原初の竜でも友達が欲しい   作:伊つき

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ナンパ従者捜索記

 

 ルシアの経歴がわかり、一同は改めて入浴と食事を済ませた。

 反省会と正義の問答。そして、今後の活動に向けた決起集会はその後だ。

 全員が集まる前に、輝夜はルシアに近寄り、彼女にだけ聴こえる声量で問いかける。

 

「なぜ今まで黙っていた? いや、それよりもなぜあの知略をこれまで使わなかった? 迷宮探索でも闇派閥(イヴィリス)に捕まった時でもいくらでも窮地(ピンチ)があり、切り抜ける必要があった筈だ」

「……前者は使うまでもないと思いましたので。後者はその時、私に抵抗する意思がなかったからです。それと、できれば使いたくなかったので」

「使いたくなかった? どういう事だ?」

 

 ルシアの返答に疑問を感じた輝夜が眉を顰めて問い返す。

 それに対してルシアは視線を下げ、暗い表情で冷たく言葉を吐いた。

 

「人の命を物のように扱い、ゴミに変えてしまう武器が手元にあったとして、輝夜さんは使いますか?」

「……っ!!」

 

 あまりの衝撃に輝夜が目を開いてルシアを見る。

 その一言にルシアが過去でその知略を使って何をしてきたのか恐ろしく冷たい背景が垣間見えた気がした。故に、その頃について尋ねる。

 

「故郷に。フリテンにいた時に何があった?」

「過去はあまり好きではありません。輝夜さんも同じでは」

「……痛いところを突く」

「先に突いたのはそちらです」

 

 今度は不敵に少しからかうような柔らかい笑みで輝夜を一瞥するルシア。

 してやられたと輝夜は居心地が悪そうにする。

 

「二人とも何こそこそ話しているの? ほら、いつものあれ! やるわよっ!!」

 

 居間の隅にいたルシアと輝夜、そこにアリーゼが呼び掛けてくる。

 どうやら全員集まったようだ。仲間の面が揃っている。

 

「うげっ。あれってあれかぁ? いつもやんなきゃいけないのかよ……。アタシ、小っ恥ずかしくて苦手なんだよな」

「安心しろ、私もだ」

「ライラ、輝夜。真剣にやってください! わ、私は恥ずかしくなどないっ」

 

 アリーゼのいう「あれ」とは彼女たちが恒例的に行う決起表明。正義の眷属としての志の提示だ。

 それをやろうと提案すると決まってライラと輝夜が不満げにする。

 リューがそんな二人を注意するが、その声も羞恥が混じり、震えている。

 

「……」

 

 ルシアはやるのは初めてだが、何度か見学したことはある。

 恥ずかしいとは思わない。ただ、あの宣誓はどうも自分には似合わないと毎回思う。

 正義の剣と翼に誓って、なんて言葉。モンスターの、竜の翼を持つ自分が口にするのは酷い皮肉なんじゃないだろうか。自嘲すら漏れる程に。

 

「ねえ、その前に。お客さんが来たよ」

「来客? こんな時に?」

 

 玄関口を指すセルティにアリーゼが首を傾げてそちらを見遣る。

 工業区での戦闘を終え、食事や入浴もした。日も沈み始めている。

 

 今時の時世を考えたらこの時間に人が訪ねてくるのは珍しい。

 来るとすれば、というより来れるとすれば、よっぽど有力派閥の冒険者か関係が深い【ガネーシャ・ファミリア】だ。

 

「誰なの? シャクティ?」

「男の人だよ。……知らない人」

 

 突然、素性の分からぬ異性が来訪し、セルティが不安げな表情を浮かべる。その様子を察してアリーゼは真剣な顔付きを作り、団員を守る団長(リーダー)としての意識に切り替えた。

 

 そのまま彼女は玄関に向かい、その先で待っている金髪のエルフの男を確認した。彼の元にその足を運び、相手も礼儀正しく両手を前に組んでいたがアリーゼの接近に気付き、認識すると同時に両手は下ろして彼女と向かい合う。

 

「私が【アストレア・ファミリア】の団長、アリーゼ・ローヴェルよ。うちの派閥に何か用かしら?」

「えぇ。まずは謝罪を。不適切な時間に訪問してまい、誠に申し訳ありません。何分予定の合う時がこの機会(タイミング)しかなかったので、このような御無礼をしてしまいした。どうかご理解頂けると幸いです」

