原初の竜でも友達が欲しい   作:伊つき

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アストレア・レコード
はらぺこ大進撃


 

 報告。

 ゴジョウノ・輝夜。

 

 工業区にて、闇派閥(イヴィルス)の襲撃あり。

 ルシア・マリーンをサポーターとして起用。【アストレア・ファミリア】における対闇派閥(イヴィルス)の活動に初参加。初陣となる。

 

 結果、犠牲者0。損害最小。闇派閥(イヴィルス)を捕縛。

 ルシア・マリーンの功績、的確な作戦指揮による被害最小化。ならびに作戦に用いる物資の削減。盗品の多数回収。

 

 以上。

【ガネーシャ・ファミリア】、シャクティ・ヴァルマへ送る。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 襲撃の情報が入ってすぐ、ルシアはリュー・リオンの単独先行を提案した。

 ゴジョウノ・輝夜が否定。アリーゼ・ローヴェルも強くは言わなかったが、輝夜に同意。

 ルシアは彼女達を説得した。

 

「我々が団体で駆けつけるよりも、足の速いリューさんが相手の予想より早く現れることで闇派閥(イヴィルス)も意表を突かれます。彼等の現場判断を乱すことが目的です。少なくとも、向こうの計画通りに事を進められなくなる筈です」

 

 とにかく早さだと述べるルシアは、準備と移動を催促し、その道中で我々に淡々と告げた。

 訂正する。説得ではなく、彼女は説き伏せようとしていた。

 だが、輝夜達は到底納得できない。

 

「ルシア。お前の判断は間違っている。リオンは未熟だ。青二才が先に現着すれば、確かに敵に混乱を与えるだろうが、リオンに独断の余地を与えることにもなる。その危険性を私は看過できん」

「輝夜! ルシアの言っていることは正しい。私の速さを有効活用すべきだ!」

 

 輝夜の否定にリューが食いつく。ルシアの提案はリューにとっては合理的に映るが、他の面々は違う。リューを単独で動かし、そこに誰も介入できないとなると、必ずやり過ぎてしまう。

 

 それに、彼女の判断力は自由にさせると逆に被害を増やしかねない。

 しかし、ルシアは提案したのではなかった。これは()()

 

「あ、リューさんは乗り込みません」

「えっ……?」

 

 故に、リューの思い描いてることとルシアの脳内に展開されている作式は全く異なっていた。

 リューにとっていつも口煩い輝夜や誤りを訂正し納得までさせてくるアリーゼのいない場で、彼女の正義を執行する絶好の実績構築の機会に思えたが、そんな期を用意しようとしてくれていたルシアがまさかの補足。予期していなかったため、リューが目を丸くしてルシアの方に振り返る。

 

「リューさんは現着後、倉庫の外で魔法を空撃ちするだけです」

「なっ……!? ルシア、どういうことですそれは! 乗り込まなければ犠牲と損害が……!」

 

 要するに現場近くでデカい花火を打ち上げろというルシアに、リューが納得できないという様子で反論する。

 リューには、自身の足を利用した迅速な対応を実現できるというのに、それを無駄にすると言っているようにしか聞こえなかった。ルシアの発言はちぐはぐだと。

 

 実際は、二人が捉えている視界の広さが違っていた。

 ルシアはリューのことを身体能力(ステイタス)だけで評価している訳ではなく、そもそも全員に対して総合的な分析を終えている。つまり、性格や思想も織り込み済みだ。そして、そこから二次的に発生する彼女達の判断の癖も既に理解(インプット)している。

 ルシアは食いつくリューを躱し、淡々と加える。

 

「リューさんの魔法は派手です。つまり、音も凄い。外であれだけの騒音がするだけで敵は襲撃があり、派手な侵入を許したと考えて人員を外に割くでしょう」

「「「……っ!?」」」

 

 流れに沿って、述べる。結論から言ってしまえばリューの反感も激動も回避できるかもしれないが、それよりも順を持って説明することで策の構成(ストーリー)を一度の会話で汲み取って欲しかった。

 

 重要人物(キーマン)なのは、アリーゼと輝夜。責任と権利のある彼女達に重点を置いて話し掛けた方が効率が良い。いざとなれば、リューが暴走しても止められるからだ。

 そして、二人とライラがルシアの作戦の意図を掴み始めている。

 

