「ふむ。なるほど。ソロだとダンジョンで強くなるのは難しいか」
帰ってきたレンの状態を見て、タレイアが抱いた感想はそれだ。
レンを心配する素振りは一回も見せなかった。
「レン。やり方を変えよう。ダンジョンはもういい。少なくとも一旦はね」
「……じゃあどうする?」
回復したレンはタレイアに尋ねる。
タレイアは指を鳴らした。
すると、部屋の奥からアマゾネスが現れる。
そのアマゾネスは元女王だった。
「彼女はテシレア。Lv.7相当の力を持っている。暫く彼女と特訓するがいい」
「殺す気でいく。殺す気でこい。私に勝て」
「……っ!」
レンはテシレアを前にして慄いた。
対峙すればわかる。
まるで敵う相手じゃない。
それでも、ビビったのは一瞬だ。
神になり、人間を辞めるためにここで逃げるわけにはいかない。
「表へ出ろ。殺してやる」
「……わかった」
それから数年、レンは毎日テシレアに血祭りにされた。
死の一歩手前まで潰された。
その度にタレイアが下界で許された神の力。
美の女神の魅了に匹敵する繁栄の力で蘇る。
ある日、彼女にやっと一撃を食らわせることが出来た。
頬にかすり傷をつけたのだ。
【
Lv.3となった。
ある日、レンはテシレアに殺された。
しかし、タレイアの力で蘇り、再戦した時、武器を1つ破壊できた。
Lv.4となった。
ある日、タレイアに1発喰らわすことができた。
倒れたテシレアは言う。
「私ができるのはここまでだ。これ以上のランクアップは難しい」
「ふむ。Lv.5が限界か。困ったね」
仰向けになりながら今日で特訓は終わりだと告げたテシレア。
ずっと2人の戦いを見ていたタレイアは【
「テシレア。ダンジョンで魔石を食ってくるんだ。またレンを鍛えられるように、そうだな……Lv.9相当になるまでは戻ってくるな」
「わかった」
テシレアは二つ返事で頷いてダンジョンへ向かった。
彼女の目的からしてもLv.7相当では力が足りないところだった。
テルスキュラを滅ぼすならば、Lv.8~9相当は必要になる。
タレイアと結んだ契約が生きている限り、テシレアはタレイアに従う。
「さて、レン。問題は君だ。Lv.6、7。いや、10くらいまでは順調に行ってもらいたいものだね」
「そう言われてもな……」
レンも困った。
やはり一人で強くなるのは限界を感じる。
そこで、タレイアは考える。
「君、確かロキの眷属と半年前に接触したと言っていたね?」
「あぁ」
レンは頷く。
タレイアはしめたと悪い笑みを浮かべる。
「ふーん。なら、少し演出しようか」
「演出?」
レンが顔を顰める。
後日、彼は走る。
そして、【ロキ・ファミリア】に転がり込んだ。
「た、助けてくれ……!」
「なんの騒ぎだい?……っ。君は……!」
助けを求めて乗り込んできたレンに、フィンは瞠目する。
そして、彼を匿った【ロキ・ファミリア】は彼から事情を聞いた。
女神タレイアに自分は利用されていて、拒否して逃げ出したと。
今も彼は追われている。
「タレイアに追われてる、なぁ」
「……」
【ロキ・ファミリア】に匿われ、女神ロキと対峙するレン。
神に嘘は通用しない。
それにフィンの親指も微弱だが反応している。
2人がレンの言い分を信じるのは難しい。
しかし、彼女の一言で流れが変わる。
「フィン、ロキ。彼を助けてやれないか?」
「……っ!リヴェリア……」
フィンは思わぬ一声に驚く。
リヴェリアは申し訳なさそうな顔で彼を見ていた。
なるほど。
この半年間でリヴェリアはハイエルフ特有のプライドに振り回されることもなくなり、随分丸くなった。
今になってあの時の暴行を謝りたいのだろう。
そして、謝罪代わりに彼を助けたいと。
フィンとロキが顔を見合わせる。
分かりやすいくらい間違いなく罠だが、お姫様のご要望だ。
なら、罠と分かってそれを踏み潰すことを厭わない。
「わかった。ウチで匿おう」
「……!恩に着る、フィン」
リヴェリアの顔が明るくなった。
ガレスは少し鼻から息を吐く。
ノアール達も不安げに顔を見合せた。
それでも、リヴェリアはレンに寄り添う。
「この前はすまなかった。痛かったろう」
「あっ、いや……大丈夫」
心配そうな顔でレンを覗き込むリヴェリア。
彼女を見て、レンは無意識に自分の中で何かが揺らぐのを感じた。
そうして、【ロキ・ファミリア】と過したのは3ヶ月。
彼らはレンを保護し、女神タレイアを警戒した。
そして、レンはタレイアには強いアマゾネスの従属がいると言い、そのアマゾネスに対抗すべく彼らとパーティを組み、ランクアップを図った。
そこで発覚したのは、レンはランクだけで言うならフィン達の誰よりも高いが、誰よりも弱かったということだ。
レンはあまりにスキルも魔法もなさすぎる。
ただランクが高いだけでアビリティだけで戦っている。
しかも技術もままならない。
ずっとソロだったから、パーティの心得もない。
すぐに突っ込んで死に急ぐ。
