空に、暗雲が立ちこめる。
それは突如現れた。
そして、辺りは暗くなった。
「あ?」
「なんだ……?」
ヴィヴィアンとレンが訝しみ、空を見上げる。
すると、その直後。
『―――――――――!!』
「うわ!?なんだ!?」
「雨か!いや、雹か!?」
「なんですの!?」
「痛え!違う!こいつは雨でも雹でもねえ。―――『鳥』だ!!」
『……!?』
突如ゲリラ豪雨の如く大量に降ってきた物体。
それら全てが生きとし生きていた鳥類だった。
彼らはまだ降ってくる。
このままじゃこの辺りの無力な人間はみんな死ぬ!
「クソ!悪い!」
死骸となり降り注ぐ鳥に謝りながらレンは武器を振るった。
Lv.12の力で全て吹き飛ばした。
すると、未だ暗いが拓けた視界。
黒い空が果てまで広がっている。
「それ以上飛ぶな、下等生物!そいつは全部呪詛だ!この空全体がそいつに覆われてやがる。テメェも踏み込めば墜ちるぞ!」
「……っ!じゃあ……この空の上にいた生命その全てが死滅したっていうのかよ……」
ヴィヴィアンの叫びにレンが絶句して見上げる。
もうこの空の上に命は1匹たりとも存在しない。
よく見れば飛行モンスターもチラホラ墜落していた。
こんな広範囲に空を支配し、全ての命を刈り取れるほどの呪いを発せられるもの。
そんな存在はそう多くない。
その時、【それ】は轟いた。
『――――――――――――』
「~~~~~~~~!」
レンの全身が逆立つ。
この悪寒。
この威圧。
この絶対感。
間違いない。
これまでレンが相手にしてきた中で一番だ。
それが、遥か彼方の空で咆哮を轟かせている。
一体どれだけ離れてる?
ここまで届いたのか?
これだけの距離で、この存在感なのか。
「……っ」
レンは浮遊しながら警戒する。
その竜は、こっちに向かってる。
凄い速度だ。
もう逃げられない。
間に合わない。
およそ生物がこの一瞬で移動できる距離ではない。
だが、間違いなくもうすぐここに現れる。
やばい。
ダメだ。
これほど完成された生命体を目の当たりにしたことがない。
そんな究極の生命が、今、こちらに向かっている。
「ま、待て。なんで……なんでこっちに来る!?」
レンは狼狽える。
顔が青ざめていく。
その竜は、一直線で向かっている。
寄り道もしてない。
迷いもない。
ここを目指して、ここを目的地として動いている。
なぜだ!?
「逃げろ!オーズ、ヴィヴィアン、グウィネヴィア!ここに居たらみんな殺される!!」
「なに?」
「早くしろ!!」
レンが慌てて叫ぶ。
しかし、もう遅い。
『…………………………っぁ……!』
全員が、固まった。
恐怖と圧倒感で動けなくなったのだ。
それは、現れただけで全ての生命に
オーズとヴィヴィアンが空を見上げて瞠目している。
ヴィヴィアンは瞳を揺らし、信じられないものを見るような目だ。
グウィネヴィアはそいつと目を合わせただけで泡を噴いて倒れてしまった。
レンは彼らを見下ろしている。
その背中に、竜の圧を感じる。
奴は、鼻息をレンの背中に当てている。
レンは振り返れない。
動けない。
振り返ったが、最後瞬殺されるとわかっているから。
荒い呼吸で、背中越しにその竜の眼光を知覚する。
ダメだ。
強すぎる。
Lv.12でも―――相手にならない。
―――『奴ハ、何処ダ』
「……!?」
レンは瞠目する。
それは、
声帯を有しているわけではない。
色んな人間の声音が混じっていた。
つまり、喉の器官を利用して、恐怖に陥れた人々の声をオウムのように反復している。
それは、奴がその言葉を覚えて反射できるほどに、人々を脅かした証。
何億という生命を奪ってきた成果だ。
レンは……恐る恐る、振り返る。
「レン!ダメだ、振り返るな!!」
「―――――――――っ」