 

 アリーゼが声を掛けると、初手の返しは丁寧な前置き。男はエルフに珍しい筋肉質で大きな身体をしっかり三十度程前屈みに曲げて、頭を下げた。

 質問に答えていないことと、彼が言及した無礼についてもアリーゼは思わず顔を顰める。男が自覚しているなら尚更だ。

 

「……せめて事前に連絡(アポ)は取ったりできなかったのかしら。まあ過ぎたことだから別にいいけれど。そこに関しては事情を把握したわ。了承する。それで? そんな急ぎで私達を訪ねた理由を聞かせてちょうだい」

「はい。では、端的に」

 

 少しの憤りと強い警戒を混じらせて喋るアリーゼ。仲間と主神を背後に隠し、決して奥から出ないよう腰に片手を回して命令(ジェスチャー)を送る。

 

 この時世だ。素性不明で非常識なこの男がただの無礼者である可能性が充分に高くとも、アリーゼは気を抜かず、団員の安全を保障する義務がある。

 

 距離を取って顔を覗かせ、様子を見守る団員達の好奇心に勘づきながらも輝夜の責任とライラの危機察知を利用して、彼女達に他の面々を制止させている。

 

 そして、対面する男には隠しきれない強ばった表情も垣間見せてしまうが、基本的には平静を保って真剣な面持ちで向き合う。そんなアリーゼの様子と彼女の問い掛けにエルフの男はフッと小さく息を鳴らしながら口角を上げた笑みを浮かべる。

 

「あなた方、【アストレア・ファミリア】の団員の中にいる崇高なるハイエルフ、我が主(マイ・ロード)。ルシア・マリーン様におめ通り願いたく参上仕りました。どうか彼女と、あの方と会合させて頂きたい」

「はっ? えっ?」

 

 男が紡ぐ一言一句にクエッションマークを増やし続けたアリーゼが戸惑いながら振り返る。

 盗み聞きしていた団員たちも、彼女達の背中に埋もれていた小さなエルフの仲間、ルシアに注目する。突然、全員が自分の方を向き、ルシアはギョッと驚いた。

 

「えっ。何です? 急に。皆さん、どうしました?」

「……おい、ルシア。あいつ、お前のこと知ってるみたいだぜ。会いに来たってよ。ホントに知り合いか?」

「え?」

 

 言われてルシアがみんなをかき分けて少し前に出る。アリーゼはさり気なく横に動いてルシアの進行ルートの障害になりつつ男の姿が見えるような位置取りを選んだ。男を警戒して自分より前に行かせないために。自分の背後に隠しつつ男を確認できるようにしたのだ。

 

 ルシアはアリーゼの影から覗き込む。すると、男と目が合い、男はルシアの姿を目に焼きつけると瞳孔が開いた。対するルシアは男の言動が一致するかどうか彼の素性を自身の記憶に検索をかける。が、心当たりなし。

 

「えっと、お名前を伺っても?」

「はい。勿論。マリウス・ガウェンです。ルシア様」

 

 彼の口から告げられる名。それを聞いて、ルシアの記憶(リソース)内の|想起【アクセス】が加速する。

 ジッと見つめて硬直。熟考と一致、想起と発覚からの衝撃が瞬間的に起こることで同時に態度に表れる。そして、それらが一瞬の間に処理された後、ルシアは驚きと共にアリーゼの後ろから飛び出して彼に駆け寄った。

 

「マリウス・ガウェン……って、ぇ…………。えっ!? マリウス・ガウェン君!? マリウス君ですか!」

 

 ようやく自分のことを思い出したルシアに男が、マリウスが心底悦びを見せた笑みを浮かべる。頬に火照りが出る程に。その様子は、間違いなく成人しているのにそれを感じさせないほど少年のような無邪気さを含んでいる。

 

「イエス! 我が主(マイ・ロード)。私です、ルシア様! 貴女様に仕えた生涯たった一人の従者、マリウスでございます。あぁ、我が主よ。フリテンから旅立った貴女を追いかけ、貴女を求めて何万里。今まさに求め続けた会合の瞬間! この時をこのマリウス、待ちわびておりました」

