原初の竜でも友達が欲しい   作:伊つき

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その騎士は、太陽を連れて

「おや? 逃げるのですか? 亡骸(なかま)を置いて? そこは戦うべきでしょう! 『英雄』とまでは言わなくとも、『冒険者』の名にに恥じぬように……!」

 

 自身に背を向けて走り去る冒険者たちに、ヴィトーは嘲笑を添えて、そこに激情も加える。理想でなくとも、職業であっても、目の前の光景は彼の信条に反するものだ。故に、我慢ならない。

 だが、突如視界に割って入り、そんな勝手な押しつけを斬りつける者あり。

 

「お前も亡骸(なかま)にしてやる」

「……っ!?」

 

 耳元でよく通る女性特有の声。しかして彼の偏見から考えると、あまりに低い。

 そして、その間も一瞬。反射で身を引き締めるのが遅れていれば防げなかった不意打ちの一閃。ヴィトーは自前の得物で捌き、弾かれた女性が着地し、自身と対峙したその姿を目に映す。彼女の長く煌びやかな黒髪は彼女の肩に落ち着いた。

 

「おっと。誰です?」

「冒険者とて人間。勝手な押し付けをされては彼らの人権を迫害したことになります」

「……っ!」

 

 黒髪の女性、輝夜の背後に次々と降り立つ女性の冒険者たち。

 女性だけで構成され、冒険者すら救うその行い。諸々の条件からヴィトーは自ずと答えを導き出す。

 

 彼の脳内で整理が行われるのをアリーゼに抱えられていたルシアは、その足を地に降ろさせてもらう間に待っていた。

 ヴィトーと彼女たち、加えてルシアが初めて邂逅する。

 

「……なるほど。貴女方が【アストレア・ファミリア】ですか」

「こちらこそお伺いしたのですが、どちら様ですか。闇派閥(イヴィルス)資料(データ)には目を通しましたが、貴方を表す記述は全くありませんでした」

「おや。どうして私がギルドや冒険者たちに警戒されるような人物とお思いで?」

「身なり。被害状況。殺害方法。遺体の殺人痕。など、挙げればキリがありませんが色々と情報が転がってるので。闇派閥(イヴィルス)の幹部とお見受けします」

 

 ヴィトーの問いに淡々と返すルシア。彼女の冷静で変化のない顔色にヴィトーは不気味に思い少し顔を顰め、警戒する。

 

「……分析がお得意なんですね。貴女こそ、正義の派閥、その眷属にこれほど分析力の優れた方がいるなど聞いたこともありませんが」

「新入りです。よろしくお願いします」

「了承しかねますね。二度と付き合いのないよう―――ここで殺しておきましょうかっ!!」

 

 凄まじく早い判断。ヴィトーがルシアの首目掛けて得物を振り落とす。

 が、彼女の前に二本の刃がクロス状に構えられ、立ち塞がる。

 

「させるものか」

「ルシアさ……はまだLv.1。お前たちとは戦わせない!」

 

 輝夜とリュー。二人がルシアを守った。

 そこにさらに三人を飛び越えてヴィトーと衝突するアリーゼが彼に問いかける。

 

「なぜ冒険者狩りなんてするの? 闇派閥(イヴィルス)の目的は何?」

「はて。申し訳ありません……それを教えるほど親切ではなくてね」

「……っ!」

 

 アリーゼと得物を擦り付け、力較べをする中で合間に現れるヴィトーの表情が飄々とした余裕ある笑みに変わる。

 不気味に思ったアリーゼは一旦後退した。その隙をついて黒いローブを纏った闇派閥(イヴィルス)の構成員、ヴィトーの部下が彼に駆け寄り、耳元に語りかける。

 

「ヴィトー様。撤退しましょう」

「えぇ。そうですね。彼女達と戦うのは目的ではありませんし、ランクを考えれば少々分が悪い」

 

 部下の意見を聞き入れ、後退していくヴィトー達。

 その後をアリーゼが追おうとする。

 

「待ちなさい!」

「よせ、団長。誘っている。狡い罠を仕掛けているのだろう。深追いは禁物だ。それに―――」

「はい。対策はもう打っています」

 

 輝夜の目配せにルシアが頷きで返す。追っ手もなく自由に逃げおおせ、その背が小さくなっていく闇派閥(イヴィルス)達。

 彼らとは別ルートを進行するためルシア達は森の中へと侵入して行った。

 

