原初の竜でも友達が欲しい   作:伊つき

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冠位魔士(グランド・メイガース)

 地上に戻ってきたルシアは、拘束した闇派閥(イヴィルス)達の送還などを仲間に任せて、先に本拠(ホーム)に戻っていた。

 そして、主神であるアストレアによって真っ先にステイタスの更新を行われている。

 

 これはアリーゼを中心に決め、全員が賛成したことだ。これからもルシアの考案能力は必要になる。つまり、戦場にも連れていくしかない。

 ならば、一番ステイタスが低く死に近いルシアを率先してその率を低くする為に動くのは至極当然の行動だ。少しでもルシアを強くしようとこまめに行っている。

 

「ルシア、今回もお手柄だったわね」

「いえ」

 

 背中越しにルシアを労うアストレア。ルシアは謙遜したように見えるが、本心で自分がよくやったとは思っていない。

 アストレアもそれは理解している。我が眷属()の態度に苦笑いした。

 

「捕獲ではなく殲滅ならもっといい作戦があったのですが……()()作戦では無いですね」

「……そうね。至らないところはあったかもしれないけれど、私は今の貴女の優しさが反映された作戦の方が好きだわ」

「そう言って頂けると有難いです」

 

 諭すように話すアストレアに、ルシアは表情が見えないことをいいことに少し曇らせる。

 ちょうどその時、部屋を僅かに照らしていた淡い灯火が収まった。ステイタスの更新を終えた合図だ。それに気づいてルシアが身体を起こし、顔を上げる。

 

「ありがとうございます、アストレア様。それでステイタスは…………アストレア様?」

「――――」

 

 振り返るとアストレアは固まっていた。目を大きく見開き、衝撃を受けたように面食らっている。

 そして、次第に口元を抑えて怯えたように震え始めた。表情も哀れみのような強ばったものになる。

 

「あの」

「えっ、あっ。ルシア……あぁ、貴女は……。貴女……。そんな、貴女は冒険者としても……っ!」

 

 声を掛けても聞こえいないどころか、アストレアは立ち上がって後退ってしまった。かなり動揺しているようで、何かを尋ねられる様子ではない。ルシアもただ困惑した。

 だが、まだ羊皮紙に写してさえいない。アストレアが何を見たのか、自分のステイタスが、その内容が分からなければ何とも対処できない。

 

「アストレア様」

「……っ」

 

 故に、再度声を掛けた。正気に戻ってもらわねばルシアとしても困る。

 アストレアはルシアの呼びかけにハッと我に返り、呼吸を荒いものから落ち着きを取り戻した。

 

「ご、ごめんなさい。少し驚いてしまって……いえ、少しではないわね。とにかく、その……」

「落ち着いてください、アストレア様。お水です」

 

 ルシアは最低限の布を被って1杯だけ水を汲んで、彼女に手渡す。

 アストレアはそれに口をつけ、角度を付けずに流した。喉を小さく鳴らし、両手を添えて半分ほど減った水を置く。

 

「それで、私のステイタスに何が追加されたのですか?」

「……っ」

 


 肩の揺らぎが緩やかになったのを確認して、ルシアが目を細めて尋ねる。アストレアはビクッと反応し、目を逸らした。

 彼女の態度からルシアは何が起きたのかなんとなくさっすることができている。

 

「な、何でもないわ。いつも通りのステイタスよ」

「……もう隠せる段階ではないかと」

「そうよね。えぇ。そうね。うん、分かるわよね。私も分かってる。でも……」

 

 アストレアがこめかみを抑えて瞼を閉じ、狼狽した後、深く息を吐く。

 ルシアの言う通り、今からでは誤魔化せない。新しいステイタスを見た瞬間、表情一つ動かず、流すことができたのなら話は別だがそんな最適解はとうに逃した。

 アストレアは諦めて羊皮紙を手に取り、ルシアと真剣な眼差しで向き合う。

 