「そうなれば相手は数を失い、損害を間接的に抑えられます」

「減らせるだけだ。無くせる訳ではない……! 踏み込めば0にできる!」

「それは無理です。リューさん一人で敵を掃討する、というのは現実的ではありません。リューさんもそこまで自身の実力を過信していないでしょう? 一人で戦える、そんなことを思う人じゃないことはもう知ってます」

「……っ。そ、それは……」

 

 責任者(アリーゼ)達とは違い、未だに飲み込めずにいるリューにルシアは畳み掛ける。

 ルシアはリュー・リオンという一人の人間をよく理解している。彼女程、仲間の存在を大きく捉えている者はこの中にはいない。

 

 無論、(みな)(みな)を想い合い、支え合って大切に感じているが、リューのそれは特に大きい。

 彼女が特に未熟な故か、それは定かでは無いが。ルシアはそこを突いて黙らせた。

 

「損害を0にするのは後手で動いている時点で不可能です。先読みできていれば良かったのですが……過ぎたことを後悔していても仕方ありませんね。私達が考えるべきは、これからの事、被害をできる限り減らすことです」

 

 敵が現れ、襲われている地帯がある。そこへ突入する中で、目先の目標や優先順位はハッキリさせておくべき。

 故に、ルシアは全員の意識をひとつのタスクに集中させた。

 

 過ぎたことも、理想も一旦は放棄し、現実的に今なにが最適解なのか事前に提示する。

 これで少なくとも異常事態(イレギュラー)でもない限り、勝手な行動は起きない。全員が同じ方向を目指すのだから。

 

「リューさんの魔法で敵を分断。外に出てきた闇派閥(イヴィルス)は制圧してください。その場に固定、あるいは行動不能に。逃亡も帰還もさせないでください。すると、人員(なかま)が戻ってこない、あるいは報告がないことに違和感を覚えてさらにリューさんに部隊を差し向ける筈です」

 

 現場へ向かいながら、紡いでいくルシア。

 さらに続ける。

 

「第一波を掃討した後、次の波が来るまでの間。リューさんは乗り込みたくなるかもしれませんが、その頃には私達も着いています。リューさん、被害を減らしたいと思うのならば我慢が必要です。そして、その願望を叶えたいなら速攻を仕掛けられるリューさんにしかできない、敵の分断を担うべきです」

 

 リューの性格も考慮して先手を打った。

 その上でさらに重ねる。

 

「この行動のメリットは敵を分断することによる倉庫損害の手を減らすことです。相手は大幅に人員を割くことになりますので、相手の目的が何にせよ被害は必然的に減ります」

 

 最後にようやくルシアは狙いを告げる。先に説き伏せて、場を作り、納得まで邪魔されずに持っていく。実に合理的な話術だ。

 無論それで相手を刺激したり、反感を買うことはあるが。リューはその対象では無い。

 

 加えて、ルシアも馬鹿ではない。相手は選び、有効に効く場合にのみ使用する。

 そして、今回はアリーゼ達に先に意図を汲ませる意味でもこの順番にした。

 

「ル、ルシア……貴女は……」

 

 普段と打って変わって饒舌に弁と論を駆使するルシアにリューが瞠目する。彼女の印象が180度変わった瞬間だ。何より、この一面を今まで隠していたことに驚く。同時に、まだ彼女のことを知らないのだと痛感する。

 それはアリーゼも、他の面々も同じ。【アストレア・ファミリア】はまだこの新人について全然把握出来ていない。

 

 正体を知る輝夜もこの立ち振る舞いは知らない。だから、皆と同じく信じられないものを見るような目で、眉をひそめてルシアに注目している。

 その中で、アリーゼはすぐに我に返った。そして、今何をすべきかを思い出し、少なくともそれはルシアに対して呆気に取られていることではないと脳内に警鐘を鳴らす。

 

 追求したい気持ちはある。ルシアの脳内で構築されている策をそもそも鵜呑みにしていいかも疑問だ。

 それは、仲間だから信じてもいい。が、それで失敗したり事態が悪化したりすれば取り返しがつかない。

 

 仲間であっても慎重になるべきだ。時には否定したり簡単に受け入れないことも重要。

 その上で、アリーゼは、私的な視点を捨ててもルシアの考えは正しいと公平な天秤の上に立つ自身が頷くのを見て、判断をした。

 

「……リオン。ルシアの提案を実行しなさい」

「アリーゼ!?」

 

 正しいのかもしれないが、少し威圧的だったルシアに、まさかの援護が入る。彼女の肩を持ち、鵜呑みにしていいか難しい提案に対してそれを受け入れたアリーゼに、リューが驚きの表情を浮かべ、声を上げて困惑する。