「そうですか! 見違えました。ご立派になられて……お父上は息災ですか?」

「あぁ、なんと。愚かな我が父にまで気遣いを。素晴らしきお方。聡明の極み。慈悲深きその心に再び触れることができ、感服でございます。我が愚かなる父は相も変わらず凝り固まった価値観と共に健在です!」

「なるほど。お元気そうですね、良かった」

 

 男を、マリウスを警戒し、ルシアを心配して庇っていた【アストレア・ファミリア】の面々が唖然とした態度で置いてけぼりをくらうのを他所に、ルシアはマリウスの前で興奮。マリウスもそんなルシアとの時間を噛み締めるように声が張っている。

 

 だが、それをいつまでも見てる訳にはいかない。ルシアが仲間で、ファミリアの一員だからこそ皆が抑えきれずに各々動き出そうとしたところを、片腕を出すだけで制止して、アリーゼが口を挟む。

 

「ルシア。そろそろいいかしら? 私達にもこの状況を説明して」

「あっ。はい! すみません、あまりに懐かしい相手で失念していました」

「それは、いいのよ。気持ちは理解できるし。それと私達が聞きたいこと、貴女なら全部わかってるわよね? 特に一番聞きたいのは何かってことも」

「……!」

 

 アリーゼの指摘にルシアが目を見開く。刹那、マリウスがやってきて述べた発言。ここまでのやり取りを脳内で再生する。

 ルシアは自分が何を説明しなければならないのか。義務があるのか。瞬時に理解した。故に、()()に報告する。

 

「アリーゼさん。そして、【アストレア・ファミリア】の皆さん」

 

 マリウスを背後に仲間と正面から向き合った。

 ルシアは言葉を冷静に紡ぐ。話を聞く彼女達も逸る気持ちはあるが、ただ待った。これが、アリーゼ・ローヴェルが築き上げた統制。普段の雰囲気を有しつつ彼女が団長とたる所以、その能力。誰もが固唾を飲んでルシアの話を聞く。

 

「彼はマリウス・ガウェン。私と同じくフリテンの森……いえ、フリテンの王森から来たエルフです。そして、私はルシア・マリーン。()()()()()。フリテンの王森にて生を受けた王族の端くれにあたります」

 

 彼女は続ける。

 

「私はハイエルフとして、学区から来た家庭教師に様々なことを教わり、高等教育を受けていました。その環境下にて作戦考案能力の才が自分に備わっていることを発見し、教育過程においてそこを伸ばすようにフリテン王から告げられ、最終的に抗争(せんそう)に起用されました」

 

 次に、マリウスを見遣る。

 

「彼は私が戦場に駆り出された直後に私の論文を読んで王族のパーティに参加し、そこで私と意図的に出会いました。その数年後、私の従者としての採用試験を突破し、私の従者に。ですが、私が森を出た時に彼とは雇用関係を破棄して私は旅に出ました。特に事情を説明せずに私がいなくなったので彼も私を求めて旅に出た。そして、今に至るといった感じです」

「ありがとう、ルシア。貴女にも色々あって自分のことを話したくなかったのはわかるわ。そして、今も話したくないことがあって、伏せていることがある。そこを私()は追求しない。いいわね?」

『……っ!』

 

 アリーゼが輝夜たちの方へ振り返って目で訴える。確認ではない。要求でもない。これは、命令だ。彼女の瞳に、視線に込められた力強さが理解を()()した。

 

 その威圧に負けて正義の眷属達は押し黙り、無言で頷く。しかない。リューだけは溢れ出そうなものがある、そんな表情の動きを見せるが、アリーゼがそれ以上を許さない。リューも最後にはただ俯いた。

 その全ての行動を確認して、アリーゼはまたルシアと向き合う。

 

「ルシア。貴女がハイエルフだったなんて私達は知らなかった。それに、貴女の故郷……フリテンの森が王森だったことも知らなかった。私はエルフの王族とか正直あんまり詳しくないけど、でもリューやセルティが貴女の故郷の名を聞いても何も反応を示さなかった。そして、貴女の口から聞いた話でその森が何か危険な思想を抱えてること、抗争なんてしてたならエルフの中で噂になってるはずなのに、リューやセルティから言及がなかったこと。私、色々気にかかってるの。わかる?」

 

