大昔、地上に進出したモンスターの中に御先祖様が混じっていた。その中でもドラゴンのとある一匹は、ハイエルフと愛し合い、子孫を遺した。
結果、現代においてもドラゴンとハイエルフのハーフ、その最後の子孫が1人、存在する。
名は、ルシア・マリーン・ドラゴン。
故郷の森からは追い出された彼女は、地上のモンスターからも拒絶され、行き場を失った。彼女は孤独になった。
そんなルシアは、夢を抱くようになった。
―――『友達が欲しい』、と。
異端である自身を受け入れる存在は神しかいない。それでも、人間の友達が欲しい。
神々が最も多く集まる迷宮都市・オラリオなら神々に影響を受けた人間達が沢山いる。自身を受け入れてくれる人間がいるかもしれない。
そう考え、ルシアはオラリオに訪れた。
「困りました。人生最大の大ピンチです」
オラリオに来てから1ヶ月。
ルシアは地べたに這いつくばっていた。
その有り様はまるで屍のように、大の字でピクリとも動けずにいた。要するに、正確には地に伏せていた。
「おなかが、すきました」
道行く人間が関わってはいけない人間だと認識して道のど真ん中に倒れる彼女を避けていく中、ルシアの胃袋は竜の息吹の如く爆音を轟かせていた。
「じ、人生で一番辛いです……。これほど飲まず食わずで過ごしたのは初めてでしたが、まさかこれほどとは……み、見通しが甘かった。抜かりました……」
光の神、バルドル。ルシアはその神を求めてオラリオに来た。なんでも人間に救いを与えるのだとか。そんな噂を聞いた。
しかし、オラリオに来てから今まで全く出会えないどころか情報すらない。
そして、遂に資金が尽きてしまった。
ルシアの竜の胃袋は、常人の十倍はある。つまり、食費も十倍だ。
まあオラリオでならすぐに目当ての神に会えて資金も足りるだろうと思っていたルシアだったが、全然余裕で破産した。
これまでの人生、色々なことがあった。
自身の半分がモンスターだとバレてエルフの森を追い出された。命だって狙われたし、様々な暴力がルシアを襲った。
だが、今この瞬間、究極の空腹はルシアが経験したそれらよりもぶっちぎりで辛い。ルシアはそう感じる。
「あら、どうしたの? そんなところで寝てたら危ないわよ。踏んづけちゃうわ」
さすがに今回はマズイ。限界だ。終わる。そう思っていたそんな時、ルシアの前に1人の女性が現れた。
道行く人間たちがルシアを避ける中、彼女だけは膝を降り、ルシアに目線を合わせて声を掛けた。
「あぁ……。女神様ですか」
声を掛けられてルシアは顔を上げる。
目の前の女性は神威を発していた。故に、誰でも彼女が女神だと認識できる。
何より、自分に声を掛けるような者は神しか存在しない。だから、声を掛けられてその瞬間からルシアは女神だと確信していた。
「えぇ。そうよ。私、アストレア。貴女は?」
「……お腹と背中がぺったんこになりそうなエルフ、ルシアです…………」
「そ、そう。大変ね」
その容姿と態度は、温厚でどんなことでも受け入れそうな女神だった。
彼女もルシアの条件に合う、彼女を受け入れてくれる質。目当ての神がいなければ今、この瞬間、無い力を振り絞って手を取っていただろう。アストレアに対するルシアの第一印象はそれだ。
「女神様……ど、どうか恵を……。ほんの、ほんの食料庫一つ分で大丈夫なので……」
「あらあら。沢山食べるのね。全然『ほんの』じゃないわ」
それはそれとして、恵は欲しい。誰でもいいから飯を恵んでくれ。でないと尽きてしまう、ルシアは弱々しく手を伸ばした。
対するアストレアは少し呆れたように苦笑いする。
「お腹が空いているのね。ねえ、貴女。私のファミリアに来ない? 歓迎するわよ」
「えっ。いえ。結構です。私は既に信仰する神を決めていますので。バルドル様のファミリアにしか入りません」
「あら。でも、バルドルはオラリオには居ないわよ?」
「な、なんと……っ。いえ、でも、それでも」
「あと私のところにくれば沢山ご飯が食べられるわ」
「行きます。是非。いや、実はアストレア・ファミリアもいいなと思っていました。ナイスご慈悲。今日からアストレア様しか信仰しません、毎日3回食事に合わせて拝みます。アストレア様しか勝たん」
「うーん……。ツッコミどころが多いわね。とりあえず、拝むのはやめてね?」
アストレアが差し伸べる手をガシッと掴むルシア。
こうして、【アストレア・ファミリア】に加入した。
ルシア・マリーン・ドラゴンのプロフィール。
三度の飯より四度の飯が好き。