 そんな納得できず動かない彼女に、アリーゼは一喝した。

 

「早くしなさい! ルシアが言ってたでしょう? 速攻よ! あんたの足が必要なのよ、だからこその起用。応えなさい、リオン!」

「……っ!」

 

 団長としての指示。

 それに、仲間の期待と判断というところを重点にアリーゼはリューを急かした。

 リューは少し悩んだが、最終的に自己の判断としても正しいと考えたのか一歩、強く地を蹴り、先頭へ出た。そこからさらに加速を重ねる。

 

「……先に行きます!」

 

 意思を宣言して、風の如き敏捷であっという間にパーティを置き去りにしたリュー。

 その背中を確認して、アリーゼは隣に並び、走るルシアに頼ることにした。

 

「……さて、色々と追求するのは後ね。今は目の前の事態を終息させるのが先決。ルシア、貴女の意見をもっと聞かせてくれる?」

 

 アリーゼの判断の早さにルシアはニヤッと小さく笑みを見せる。

 

「流石です、団長」

 

 優秀な団長に尊敬の意を表するルシア。

 同時に何かを探すように周囲を見渡した彼女の視線が目的のものを捉えて、アリーゼに指示を出した。その物を指差し、アリーゼ達も同じ方を見遣る。

 

「アリーゼさん。あの鉄柱を焼き切ってください」

「えっ……えぇ……えっと、それは…………とっても物損ねっ!」

「戸惑い過ぎてアリーゼが壊れたぞ!」

 

 およそ正義の眷属に求める注文(オーダー)ではないその指示に、アリーゼは困惑を隠しきれない。思わずライラも彼女のそんな様子にツッコまずにはいられなかった。

 人々の為、都市の為に戦う彼女達が公共物を破壊しては本末転倒だ。やってることが真逆。それに、信用だって失いかねない。

 

 作戦上酌量の余地はあると思うが、本来なら罪に問われるし通常でそのように値するようなことをするのは正義の信条に背くことになる。

 信用、罰則、象徴(めがみ)への侵害。

 様々なことがアリーゼの脳裏に浮かんだ。それは他の面々も同じだ。

 

「オイオイ。正義を掲げる派閥(ファミリア)になんてこと求めんだよ」

「そうだよ、ルシア! ダメだよ、そんなの……!」

 

 呆れ果てるライラに、同族の先輩としてしっかりと注意するセルティ。

 反対意見が出るのは、全員に抵抗があることはルシアも最初から織り込み済み。

 彼女達の訴えを肯定しつつ、ルシアは持論を説いた。

 

「確かに正しい行いではありませんが、人の命には替えられません。誰かを守る為に責任を問われるならば、甘んじて受け入れるべきではありませんか?」

「……」

 

 ルシアの言葉に輝夜が押し黙り、考え込む。

 以前なら皆に便乗していたか、真っ先に非難と罵倒をしていたが、ルシアの事情と、この場は彼女の能力を推量る最初の機会として彼女自身が設けていることもあり普段のような言動には出ない。

 

 ルシアの意図を掴もうと模索し、彼女が正義の使者になり得るか、人類の味方でなり得るか分析しなければならいい。何よりも、本人の為に。

 そして、輝夜自身が彼女と共に歩みたい未来の為に。

 その上であらゆる思考を巡らせ、輝夜は判断を下す。

 

「団長。やろう」

「輝夜?」

 

 意外な人物が肯定を示したことにアリーゼは目を丸くして背後に付いてきていた彼女の方を振り返る。

 副団長である輝夜が背中を押すことは相応の責任と影響が発生する。当然、彼女は理解している。

 

 その上で進言するということは主観的も客観的にも捉え、彼女の中で起こる様々な審議を通過し、ファミリアにとって実害がない或いは利益になりえると結論付けた故の覚悟を持った行為であるとアリーゼは考える。

 さらに加えて発言する輝夜の言葉にアリーゼは耳を傾け、受け入れた。

 

「ルシアの言うことも一理ある。程度はあるが、これに関しては糾弾されても構わない。……なんて、開き直られたら溜まったものでは無いだろうがな」

 

 ギルドや憲兵の対応、そして、それに頭を抱える姿を思い浮かべる。

 彼ら彼女らには申し訳ないが輝夜はルシアの考えを肯定する言葉を続けて紡いだ。

 

