ルシアが次に向かったのはオラリオの外周部。
そこに彼らの隠れ家がある。
ルシアは2人を呼び出していた。
「待たせたな、ルシア」
「いかに友人になったと言えど、我々を呼び出すとはいい根性だ」
「ザルドさん、アルフィアさん。お待ちしておりました」
来たのはザルドとアルフィア。
2人を呼び出したのは他でもない。
ルシアには2人の力が必要だった。
モルガーンを手に、既に竜人形態のルシア。
彼女の様子に2人は訝しむ。
「随分と悪意に満ちたな、見違えた……いや、見損なったと言うべきか」
「俺達を呼び出した理由も相容れない思想なのが既に窺える」
「流石です。お二人共。やはり歴戦にして人類の為に三大クエストや闇派閥最強派閥に身を投じた2人。その根底は正義ですね」
ルシアの言葉にアルフィアが眉をぴくりと動かす。
「……まるで貴様にはもう正義がないような口ぶりだな。聞くに耐えん」
「そう失望しないでください。ただ正義なんて、仲間を救うためならとっくの昔にドブに捨てれてただけですよ」
「愚かしい。失望ではない。そんなことは言っていない」
「ルシア・マリーン。俺達は以前のお前が好きだった。だが、今は見る影もない。それがこの上なく嘆かわしい」
2人が複雑な感情を口にしながら、既に相容れないことを態度で示している。
要するに警戒体勢に入り、近寄ってこない。
今度はルシアが眉をぴくりと動かす。
「……じゃあなんですか?仲間が死ぬのを黙って見ているべきだとでも言うんですか?逆の立場なら同じことをしますよね?後継育成のために冒険者も市民も殺して回っていましたもんね?」
「それをよしとせず、断罪してくれたのはお前だ。そんなことも忘れたのか。貴様の価値観も変わったな」
ザルドに指摘されるも、ルシアは気だるそうにするだけ。
その態度にザルドは顔を顰めてまた口を開こうとするが、アルフィアが手を出して制止する。
「もうよい。この女は堕ちた。それ以上でも以下でもない」
「あぁ、やっと説教終わりました?じゃあ本題に入りますね」
ルシアにはもう何も響かない。
皮肉に顔を歪めることすらしなくなった。
揶揄されてももう気にしないのだ。
他人からの評価なんて、どうでもいいと思えるようになってしまった。
今、ルシアにはLv.11の助力がある。
ダンジョンの9割を攻略できる算段がある。
その後ろ盾が、後戻り出来なくなってしまった彼女をさらに無敵にしてしまった。
そんな彼女が要求を述べる。
「【剛心】を討つので協力してください」
『……!』
2人が目を見開いた。
そして、一気に軽蔑する。
「よもや……そこまで落ちぶれたとはな」
「ステイタスを育てるために冒険者を狙うか。まるでこの前の俺達と変わらん」
「やだなぁ。他人に期待する貴方達と一緒にしないでくださいよ。貴方達と違って、私はまだ最前線なんですよ」
「……今の俺はお前のおかげでLv.8になった。また世界のためにこの身を捧げることが出来る」
ルシアの言い分に反論するザルド。
もうベビーモスの呪いはない。
だが、もう彼に仲間もいない。
1人の彼に、【ゼウス・ファミリア】ではない彼に、物語の中心を担えるだろうか。
否。
「で?私はもっと早く先へ強くなれますけど?貴方は次のLv.9にいくまでどれくらいかかる目処なんですか?5年後?10年後?遅っっそ。寝ちゃいそうですよ」
ルシアは吐き捨て、彼らを見下す。
そして、竜人形態モード斬撃竜を露にした。
「私はアルキュオラさんを殺し、Lv.9相当に至ります。この
「もういい。始めよう。今の俺とお前は互角だ。経験値で穿ってやる」
「力だけ身につけるお前が、我々に適わぬ理由を見せてやろう」
「あっそ」
ルシアは地を蹴った。
2人の言葉などまるで響かない。
一瞬で肉薄する彼女に、ザルドが一瞬で判断する。
「下がれ、アルフィア!お前は後衛だ!」
「言われずともわかっている。いちいち言うな。煩い」
モルガーンIIを振り下ろしたルシアに、ザルドも剣で対抗する。
その間に、ザルドの背中越しにアルフィアは詠唱する。
しかし、彼の頭部で隠れていた顔をずらしたルシアと目が合って、瞠目する。
「【サラマンドレア・カリバー《ブレイク》】!」
「ぐあっ!?」
