原初の竜でも友達が欲しい   作:伊つき

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煩い

 

「【ファイアボルト】!」

「……っ!」

 

ベルが狙ったのはリョーカ。

彼女が戦闘を仕掛けているところを見たからだ。

つまり、彼女を止めれば戦闘は止まる。

ルシアの発言から考えるに、彼女の方は殺しにくるなら対抗するといった様子だった。

なら、最優先はリョーカの方だ。

 

「鬱陶しい。邪魔をするな!」

「嫌だッ!戦いをやめてください!」

「邪魔をするなら、貴様も容赦せん。叩き潰す!」

 

向かっくるベルに剣を構えるリョーカ。

強さの差は歴然。

それでも、なぜかベルが圧している。

手数の中に含まれるクラレンターが目に映る度、リョーカが顔を顰める。

リョーカは吹っ切れてなどいない。

まだ、スズネリアの死を引きずっている。

 

「リョーカさん……!」

 

そんなリョーカを見て視線を落とすルシア。

スズネリアが死んだ。

その事実は、2人の勢いに翳りを生んでいる。

 

「速い……!」

「【ファイアボルト】!」

 

ベルの火弾を剣で防ぐ。

そして、黒煙から飛び出してきた彼の連撃が再開される。

ナイフと剣によるそれを、リョーカは全て防いでいる。

だけど、攻め返せない。

まるで攻撃は通ってないが、後ろに下がっていくのはリョーカだ。

何よりベルの動きが速い。

速すぎる……!

敏捷だけじゃない。

彼の纏う稲妻が彼の動きを加速(ブースト)させている。

 

「【迸れ】ッ!」

「スズネリアの魔法……!」

 

ベルが使用している魔法にリョーカは動揺する。

確かにスズネリアの魔法は他人に委ねることができる。

それくらいリョーカも本人の口から聞いている。

彼は以前、魔法やスキルの使用を嫌がっていた。

そのせいで発現した効果だ。

最初はリョーカにあげると言っていたが、ヘスティアが必死に止めて、使用しなくていいから誰にも渡すなと釘を刺していたのをよく覚えている。

それが今、ベルの手に渡っている。

 

「―――【ライトニング】!」

「……っ!」

 

ベルが超加速でリョーカに肉薄し、ナイフを振るう。

リョーカからすれば遅い。

そんな攻撃、簡単に防げる。

しかし、彼女が剣を振るうともうそこに彼の姿はなかった。

何度も攻撃と離脱(ヒット&アウェイ)を繰り返すベル。

リョーカは何度剣を振るっても空振りして苛立つ……いや、動揺している。

そもそもベルが加速したところでリョーカからすれば止まってすら見える。

それでも攻撃が当たらないのは、その魔法が彼女を惑わすからだ。

彼女の目には、その魔法の本当の使用者がベルと併走しているように見える。

幻覚だ。

わかってる。

それでも、何度首を振るってもその姿は消えない。

次第にリョーカの表情が歪む。

だって、彼はベルの隣にいて、彼に不敵な笑みを向けている。

そんな顔、向ける相手ができたんだ。

貴方の相棒は、彼なんだ。

私の隣に立つって言ってたのに、その前にもう彼の隣に立ってるんだ。

リョーカは、幻覚のその姿を前に、苦い顔をして歯を食いしばる。

 

 

スズネリア……!!

 

 

なんで、そっちの味方をするの……っ。

 

 

「【ライトニング】!【ファイアボルト】!」

「……っ!」

「【叛逆の聖剣(クラレンター)・"《(らい)》"】!」

 

ベルが聖剣を起動させる。

そして、ナイフには火を宿した。

 

―――『聖火の英斬(アルゴ・ウェスタ)』だ。

 

「スズが憧れた貴女は復讐鬼なんかじゃない!きっと、本当の貴女がいるはずなんだ!本当の貴女に戻ってください!」

「うるさい!黙れぇ!!」

 

リョーカがエーラを放つも避けられた。

いや、外した。

スズネリアの幻覚に当たると思ったから。

幻覚ですら、彼を傷つけられない。

そして、狼狽し、息を吐く彼女の。

ベルでは一生拝めない彼女の隙を、逃さない。

 

「スズ、行くよ……!!」

「~~~~~~っ!!」

 

ベルの言葉にスズネリアが笑顔で頷く。

そんな2人のやり取りがまたリョーカの胸の内を揺らす。

ベルが溜め込む間、彼はリョーカの周囲を走り回った。

その間、ずっと鐘と鈴の音が鳴り響く。

リョーカは、顔を盛大に歪めた。

 

 

―――やめろ、その鈴の音は!!