そして、高いランクとアビリティでなんでも強引に解決しようとし、どれだけ傷ついても進もうとする狂気がある。
…………まるで、何かを狂気的に目指してるように。
「レン!突っ込むな!重い攻撃は受けるな!避けろ!レン!あぁ、もう!」
「あはは……」
後衛のリヴェリアが見かねて前に出てくるぐらいレンは無謀だった。
首根っこ摘まれて後ろに戻されるレン。
フィンは苦笑いしていた。
その日はそれでリヴェリアが機嫌を損ねてしまったが。
「リヴェリア。これ」
「
「うん。綺麗だったから。リヴェリア喜ぶと思って」
「……!そうか……」
リヴェリアは受けとった。
そして、穏やかな表情を見せて、その物を見下ろした。
そんな様子をフィン達は微笑ましく見ている。
【ロキ・ファミリア】が彼を匿ってから、彼らには気づいたことがある。
それはまだレンが子供だということだ。
最初は罠を確信し警戒したが彼が女神タレイアに利用されているのは彼自身が認知していないだけで本当かもしれないと認識し始めた。
そうなればリヴェリアの母性本能と勇者の正義を止められる者はいない。
「タレイア、なぁ……」
ダンジョンからロキ達が帰ってくると、ロキは頭を悩ませた。
果たしてこのままレンを抱えていていいものか。
そして、どうせいつか姿を現すタレイアにどう対処すればいいか。
「どのみち女神タレイアとは接触する必要がある」
「ま、タレイアおらんとレンのステイタスは更新できへんからな」
「そうだ。今は僕達より彼の方が強いからいいけど……」
「更新が停滞し続けるならいずれは追い越す。んで、強なったフィン達はさらに危険な冒険に身を投じる」
「あぁ。その時に彼は死んでしまう」
「まあそれを差し引いても、この数ヶ月でレンはかなりアビリティが成長しているはずや」
「半年間でLv.5まで到達した謎のスキル、だね」
「そうそれや。どのみち接触してくるならそろそろっちゅーわけや」
「……なるほど。僕達にレンを預けたのも彼の成長に利用したわけか」
「有り得へん話ちゃうな。タレイアの考えそうなことや」
2人の話し合いの結論は1つにたどり着いた。
今は姿を眩ませている女神タレイアはそう遠くないうちにレンの前に現れる。
その時に彼を死守しなければいけない。
レンは気づいてないが、タレイアの元にいるのは良くない気がする。
彼女は危険だ。
「レン。女神タレイアが君の前に現れる時は近い。君はまだ神になりたいと思うのか?女神タレイアの元に戻りたいと思うかい?」
「……それは」
ある日の夜、フィンに問われてレンは悩む。
正直、わからない。
タレイアはミスを犯した。
【ロキ・ファミリア】を利用するつもりが、レンは彼らの影響を受けてしまった。
タレイアが狙った空っぽの心の少年は、その心が満たされようとしている。
彼らとの時間は、彼にとって至福に感じるようになっていたのだ。
「レン。タレイアの命令通り、僕らを利用するのかどうか決めた方がいい。君の今後のためにも」
「……っ!俺たちがお前たちに近づいた理由……気づいていたのか」
「僕を誰だと思ってるんだい?」
「そうか。そうだな……」
レンは納得した。
フィンは彼を責めない。
彼には同情の余地がある。
悪趣味な女神に目をつけられ、悪意を働くことに躊躇いを生まない育てられ方をした。
それに、レンの気持ちが揺れているのは危ない。
もうタレイアが現れるまで猶予はない。
中途半端な気持ちのままいれば、彼はいずれ、引き裂かれて破滅する。
「俺は……お前たちが好きだ。お前たちといると、幸せだった。ロキの……
「レン……」
悩んだ末に、絞り出すようにそう告げた彼に。
リヴェリアは慈愛の目は向けた。
しかし、その翌日にフィンの予感は的中した。
「レン……!」
「ハッハー!悪いねぇ、ロキの眷属達。そして、感謝するよ。おかげでレンはLv.6だ!」
「タレイア!おんどりゃ降りてこんかい!」
ロキ・ファミリアの本拠を襲撃したタレイアは、呼び戻したLv.8相当のテシレアにレンを回収させて自身も彼女に抱えられて逃亡を試みた。
【ロキ・ファミリア】が追いかけ、屋根の上で彼女達と対峙する。
「レン!戻ってこい……!」
「……っ!リヴェリア……!」
リヴェリアに呼びかけられ、レンはテシレアに抱えられながらその瞳が揺れた。
気持ちも揺れている。
正直、この3ヶ月でレンの気持ちに変化があった。
空っぽな心に、彼らの優しさが沁みた。
人間関係を構築することに嫌悪感を抱いていた彼が、ロキ・ファミリアによってまた人を信じようとする姿勢を身につけ始めていた。
しかし、タレイアはそれを否定する。
「レェ~ン?君に神化を諦められるのかい?私のような神は他といない。私との契約が切れた時、君は神化への道を完全に絶たれるぞ」
「……っ」
レンは瞠目した。
その言葉は絶大だった。
まだ未練が断ち切れていない彼には、決めきれない選択肢だった。
「レン……!」
「さぁ、次は闇派閥だ。オシリスの
そう言い残し、タレイアはレンを連れていった。