 一方、闇派閥(イヴィルス)は自分達だけが知るルートへと抜けようと道に迷うこともなく確信があるかのような足取りで階層を駆け巡っていた。

 だが、道中、ある物を見つけた者がヴィトーに報告する。

 

「ヴィトー様。この先にモンスターの足跡が。かなり大型です」

「……! 避けましょうか」

 

 まだ近くにいる可能性がある。迷宮を知る者ならば当然の分析と判断。ヴィトーはパーティを連れて別の道を選択する。

 その先で森が拓け、景色が見えた。引き換えに道は途絶える。地面が割れ、大地が分かれている。

 

 ヴィトー達ならば向こう岸まで飛び越えられないこともないが、底が深いその断崖絶壁はリスクも高く、効率も悪い。避けるのが吉だろう。

 そこまで思考するのに必要だった時間は一瞬だった。ヴィトーの経験値の高さが窺える。迷宮内の移動においてモンスターが迫る場合も考えれば即座に行動先を選べるのは必須能力になる。

 

「……今日は道が悪い。まったく、ダンジョンの機嫌に左右されるのが困りますね。これだから現場は面倒が多い」

 

 冒険者、有力派閥、ギルド。そして、都市なら民衆の目。迷宮ならそれそのもの。厄介な気遣いばかりで神経を使う。

 裏方だから余計だ。自分の生まれ持つ『顔無し』の特質にこればかりは悩まされる。

 

「んっ……?」

 

 舗装してくれない迷宮の怠慢を受け入れ、自然の摂理に従いながら部隊を先導するヴィトーが自身らの進行先に人型のシルエットを目にし、顔を上げる。後続へ片手を軽く挙げ、足を止めることを命じた。

 

「失礼。そこの貴方、なぜこんな場所に一人で……? まるで我々が来ることを知っていたよう、待ち伏せをしているようですが」

「……」

 

 人気のない森林の中。ソロで潜る者も実力的にかなり絞られてくるこの階層でただ一人、佇むだけの男。

 とはいえ、全く無い話ではない。

 

 ヴィトーの問いに何も返さないその様子に違和感は覚えるものの、ヴィトー本人は現場で逃走という現状に少々自分が踊らされ、焦っているから如何なる事も不気味に感じてしまうのだと反省の意味も込めつつ納得した。

 下手に騒いで無駄な争いを生むのは彼にとっても得ではないからだ。

 

「いやはや、こんな迷宮(ところ)ですからつい他人に対して疑心暗鬼になってしまって。何でも結びつけて不安になってしまうんですよ。申し訳ありません」

 

 その場しのぎの適当な態度を取りつつヴィトーは相手を警戒している部下を見えない所で制止して、相手の男に軽く頭を下げる。

 対する男は、フッと少し笑みを零した。俯き加減で瞼を閉じ、意味ありげに。

 そんな表情にヴィトーは雲行きの変化を感じ、眉をひそめた。そして。

 

「結構。お気になさらず。―――本当に待ち伏せしていましたから」

『……っ!!』

 

 男の一言。それをキッカケに空気が一気に張り詰め、ヴィトー達は武器を手に取った。

 

「やれ!」

『おぉー!』

 

 合図を受けて闇派閥(イヴィルス)がその男、やけに筋肉質なエルフに立ち向かう。

 対する、マリウスは剣を抜き、天に掲げた。すると、空が割れ、凄まじい陽射しと眩しいほどの明かりで彼らがいた場が包まれた。

 

「なっ!? 何が……!?」

 

 突然見上げられない、空を直視できないほどに視野を奪われ、ヴィトーが困惑の声を上げる。気温が一気に上昇したように()()、彼の首筋に汗が滴る。普段から細目だった彼はさらに細めたその目で目の前のマリウスを捉える。

 マリウスは、笑みを浮かべていた。そんな彼の剣が視覚的にわかるほど熱を持ち始め、蓄積している。

 

『―――』

「詠唱……! 魔法が来る!?」

 

 マリウスが口にする言霊の繋がり。過酷な環境下で聴覚まで鈍り、その内容までは耳に入ってこないが、ヴィトー程の実力なら魔力の高まり、周囲を満たすその威圧で察知することもできる。

 そして、彼の予想通り、膨張しきった剣の下で瞼を閉じ俯いていたマリウスがその瞳を露わにする。直後、彼が口にしたことはただ短く。

 

「【ガラティーン】!」

「……っ!!」

 