「ぐっ……!」
ルシアの振り下ろした剣が竜炎を宿し、威力が増した。
その力強さで競りに勝ち、一刀両断されてザルドは後ずさる。
その背後のアルフィアも余波を浴びて魔法を中断させられた。
その隙を逃すルシアではない。
剣を手にどんどん攻め込んでいく。
「【ヘル・バレット】!【スラッシュ】!」
「ぐおっ!?」
「小賢しい……!」
アルフィアには牽制の火弾を放ち、彼女がそれを処理している間にザルドに切りかかり、剣で防がれると腹に蹴りを入れる。
ザルドの腹に入れた蹴りを、そのまま腹を台がわりにしてる炎の蹴りをアルフィアに繰り出す。
「【
「……っ!」
音の障壁で横飛び蹴りは防がれた。
ルシアは一瞬瞠目するが、すぐに切替える。
「【サラマンドレア・ブレス】!」
「【
竜の砲撃と音の暴力。
衝突し、2人は同時に吹き飛んだ。
しかし、何度も地面に身体を打ち付け転がるアルフィアとは違い、ルシアは転がりながらも途中で地を蹴り体勢を整え上手く着地する。
両足を広げ、片手を地面につき、顔を上げる。
空いた手には離さずモルガーンIIが。
「【サラマンドレア・カリバー《ストライク》】!」
「アルフィア!」
アルフィアにトドメの一撃を放つルシア。
ザルドが慌ててその間に入り、攻撃を防ぐ。
「ぐっ……!ぬおおおお!!」
鬼の形相で粘るザルド。
なんとか遥か後方へ攻撃を逸らし、爆炎を背景にすることができた。
が、目の前の攻撃を凌いで拓けた視界。
そこに待ち受けるは次の大技を備えるルシア。
モルガーンIIに竜炎を既に宿し、その炎が暑さで揺らめきながら彼女もゆっくりと歩み寄る。
『……っ!』
「【サラマンドレア・カリバー《スラッシュ》】!
うらぁ!!」
炎を薙ぎ払う。
すると、その斬撃が止んだ後、煙の中からは2人の倒れた姿がでてきた。
「ぐっ……!うぐっ!?」
「これほどまでの力をつけたか……。ルシア……。うっ!」
アルフィアが血反吐を吐く。
ザルドは彼女を守りダメージを殆ど肩代わりした。
もう立ち上がることはできない。
ルシアの力はLv.8相当だけじゃない。
何かがルシアのタカを外している。
その余剰を含めた彼女の強さを、ザルドは食いきれなかった。
「ハハッ。はははっ!あはっ。Lv.11を味方につけ、私自身も最強の2人をこうも簡単に倒せるほど強くなった!もう何も怖くない!何も揺るがない!間違いない。私とレン様なら、皆を救える……!!」
ルシアは有頂天になる。
高笑いが止まらない。
彼女にしては計算が雑だ。
もう彼女はとっくに壊れている。
頼みの綱のタイレアが消沈した。
あのジャガーノートが自分より強くなって復活した。
加えて、ダンジョンを攻略できなかったし、本当に信用していいのかもわからないLv.11、黒神竜という
全てがルシアを狂化する。
皮肉にもその狂気がルシアを強くした。
「さて、私が勝ったのでアルキュオラさんを殺すのを手伝ってください。協力しなければ殺します」
「我々を救ったとお前が我々を脅すか。もう戻れぬ。もはや哀れだな、お前は」
「相手が悪かったな、ルシア。俺達はいつでも覚悟は出来ている。死を恐れてはいない」
「あぁ、はい。知ってますけど。でも、お互いの命は捨てられませんよね?」
『……!』
ザルドとアルフィアが思わず顔を見合わせる。
それが答え合わせだ。
ルシアは口角を上げる。
その動きすら失態だと2人とも気づいた。
判断が早かったのはアルフィア。
「よせ、アルフィア!」
「【
アルフィアは魔法を使った。
自分に。
彼女の体内は音でグチャグチャだ。
血反吐を吐く。
「かはっ!?……っ!」
「……!」
ルシアも瞠目する。
その顔を見てアルフィアは確信した。
「……ルシア。所詮お前はまだ若い。冒険者としてな。これでお前の目的は絶たれ―――
「【アヴァロン・リヴァビル】」
「なっ」
アルフィアは驚いた。
瞬きの間に全回復したからだ。
ルシアは鼻で笑う。
「ハッ。すみませんねぇ!天才で」
『……!』
自決も無駄だった。
ルシアは無敵すぎる。
各方面、死角なし。
2人は力なく崩れる。
もはや、屈する以外の選択肢はなかった。
時代は変わった。
今、ここに。
前時代の最強を下した竜人が、現代最強の一角だ。