 

 

「うるさい、うるさい、うるさい……っ!!」

「貴女を止める!そして、今日ここでスズの為に戦うのを終わりにするんだ!スズとの約束を果たす為に!」

 

それが彼らの約束と決意。

ベルがリョーカに向かう。

リョーカは待ち構えた。

しかし、スズネリアとベルが重なり、また動きが鈍る。

彼はリョーカより深く、スズネリアと繋がっている。

彼らが互いの為に行動する最後の行動。

覚悟を決めた決別の一撃。

 

叛逆の聖剣(クラレンター)・"《(らい)》"】×『聖火の英斬(アルゴ・ウェスタ)』。

 

ヘスティア・ダブルクロス。

 

「【英雄の叛逆(アルゴ・クラレンター)】!!」

「……っあ!?」

 

ベルのナイフとスズの剣でリョーカの剣が弾かれる。

彼女は尻もちをついて剣を手放し、背を壁にぶつける。

そして、泣き始めた。

 

「うぐっ……ひぐっ……!」

「えっ」

 

まさか目の前で女性が泣くと思ってなかったベル。

泣かせて、斬り飛ばしたあとのキリッとした顔もギョッと変わる。

だが、ハッとした。

その涙は、リョーカがスズネリアより復讐を優先すると言ったその発言の嘘の証拠だから。

 

「スズネリア……っ。なんで、なんで……死んじゃうの……っ!」

「リョーカさん……」

 

座り込み、泣きじゃくる彼女にルシアも視線を落とす。

2人の戦闘は止まった。

けど、残ったのは喪失感とやるせなさだけ。

 

「―――スズネリア」

「スズネリアくん―――」

 

リョーカは虚ろな目で視線を落とす。

ルシアは項垂れた。

もう2人に戦意はない。

証拠にリョーカはモルガーンを放り捨てた。

 

「もう……どうでもいい。イブキも、スズネリアもいない。何もない。もう……死にたい。私も……2人のところに……」

「そ、そんな」

 

地面を見つめて虚無になるリョーカ。

そんな彼女の前にこんなつもりじゃなかったベルは困惑する。

スズの想いを届ければ思い直してくれると思ったのに。

リョーカに最後に残った復讐心すら刈り取り、彼女から全てを奪ってしまった。

リョーカの人生は、彼女を利用しようと近づいてくる者達に翻弄されただけの人生。

違ったのは2人だけ。

友達になって利用されないよう守ってくれたイブキ。

リョーカの代わりに戦うと言ってくれたスズネリア。

けどもうどちらもいない。

ただの村娘だったごく普通の一般的な女の子は、大英雄の遠縁というだけで精霊に勘違いされ、彼女を利用したい魔の手に普遍的な生活さえ妨害された。

そして、人質にとられて両親は死に、イブキも同じように死に、スズネリアも死んだ。

もう何も残っていない。

人らしく生きることすら許されなかった中で唯一できた友達も、リョーカに親をやらせてくれた義理の子供も、奪われた。

残ったのは普通の生活を送れなかったただの娘と、望まないただの力という名の物理。

それ以外は空っぽの空虚だ。

だから、もう、何もかもどうでもよくなった。

 

「もう、どうでもいい。全部……どうでもいい……」

「ど、どこに行くんですか?」

「……さぁ?どこだろ。どこでもいいよ、もう」

「えっ」

 

そう言ってリョーカはフラフラと階層の奥へと消えていった。

モルガーンを置いて、何も装備せずに。

心ここに在らずといった様子の、虚ろな表情で。

ベルはその背中に手を伸ばすも関係性が浅く呼び止めることが出来ない。

最後は小さくなっていく彼女の姿をただ見送ってしまった。

残ったルシアが視界の端に入り、ベルは困り顔でそちらを見る。

 

「ル、ルシアさん」

「……クラネルくん。もう、私達のことは放っておいてください」

「えっ。でも」

「私達の殺し合いを止めたかったんですよね?じゃあもう殺し合いませんから。だから、もう……」

 

ルシアはクマができた目で視線を落とす。

リョーカのあの様子からして、もう萎えたのかルシアを殺す気力は失せただろう。

だから、消えた。

正直彼女と殺し合わなくて済むようになったのは有難い。

けど、冷静になって気づいた。

そもそもリョーカが邪魔してこようがしまいが、もうルシアの計画はおじゃんだ。

だって、ヴィヴィアンには関係を切られて、タレイアはいつ回復するかわからない意気消沈状態。

リョーカは支配から解放された。

ルシアが【アストレア・ファミリア】を救うために画策していた『迷宮完全攻略』に関する用意していた全ての術を失った。

ヴィヴィアンの戦力の協力も、タレイアの計画と戦力も、リョーカの力も。

もう借りることは出来ない。

残ったのは……この身一つだけ。

つまり、タレイアに声をかけられる前に、ジャガーノートから【アストレア・ファミリア】を助けた時に、振り出しに戻ったのだ。

 

