「なるほど。えっと……どんまい」
「お前絶対声のかけ方間違ってるからな?」
自分から聞いておいてルシアは戸惑った。
彼女がレンの肩に手を置くと、レンが困惑する。
「すみません。思ってたより壮大で悲惨な話だったので。反応に困ってしまって」
「なら無理に感想言うな……」
レンはルシアの性格を大体掴めた。
こいつ、ド天然だ。
「……とにかく、俺たちはオーズの仇を討つ。その為に黒竜を殺さなきゃいけないんだ」
「なるほど。それでそのオーズ様を黒竜が消化するのはいつ頃になるんですか?」
「明日だ」
「えっ」
「いや、明後日かもしれないし、明明後日かもしれない」
「あぁ……要するにわからないと」
一瞬背筋が凍ったのでやめてほしい。
けど、そこまで遠くない話ではあるらしい。
「ちなみにルシア。お前、今どのくらい強い?」
「えっ。あぁ、Lv.8相当くらいですかね」
「思ってたより弱いな。黒竜が現れるまでにもう少し強くなれないのか」
「……善処します」
ここに至るまでも相当苦労したんだけどなと思いながらもルシアは頷く。
リアリス・フレーゼ。
早熟のスキル。
それを用いて数年でLv.12に到達した彼にとって周りの成長は遅すぎるのだろう。
「頼むぞ。俺とお前は契約した。お前の目的に俺は協力する。その見返りは寄越せ」
「わかってます」
話は聞き終わった。
今後についても決まった。
まずは対黒竜の為の準備をする。
その為に強くならなくてはならない。
彼の隠れ家を出て、ルシアは決意した。
「強く……なる方法」
ルシアは顔を上げる。
タレイアにも指摘されていた成長の停滞。
今までのやり方ではLv.8相当が関の山。
ここからもっと力を手に入れるためには……。
「……」
ルシアは、【ゴブニュ・ファミリア】に行き、自身の皮膚を切ってそれを素材に神ゴブニュに剣の作成をお願いした。
そして、その足で都市の外に出る。
訪れるは【ヴィヴィアン・ファミリア】の拠点。
「……何にしに来た。レンを向かわせたはずだ。もう用はねえだろ」
「はい。ヴィヴィアン様との契約は切れました。なので、今回は別件です」
「別件だと?」
顔パスでヴィヴィアンの元まで通されて、アルキュオラやアルガナなど第1級冒険者に囲まれながら彼女と対峙する。
ルシアは、口角を上げる。
「【剛心】アルキュオラ・テオの首を貰いに来ました」
「……………………あ?」
ヴィヴィアンの反応が遅れる。
聞き間違えかと思った。
だが、数秒後に認識して顔を顰める。
隣のアルキュオラも瞠目し、何かを察し同情の目も浮かべて複雑な顔でルシアを見る。
「今、なんつった?」
「【剛心】の首を取りに来たと言いました。厳密には彼女のランクアップを実施し、Lv.8にしていただいたあと、貰い受けたいです」
「おい。訂正する機会を与えたんだぞ?お前、何言ってるのかわかってるのか」
「はい。充分理解しています。私はこれからヴィヴィアン様に敵対します」
「……っ!」
ヴィヴィアンが目を見開く。
ルシアは真剣な表情だ。
どうやら気がおかしくなったわけではないらしい。
「アルキュオラを狙うってことは私を敵に回すってことなのはわかってるらしいな」
「はい」
「私を敵に回すってことはレンも敵になるってことはわかるか?」
「それはどうでしょう。経緯を聞く限り、おふたりはお友達ではありませんよね?」
「お前……」
「レン様は私に強くなってこいと送り出しました。その方法は指定されていません」
「……だからって同盟相手の身内のところ来るか。頭おかしいだろ、お前」
「なんと言われても結構。今、1番経験値を得られる相手が1人しかいないのでここに来ました」
もはや階層主バロールでは足りない。
ルシアのダンジョン到達可能領域で手に入る魔石はたかがしれてる。
ならば、育てるべきはステイタスの方だ。
Lv.8ならザルドもいるが彼はルシアの友達なので殺したくない。
そこで考えた。
ルシア視点で殺してもいい人間でルシアの経験値になるもの。
その上で、この世で唯一十分に経験値が得られるのはアルキュオラのみ。
レンは強くなれと言った。
ヴィヴィアンは黒竜を討つためならなんでもする。
さぁ、狂ってるのはどっちだ?