「それでも、人が救えるならこの泥は被るべきだ」

「……そう。分かったわ。でも、今回だけよ!」

 

 ルシアと同意見だという輝夜にアリーゼが少し考えた後、承認する。

 団長として、加えて個人としても精査して正しい選択だと感じたらその割合がどうであれ採用はする。だが、程度がどうであれ手段を選ばないなんていうのは正義の女神、その名誉の為に気軽に行っていいことではない。

 

 だから、アリーゼはあくまで一回限りという意図を口にした。

 特に今日は闇派閥(イヴィリス)に先行を許し、対応が遅れた。それを取り返すためにも必要な事だと感じたからだ。

 

 つまり、十全に行動を起こせた場面では必要性を感じず、絶対に首を縦に振る気はない。

 しかし、アリーゼの考えを理解しつつも、一連の流れを聞いていた【アストレア・ファミリア】の団員たちはライラを始めとして嫌な予感が共通で認識され、顔を顰める。

 

「うわー……絶対(ぜって)ぇ今回だけで済まねえヤツだ。またやるぞ、これ」

「次、同じようなやり取りがあった時もアリーゼは許可するんだろうな……」

「目に浮かぶわねぇ」

「ま、それも正義でしょ!」

「だいぶ怪しいような……」

「はいはい。細かいことは気にしない気にしない。私は知らなーい」

「あっ! ずるーい!」

 

 ライラにネーゼが同調し、マリューが苦笑いし、開き直るイスカにリャーナが呆れながら首を傾げる。そして、ノインが聞かなかったことにしたいのか耳を塞いで考えるのを止め、アスタがそんな責任放棄に頬を膨らませる。

 正義を掲げながらいい加減なところもある、気楽で柔らかい雰囲気。それもこの派閥の特色だ。皆がそこを良いところだと捉えていて、好んでいる。

 

「じゃあ……行くわよ! 【花開け(アルガ)】!」

 

 愛しい仲間達の微笑ましいやり取りに笑みを見せたアリーゼが、詠唱式を組み立て、駆ける。

 

「【アガリス・アルヴェシンス】!」

 

 彼女が有する魔法の名を口にし、アリーゼの身を灼熱の焔が包んだかと思えば、両腕と両脚を主に淡い付与(エンチャント)が炎の魔力として鎧のように装備、纏われる。

 団員たちは何度も見てきたその様を、ルシアは美しい色彩だと感じ、少し口角を上げる。

 

「はあっ!」

 

 アリーゼが気合いを込めて剣を振り払う。

 すると、斬撃の軌道に沿って、鉄柱は綺麗な断面を見せて焼き切れ、倒れる。それを確認してルシアが更なる指示を重ねた。

 

「ネーゼさん、アスタさん、イスカさん、リャーナさん。鉄柱を地面を基準に45度で上空5(ミドル)に放ってください!」

「はっ? えっ?」

「あぁもう! いいからやろ!」

「よくわかんないけどルシアに考えがあるんでしょ」

「とにかく早く! 速攻!」

 

 ルシアが最初に言った重要なピースを、呪文のように唱える。

 彼女の脳内でどういう作戦が描かれているのか全く理解できないが、ルシアがデタラメを言うことや邪魔をするために適当を言うなんてことはないとアリーゼが信じたのなら、彼女達も考えるより先に信じるのみだ。それに、彼女達もルシアを信じている。

 

「「「「せーのっ!」」」」

 

 ステイタスに任せて切断した鉄柱を地面を基準にルシアに言われた角度で上空に投げた。

 四人のステイタスから考えて、最高到達点になりうるであろう地点に到達する二秒前に、ルシアは叫ぶ。

 

「輝夜さん! 鉄柱の底面に技を全力で……!」

「居合の太刀―――」

 

 ルシアが名を呼んだその瞬間から柄に手を当てて構えを取っていた輝夜。真上に浮遊する鉄柱の底面に照準を捉えて、抜刀する。

 

「一閃!」

 

 彼岸花で描く綺麗な一筋。高出力の突きに押されて鉄柱が打ち上がる。

 恐らくは何軒か世帯を超え、区域すら超え、工業区がある方へと弧を辿って飛んでいく。

 遠くへ消えていき、小さくなっていくのを目で追いながらルシアが再び走り出す。

 

「現地に向かいます!」

「オイオイ! あんなもん飛ばしたら危ねぇだろ! 落下地点に人がいたらどうすんだ!」

 