 準備を終えたマリウスが自身の剣を横凪ぎに払う。すると、高熱を持った斬撃波がヴィトーらに向けて放たれた。

 ヴィトーは防御体勢を取ったが、進軍していた部下たちは遥か後方または上空へと吹き飛ばされる。

 

「うぅ……」

「うっ……あっ……!」

「くっ! 不意打ち! やられましたね、これは……」

 

 部隊の壊滅的な状況を見渡した後、ヴィトーは即座に判断を下した。

 彼らを置いて、否、彼らを()()()()()()()()()し、自分一人が逃げる。懐に収まっている物があれば、可能だ。だが、それを使えば闇派閥(イヴィルス)の計画がバレる危険性がある。

 

 それだけ決定的な行動と証拠だ。

 その上で、覚悟を決めるか悩みはしたが、自分が捕まればそれ以上の情報を明け渡すことになりかねない。ヴィトーの意思でどうにかなる範囲は絶対に漏洩はしない。が、物的証拠と人的証拠は大きく異なる。

 後者の方が漏らす情報量の最大値が大きい。

 

「仕方ありません。ここは逃げると―――」

 

 ヴィトーが懐を探り、ある物を手に掴んだ時、彼は違和感を覚える。

 目の前にいるエルフの男、彼に動きがない。大技を放ち、その反動(デメリット)があるのか、定かではないがそれを疑う程に微動だにしない。

 

 完全に不意をつかれてしてやられ、こちらにいくらでも追撃する隙があったにも関わらずだ。マリウスは振るった剣咲を地に指し、ただ不気味な笑みを浮かべて立ち尽くしてしまった。

 思わずヴィトーは尋ねてしまう。

 

「な、なぜ我々を拘束しないのですか……?」

 

 口にしてから自分でも気付く。敵に疑問をぶつけるなど愚行。

 しかし、相手のマリウスはその愚かさを容認した。否、彼はそれを受け入れてしまう程の拘りがあった。つまり、彼も同類(ぐしゃ)なのだ。

 彼の行動、その全ては主の力を証明する動機を中心に巡っている。

 

「必要ありません。ここからは、我が主の仰せのままに」

「……っ!!」

 

 マリウスが頭を垂れ、跪くと同時に。ヴィトーの背後で草むらを掻き分け人が現れる音が。

 彼が振り返るとそこには【アストレア・ファミリア】の面々が揃い踏みし、彼女達の一歩前へルシア・マリーンが現れた。

 

「マリウスくん。上出来です」

「……勿体なきお言葉」

 

 一言、労いを口にしマリウスがさらに深々と姿勢を低くする。その先にいるルシアをヴィトーは動揺と困惑と憤りでワナワナと震えながら捉える。

 

「ど、どうして我々を待ち伏せできたのですか? それに、この段取りの良さは……」

 

 瞠目するヴィトーに、ルシアは諦めと投降を狙って懇切丁寧に説明する。

 

「なぜ我々が4人しかいないか。他の団員はどうしたのか。そういった一つ一つの要素を拾わず、疑問に思わず我々と対峙し、貴方は言葉を交わしていました」

「……!」

 

 ヴィトーが踏んだ失敗を解決される。目を見開く彼に対して、ルシアは目を細めて続ける。

 

「貴方々が上層で気づかれず、どうして突然この階層で発見され、現れたのか。そちらしか認識していない秘密ルートがあるのか。正直何も分かりませんでした。ので、その方面で物事を考えるのは()()()、現場から半径で一定範囲内を少し工作しました」

 

 アリーゼや輝夜、ライラにリュー。そして、彼女達と()()同盟関係にある二大派閥のうちの一つ、その団長を務めるちいさな【勇者(ブレイバー)】。それらの面子と同様にルシアも気付いた。

 闇派閥(イヴィルス)の出没、その突発性の違和感。

 

 そこに勘づくそこまでは共通だった。【勇者(ブレイバー)】はその答えを追い求めるだろう。

 だが、ルシアは異なる。彼女は察知してすぐ解明することを諦め、その選択肢を捨てた。

 

 今、自分の手札にある情報じゃ辿り着けないと即座に判断したのだ。

 故に、今日、ここでこの盤面で敵を捕えることだけの策を考えた。敢えて、視野を狭くした。

 そういう思考傾向(パターン)も有効だとルシアは経験で知っている。

 

「足跡で大型怪物(モンスター)がいると思わせる為に、土地を抉り、森林を伐採する。そうして道の選択肢を減らせば、貴方々がどこへ向かおうとどこを通行するか、絞ることができます。そう、()()が分かればそれで良かったんです。だから、事件が起きた現場の周辺だけを工作しました」