「黒竜を討伐するために必要なことです。なので……わかりますよね?」
「バカか、テメェ。それで黒竜を討てる保証がねえだろうが。んな極小の可能性にアルキュオラを消費できるかよ」
口角を上げるルシア。
睨みつけるヴィヴィアン。
女神の返答はノー。
建前を口にしてるが、友を死なせた人間を最後は仲間として受け入れた神だ。
一度はレンに同情した女だ。
拒否してる理由は情だろう。
「黒竜を倒せなくてもいいんですか?」
「倒せる保証ねえって言ってんだろうが」
「オーズ様の仇を討つよりも、ヴィヴィアン様はアルキュオラさんが大事だと?」
「話聞けよ。ゴラッ」
鋭い視線を交錯する2人。
埒が明かない。
ルシアはヴィヴィアンから目を離して、アルキュオラに視線を向けた。
「どうですか?アルキュオラさん。私と勝負しませんか」
「おい。勝手に直接話すんじゃねえ」
「ヴィヴィアン様の許可が必要なんですか?ヴィヴィアンの恩恵を授かってないのに?」
「……お前、それどこで知った」
ヴィヴィアンに問われ、ルシアは鼻を鳴らす。
自身の頭を人差し指でつついた。
「貴方の性格は
「……」
ヴィヴィアンが黙って睨んできた。
つまり正解だ。
【ヴィヴィアン・ファミリア】の構成員数が多い理由もそれだ。
改宗する必要がないから、1年を待たずして他所から人を集められる。
交渉は必要だが、ヴィヴィアンなら神々を脅せるだろう。
そして、彼女の本当の人柄を知った者たちは彼女を慕う。
「お優しいヴィヴィアン様。これだけの冒険者全員に、協力を要請する代わりに契約を、望みを叶える。面白い
「……千里眼か」
ヴィヴィアンが苦虫を噛み潰したような顔をする。
おそらく御門が死に際に口を滑らせたのだろう。
その口の動きを読んだのだ。
確かに御門の死体はマスクが破けて口が晒されていた。
そこから【ヴィヴィアン・ファミリア】の実態を掴んだようだ。
「さぁ、返答をいただきましょうか。アルキュオラさん」
「……頷くとでも思っただか?オラは無駄な争いはしないべ」
「では無駄を無くしましょう」
ルシアは2人の前から離れる。
そして、その足はアルガナとヴァーチェに向かう。
「お前ら、逃げろ!!」
「させねえべ!!」
「もう遅せぇ!竜人形態モード斬撃竜。サラマンドレア・カリバーブレイク!」
ルシアはゴブニュから授かったモルガーンIIに炎を宿し、薙ぎ払った。
アルキュオラはヴィヴィアンを庇って防御に入るしかない。
その隙にルシアは凄まじい敏捷で2人のアマゾネスに肉薄し、2人の腹を殴って気絶させ抱える。
「明日の日没までにキャメロットに来てください。来なければアルガナさんとヴァーチェさんの命を貰います。Lv.8で来なければそれも2人を殺すことになります」
『……!』
両翼を広げ、アルキュオラが手を出せない空中に浮遊するルシア。
口角を上げ、悪い顔をする彼女に。
ヴィヴィアンが表情を歪め、アルキュオラが強ばった顔で睨みつける。
ルシアは鼻で笑う。
「懸命な判断を祈ります。それでは」
「待て……!」
ヴィヴィアンが叫ぶも、ルシアはアルガナとヴァーチェを抱えて飛び去ってしまった。