大空を飛んだ。
黒い瘴気を掻い潜り、それだけで深刻なダメージを受けながら。
満身創痍でたどり着いた先。
その竜は、いた。
「オーズを、吐け!!」
『――――――――――――!!』
奴の背中に一撃を加えた。
しかし、奴は微動だにしない。
驚いた様子で振り向いたのは、レンが追いついたことに対してだ。
レンは空中に浮遊し、黒竜と対峙する。
「リヴェリアはやらせない。オーズも取り返す。テメェ……よくもオーズを喰いやがったな!!」
『―――――――――――――――ッッッ!!!』
黒竜が吠えた。
レンも吠えた。
レンの人生に再び光を差し込ませてくれた恩神。
これから何を目指せばいいのか教えてくれた。
大切なことを思い出させてくれた。
そんな彼が、今、殺されようとしている。
許すか!!
そんなこと!!
「勝負だ!!」
レンは仕掛けた。
黒竜に攻撃を繰り出す。
しかし、すぐに気づいた。
黒竜には……まるで効いてない。
「……っぁ」
レンは攻撃をやめた。
無意味だからだ。
力量差で通じてないとかじゃない。
そもそも、現象として。
ステイタスによる攻撃が物理として通ってない。
そこで気づいた。
こいつには神の力は通用しない。
すなわちそれは、恩恵も意味をなさないということだ。
「う、嘘だろ……」
レンは絶句する。
Lv.12とかもはや関係ない。
ランクがLv.1だろうがLv.12だろうが奴には効かない。
まるで壁でも殴ってるような感覚だ。
ということは。
「お、お前……あいつらと戦ったん、だよな……?」
『……』
黒竜はレンを見つめる。
もはや手を下すまでもない相手と気づかれてしまった。
こいつの攻撃は痛くも痒くもないどころか、知覚にすら影響がないと。
対するレンは、気づいた。
この黒竜は封印されていたはず。
そうタレイアから聞いた。
なのに、ここにいる。
それはつまり誰かが封印を解いたということだ。
そして、彼が知る限りそんなことをする者たちは彼らしか知らない。
「お前……マキシム達は、どうした……?」
『……』
黒竜は動かない。
レンは、自分で答えを出した。
Lv.12の視力で黒竜がレン達のところに来る前の戦場を見たのだ。
そして、それは目も当てられなかった。
「うっ……ぁ……おま、えら……」
愛した仲間が。
笑いあった者たちが。
屍として、朽ちている。
視認できるだけで9割は確認できた。
レンは……絶望する。
「……っぁ。そんな……」
やっと。
やっと、神化を目指す旅で出会った仲間が大切だと気づいたのに。
大半が殺されてしまった。
レンの戦う理由が、減った。
そして、次は自分だ。
この恐怖は、絶望は、今、目の前に直面している確定的な敗北も含んでいる。
こ、こんな奴を相手にどうやって勝つんだ?どうやって生き延びるんだ?
『―――――――――ッッッ!!!』
「……!?」
レンが絶望していると、黒竜は勝手に苦しみ出した。
レンは何もしていない。
奴の腹が輝いている。
それは、神の煌めきだ。
「オ、オーズ」
レンは知覚した。
その神の存在を。
彼は、黒竜と混じりあおうとしている。
そして、黒竜に……
「……っ!」
レンは恐ろしいことを思いついてしまった。
この方法なら、黒竜を殺せる。
「……【神殺し】」
『――――――――――――ッッッ!!!』
その力を行使して攻撃を加えると、奴は悶え始めた。
やっぱりだ。
効くんだ……っ。
"オーズには"……!!
「……っぁ」
黒竜は、痛みに耐えられるず、飛び去った。
一刻も早く封印の地へ戻って消化に専念したいんだ。
レンはそれを見逃した。
気付いたからだ。
今の奴は殺せない。
奴が完全にオーズを消化して、神となった時。
【神殺し】の力で黒竜は殺せる……!!