 皆の気持ちを一部代弁すると同時に自分自身のモヤを晴らしたい意味でも尋ねた。

 彼女の求めにルシアは少し目を逸らしてから、また目を合わせて応える。

 

「はい。アリーゼさんの予感は正しいです。私のいたフリテンの王森はエルフの森の中でも異常な場所でした。独自の王、極秘の内政を抱え、まさに危険な森。そんなところです。だから、リューさんやセルティさんも私がハイエルフだとは気付かなかった。私の森について、何も知らなかった」

「……」

 

 半分本当で半分嘘。それに反応するように服の下でルシアの尻尾が僅かに揺れ動く。アリーゼの背後で輝夜の肩が微動した。

 

「今まで黙っていたことを謝ります。でも、皆さんを信頼してなかった訳でも、何か企みがあった訳でもないです。それだけは確かです。私が自分のことを何も明かさなかったのは、特殊すぎる経歴で信用して貰えない可能性があったことと、明るい話ではなかったからです」

「私達を気遣った面もあったって……?」

「はい。まあ、今更言っても言い訳にしか聞こえないのは承知の上です」

 

 ルシアは目を伏せる。もうこの状況下では正直に話しても全て解決するわけではない。

 ただ説明して、アリーゼ達が大人になって飲み込むしかない。そういう状態だ。その上で、どうしても我慢できない部分をアリーゼが代表して吐き出す、そのやり取りをしていく必要がある。

 

「……アストレア様があんたを拾ってきた時、素性を調べず、アストレア様と私達の慈善精神を信じすぎた責任は私達にもある。だから、貴女が一方的に悪いとは言わないわ。うん、だからここまでルシアが隠し事してきたのは少しだけ私達の責任でもある」

 

 そこまで言って、アリーゼも目を伏せる。

 そして、開いた時にはパン! と手を叩いて笑顔を見せた。ルシアがその変貌を前に目を丸くする。

 

「はい! 終了! これ以上は話し合っても不毛! 何を追求しても晴れること無し! ルシア、貴女がハイエルフだってこと、貴女が酷い環境にいてそこから逃げ出してきたこと、全部知った。そして、それを隠してた。でも、もう関係なし! 仲間なのは継続! はい、異論ある人いるかしら!?」

 

 アリーゼが皆に問いかける。

 リューを筆頭に思うところはあってもルシアは仲間、その結論だけは全員が曇りなく納得できる唯一の箇所だった。

 

 隠し事の一つや二つ、ましてやルシアの内容ならそこは絶対に覆らない。

 少なくとも彼女達の価値観は、正義は、【アストレア・ファミリア】がそう判断した。それを確認してアリーゼはルシアに微笑みかける。

 

「ルシア、改めてこれからもよろしくね。それと、貴女が話したいと思った時でいいから、その時は私達に貴女の事もっと教えてちょうだい」

「……はい。もちろんです」

 

 アリーゼとルシアが握手を交わす。

 その流れのままアリーゼはマリウスと向き合った。

 

「ごめんなさい。貴方にとってルシアとの再会は凄く大きな瞬間だったと思う。それを邪魔して、本当に申し訳ないと思ってるわ。でも、今この時間は私達とルシアにとって、どうしても必要だったの。ルシアとこれからも一緒にやっていきたいから。どうか、理解してくれると嬉しいわ」

 

 アリーゼの礼儀にマリウスが小さな笑みを零す。

 

「構いませんよ、レディ。私としても我が主が今いる場所のことを知れて幸運でした。素晴らしき統率者である貴女が率いるこの派閥、その様子を今ここで見れば、ルシア様がお気に召すのも分かります。それに、ルシア様がどう生きるか、どこに生きるかは自身が決めること。私はただお傍に仕えればそれにて至福です」

 

 そう言って片手を胸に、腰を折るマリウス。

 そんな彼の態度にアリーゼは応えたくなった。

 

「ルシア。今日はもう自由にしていいわよ。積もる話もあるでしょう?」

「なっ!? アリーゼ、よくありま―――んぐっ!?」

 

 アリーゼの決定に意見をしようとしたリューの口をアリーゼが塞ぐ。セルティも口を挟もうとしたがリャーナに制された。

 二人とも、ルシアがハイエルフであることにこれまでの無礼やこれからの敬意などエルフとして触れておきたいことがあるのは簡単に予測できた。

 

