原初の竜でも友達が欲しい   作:伊つき

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光と正義の対面

 

 正義の眷属達が都市を巡回(パトロール)する裏で、二柱の神がお茶を飲み交わしていた。

 女神二柱が昼間に優雅な時を過ごすには、その雰囲気は下界の人間(こども)達が神に抱く神秘的な印象から程遠い緊張感が少しだけ二人の間に走っている。

 

 が、事情を知らない人間(こども)達が見れば、さぞ高貴に見えることだろう。

 何より神員(メンツ)神員(メンツ)だ。『正義』と『光』、司る物としてこれほど高尚な二物はないだろう。

 

「突然呼び出してごめんなさい、グィネヴィア。都市に、一時的に滞在している身の貴方を呼び出して。きっと無い時間の中から私と話す機会を見繕ってくれたのでしょう?」

 

 一方は正義を司る女神、アストレア。運ばれてきたカップに触れもせず、自身の無理な頼みを聞いてくれた相手への謝意を優先する。

 対するもう一方、彼女にグィネヴィアと呼ばれたのは光を司る女神。腰まで真っ直ぐ伸びた艶のある黒髪は、生真面目そうな印象を与え、整った顔立ちは物静かで綺麗系の顔立ちをした彼女はカップに口を付け、多少含んだ後に、目線だけを上げる。

 

「構いません。()()まだ時間があります。それで、私に何の用でございましょうか。貴女と私は同郷でないどころか天界でも面識もなかった筈ですが」

 

 貴族のようなお淑やかな口調と態度を取るグィネヴィア。

 彼女の言う通り、二人に接点はない。故に、警戒、というまでではないがグィネヴィアは不信感を抱いている。

 アストレアの人柄は天界では有名だ。

 

 噂通りなら彼女が悪意を持って接してくることはない。また、それを差し引いても彼女を象徴するものの内容を考えれば、そこまで構える必要が無いのもわかっている。

 それでも、アストレアに声を掛けられる覚えがない。グィネヴィアの態度は至極当然だ。

 

「昨日、貴女の眷属が私の本拠(ホーム)に来たの。マリウスと名乗っていたエルフだったわ」

「……!」

 

 その一言で彼女が接触してきた理由が理解できた。彼が自身の元を離れ、行動していた訳をグィネヴィアは知っている。

 そして、彼はアストレアの元に、彼女の眷属の前に現れた。つまり、彼が求めていた者はそこにいた。そして、今に至る。点と点が繋がった。

 

「なるほど。そういうことでしたか。それは、私の眷属が失礼しました。突然訪問して迷惑だったでしょう」

「それはいいの。私の眷属(こども)達も彼の事情を汲み取ってあげたわ。それよりもマリウスが会いたがっていた私の眷属、ルシアに貴女が都市にいることを知られたのが今、問題なの」

「はい?」

 

 事情は分かっていたつもりだったグィネヴィアが顔を顰める。

 その様子を見てアストレアは説明した。

 

「ルシア・マリーン。私の眷属でマリウスの主だったあの()は以前、貴方を探していたの。目的は安楽死。あの()は特殊な境遇で……バルドルの噂に期待したの」

「なるほど。彼の『救済』を目当てに、半怪物(モンスター・ハーフ)の境遇から逃げようとしていた訳ですか」

「……っ! 貴女ルシアのことを知っているの!?」

 

 思わずアストレアが顔を上げて声を張る。

 グィネヴィアはそれに対して特に動揺することもなく淡々と返した。

 

「えぇ、まあ。マリウスに聞いていましたし、情報を整理すれば状況もなんとくは分かります。最初は勿論驚きはしましたが、私には関心のないことなのでそれ以降は特に気にする事はなかったですね」

 

 どうやら彼女は半怪物(モンスター・ハーフ)に対して何も思うことはないようだ。人間よりも神の方が確かに受け入れやすいだろう。

 それを踏まえても彼女は淡白だが。

 

 まさに無関心といったところか、多くの神が同じ状況ならば弄ぶか危険視する可能性が高い中で希少といえば希少だろう。

 これもまた光を司る彼女だからの対応なのだろうか。

 だが、次の瞬間は真逆の覚めた目付きとなった。

 