「……そうか。役に立たねえもここまでくると表彰もんだな」
合流したヴィヴィアンとグヴィネヴィアに。
黒竜には神の力が一切通用しないこと。
殺せるとすれば奴の体内のオーズを神殺しで狙えば黒竜も道ずれにできること。
その全てを話した。
話すと、ヴィヴィアンはもはや怒りもしなかった。
呆れも混じっているが、一番大きいのは絶望。
もう戻ってこないことが確定した友に、項垂れて哀悼を捧げている。
夕日が彼女を影にしてくれる。
「要するに2つに1つだ。神を食った黒竜が好き放題するのをただ眺めているか、もしくは黒竜に復讐するか」
『……!』
もう、オーズを取り戻すという選択肢がヴィヴィアンの口から出ることは無い。
諦めたんだ。
強制的に諦めるしかないと思わせた。
「ごめん!ごめんなさい……!!ヴィヴィアン、俺のせいだ。俺のせいでオーズは……!!」
「……っ」
レンは頭を地につけて謝った。
そんなことをしても奴の胃袋の中にいる友も、今周辺に転がる屍たちも帰ってこない。
「じゃあテメェが死ねよ!!」
「ごめんなさい!ごめんなさい……!!」
「ヴィヴィアン!よしなさい!」
レンの頭を蹴り飛ばして歯を失わせたヴィヴィアン。
我慢できなかった。
グヴィネヴィアが止める。
「……彼はもう、これ以上反省できませんわ」
「ごめんなさい……ごめんなさい……」
泣きじゃくるレンを見下ろすグヴィネヴィア。
彼は子供だ。
タレイアに叩き起され、力を与えられただけの。
グヴィネヴィアには彼を責めることができなかった。
「もうオーズは取り戻せないと確定してるんですの?」
「あぁ。【神殺し】で黒神竜は殺せる。だが、消化が完全に済んでないうちは奴は黒竜だ。神殺しの力だけじゃ死にいたらしめることはできねえ。オーズを吐かせることはできるかもしれねえが……失敗すりゃ最悪体内のオーズだけ殺しちまって奴がレンを仕留めたあと次は私たちが食われるかもしれねえ」
「ひっ……!」
最悪の想像にグヴィネヴィアが口元を覆う。
「これ以上リスクは犯せねえ。最悪の場合でも私はお前を庇って先に食われるが、そのあとお前が助かる保証はねえ。私はもう、神友を失いたくない」
「ヴィヴィアン……」
普段ボロクソに貶していても、それはあくまで彼女の能力評価を口にしているだけ。
ヴィヴィアンにとって、オーズとグヴィネヴィアはかけがえのないものだ。
オーズだけでなくグヴィネヴィアも、なんてそんな賭けを彼女はできない。
ヴィヴィアンは……酷い顔で俯く。
「黒竜を止めるなら、消化が済むまで……つまりオーズが死ぬまで待たなければならない、と」
「勘違いするな。止める為に殺すんじゃねえ。オーズの力を私欲で使わせてたまるかよ」
「そう……ですわね」
グヴィネヴィアはレンを見る。
彼ももう無気力だ。
雰囲気は最悪。
それでも、ここで下を向いている時間はない。
「おい。方針は決まった。てめぇも協力しろ。ノーとは言わせねえ」
「……っ」
ヴィヴィアンがなんとか立ち上がって、レンの前まで歩いた。
レンは彼女を見上げる。
「お前、神殺しの力をまだ使いこなせてねえだろ?黒竜と戦うまでに習得しろ。オーズも殺し損ねてるようじゃ使いもんにならねえんだよ」
「ヴィヴィアン……」
「それとグヴィネヴィア。お前は黒竜を倒せる奴を探せ。こいつはトドメは刺せても奴を倒せねえ」
「確かに。恩恵は通用しないという話でしたわね」
「そうだ。ステイタスに頼らねえ奴を連れてこい。まあ、そいつらが廃れて恩恵が流行ったんだから、期待できねえがな」
「それでも見つけてみせますわ」
「あぁ。頼む」
グヴィネヴィアの言葉にヴィヴィアンが頷く。
もはや信頼できるのは彼女だけだ。
信用はできないし無能だが、頼むしかない。
「私は他の神々を牽制する。あんなバケモン、他の奴らが挑むだけ無駄だ。私が悪になって脅して萎縮させる。……そうすりゃこれ以上犠牲生まずに済むだろ」
「ヴィヴィアン……」
無駄死には減らしたい。
そう告げるヴィヴィアン。
こうして、【黒竜討伐同盟】は結ばれた。
神と神もどきの3人。
1人はオーズの代理。
この契を胸に抱き、悪しき竜を討つ!!