レンは、一撃で吹き飛んだ。
その打撃で全身の骨が粉々になったのを感じる。
彼は、家屋に墜落して、そこからもう……飛び上がってこない。
沈黙したのだ。
「なっ……」
オーズが絶句する。
たったの一撃。
それだけでLv.12が敗北した。
『――――――――――――――――――ッッッ!!!』
勝利の雄叫びを誇示するのは、黒き竜のみ。
神々以外はその
辺り一面の神以外の生命が根絶やしにされる。
その竜は所作一つだけで、生命としての格が異なった。
「……なるほど。こいつが黒竜か」
ヴィヴィアンが見上げて呟く。
威風堂々としているように見えるが、彼女は拳が震えていた。
オーズは恐怖に怯える彼女を初めて見た。
ヴィヴィアンも自覚している。
だから、その腕を自分で掴み、上空を睨みつける。
「認めるぜ。テメェの生命としての格は、神に匹敵する」
『――――――――――――――――――』
睨み合うヴィヴィアンと黒竜。
天界で最も小さい女神と、その胴体だけで空を覆う黒竜の対峙だ。
『―――――――――――』
「……!」
黒竜はヴィヴィアンから目を逸らした。
女神には興味がないという。
代わりに、先程吹き飛ばした人間の方を見つめていた。
しかし、暫く凝視したあと、鼻息を深くついた。
それは、落胆だ。
「なんだ?何が期待に沿わなかった?そうか。テメェの目的は
ヴィヴィアンが気づく。
この竜は、自身の目を奪った男を探しているんだ。
「レンの持つ強い力を目指してやってきたのか!それが、大英雄アルバートであると期待して……!」
オーズも気づいた。
黒竜の狙いはアルバートとの再戦。
手始めに、彼の封印を解いた者をアルバートだと思い、歓喜に震えた。
しかし、実際は取るに足らない冒険者たちだった。
【ゼウス・ヘラ・ファミリア】だ。
そして、次に強い力に導かれたのだ。
それが―――Lv.12、ナガト・レン。
『――――――――――――』
黒竜が辺りを見渡す。
マズイ!
「ズラかるぞ!!オーズ、その馬鹿女起こせ!ここにいたらヤバい!奴がこの世にアルバートはもういねえってことに気付いたら―――次の狙いは神喰と迷宮だ!!」
「……っ!!」
ヴィヴィアンは瞬時にこの後の展開を見抜いた。
黒竜にアルバートを探知する力は無い。
しかし、彼に匹敵する強い力がこの世に存在するかどうかくらいはわかる。
目星は2つあった。
まずは、封印を解いたもの。
しかし、違った。
次が、ここ。
それも違った。
そして、また探知する。
他にはいないのか。
淡い期待を込めて。
しかし、いるはずがない。
もう―――1000年も前の話だぞ!!いるわけねえだろ!!
「逃げるぞ!オー―――」
ヴィヴィアンが振り返ると、もう遅かった。
そこには黒竜の頭が。
目の前の視界を遮り、その大きな瞳と目が合う。
奴は地上に噛み付いていた。
何かを食って、喉を鳴らす。
奴は頭を上げた。
そこにさっきまでいた神友の姿はなかった。
代わりに意識を取り戻し、目の前で自分を守った友が食われる様を、目の当たりにした女がいた。
「えっ。えっ……?」
状況を飲み込めず、唖然とするグウィネヴィア。
まだ自分は寝ぼけているのかと頬をつねる。
悪いが、そんなバカに付き合ってる余裕は無い。
神を食い、満足したように空を見上げる黒竜に……ヴィヴィアンは修羅の表情を浮かべる。
「オ、オーズ……ッッッ!!!」
『―――――――――――――――ッッッ!!!』
神を食った黒竜。
吠える。
ヴィヴィアンも吠えた。
「てめぇぇぇぇぇぇーーーーーーー!!!!」
神威を全開にするヴィヴィアン。
神友にかわるものはない。
地上のルールなど知ったこっちゃない。
今、この竜は世界で一番しちゃいけねえことをした。
殺す!!!!!!!!!!!!!
