1000年前。
ヒューマンの少年は極東の国にて殺し屋稼業をしていた。
しかし、仲間に裏切られ、捕らえられた彼は封印されてしまう。
そうしてミイラとなった彼を蘇らせたのは1人の女神。
980年後の話だった。
そして、彼女は少年に甘い言葉を囁いた。
「人に裏切られ、人を信じられなくなった少年よ。自分が人であることにも嫌悪感を抱いてるのかい?」
「……なんだお前。何者だ」
「なに。ただの女神さ」
「神だと?バカにしてんのか?」
「あぁ、なるほど」
タレイアは失礼な口振りを許し、少年の疑念の眼差しも背景を理解した。
というかそんなくだらない神のプライドなどとうの昔に捨てている。
礼儀など必要ない。
そんなものがあっても、ゼウスに認められない。
「僕は正真正銘神様さ。あんまり様付けしたくないけどね。君が眠っている970年の間に神様は天界から地上に降りたのさ」
「そんなもん信じられるか」
「いや、君にもわかるはずだ。ほら、
タレイアが神威を発揮する。
ダンジョンに影響を与えないほどの微弱だが、人間が相手を神と認めるには十分だろう。
現に少年も受け入れた。
「……神様が俺に何の用だよ」
「君が憐れだから助けになりにきたのさ。君、神様になる気はないかい?」
「……!?」
少年は初めてその女神と向き合った。
顔を上げた彼と目が合い、その女神は待っていたように微笑む。
その瞳の奥には特大の欲望が渦巻いている。
「……神になれば、もう誰にも裏切られないのか?」
「神は全知全能だ。そもそも完璧な存在なんだ。前提として、群れる必要がどこにあるのか理解に苦しむな」
「どうやったら神になれる?」
「それは君の頑張り次第だ。神は下界の
「それで?」
「その力、ステイタスと呼ばれるものを最大ランク―――Lv.12へと到達させた時、神化への切符を得ることができる」
少年は目を見開く。
女神は言った。
Lv.12に至った時、肉体は神食に耐えられる。
神を喰い、神と化せ。
真実かはわからない。
デタラメを混ぜているかもしれない。
だが、若い少年に……それも精神が追い込まれてる彼にそんな判断はできない。
彼にできるのは精々その魔力に惹かれ、その誘いに乗ってしまうだけ。
「神に……なりたい!俺に恩恵を刻んでくれ!」
「よかろう。我が名はタレイア。君は?」
「……レン。ナガト・レンだ!」
その名を聞いて、タレイアは口角を上げる。
かくして、2人の間に契約は結ばれた。
レンの背中にはこの世で唯一の紋章が刻まれる。
この先も永劫、彼一人のファミリア。
【タレイア・ファミリア】誕生の瞬間だ。
ナガト・レン
Lv.1
力:I0
耐久:I0
器用:I0
敏捷:I0
魔力:I0
《スキル》
【
・神化を望む限り、早熟する。
―――やはり、発現した。
「どうした?」
「いや、なんでもない」
背中越しに問われ、タレイアは誤魔化す。
口元が緩むのを隠すので精一杯だ。
狙い通り。
やはりこのスキルが発現した。
神化願望を植え付けてから恩恵を刻んだのは正解だった。
こうして、タレイアの計画は始まる。
「おめでとう、レン。Lv.2だ」
「早いな。皆こんなもんなのか?」
レンのスキルは優秀だった。
ダンジョンでなくとも、すぐにランクアップできた。
だが、さすがに違和感を覚えたレンがまたステイタス更新の際に尋ねてくる。
「さぁ、どうかな。僕は君が初めての眷属だからね」
タレイアは誤魔化した。
飄々と、堂々と。
「そうか。この調子ならLv.12もあっとういうまだな。みんな神になれるんじゃないのか」
「ランクが上がればその分伸びは悪くなる。ここからが本番さ」
「そうか」
レンは淡々と受け答えをするタイプだった。
感情が希薄になっている。
タレイアが天界で見ていた時はもっと豊かな表情をしていたが、まあ仲間に裏切られて感受性が薄くなってると言ったところだろう。
タレイアからすれば、寧ろそれを待ってから降りてきたのだから狙い通りだ。
「レン。ゴライアスに挑もう。勝てばLv.3だ」
「ゴライアス?」
「ダンジョンの階層主さ。それをソロで倒すんだ。できるね?」
「……俺は人殺しはできるが、デカイモンスターと戦うのは初心者だぞ」
不安がるレン。
タレイアは口だけ笑みを浮かべる。
だって、知ってるから。
マイアも同じことを言っていた。
つくづく彼らは同じらしい。
「安心したまえ。以前と身体能力が格段に違うのは自分でもわかるだろう?今の君なら心得がなくてもやれるさ」
「……だといいけどな」
レンは経験上、無謀なことをするタイプではない。
彼もマイアも確実に獲物を狩る準備をして動く。
それが本物の殺し屋だ。
恩恵が流行ってからのなんちゃって
何せ彼らは神の力に頼らず過酷な稼業に身を投じていたのだから。
技術は相当だ。
少なくともマイアは。
「……」
タレイアは寝ているレンを見下ろす。
オラリオに向けての出発は朝。
この日はもう夜も深く、休むことにした。
「……」
タレイアはレンの髪を指に通す。
愛おしい。
この無能で何も才がなく空っぽで何色にでも染る逸材が。
とても愛おしい。
マイアと同僚だったにも関わらず、彼にはてんで技術がない。
そこがいい。
彼にいい所はなにもない。
得意が何もない。
人としてもつまらない。
ただ人の形をして、生きているだけの生命体。
素晴らしい。
だからこそ、タレイアは神化願望を植え付けることが出来た。
恩恵とスキルの仕組みを知れば、彼女の知能なら神化願望が早熟系のスキルを齎すことくらい容易に想像できた。
そして、実際その通りになった。
実験は成功だ。
これで【
少なくともこの時までは、タレイアはそう思っていた。
その思惑を打ち砕く女が現れるまでは。
その女の名を、タレイアは決して忘れない。
その女の名は―――リヴェリア・リヨス・アールヴ。
世界を覆す【