「ルシア。貴女は特別な存在よ。きっと、竜の身体だけじゃない。もっと他にも貴女をそうさせる所以があるのよ」

「……なるほど」

 

 ルシアは自身の手のひらを見下ろす。もし、この身体以外に自身に特異性があるのだとしたらそれは後天的な要素。つまりは、忌まわしき故郷(フリテン)の系譜。

 原因究明も、納得も瞬時に片付けられた。あとは、アストレアの言葉を待つだけだ。ルシアは、彼女と視線を交わす。

 

「ルシア、これから貴女のステイタスを教えます。そして、その内容が持つ意味とこれから先に待つかもしれない過酷な運命と向き合うか、目を背けるか、一緒に考えましょう。もしも後者を選んだとしても私は貴女を全力で秘匿して……必ず守り切るわ」

 

 一つ。一つ。重く、強く、清い言葉。もう既に彼女は覚悟を決めている。

 正義と並行して、目の前の少女の為に尽くす心持ちを。

 あとは、ルシア次第。

 羊皮紙に写されたそのステイタスをルシアはアストレアから受け取り、目を通す。

 

 

 ルシア・マリーン

 

 Lv.1

 力:H101

 耐久:I68

 器用:I25

 敏捷:I22

 魔力:I46

 

《魔法》

【アヴァロン・リビヴァル】

 詠唱:【生きる者よ、死にゆく者よ。我は其方等の生を願う、その命に咲く花を枯らさない。もし、呪われし我が身を受け入れるなら。其の身体を治そう。父の呪い、塔の呪い、龍の呪いを有した我が求める。理想を身に宿し者、我の名はマリーン。我は冠位(グランド)の称号を持つ者也。花の魔術よ、命を咲かせたまえ】

 効果:

 ・対象1人。

 ・全癒。

 ・状態回復。

 ・呪詛解除。

 ・異常回復。

 ・元気復元。

 ・疲労除去。

 ・一定時間、対象者を自動回復し続ける。

 ・稀に『奇跡』を起こす。

 

《スキル》

正義寵愛(アストレア・ホールド)

 ・魔石が割れにくくなる。

 

冠位魔士(グランド・メイガース)

 ・治療師(ヒーラー)としてある段階に達した時点で、最高位の回復魔法を超越する。

 ・死者蘇生を可能とする。

 ・回復だけでなく、修復も可能とする。尚、修復は自身には使用不可。

 ・最低でもLv.9である必要がある。

 ・あらゆる魔法を使える。

 ・精霊とのコンタクトがしやすくなる。

 

 

 ステイタスを一通り確認して、ルシアは紙面から視線を上げる。

 

「なるほど。これは確かに異常ですね」

「そ、それだけ……?」

 

 内容に対して冷めた反応のルシアに、アストレアは思わず苦笑いする。そんな彼女の態度を見てルシアは再度羊皮紙を見遣るが、やはり驚きは少ない。

 自分の生い立ち(ルーツ)を想起すれば、納得はする。加えて、自身の肉体のことを考えれば今更でもあるだろう。さらに、ルシアの中ではどんな条件下でも目指すものがある。輝夜と交したものが。

 

「貴女は、神に近い力を持ち始めている」

「……!」

 

 その一言は、普段話すそれとは異なる、神性を込めた矮小な人間の域を超える声色。だがしかし、彼女らしい相手を思いやる優しい語り掛け。

 自らの主神が真剣を表したことを察知し、ルシアも目を見開いて彼女を捉える。

 ルシアがアストレアの顔を確認した時には、いつもの微笑みを浮かべていた。特に、ルシアによく向けている慈愛を添えて。

 

「と、言っても片鱗も片鱗。比較的な話になるけれど。それに、スキルに関しては今はまだ使えないようだし、貴女の特別性は今すぐどうこうといった話ではないわ」

 

