ちるルシア。

彼女はガクッと段階を分けて両手と両膝を地につけた。

地面と睨めっこし、その瞳を揺らし、狼狽する。

 

「ス、スズネリアくん……。スズネリアくん……!」

 

蹲るルシア。

彼の死は想定外だ。

そして、彼を失いたくはなかった。

彼が好きだった。

良い子だった。

愛おしかった。

申し訳なかった。

結局、ルシアが彼にしてあげられたことは、怖がらせて小さな子供に謝らせただけ。

何も、何も……償えなかった。

 

「スズネリアくん……。君は、君は死んじゃいけなかったのに。君は……生きていて欲しかったのに……」

 

ルシアは泣いた。

久々に誰かを想って泣いた。

あまりに惜しい人だった。

悲しくて仕方ない。

生きて、理想を叶えて欲しかった。

リョーカを止めて欲しかった。

私のことも裁いて欲しかった。

仲間を助けて欲しかった。

有限を実行して欲しかった。

特別な力なんてない彼に、無意識に期待していた。

力はないかもしれない。

それでも、彼には人の心に響かせる言葉を紡げた。

その精神性は人を変えた。

ルシアだって、彼の前では以前の優しさを無意識に表に出していた。

なのに、死んだ。

ルシアは辛すぎて、肘もついて、顔をうずめる。

 

「スズネリア……」

 

リョーカも天井を見つめて愕然とする。

2人にとって、彼はそれだけ大切になっていた。

 

「……もうやめましょう。スズはこんなこと望んでない。2人で殺し合うなんて、間違ってます!」

「……っ。そ、それでも貴方には関係ない」

「関係なくなんかない!スズはもういないんだ!!もういないんだ!!」

「……!」

「誰かがスズの言葉を届けなくちゃいけない。スズの言葉を代弁すべき貴女達が殺しあってて、僕以外に誰がいるっていうんだ!」

「ク、クラネルくん……」

 

リョーカの言葉を一蹴し、ルシアの顔を上げさせるベル。

それでも。

―――それでも。

 

「……ルシア。イブキを死なせた貴様を許さん。たとえスズネリアであろうとも、この憎しみは止められん」

「リョーカさん……!」

「立て。貴様とて、仲間を諦められんだろう」

 

剣を向けるリョーカ。

スズネリアが死んだことで、かえって彼女はもう失うものがなくなっている。

悲しみを通り越して、もはや残った怒りを主体に動く生き物になろうとしている。

空っぽになった彼女は、ある意味無敵だ。

もはや心は死んだ。

今は最初に設定した復讐という目的を機械的にこなす狂人だ。

 

「私の代わりに戦うと言ったスズネリアも、貴様を裁き貴様の仲間を救うと言ったスズネリアももういない。ならばやる事は1つ」

「……っ!」

「我々を止められる者はもういない。いなくなってしまった。ここからは突き進むしかない。さぁ、立てルシア」

「リョーカさん……!」

「戦え、ルシア。戦え。戦え……!!」

「~~~~~~ッッ!!」

 

剣を手ににじり寄るリョーカ。

もう彼女は正気じゃない。

スズネリアの死で最後のタカが外れ、完全に壊れてしまった。

もはや彼女に人らしい感性を求めることは不可能。

ルシアも、疲れきった目を下に向けた。

そして、覚悟を決めた目で顔を上げ、ゆっくりと立ち上がる。

その様子を見て、リョーカは口角を上げた。

赤く腫れた目元に、もう涙は存在しない。

 

「……大英雄剣術」

「……モード斬撃竜」

 

互いに腕を上げる2人。

そして。

 

『……ァァ!!』

 

異常な2人の戦闘が再開する。

その光景を前に……ベルは、首を横に振るう。

 

「な、なんで……何でまだ殺し合うんですか!?」

「【マキシマム・グレア】!」

「【サラマンドレア・カリバー《ブレイク》】!」

 

ベルが叫ぶ前で、ルシアがリョーカの手からカリバーンを叩き落とし、それを膝で拾う。

簡単には奪い返せないと即座に判断したリョーカが火の精霊の一撃を振り下ろし、ルシアもカリバーンをすぐに蹴り上げて手に移し、同じように背中から振り下ろす。

火炎斬と火炎斬の衝突が行われ、2人は衝撃で後退する。

その後退の最中、足でブレーキをかけながら、ルシアは刀身に人を噴きリョーカは風の精霊を纏う。

 

「やめてください!」

「【ストライク・エーラ】!!」

「やめてください!!」

「【サラマンドレア・カリバー《ストライク》】!」

「やめろッッ!!うわっ!?」

 

ベルが止めようと駆けるも技の衝突に吹き飛んだ。

2人の戦闘は別次元。

この殺し合いは……止められない。

 

「……っ!貴様ァ……!」

「リョーカさん……!」

 

互いにダメージを受け、肩で息をする。

尻もちをついたベルはそんな2人を信じられない目で見る。

 

「何を……何を、やってるんですか!」

「……っ!……っ!」

 

リョーカに訴えるも一瞥すらしない。

呼吸を整えて、もう一度技を放とうとしている。

ベルは彼女を諦めてルシアに信じられない目を向ける。

 

「なんで!!なんで戦うんですか!」

「……」

 

ルシアは一瞥するも、すぐに切りかえて目の前の戦闘に集中する。

剣で突きの構えを取り、口に近づいたその刀身に火を宿す。

そんな行動をとる彼女も信じられない。

 

「スズは死んだんですよ!?」

「……」

「スズが最期に止めたいって言ったんですよ!?」

「……」

「スズの最期の願いを……なんで貴女達が踏みにじれるんですか!!」

『……』

 

もはや、無視している。

2人に言葉は届かない。

目の前の相手を倒すことしか考えていない。

だから、こうしてずっと睨み合い、力を溜め、渾身の一撃をぶつけようとしている。

そんな彼女達が信じられない。

ベルは信じられない。

この人達は。

この人達は……!!

 

「スズネリアが死んだってのに、貴女達は何も感じないのかよ!!」

 

ベルは、ヘスティア・ナイフとクラレンターを構えて駆け出した。

さっきの涙が嘘だったとは思いたくない。

さっきので枯れて終わり。

スズネリアを死に気持ちを整理し、処理したなどと言わせない。

スズネリアの家族に、自身の家族の想いを踏みにじられ。

ベルは、感情のままに突っ込む。

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