 言われた通りに動いた結果、危ない行動を要求したルシアにライラが追いかけながら怒鳴りつける。

 それに対し、ルシアは顔だけ後方に向け、足を止めずに回答を返した。

 

「大丈夫です! 地理は全部頭の中に入っています。落下予測地点周辺に民家はありませんし、人通りもこの時間帯は無い可能性が高いです。それに、輝夜さんの技を全力で放った時の威力も頭の中に。私の計算が正しければ、落下地点は第一倉庫、屋根。闇派閥(イヴィリス)はもっと先に侵攻している筈。彼らにも被害は出ないと思いますが、まあ当たっても致し方ないでしょう」

「そこに慈悲は無いのね……! ルシア、貴女は間違いなく私たちの仲間だわ」

「そんなことで認知すんな!! まあわからんでもないから一緒にすんなとは言わねえけどよ……!」

 

 悪に情けがないルシアに、同調するアリーゼ。思わずツッコミを入れるライラを他所に一行は現場へと急ぐ。

 群衆の味方である憲兵(ガネーシャ)なら、中立を意識し、多少の悪事は刑罰になるよう尽力したり、許しを与えたりする者も中に入るだろう。特にアーディ・ヴァルマなどにその傾向がある。

 

 彼らは秩序を重んじる集団。故に、群衆に犯罪者も含まれ、それを踏まえた上で全体が構成する社会の改善を目指す。その為に必要なのは悪即斬ではなく、寛大かつ広い心の持ちようだ。

 そこが正義の使者達との違い。同じようで、似ているだけだと理解できる。

 

「セルティさん! ここに留まって、倉庫の方角の上空に向けて魔法を放ってください。1分毎に5発お願いします。リャーナさんとノインさんはセルティさんの護衛に……!」

 

 次の指示はセルティに下った。

 何もない空間に魔法を放つこと、加えて、照準が目視では捉えられないことによる不安を彼女が抱える。脳裏に浮かぶのは無関係で罪のない者に当たってしまう可能性。

 

「え、えぇ……!? 空に魔法を……!?」

「……っ! そうか、避雷針か」

 

 驚愕するセルティとは逆に輝夜がルシアの思惑に気付く。

 先程工業区の、目的の倉庫の方へ飛ばした鉄柱。あれが、倉庫の近く、もしくは倉庫に落ち、倒れず、地面に突き刺さって立ったのならば。長さ的にも建物は容易に突き抜け、高い塔が出来上がる。

 

 それが避雷針の役割を果たし、雷魔法の照準を誘導する。どこにどう放っても方角さえ合えば、同じところに魔法は落下し、炸裂するという訳だ。

 狙いは敵の分断と誘導。雷が落ちた時の衝撃と破裂音で倉庫に既に乗り込んでいる闇派閥(イヴィルス)は敵襲があったと考える。

 

 特に、リューが既に到着し、同様に反対方向で派手に動き、敵を誘ったことで相手は既に【アストレア・ファミリア】が襲来していることを察知している筈だ。時間的にももうリューの姿も見ている。

 セルティの魔法でアストレアの増員が来たと考える、と相手の思考を読んでいるであろうルシアの読みは筋が通っている。

 

 そして、落雷があった場所に割いた闇派閥の人員が避雷針に集まったところで、ルシアがセルティに定期的に魔法を放つように命じた意味が発動する。罠だと察した頃にはもう遅い。セルティの雷撃でその場に居合わせた闇派閥は意識を失い行動不能だ。

 後は全て終わった頃に捕獲すればいい。それまで放置できて楽だし、敵の数も減る。

 

「なんという……っ!」

「アリーゼさん! ライラさんとアスタさんを抱えて魔法で空を飛んで私達より先に倉庫に突入してください。空襲です!」

「……っ! 上から侵入するのね。わかったわ!」

 

 輝夜が、自身の巡らせた思考でルシアの脳内構図(ヴィジョン)に辿り着き、戦慄する頃にはルシアはまたその一手先、11人しかいない仲間で上手く役割分担をした人員補強を実現する。

 アリーゼも輝夜と同じく頭が回る。ルシアの思考に追いつき始め、驚愕する気持ちもあるが、彼女は何より判断と行動の早さで結果を求める性質なため優先順位を明確に即座に決め、動揺や余計な思考は後回しにして二つ返事でルシアの言う通りに動く。

 

「行くわよ。ライラ、アスタ!」

「ちょっ、おい!?」

「わわっ。ちょっと待ってよ!」

 