「しかし、迷惑な話です」

「えっ……」

 

 突然不快感を全面に出てきたグィネヴィアにアストレアが困惑する。

 グィネヴィアは構わず続けた。

 

「確かに私もバルドルも強力な神の力(アルカナム)を有しております。ですが。人間(こども)達に私的に利用することなどありませんわ。邪神ならこの力を使って信仰でもさせて命を弄ぶかもしれませんが……バルドルも私もそのような神ではありませんの」

 

 遺憾だと述べるようにグィネヴィアの機嫌は分かりやすいほどに悪くなる。

 彼女はさらに続ける。

 

「それに。私が司るのは厳密には『光』ではなく、『(ひじり)』。高貴を極めた結果、光もまたそこに含まれるというだけの話……」

 

 何から何まで見当違いだと発覚し、アストレアは慌てて謝る。

 

「そ、そう……それは嫌な思いをさせてごめんなさい。でも、安心してちょうだい。恐らくだけれどルシアにもうその気はないわ。貴女の名前が身近になる前の話だけどそう言ってたの」

 

 グィネヴィアを宥めるアストレア。

 彼女はカップに口をつけたあと、折りたたんだハンカチで口元を拭く。そして。目を細めた。

 

「もしその方が私の前に現れ見当違いなことを求めたら……それ相応の対応をさせていただきます」

「え、えぇ。もちろんよ。それにそんなこと起こらせないように尽力するわ」

「当然です」

 

 とにかく、信者のような存在が神の力(アルカナム)を利用して楽になりたい、そんな思想で近づかれてはいい迷惑のようだ。

 それがわかって、アストレアは少し安心した。グィネヴィアには申し訳ないが、彼女に悪意がないのならルシアにその気がない限り問題は起きない。あとはルシアが何を思うかだ。

 

「ところでグィネヴィア、貴女はどうしてオラリオに来たの? 都市外で活動する貴女のファミリアがわざわざギルドに許可まで貰って滞在しているんでしょう?」

「……商業系の派閥なら漏洩問題ですわ。ロキのように不躾な質問だこと。貴女も噂とかなり異なるようですわね」

 

 グィネヴィアがアストレアに投げかけられたことにまた眉を顰める。二人とも互いに印象と噂でしか知らない。が、故にすれ違いが酷い。

 グィネヴィアは噂に聞いてた聖(じん)にこうも失礼を働かれるとは思っておらず、ずっと気分が悪い。まあ困惑の方が勝っているが。

 

「私が……私達が都市に来たのは情報が入ったから、というのが理由ですわ」

「情報?」

「えぇ」

 

 短い返しに頷きで応える。

 グィネヴィアはバベルを見上げる。その動きすらも貴族のような彼女は麗しく映る。

 

「今、都市には我々が求める『標的』がいますの。私達は、()()を試す為に挑みに来たのですわ」

「……! 貴女の眷属が誰かと戦うの?」

 

 今度は頷きもしない。グィネヴィアは暫くアストレアと対峙した後、瞼を伏せて立ち上がった。

 

「もうすぐその標的が動き出しますの。申し訳ありませんがこれ以上は失礼致します」

「え、えぇ。ごめんなさい、私の都合で時間を取らせてしまって」

「いえ」

 

 グィネヴィアは二人分の支払いを済ませて退店する。

 女神との対談を終えて、彼女は再び都市の中央に聳える白亜塔、バベルを見つめた。厳密には、その下にある魔境を。

 

 あの迷宮(ダンジョン)に最も多く挑み、あの大穴から出てきた怪物にトドメを刺し、オラリオの暗黒期における闇派閥(イヴィルス)の最大戦力を叩いた。そんな英雄的な行為をした者達がいる。

 もう時期起こるであろう波乱はその男神にとって実に好都合な状況になるのだ。

 

「利用させてもらいますよ、エレボス。貴方の作る舞台を、次代を担う英雄の育成に」

 

 裏で糸を引く神の名を呟く。彼が率いる悪意も、彼の神意(しんい)も、都市の危機もグィネヴィアからすれば興味の範疇にない。

 意識はたった二人の英雄。それのみだ。

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