原初の竜でも友達が欲しい   作:伊つき

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受け入れる者たち

 

「何故庇う! 何故救う! 何故受け入れる! 奴は怪物だ。怪物を受け入れれば異端! 多くの非難を受けるぞ……!」

「……うるさいなぁ!! 私は元からはぐれモンなんだよ! 今更誰にも受け入れられなくなるとか知ったことじゃないっつーの」

 

 ルノアとオリヴァスの衝突が再開し、互いに引けを取らず攻撃を捌く。

 依然、満身創痍のルノアはまだ倒れない。寧ろこれまでで最も善戦していた。

 

「私には友達(ダチ)以外なんにもないんだから、たった一人の友達を取り戻そうとするのは当たり前でしょうが……っ!!」

「……っ」

 

 ルノアの一撃。優秀すぎる地のステイタス。基本アビリティの『力』任せの拳が炸裂して床が弾ける。

 オリヴァスは間一髪回避したが、表情を曇らせる。

 

「馬鹿な……! 貴様のどこにまだそんな力が……っ!」

 

 オリヴァスの攻撃に引けを取らないルノア。多くを捌き、隙を突いて反撃まで挟んでくる。

 ルノアのフックを捌いた先に、待っていた真っ直ぐ(ストレート)。オリヴァスは武器で直撃は防ぐも(パワー)で後退させられる。

 

「ぬぅ……!」

 

 顔を顰めるオリヴァス。

 対するルノアは不敵に笑う。

 

「無限に湧いてくんだよ。痺れるでしょ? 私の(パワー)

「小賢しい……っ!」

 

 挑発気味なルノアの態度にオリヴァスの苛つきが加速する。

 だが、余裕そうな言動とは裏腹にルノアの肉体は限界だ。戦闘中はともかく一旦退くと足が震える。それをオリヴァスも確認した。

 

「ふっ。くくくっ! 貴様のその空元気、厄介だがそう長くも持ちまい。このままではマズイのではないか~。何か考えはないのか? 【黒拳(こっけ~ん)】っ!」

「……っ!」

 

 オリヴァスの指摘にルノアが下唇を噛む。

 痛いところを突かれた。しかし、承知の上だ。

 作戦などないが、気合いは充分にある。いや、有り余ってる。

 

「うらぁっ!!」

「ふんっ!!」

 

 互いに言葉で相手を刺激した後は正面からの衝突。

 ルノアは思い切り拳を撃ち込み続ける。オリヴァスの攻撃は裏拳と腕で捌き、軽めの高速フックで手数を増やし、相手の手元を狂わせる。

 

 相手の攻撃手段を潰す時や武器を振るわせたくない時、手放させたい時、そしてより多くのダメージを与えたい時。対人戦における軽いジャブの連続はそれらの状況下において効果を発揮する。

 ステイタスと、性格や才能から来る馬鹿力の一発はトドメの一撃。または決定打だ。

 

「はぁ……! はぁ……! はぁ……!」

 

 だが、もう体力は限界だ。息なんてとっくに切れてる。

 それでも撃ち込むのは止めない。

 後ろにいるチビ助の為に。否、そいつが欲しいからここから助けて絶対に貰う!! 

 

「おらぁ!!」

「ぐっ……!」

 

 オリヴァスが完全に防御姿勢を取って退いた。

 状態も戦闘力も、オリヴァスに軍配が上がっている。だが、気迫が異なる。

 ルノアの気迫がオリヴァスを押し返した。

 後退った跡を見てオリヴァスが表情を歪める。

 

「うぐ……っ……ぬぅ……!」

 

 悔しさで唸る。

 私が。闇派閥(イヴィリス)の幹部にして、混沌の使者。【白髪鬼(ヴェンデッタ)】である私が。

 押せば倒れそうな程の満身創痍な同格(ルノア)に、負けている。

 

 度し難い事態だ。この事実を許してはおけない。

 そのプライドが、逆に何がなんでも目の前の大敵に膝をつかせたい気持ちに火をつけた。

 オリヴァスは二階に視線を送る。

 

「もう一度魔剣と魔法の餌食になるがいい、【黒拳】!」

「なっ……!」

 

 魔剣の輝きと魔力の高まりに、ルノアも見上げる。

 またしても集中砲火。上からの標的はルノアにとって初めて。避ければ後ろのルシアに当たる。いや、これ避けなくても二人とも命中する! 

 

「ルノアさん!」

「ルシア……!」

 

 互いの名を叫ぶ。ルノアが振り返ってルシアの元に飛び込む。

 オリヴァスが口角を上げる。

 

「くくっ、ふはははっ! 渡してもらうぞ、【黒拳】。竜の娘を!!」

「クソ……! ちくしょう! ルシア……!」

「……っ!!」

 

 防ぎようがない。避けようがない。逃げ道もない。

 確信したルノアがルシアを抱き寄せて包み込む。咄嗟に取れる、護るための行動はこれが限界だった。

 ルノアは自身の背中を敵に向けて晒しながらそれでも尚、強く抱きしめる。

 

「ル、ルノアさん……! っぁ……!」

 