 アストレアにそう告げられ、ルシアはさっきの言葉は流すことにした。そして、自分の考えが伝わった、もしくは正しいとわかって小さく何度か頷く。

 

「はい。というか、Lv.9ってなれるものなんですか?」

「そ、そうね。昔、【ヘラ・ファミリア】の団長が登りつめたとかしなかったとか……」

「事例は1人。しかも確証なしですか。確かにスキルの方は無いものと考えても同義ですね」

 

 アストレアの返答を聞いてルシアは一瞬、遠い目をした。こりゃスキルの方は使い物にならないと二人とも判断した故に。まあアストレアにとっては寧ろこれ程特異なスキルが今後関わりを持つことがない可能性の方が高いということに安堵した。

 が、安心ばかりもしてられない。問題は魔法だ。こちらは今すぐに使えて、内容も酷い。およそ、駆け出しの冒険者が持つ代物でないのだから。

 

「試しに使ってみますか」

「待ってちょうだい。せめてアリーゼ達が帰ってきてからにしましょう……?」

「あぁ。そうですね」

 

 怖すぎる行動力でスっと立ち上がったルシアに、アストレアが慌てて止めに入る。一発で納得してくれたようで、また胸を撫で下ろし、その後苦笑いした。この()は放っておいてはいけないと感じて。

 ルシアは、優れているところもあるが、欠けているものもあるようだ。

 

「ところで、【ヘラ・ファミリア】というと」

「えぇ。少し前闇派閥(イヴィルス)迷宮(ダンジョン)も、三大クエストも。【ゼウス・ファミリア】と【ヘラ・ファミリア】が絶大な勢力で対抗していたの」

「三大クエスト……迷宮都市ができる前、太古に大穴から出現したモンスターですね。その内の二体をその二大派閥が討伐したとか」

「そう。そして、今よりも闇派閥(イヴィルス)も強く、活発だったわ」

 

 話しながら、アストレアは思う。ルシアは、世界を旅し、様々なものを見てきたのかもしれない。

 だが、世界の中心とも言えるオラリオや世界の危機とも言える三大クエスト、果てには世界が抱える爆弾であるダンジョンについてまでまるで知らない。長寿の種族である彼女なら都市の外でも活動し、活躍してきた2大派閥について触れる機会もあったろうに。

 

 少し、不自然な程に無知すぎる。無論、オラリオが取り巻くそれらが世界の全てだとは言わない。だが、大穴が出来てからこの神時代(しんじだい)。誰もが通る知識をルシアは備えていない。

 この違和感が不穏なものでないといいが、ルシアの場合そうでない可能性の方が、ここまでの経験上高いだろう。

 

 フリテンの王森、ルシアが口にした故郷の名。その場所にルシアに対するこの異質の正体があるのか、アストレアは引っ掛かりを覚える。

 その森を知る者、ルシアの他にマリウスの顔が過ぎる。

 彼に尋ねるべきか。いや、そもそも彼に尋ねて、答えてくれるだろうか。

 

 オラリオを取り巻く情報にルシアが精通していたのと同時に、アストレア達もまたルシアを取り巻く背景がまるで見えていない。

 せめて、もう少し腹の中を見せてくれそうなフリテンのエルフがいればいいが。そう都合よく現れる存在とは何故か思えない。

 だから、今、目の前にいるフリテン人にアストレアは尋ねた。

 

「ねえ、ルシア。貴女の故郷……フリテンはどんなところだったの?」

「急ですね」

「ごめんなさい。こんな魔法やスキルが生まれるなんて、そこに原因があるとしか思えないのよ」

「なるほど。まあ、私も同じことを思っていました。とはいえ、話せることはそう多くありませんが。あの頃といえば王森の奥、それも端っこでただ暮らしていただけのようなものでしたし」

「そう……」

 

 思い切って本人に聞いてみたが、どうもルシアにもあまり思い出はないようで、何も発見はなさそうだ。

 肩を落とすアストレアを見て、ルシアは一つだけ捻り出す。

 