―――【
「よしなさい!!世界を滅ぼすつもりですの!?」
「あぁ、そうだ!!くだらねえルールも世界も私には関係ねえんだよ!!下界が壊れて下等生物が困ろうがどうでもいいだろうが!!」
「落ち着いてくださいまし!!」
「黙れ!離せ!どけッッッ!!!グヴィネヴィアァァァァ!!」
暴れるヴィヴィアン。
そんな彼女の神の力を神の力で必死に抑えてしがみつくグヴィネヴィア。
そんな2人を、黒竜は見る。
『……っ』
その瞳に捉えられて硬直する2人。
黒竜は、まだ神喰を狙っている。
しかし。
『―――――――――――――――ッッ!?』
「……!」
黒竜が突然苦しみ始めた。
吠えて、悶え始める。
奴の胃袋が光っていた。
神を喰った影響だ。
奴の肉体は、それに耐えられるように準備しなかった。
目先の目的を果たすことに夢中になりすぎた。
やがて、黒竜は腹を抱えて飛んできた方角を見る。
「……おい。待て。何帰ろうとしてやがる。まだオーズは返しちゃもらってねえぞ」
「ダメですわ、ヴィヴィアン!わたくし達ではとても……!」
黒竜が飛び立つ。
彼は、また封印の地を目指し、回復に。
いや、『消化』に務めることにした。
それを許すヴィヴィアンではない。
「なっ!?待て!おい!私と戦え!!」
「ヴィヴィアン!ヴィヴィアン……!!」
「私と戦えーーーーーーーーーーーーー!!!!」
ヴィヴィアンの叫びを置いて、黒竜は飛び去った。
やがて、その姿は小さくなる。
「クソ!逃げられた!テメェのせいだ、マヌケ!!離せ!」
「もう今から追いかけても間に合いませんわ!いくら
「バカ!あの役たたずを起こすんだ!元はといや、アイツが引き寄せたせいじゃねえか!ケジメつけさせんぞ!」
ヴィヴィアンの言葉にグヴィネヴィアはハッとした。
そして、崩れた家屋を見る。
確かに彼のステイタスなら今なら黒竜に追いつけるかもしれない。
「離せ!あいつを叩き起す!」
「わかりましたわ!」
グヴィネヴィアも了解した。
2人は瓦礫の中からレンを回収する。
しかし。
「クソ!骨が全身砕けてやがる!お釈迦のフニャ〇ンだぜ!」
「お下品ですわよ!?」
グヴィネヴィアは隣で耳を疑った。
聞き間違えかと思った。
ヴィヴィアンは無視して、グヴィネヴィアに凄まじい眼力を向ける。
「おい!タレイアの
「えっ。あ、これですの!?」
グヴィネヴィアが懐から試験官を出す。
タレイアが神の力の保存を
昔、タレイアの論文に目を通したヴィヴィアンが顔が腫れるまではっ倒した時に回収した。
それを使う。
「こいつにまだ目指す理想があるなら、多少は効果があるはずだ。使え!」
「はい!」
グヴィネヴィアが使用する。
しかし、レンの肉体の復活は遅い。
「クソ!理想がしょっぺぇんだ。くだらねえ夢抱きやがって。オーズが神化願望を捨てさせたのは失敗だった!」
「どうするんですの!?」
「気合いだ!こんなところでおねんねなんて許すか!しばき倒して起こす!そんで蹴り飛ばして奴に向かわせる!」
「根性論ですの!?」
グヴィネヴィアが驚く。
ヴィヴィアンは無視した。
「おい!起きろ!テメェのせいでオーズが喰われちまった!死んでもテメェが取り戻してこい!!」
「……っ」
「じゃねえとテメェの大切なモン、全部私が皆殺しにすんぞ!!」
「……っ!!」
レンが飛び起きる。
そして、飛び立った!
「きゃあっ!?」
「チッ。ケツ叩きが必要なんて、ガキだぜ」
黒竜の後を追って空を飛ぶレン。
その姿を見て、ヴィヴィアンが顔を険しくする。