 

 思考の断捨離。そこから導き出される回答。逃げ道が分からないなら作ってしまえばいい。

 ルシアの思惑を理解し始めたヴィトーの表情が固まる。

 

「私とアリーゼさん、輝夜さん、リューさん。そして、時間稼ぎにマリウスくん。現場に向かうのは最小人数で結構。あとの面子(メンバー)は大事な裏方をしてもらいました。これにて、闇派閥(イヴィルス)の捕獲を画策。更にここから油断もしません。まだ策は展開中です。逃げれらるとは思わないでください。必ず貴方を地上の牢にぶち込みます」

「……っ」

 

 彼女に周囲に上級冒険者達がいるとはいえ、ただのLv.1。弱くて小さくて子供のようなエルフの少女。

 だが、悪人に対するその誠実で力強く、けれど決して幻想的な正義心に燃える瞳ではなく、現実を知っている眼力。

 

 何より、上級冒険者を抜きにしても厄介な頭脳。

 ルシア・マリーンという駆け出し(ルーキー)にヴィトーは、奥歯を噛み締めた後、瞬時に涼しい顔に戻して溜息を吐く。

 

「降参、するしかありませんね。いやはや……」

 

 感嘆。まさにそういった態度で両手を挙げるヴィトー。武器を置き、膝もついた。

 敵ながらあっぱれ。そう表しているようで、屈辱に耐えている。表向きでは飄々としていてもその仮面の裏がどうなっているのか、ルシアには見透かせた。

 

 ただ、非常に上手い感情コントロールと仮面だ。今は組み伏せていてもこの男の脅威性は理解できる。

 アリーゼと輝夜に拘束される中、ヴィトーはルシアに語りかける。

 

「なんという戦略眼。一体貴女はどこまで盤面を読めているのでしょう?」

「教えません」

 

 完全に抑えられ劣勢の状態でも平常な落ち着きで平然と声を掛けてくる。内心がどれほどぐちゃぐちゃかはわかったものではないが。

 だが、ルシアも負けていない。キッパリと相手にせず押し退けた。彼には顔も向けず、アリーゼに口を開く。

 

「連行してください」

「えぇ、勿論。でも、人数を分けるわ。ルシア、貴女は輝夜と一緒に後から地上に来なさい。無理言って短い時間で色々考えて貰ったし、休息が必要よ」

「ありがとうございます」

 

 アリーゼの申し出に素直に礼を返す。

 

「えー! ルシアと輝夜だけ~!?」

 

 一方、他のメンバーは不服そうだ。イスカの声を皮切りに全員が激しく相槌を打って同意する。

 それを見てルシアからもお願いした。

 

「アリーゼさん。工作をして頂いた皆さんの方がかなり労力がかかったはずです。私は大丈夫ですので」

「一理あるわね。でも、ルシアはそっちよ。だから、こいつらを地上に連れていくのは私とリュー、ライラでやりましょう」

 

 庇ったつもりが矛先が二人に集中してルシアがあぁ、しまった……ごめんなさい……と顔に書いてリューとライラに憐れみの目を向ける。

 リューは使命感に燃えるタイプなので問題なく、寧ろ気を引き締めたが、ライラは心底嫌そうに項垂れた。

 

「げっ。マジかよ……」

「文句を言ってはなりません、ライラ。これも正しき行い。この者たちを牢獄するまで私達が責任をもってやらなくてはいけない」

 

 ライラも最終的には従い、文句を漏らしたのは切り替えのつもりだったが、生真面目なエルフには通じない。

 全く何も汲み取ってくれない上にその性格にライラは顔をひくつかせた後、温情で苦笑いで済ましてやり、頭の後ろで腕を組み最後に嫌味だけついてやった。

 

「へいへい。わーってるよ。これだから真面目ちゃんは。悪態1つつかせちゃくれねえな。つかなきゃやってられねえだろ?」

「なんですか、その態度は……」

 

 リューがライラを目を細めて捉える。ライラはそんな彼女の視線にギョッと身を縮めた。

 そんな二人のやり取りを見兼ねてアリーゼが間に入る。

 

「はいはい。終わり終わり。ささっと行くわよ、私だって早く地上で休みたいんだから」

 

 手を叩いて制止するアリーゼにライラもリューも不満げではあるが、飲み込んで瞼を伏せる。

 