 ルノアが自分を守ろうとしている。でも、もうとっくにルノアは限界を超えている。

 いくら彼女の地のステイタスが優秀でもここまでのダメージを受けた後に無防備で砲撃をくらえばひとたまりもない。

 

 それは嫌だ。ルシアだってルノアを守りたい。だから、拘束も解いて竜の力を存分に使う。

 だけど、間に合わない。もう既に砲撃は放たれた。目前まで迫った火炎をルシアの瞳が映す。

 

 無理だ。終わった。ルノアを守れない。

 そう、理解した時。ルシアが諦めたくないその感情を表情に浮かべた瞬間。

 魔法を、魔剣の砲撃を、全ての魔的な攻撃を二つに斬り裂き、両断する影が()()現れた。

 

「なっ……!?」

「えっ!?」

 

 オリヴァスも、闇派閥も、ルシアも驚愕する。

 前者の敵は砲撃を斬撃で無効化されたことに。そして、そんなことが出来るのは神の恩恵のみ。加えて、あの質量を完全に防ぎ切るのは上級冒険者の仕業であること。

 

 後者のルシアは割って入ってきた二つの影のうち、一つに該当する人物に対して自身の目を疑った。

 おかしい。彼女が助けに来るはずがない。自分は拒否された。間違いなく、受け入れて貰えなかった。なのに、なのに、有り得ない。今まではなかった。

 

「輝夜さん……どうして……」

 

 教会に降り立った二人の助っ人。

【アストレア・ファミリア】副団長、【大和竜胆(やまとりんどう)】ゴジョウノ・輝夜。

【ガネーシャ・ファミリア】団長、【象神の杖(アンクーシャ)】シャクティ・ヴァルマ。

 

 現れたのはその二人。

 ルシアは輝夜の助太刀に驚き、逆にオリヴァスはシャクティの介入に目を疑う。

 ルシアの正体を知った輝夜はともかく、シャクティが工業区襲撃の現場にいないことに空目する。

 

「憲兵、それも【象神の杖(アンクーシャ)】だと!? 何故ここに……!」

「私は……」

「シャクティさん?」

 

 ルシアがルノアの腕からひょっこり顔を出してシャクティを見上げる。

 そんな彼女の視線にシャクティは、オリヴァスの問いに、自身の抱える戸惑いを宿していたその表情を少し和らげる。少なくともまだルシアが生きているのを確認したからだ。

 

「私は友を、ルシアを助けに来た」

「……っ!」

「何っ?」

 

 シャクティの言葉にオリヴァスが目を細める。

 

「ルシアを返してもらうぞ、【白髪鬼(ヴェンデッタ)】。そして、貴様達を今日ここで検挙する!」

「……っ!」

 

 敵だらけで逃げ場がない、そんな教会の中で。この状況を切り抜けられる絶対的実力の持ち主、Lv.4のシャクティが闇派閥(イヴィルス)に向かって宣言する。

 ルシアはそんなシャクティの背中に衝撃を受ける。

 

「ぬぅ~! 許せん。ここまで来て覆されるなど、許せん……っ!! ぐっ……ぬぅ! 貴様らぁ! やれ!!」

「……っ!」

 

 オリヴァスの合図。闇派閥が動き出す。

 介入があるまでは観覧がメインだった彼らも一気に常時戦闘、いや、抗争モードだ。

 シャクティはそれに対して武器を構える。

 

 その後ろで。ルシアは輝夜と顔を合わせ、状況が変わったことに気づいたルノアも、「何?どうなったの?」と言いながらルシアを少し離して顔を上げた。

 シャクティはルシアと輝夜の間で話があることを察知して、輝夜に告げる。

 

「先に戦っておくが、この人数が相手だと私もそう簡単には崩せない。手早く済ませて参加しろ。良いな?」

「……分かってます。それに、すぐ終わります。ほんの少しの間だけですから」

「輝夜さん……」

 

 輝夜を見上げるルシア。

 二人は視線を交わし、先に目を逸らしたのはルシア。本拠(ホーム)で見られたのは一瞬だったが、今は自身の身体を露わにしている。

 

 輝夜はこの身体を見てあの時、刀を取ろうとしていた。今、改めて前にしてどのような認識なのかはわからないが、輝夜の性格を加味すれば拒絶寄りであることは考えなくともわかる。

 

 だから、ルシアは目を合わせられない。

 いたたまれない、この場で自分と向き合うことすらも気まづそうなルシアの様子を輝夜は無言で見つめる。

 

 ルノアが二人の間に流れる空気を感じ、なんかめんどくさそうと思いながらも二人の顔を交互に視線を動かす中、やがて、輝夜はルシアに向かって重く閉ざしていた口を開く。

 

「ルシア。お前は、()()我々の仲間だ」

「……っ!」

 

 輝夜の言葉にルシアもルノアも彼女の顔を見る。

 その視線を浴びて輝夜は目を逸らしながら続ける。

 

「故に、その命までは見捨てない」

「輝夜さん……」

 

 背を向け、目の前の戦闘へと意識を移す輝夜を、ルシアは見上げる。

 

「【アストレア・ファミリア】。ゴジョウノ・輝夜、推して参る」

 

 輝夜は、異端の存在を背に、闇派閥(イヴィルス)に対して『彼岸花』を抜刀した。

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