 リューはルシアが隠していたことにも言及したかっただろう。だが、彼女達には悪いが、それらは後回しでいいとアリーゼは俯瞰的に優先事項を分析して導き出した。

 彼女達を抑えている間、輝夜がアリーゼの意見を後押しする。

 

「ルシア。団長の言う通りにすればいい」

「えっ? で、ですが」

「……!」

 

 輝夜が協力(サポート)してくれたのは予想外だった。戸惑うルシアが目線を泳がせるのと同時にアリーゼが一瞬輝夜を二度見する。当の本人はそれに気づかないふりをした。当然、フリをしていることにアリーゼは勘づいている。

 一連の流れを踏まえた上でマリウスも前に出る。なぜか、ルシアより前に。彼女に見向きもせずアリーゼの元に。

 

「団長殿のお気遣い、痛み入ります。ここまでの対応も含め、素晴らしき人格のようだ。そして、美貌まで有してらっしゃる。レディ、もしよろしければ貴女の申し出通り我が主と過ごす時間を頂き、貴女にも同席願いたい。貴女のような魅力的な女性と時間を共にできるならばなんと素晴らしいことか」

「あら! 貴方、すっっっっごく見る目があるのね! そうよ、私とっっても美して最高の女性なの。あぁ、事実とはいえ貴方、褒め上手ねっ! 誘いに乗ってしまいたくなるわ」

 

 おっと? 話の方向が、雲行きが怪しくなってきたぞ。突然構築される二人だけの世界。否、マリウスだけが一方的に送る想い。アリーゼは持ち前の自己肯定感で乗ってるように見せて、これは社交辞令だ。こういう時、いつも遅れて断り文句を付属させる。

 

 だが、今回はそれより前に、自分の元従者の悪い癖を思い出し目を伏せるルシアとあまりに急な展開に目を見開いて硬直するしかなかった輝夜を置いて、ライラが声を上げた。

 

「おい! 余計なこと言うな、色男! うちの団長はそういうこと言われるとウザイくらい調子に乗るんだよ……!」

「アリーゼさん。マリウス君は胸囲がふくよかな女性にはみんな同じような口説き文句を言います。どうか真に受けないでください」

 

 ライラの後に反応できたルシアが注意を重ねる。

 

「あら。そうなの? なんだ、残念ね。ようやく神様にだって負けないこの私の美しさが公私共に認められたと思ったのに。不特定多数に言ってるならその手を取るのは嫌っ!」

「おぉ……なんと。しかし、これは我が主が私に与えた試練。手厳しい、しかし愛を感じます」

「えぇ……どうやったらそんな捉え方できるんですか。なんですか。無敵なんですか? 私はただ注意喚起しただけなんですけど。ていうかまだ直してないんですね、その癖」

 

 マリウスの開き直り方にルシアが戸惑い、呆れかえる。

 と、その時、ルシアの目にとある紋章が映った。マリウスの腰に軽く紐で結び付けられた、丸く筒状にされている書類。それが透けて記されていたものが見えたのだ。

 そして、その紋章はファミリアの持つそれだった。

 

「あの、マリウス君。君はファミリアに所属しているんですか?」

「……!」

「すみません。マリウス君の持ってるその書類の中身が少しわかってしまって」

「あぁ、なるほど。さすがは我が主。よくお気づきになられる」

 

 目敏く、鋭い。そんな視点にマリウスが感心し、すぐに主の疑問に答える。

 

「ルシア様の仰る通り、今は都市外の派閥に所属しています。この書類は都市で活動する為のギルドから頂いた許可証になります」

「差し支えなければ私に教えてくれますか? マリウス君がお世話になってるなら知りたいです」

「えぇ。勿論。私の所属する派閥は【グィネヴィア・ファミリア】です」

「わかりました。後日、伺います」

 

 ルシアはマリウスから女神グィネヴィアの情報を聞き出し、いつか会いに行くことを約束した。

 

「……っ」

 

 その後ろでアストレアは動揺していた。

 マリウスが口にしたその名称、神の名に。耳に入れた瞬間、アストレアは背中しか見えないルシアに様々な感情を込めた視線を送る。ルシアは知らない。グィネヴィアがバルドルと同じものを司っていることを。

 止まった時間の中でアストレアは明日一人の神に会いに行く予定を確定させた。

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