「あいあい」

「わかりました。行きましょう」

「おやおや。ようやく出発ですか。遅延証が欲しいところですねぇ」

 

 ライラとリューが拘束されていたヴィトーに近付くと身の程を弁えず、せめてもの抵抗で文句をつけてくる。それを無視して二人はヴィトーを立ち上がらせ、ヴィトーは「おっと」とだけ言いながらわざとらしく少し怯えた演技もする。ライラとリューはイラッとしながらも黙々とこの階層を後にする準備を進めた。

 そんな二人を傍目にルシアがアリーゼに近寄り話しかける。

 

「彼以外は気を失っていますし、後で我々が連れて上がります。何より情報源として一番役に立つのはアリーゼさん達が連れていく彼でしょうし、確実に地上に連れていくのは彼だけで充分かと。被害に遭われた方々の遺体も我々が引き渡してきます」

「そうね。わかった。そうするわ」

 

 ルシアの意見に二つ返事で了承するアリーゼ。

 この先の行動が決まり、予定がまとまったところで、イスカが何かを思いついて手を叩く。

 

「そうだ! せっかく休んでから帰るならさ。18階層に寄ろうよ」

「おっ、いいね!」

「それ賛成!」

「最高じゃん!」

「はぁ!? お前らだけズリィぞっ!」

「わ、私もライラに同意してズルいとまで言う訳ではないが……羨ましい」

 

 良い発案だとばかりに同調するネーゼとノイン。リャーナもセルティやアスタと手を合わせて喜ぶ。

 逆にライラとリューは良質な時間を手に入れた者達に眺望の眼差しを向ける。

 そんな皆の様子にルシアは一人、キョトンと首を傾げていた。

 

「18階層? ……あぁ、モンスターが産まれないですし、確かに休むには絶好ですね」

「イエス、我が主(マイ・ロード)。18階層は仰る通りモンスターが産まれない安全階層(セーフティポイント)となっていると私も耳にしました。モンスターが全く出現しない訳ではありませんが、その階層で休息を取るのはリスクも少なく実に合理的と言えるでしょう」

 

 マリウスの補足にやはりと納得するルシア。

 だが、まだ彼女達は分かってないと、アリーゼがルシアに寄る。

 

「それだけじゃないの、ルシア」

「……?」

 

 ルシアとマリウスがまた頭の上に疑問符を浮かべる。

 その態度を見て、皆が気付いた。

 

「あ、そっか。ルシアは18階層でゆっくり過ごしたことないんだもんね」

「行きしなは通っただけだしねー」

「すっごく綺麗で素敵な場所なんだよ!」

「は、はぁ……ダンジョン内でそんな場所があるなんて、ピンと来ませんが」

 

 仲間に力説されるもルシアはダンジョンに安全で快適で、鑑賞を目的とすることが印象(イメージ)と結びつかない。

 見兼ねたアリーゼがルシアに微笑む。

 

「行けばわかるわ。ルシア、みんなと一緒に見てきなさい。貴女の人生を貴女の口伝てでしか知らない立場で言うのも少しおこがましいけれど、貴女の話を聞いて、きっと誰かと思い出を作ったり、良い景色を見たり、楽しんだりすることが必要だと思うわ」

「アリーゼさん……」

 

 固定概念がある中で口で何を言っても仕方ない。その目で見てみればわかることもある。何よりも、ルシアが求めていたモノをアリーゼは潜在的に理解していた。

 偶然かもしれない、でもそれが彼女の凄いところだとルシアは思う。きっと、他人を思いやる心を育んできたんだろう。一朝一夕で身につくものではない。

 

「だから、行ってらっしゃい。地上に上がるのはゆっくりでいいから。ね?」

 

 アリーゼが柔らかく説いてくれた後、彼女はいつもの朗らかな表情を見せて、片目を閉じた。

 ルシアは、アリーゼの温かい心を感じて、少し頬を緩める。

 

「……はい。では、お言葉に甘えて」

 

 ルシアが表情を弛めたのを確認してアリーゼを始めとした【アストレア・ファミリア】は笑顔を合わせる。

 

「うん! じゃあ行きましょう」

『おぉー!!』

 

 アリーゼの合図に皆が呼応する。

 ルシアも彼女達に混じって歩き始めた。いつもよりも少しだけ軽い足取りで。初めて、爽やかに感じる風が肌を掠める。

 18階層。それは、迷宮の楽園(アンダー・リゾート)と呼ばれる理想の神秘。

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