原初の竜でも友達が欲しい   作:伊つき

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巡回と勇者の伝令

 

「これで巡回は終わりだ、ルシア。戻るぞ」

「はい」

 

 輝夜に告げられ、連れられて本拠(ホーム)への帰路につく。

 巡回は特に問題なく……という訳にいかないのが今のオラリオ。毎日小さいことからギルドが対応する程の大きい事態までよく起きる。

 

 今日に限っては慈善活動で処理できる案件ばかりだった。窃盗、喧嘩、詐欺。闇派閥(イヴィルス)が関わらずとも、経済だけでなく心まで貧しくなった都市の民達は日々他人を蹴落とし合う。

 輝夜とルシアはそれを淡々と介入して解決した。

 

 ルシアの素性の事もあり、輝夜は彼女と行動すること、組むことを名乗り出るようにしている。無論、仲間達には多少怪しまれたが、ルシアが頼んでいるという呈を本人が公言したこともあって、無理やり納得してもらった。

 そこまではいいのだが……輝夜はルシアと組む上でいくつか気づいたことがある。

 

「ルシア、お前と組むのは悪くない。寧ろ、事態に対する基本的な対応が共通している。何事も事務的に処理できて効率がいい」

「そうですか? それなりに輝夜さんのやり方にも口を出した気がしますが」

「確かに。多少意見に食い違いはあったが、リオンやライラ程ではない」

 

 ルシアは意外と容赦がなかった。罰するべきは罰し、しかるべき対処は行う。

 輝夜と違うのは裁量くらいだ。だが、そんなものは当然の範疇。ごく自然の摂理。個人によって自論が異なるのだから。

 

 優しさは持っているが、甘さは有していない。二人は相性が割と良い。

 故に、二人でやる仕事は実に淡白なものだった。

 

「輝夜、ルシア!」

「「……!」」

 

 寄り道もせず真っ直ぐ歩いていた二人の元へネーゼが混雑の中から現れて声を掛けてくる。

 駆け寄ってきた彼女に輝夜は様子と状況から事情を察して先に反応する。帰りを待たずに迎えに来たということは、何が待っているのかルシアにも想像できた。

 

「おう。ライラから伝令が入った」

「……指示してきたのは」

「あぁ、そのライラがお熱のあの【勇者(ブレイバー)】からだ」

「ブレイバー?」

 

 ルシアが首を傾げる。

 都市じゃその名を知らない者など探す方が難しい超がつくほどの有名人。それを知らないという彼女にネーゼと輝夜が驚愕で思わず二度見する。

 

「知らないのか!? オラリオで初めて会ったぜ、そんな奴!」

「そ、そんなにですか」

「……都市二大派閥のうち、一つが【ロキ・ファミリア】。その団長がフィン・ディムナという小人族(パルゥム)の男だ。二つ名は【勇者(ブレイバー)】。ルシア、お前ならば都市に来て日が浅く知識が薄くとも即座に情報を収集し全て熟知するものだと思っていたが、意外だな」

「す、すみません。オラリオには後ろ向きな理由で来ましたし、長居することになるとは思ってなかったので……。都市の地図なら暗記していますが」

「何? まさか、ダイダロス通りもか?」

「えぇ、まあ」

「「なっ!?」」

 

 今度は意味が異なる驚愕と二度見。さっきは無知に、今は知識量に。

 

「【勇者(ブレイバー)】を知らないってのもヤバいが……! ていうかそっちの方がすげぇよ!」

「まあ人物を知ることも大切ですが、どこで戦うか分からない時代ですので、戦術を組む上でまず土地を把握していくことが重要と考えて優先しました」

「……! そうか」

 

 ルシアの言い分に、確かに理にかなっているとその論を呑み込む輝夜。

 彼女の脳内、その効率に目を見張らざる負えない。言い分から考えて、恐らくダンジョンの地図も読み込んでいるもしくは学習途中だろう。

 

 ダイダロス通りを含む都市、ダンジョンの地形その全てを把握していついかなる時の戦いにも対応出来るようにする。

 それは戦術を組む上でも地形を利用できるし、相手の戦術も地形の関係で不可能な策がわかるので敵の選択肢を消去法で絞ることができる。

 

 つまり、戦術における考案と予報、その両方に有効な作用が表れるのだ。

 それを理解していて、だからこそ最初に着手した。学習量は多いが、敵対するかわからない者もいる都市関係者の相関よりも大きな効果を得られる。

 

 極論、相手は【勇者(ブレイバー)】のようにルシア以上の知恵と発想、対応力を持っているような人物以外は地の利さえ得ていれば対処できるのだ。

 ルシアは、【アストレア・ファミリア】として都市の問題と向かい合い、闇派閥(イヴィルス)だけでなく様々な対立を行う可能性がある中で、最初に為すべき行動はそれだと一番最初に断定した。そこまで読み取れた輝夜は、内心で唸るしかない。

 