 二人を抱えて空を跳ぶアリーゼ。

 魔法で靴底から火炎を放出して、出力向上(ブースト)を掛ける。ライラとアスタの反応を置き去りに、あっという間に倉庫へと突入してしまった。

 三人の姿が小さく見えなくなったのを流し目で追って、ルシアは残った面々に片腕を掲げて叫ぶ。

 

「私達は予定通り正規ルートで向かいます! 第2倉庫から侵入し、第1倉庫へ。セルティさんの魔法で外に誘導した敵を背後から討ちます。その後、中央の倉庫で戦闘を行うアリーゼさん達に合流。道中に出くわす敵は本来の予定通りに正攻法で倒していきます。逆サイドからはリューさんが。恐らく第二波を倒した後に我慢できずに乗り込んで来るはずです。これで三箇所同時侵攻、敵は混乱します……っ!!」

 

 ここで作戦の全貌、最終的な構図(メインディッシュ)を提示するルシア。

 彼女の発想力に一同が目を見開き、普段の食いしん坊で呑気な性格とは印象が異なりすぎて動揺する。

 

「ちょっと、ルシアほんとにどうしちゃったの!?」

「いいから()くぞ! 我々は実行するのみ。団長の言葉を思い出せ!」

 

 今は目の前の収束が先決で、追求は後。

 副団長である輝夜が言うことで納得はできないものの誰もが黙る。最後のこの隊列に輝夜を残した意味もここで効果が出た。

 

 輝夜はルシアを見遣る。この娘は、どこまで描いているのか、味方であるのに少し恐怖を感じた。

 そんな彼女の様子に気付きつつも敢えて無視してルシアはこれだけの策を張り巡らせながりも残っていた疑問を彼女に投げ掛ける。

 

「輝夜さん! 闇派閥(イヴィルス)の目的がわかりません。彼らの掃討と同時並行で探るべきです!」

「……っ。まずは奴らを抑える。だが、事情聴取も正直言って厳しいだろう。戦力的にも奴らの口の硬さ的にも、向こうの信仰心という点においてもな」

「それは同意です。ただ、私達が駆けつけることは想定していたはず。このタイミング、この規模なら損害はともかく被害者は出せません」

「つまり、何が言いたい?」

「これは民衆を狙った単純な襲撃ではなく、工場や倉庫の破壊もしくは資源の盗難を狙っての犯行ではないかということです。後者なら何を求めているのかその物的証拠を一つ余さず抑えるべきです!」

「……良いだろう。指示を出す」

 

 ルシアの指摘に一理アリと判断した輝夜は頷きを返す。

 敵の目的を熟考で捻り出そうとしながらルシアは重ねた。

 

「人間、それも集団や組織が起こす事柄には必ず狙いがあります。今後、彼らの活動に直結してくる何かが絶対に存在します。ここで『分からない』を放置したくありません。いえ、いつだって追究を放棄すべきではありません。必ず掴みます! 必要な物的証拠、人的証言その全てを押収してください。お願いします!」

「「「「了解!!」」」」

 

 全員が目標を共有し、倉庫へと突入する。

 第1倉庫にいるセルティの魔法で倒れ伏せている敵を跳び越え、一気に残りの敵が固まっている第3倉庫まで駆け抜けた。

 最後の扉を開けば、既に戦闘を繰り広げているアリーゼとライラ、アスタが。加えて、案の定我慢できずに反対側から突入してきたリューが、ルシア達と同じタイミングで乗り込んでくる。

 

 アリーゼ達から逃げようと二箇所の出口を目指す闇派閥が、その道を阻むように現れたルシア達とリューと目が合って顔面が蒼白する。

 そんな彼らの表情とは裏腹にルシアは思惑通りの展開を実現して、不敵に笑みを浮かべた。

 そして、彼女達は都市に蔓延る悪党共に勇敢に名乗りを上げる。

 

『全ては聖なる天秤が示すまま。願うは秩序、想うは笑顔。その背に宿すは正義の剣と正義の翼! 我ら、【アストレア・ファミリア】……!!』

 

 長きに渡るオラリオの『暗黒期』。

 その中で最も残酷で過酷な『死の七日間』の到来。

 惨く苦しく厳しい、それでも尚、正義を掲げて立ち向かう彼女達が刻む記録(レコード)の始まり。

 そんな現実に対して威勢と姿勢を示すが如く、彼女達【アストレア・ファミリア】、正義を司る女神アストレアの眷属達は象徴を掲げた。

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