「ははは……。何の時間だったんでしょうね、ここまで」

「ル、ルシアさん……」

 

ベルも気付いた。

自分のやったことで2人は止められた。

けど、救ったわけではない。

寧ろ逆。

2人を虚無にしたのだ。

ルシアは邪魔者を殺して回り、潰して回り、必要な戦力も邪魔な戦力も脅した。

それにもかなり時間を要した。

それが無に帰したのだ。

まるで無駄な時間だった。

結局1人になり、元通り。

いや、脅迫と恫喝を何度もしてきた今、罪だけ増えたというべきか。

その結果、何も得ていない。

道化とは、空回りとはまさにこの事だ。

 

「私は馬鹿でした。最初から他人をアテにして、頼りにして、そうやって縋るから上手くいかない。結局楽だから流されたんだ。最初に思考を放棄したから……こうなった」

「そ、それってどういう……」

 

天を仰いで突然自省を始めるルシア。

その発言の内容がまるで理解できず困惑するベル。

当然だ。

会話の為に発した訳ではない。

ただの独り言だ。

思えば、最初にテシレアに声をかけられた時、ルシアはその話に乗る前に自分で打開策を考えてからその交渉に乗るべきか決めるべきだと判断していた。

だが、タレイアの口車にまんまと乗せられて、このザマだ。

何が妖精軍師だ。

仲間を救う案すら他人に発注してるではないか。

最初から自分で考えて、自分でなんとかするべきだった。

 

 

……そうだ。自分でなんとかするべきだったんだ。

 

 

 

「クラネルくん。君のおかげでわかりました」

「えっ。な、何がですか?」

「他人に頼るからダメだということです。そんな事をしてるから面倒が増える。人を脅す必要が出てくる。全部自分でやれば自己だけで解決するのに。最初からどうして気づかなかったんでしょう」

 

ルシアはそう言いながらモルガーンを拾う。

これでカリバーンとモルガーンの二刀流。

もうリョーカにこの剣を委ねない。

人には使わせない。

自分でやる。

最初からそうすべきだったんだ。

そう思いながら、ルシアはとぼとぼとその足を階層の奥へ向けて進める。

 

「ちょっ……!ルシアさんまでどこに行くんですか!?」

「このままダンジョンを完全攻略します」

「ダ、ダンジョンを……?」

「はい」

「えっ。完全攻略って……全部、未到達領域どころか最下層まで……?」

「はい」

「……っ!も、もしかしてそんなことを一人でやる気ですか!?」

「はい」

 

追いかけながら問うてくるベルに、ルシアは淡々と頷いて答える。

もうベルの事など見ていない。

ここから下、全ての階層を自分一人で攻略する。

そうと決まれば集中し、突き進む前しか捉えていない。

2本の聖剣を手に、竜人形態モード斬撃竜Lv.8相当で。

ダンジョン攻略を終わらせる。

きっとできる。

最強の冒険者であるルシア・マリーンなら。

 

「む、無茶ですよ。Lv.8もLv.9も……【ゼウス・ファミリア】と【ヘラ・ファミリア】もできなかったって聞いたことがあります」

「……」

「なのに、一人でなんて……貴女がいくら強くても、その2人がファミリアを連れてもできなかったことをできるはずがない!」

「……」

 

ルシアは無視して歩き続ける。

けど、ベルは38階層に降りる通路までついてきた。

挙句の果てにはルシアの止まらない足に、その行く手を阻むように道を塞いだ。

彼は両腕を広げる。

 

「や、やめてください!スズは貴女に生きて罪を償って欲しいと言っていました!貴女が行くべきは下の階層じゃない!地上のギルドです!」

「君、煩いですね。さっきから」

「えっ……?」

 

ベルが目を丸くする。

その次の瞬間。

 

「うっ!?どう……して……」

「邪魔をしないでください。ギルドに行くのは仲間を救ってからです」

 

ベルの腹を殴り気絶させた。

ベルはルシアの身体に身を委ねたあと、滑り落ちて縋ってから地面に伏せる。

ルシアはそんな彼を一瞥もせず、そのまま彼を避けて歩き始める。

が、すぐに足を止めて少しだけ振り返る。

眠っているベルの顔を見た。

そして、近づいて屈み、前髪をかけてあげる。

 

「クラネルくん。君とヘスティア様はスズネリアくんを立派な人にしてくれた恩人です。死なせたくありません。起きたら地上に帰ってくださいね。決して私を追いかけてこないでください」

 

そう告げてルシアは下の階層に向かった。

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