「それで。話が逸れましたが、何かあったんですか? ネーゼさん」

「あっ。そうだった! 今、ダンジョンで闇派閥(イヴィルス)が冒険者狩りを―――」

 

 ネーゼが説明しようとしたその時。彼女の背後に人を掻き分けて飛び出てきた者が二人。凄まじい緊迫的な形相のエルフがアリーゼとライラの制止を振り切っていた。

 そして、通行人が振り返る程の大きな声を出す。

 

「「ルシア! ……じゃなくて、ルシア様!!」」

「うわ! 何やってんだよ、アリーゼ! ルシアと輝夜には私一人で伝えに行くからエルフ共は抑えてろって言ったろ!?」

「ご、ごめんなさい! 実は」

「悪い! しくじった!」

 

 事情を説明しようとして人混みに妨害されたアリーゼの代わりにライラが叫ぶ。

 ネーゼは顔を顰めて、輝夜は表情を険しくした。そんな周囲の反応が視界にすら入っていないリューとセルティはルシアの前に滑り込むように入り込んで、取り囲む。

 

「ルシア様! 自ら巡回なさるなんて……私は反対したんですけど、でも、お疲れ様です! ルシア様が見回ったのなら都市のエルフ達もきっと安心できたと思います!」

「ルシア……様。闇派閥(イヴィルス)が現れました。ですが、ご安心を。私が成敗します!」

「あぁ、えっと。落ち着いてください。この前も言いましたが今まで通り接して頂いて大丈夫ですよ」

 

 ルシアがハイエルフと発覚して以降、特にセルティの態度が一変してしまった。

 何より同じ派閥内にいるとなると変な意識が働いて謎の責任感を帯びた護衛精神が四六時中作動するようだ。

 

 最も近くにいるエルフとして、従者とまではいかなくとも義務が発生すると思い込む。種族の思想が強い傾向にあるエルフではよくある話、だが正直当の本人もアリーゼ達も困っている。

 故に、巡回もルシアに付くと騒いでならなかったが、ルシアの事情と態度を見て輝夜が強引に引き剥がした……というのが経緯である。

 

「いえ。そういう訳にはいきません。これまで黙っていたことに言いたいこともありますが、エルフでありながらその高貴な御身に気付かなかった我々の落ち度もある。その分、これからは仲間という特別な立ち位置を許されている我々が貴女を御守り致します」

「そうですよ! 御守り致します……!」

「おい、もうずっとこんな感じだぞ! エルフ厄介すぎる。なんとかしてくれ!」

「全く。エルフというのは……」

 

 ルシアの言葉も聞かず熱量を見せる二人のエルフにネーゼが心底疲れ、輝夜がルシアの正体がバレないように気を遣うことなども考えて面倒事が増えたことと、目の前の鬱陶しい態度に青筋を立てる。アリーゼは苦笑い、ライラはネーゼと同じだ。

 

 今この瞬間だけならまだしも、ルシアがハイエルフと分かってからずっと同様の熱量(ハイテンション)で暴走するのだから仕方ない。

 ルシアもこの事態は彼女達の為になんとかしなくてはと考えを巡らせている。

 

 いつまでも輝夜に甘える訳にもいかない。それに、あまりにつききっきりだったり距離を詰められると半怪物(モンスター・ハーフ)だと発覚してしまう。

 それだけは避けなくては。

 

「リューさん、セルティさん。本当にやめてください。私はハイエルフと言っても田舎貴族のようなものでしたし、ハッキリ言ってそういう態度は迷惑です。今まで通りがいいです、お願いします」

 

 ここまでくれば彼女達を折らせるには率直(ストレート)な表現で止めた方がいい。そう結論づけたルシアはわざと少し強い言葉を使う。

 すると、リューもセルティも途端に目が泳いだ。

 

「し、しかし……」

「お願いします」

 

 簡単には引き下がれないリューが言い淀むが、ルシアが畳み掛ける。

 真剣に頼むルシアにリューとセルティは押し切られた。

 

「わ、わかりました……」

「ご、ごめんなさい……」

「よろしい。それで、何の指令が入ったんですか?」

「あぁ、えっと。冒険者狩りがあったんだよ」

「……! なるほど。今から行くとなると間に合いませんね。早く向かいましょう。輝夜さん」

「わかっている」

 

 ルシアがエルフを統率し、ネーゼが呆気に取られていたところ何とか返事をする。輝夜はすぐに相槌を返した。

 一同は都市のどこにいても見える白亜塔の下、迷宮を目指して走り出す。その道中でアリーゼはルシアの隣に並んで尋ねた。

 

「ルシア。何か考えない?」

「少し練ります。時間をください」

「こうしている間にも犠牲者が出ている。猶予はない」

「はい。ダンジョンに入るまでには結論を出します」

 

 アリーゼ、輝夜、ルシアの三人で冒険者を救うための会話を交わす。

 そうして正義の賢者達は一直線に向かうべき場所に急行した。

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