正義の眷属達が都市を
女神二柱が昼間に優雅な時を過ごすには、その雰囲気は下界の
が、事情を知らない
何より
「突然呼び出してごめんなさい、グィネヴィア。都市に、一時的に滞在している身の貴方を呼び出して。きっと無い時間の中から私と話す機会を見繕ってくれたのでしょう?」
一方は正義を司る女神、アストレア。運ばれてきたカップに触れもせず、自身の無理な頼みを聞いてくれた相手への謝意を優先する。
対するもう一方、彼女にグィネヴィアと呼ばれたのは光を司る女神。腰まで真っ直ぐ伸びた艶のある黒髪は、生真面目そうな印象を与え、整った顔立ちは物静かで綺麗系の顔立ちをした彼女はカップに口を付け、多少含んだ後に、目線だけを上げる。
「構いません。
貴族のようなお淑やかな口調と態度を取るグィネヴィア。
彼女の言う通り、二人に接点はない。故に、警戒、というまでではないがグィネヴィアは不信感を抱いている。
アストレアの人柄は天界では有名だ。
噂通りなら彼女が悪意を持って接してくることはない。また、それを差し引いても彼女を象徴するものの内容を考えれば、そこまで構える必要が無いのもわかっている。
それでも、アストレアに声を掛けられる覚えがない。グィネヴィアの態度は至極当然だ。
「昨日、貴女の眷属が私の
「……!」
その一言で彼女が接触してきた理由が理解できた。彼が自身の元を離れ、行動していた訳をグィネヴィアは知っている。
そして、彼はアストレアの元に、彼女の眷属の前に現れた。つまり、彼が求めていた者はそこにいた。そして、今に至る。点と点が繋がった。
「なるほど。そういうことでしたか。それは、私の眷属が失礼しました。突然訪問して迷惑だったでしょう」
「それはいいの。私の
「はい?」
事情は分かっていたつもりだったグィネヴィアが顔を顰める。
その様子を見てアストレアは説明した。
「ルシア・マリーン。私の眷属でマリウスの主だったあの
「なるほど。彼の『救済』を目当てに、
「……っ! 貴女ルシアのことを知っているの!?」
思わずアストレアが顔を上げて声を張る。
グィネヴィアはそれに対して特に動揺することもなく淡々と返した。
「えぇ、まあ。マリウスに聞いていましたし、情報を整理すれば状況もなんとくは分かります。最初は勿論驚きはしましたが、私には関心のないことなのでそれ以降は特に気にする事はなかったですね」
どうやら彼女は
それを踏まえても彼女は淡白だが。
まさに無関心といったところか、多くの神が同じ状況ならば弄ぶか危険視する可能性が高い中で希少といえば希少だろう。
これもまた光を司る彼女だからの対応なのだろうか。
だが、次の瞬間は真逆の覚めた目付きとなった。
「しかし、迷惑な話です」
「えっ……」
突然不快感を全面に出てきたグィネヴィアにアストレアが困惑する。
グィネヴィアは構わず続けた。
「確かに私もバルドルも強力な
遺憾だと述べるようにグィネヴィアの機嫌は分かりやすいほどに悪くなる。
彼女はさらに続ける。
「それに。私が司るのは厳密には『光』ではなく、『
何から何まで見当違いだと発覚し、アストレアは慌てて謝る。
「そ、そう……それは嫌な思いをさせてごめんなさい。でも、安心してちょうだい。恐らくだけれどルシアにもうその気はないわ。貴女の名前が身近になる前の話だけどそう言ってたの」
グィネヴィアを宥めるアストレア。
彼女はカップに口をつけたあと、折りたたんだハンカチで口元を拭く。そして。目を細めた。
「もしその方が私の前に現れ見当違いなことを求めたら……それ相応の対応をさせていただきます」
「え、えぇ。もちろんよ。それにそんなこと起こらせないように尽力するわ」
「当然です」
とにかく、信者のような存在が
それがわかって、アストレアは少し安心した。グィネヴィアには申し訳ないが、彼女に悪意がないのならルシアにその気がない限り問題は起きない。あとはルシアが何を思うかだ。
「ところでグィネヴィア、貴女はどうしてオラリオに来たの? 都市外で活動する貴女のファミリアがわざわざギルドに許可まで貰って滞在しているんでしょう?」
「……商業系の派閥なら漏洩問題ですわ。ロキのように不躾な質問だこと。貴女も噂とかなり異なるようですわね」
グィネヴィアがアストレアに投げかけられたことにまた眉を顰める。二人とも互いに印象と噂でしか知らない。が、故にすれ違いが酷い。
グィネヴィアは噂に聞いてた聖
「私が……私達が都市に来たのは情報が入ったから、というのが理由ですわ」
「情報?」
「えぇ」
短い返しに頷きで応える。
グィネヴィアはバベルを見上げる。その動きすらも貴族のような彼女は麗しく映る。
「今、都市には我々が求める『標的』がいますの。私達は、
「……! 貴女の眷属が誰かと戦うの?」
今度は頷きもしない。グィネヴィアは暫くアストレアと対峙した後、瞼を伏せて立ち上がった。
「もうすぐその標的が動き出しますの。申し訳ありませんがこれ以上は失礼致します」
「え、えぇ。ごめんなさい、私の都合で時間を取らせてしまって」
「いえ」
グィネヴィアは二人分の支払いを済ませて退店する。
女神との対談を終えて、彼女は再び都市の中央に聳える白亜塔、バベルを見つめた。厳密には、その下にある魔境を。
あの
もう時期起こるであろう波乱はその男神にとって実に好都合な状況になるのだ。
「利用させてもらいますよ、エレボス。貴方の作る舞台を、次代を担う英雄の育成に」
裏で糸を引く神の名を呟く。彼が率いる悪意も、彼の
意識はたった二人の英雄。それのみだ。