「……言えることがあるとすれば、あの王森は特殊な場所でした。精霊もいたとか」

「精霊!?本当なの?」

「さぁ。私は直接見た訳では無いので。ただ、フリテン王は代々精霊から力を授かっていました。私がいた頃の王はその力を抗争(せんそう)に使っていましたが、歴代の王には森を豊かに、森のエルフらに加護を与えたとも聞きます。要するに使い手次第ということですかね」

 

 さらっと口にしたルシアだが、アストレアは精霊と聞いて瞠目しぱなっしだった。

 そして、僅かに察することができた。ルシアがいた森はこの世界において何か特別な立ち位置に()()られ、設置されているのだと。

 

 まだ聞きたいことはあるが、ルシアが羊皮紙にフリテンと文字を書き、唾を吐いて、「この話やめませんか?」と言ったので、アストレアも苦笑いで「そうね……」と応じる。

 気を取り直して、アストレアは大事なことを忠告することにした。

 

「ルシア。貴女のスキルや魔法は特別で、強力すぎるわ。そして、こんなステイタスを生み出す貴女自身に神々が興味を持つかもしれない」

「怪物から人気者ですか……。まあ私の肉体が発覚すればいくらステイタスが特殊でも手を出さないかもしれませんが」

「どうかしら。とにかく神々が貴女を狙う可能性がある。でも、今なら対策のしようもあるわ」

「対策……?」

 

 ルシアが(まなこ)だけをアストレアに向ける。

 一拍置いて、アストレアは告げる。

 

「貴女は戦わないことよ」

「……!」

 

 目を見開く。確かに、そもそもルシアがいるということを知られなければ、その特別性が発覚することもない。発覚することがなければ、狙われることもない

 合理的な回答だ。

 

「貴女が冒険者として生きるのを辞めて、ただ私達のファミリアになりを潜めていれば、少なくとも危険(リスク)は下がる」

「……そうですね。それが、きっと最適解なんだと思います」

 

 アストレアの言葉を素直に受け取る。ルシアもわかっている。故に、俯き、同意する。

 でも。

 

「アストレア様。もう覚悟は決めてあります。私は、輝夜さんと交わした約束を果たします。この身の潔白を果たし、私の人生を手に入れる為に、それは自分自身の為であって正義でなくとも正義として振りかざしましょう」

「……そう。貴女ならそう言うと思ったわ」

 

 輝夜やライラと同じ。例え己が望みでも、それを変換した偽善で救えるものがあるのならば、これ以上に良いことは無い。故に、喜んで正義を偽ろう。

 選択肢は複数あるのかもしれない。それでも、ルシアは今の道を選ぶ。逃げるのは今まで沢山してきた。もうあの日々は要らない。

 

 だから、【アストレア・ファミリア】のルシア・マリーンである為に、突きつけられた条件である正義執行、その活動への協力。アストレアと輝夜、その二人と交わした契約に従事する。

 もしかしたら輝夜も身を隠し、匿ってもらうことを承諾するかもしれない。いや、派閥のことを考えればその方がいいとも言える。

 

 彼女ならば合理的で的確な判断ができるだろう。私情に囚われない理性的な選択を、完璧にではないが、できる方ではある。それでも彼女は情がある。恐らく、【アストレア・ファミリア】の誰よりも。

 ルシアは、まだこの派閥に来て短いが、彼女をそう分析している。とはいえ、皆の前では逆の発言をしてしまうようだが。そういう嫌な役を引き受けるのも彼女だ。

 

 誰が肯定しようと否定しようと変わらない。

 ルシアは、自分で選んだ道として、彼女に提示された選択を突き進む。その先になにが待っていようと覚悟はできている。

 ただ、賭けてみたいのだ。迫害され、異端とされた自分でも、この存在の醜さを覆すことが出来るのだと。そして、人々の為になれるのだと。

 

 ―――証明してみたいんです。

 

 

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