原初の竜でも友達が欲しい   作:伊つき

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アストレア・ファミリア

 

「おぉ……ここが理想郷(オアシス)。やはりそうでしたか、【アストレア・ファミリア】。アーメン」

「ルシア。拝むのはやめなさい?」

 

【アストレア・ファミリア】の本拠(ホーム)にて。

 大きな長机に並べられた異常な量の食事。そして、それを用意した正義の女神・アストレアに対して両手を合わせて拝むルシア。

 

「では、神のご慈悲を遠慮なく」

 

 その言葉を合図にルシアは目の前の料理を手当たり次第に口に運んでいく。

 そんな彼女を笑顔で見守るアストレア。長机に置いてあった食事は物凄い勢いで減っていく。その様子を、迷宮(ダンジョン)探索から帰ってきたところのアストレアの眷属達も眺めていた。

 

「アストレア様。この()が行き倒れていたところ、アストレア様が助けたエルフなんですよね?」

「えぇ、そうよ」

 

 アストレアに問いかけるのは【アストレア・ファミリア】団長、アリーゼ・ローヴェル。赤髪が特徴的な人族(ヒューマン)だ。

 その隣には副団長のゴジョウノ・輝夜。そして、団員で小人族(パルゥム)のライラとエルフのリュー・リオンがいる。

 ルシアの食べる様に輝夜とライラが目を見開く。

 

「気持ちいいくらいにいっぱい食べんな、コイツ」

「そうですねぇ。なのに意外と上品に食べはるん……いや、めちゃくちゃ食べるの早いなお前。ちゃんと噛んでます?」

「上品だけど優雅じゃねえ……なんなんだコイツ」

 

 ルシアが自身の口元を拭く。きちんと拭き物を用いて。

 その仕草も食事中のナイフやフォークの扱いも丁寧で上品だった。テーブルマナーがキチンと身についているようだ。尚、凄まじい速度で口に含んだと思ったら一瞬で噛んで飲み込み、次々と口に運んでいくので食事風景は優雅ではなかったが。

 

 凄まじい量の食事とそれを取り込んでしまう大容量の胃袋。

 大胆な食事風景にも関わらずルシアの食事姿勢は、というかそれだけはとても礼儀正しい。

 教養のある作法から育ちの良さを感じるかと思えば、規格外の暴食。そのギャップに輝夜とライラは困惑を隠せずにいた。

 

「初めまして、ルシア。リューと言います。エルフの仲間が増えるのはとても嬉しい。よろしくお願いします」

()()()ひゃ()()ふぁ()ふぃ()ふぇ()ひゃ()ふぇ()()()ふぃ()()()()ひょ()()()()()へはひ(願い)()()()

「……食べながら返答しないでください。失礼ですよ」

 

 同胞の新参者に新規感を覚えて挨拶してきたリュー。

 注意されたルシアは口に含んでいたものを一気に飲み込み、口元を拭う。リューときちんと向き合った。そのたたづまいもまた、きちんとしている。

 

「すみません。失礼しました、ゲフッ」

「……教育が必要ですね」

 

 ゲップが出た。このエルフはキマらない。

 リューも呆れる。

 

「……それにしてもコイツの飯でアタシらの一週間分の食糧が無くなったんだよな」

「そのようですねぇ。おかげで食糧庫が空や言う話です」

「それもただの一週間分ではありません。12人分あったはずです」

「まったく困ったもんだぜ、我らが主神アストレア様には。アタシらの食糧とファミリアの経費をなんだと思ってるんだと思ってるんだか。こんな大食漢連れ込んじまってよ」

 

 ルシアの暴食によりファミリアの食糧事情に突如大打撃が入った。

 アストレアの正義の施し、困っている人間を救ってしまうその性に眷属たちも頭が痛い。

 

「仕方ないわ! 神は気まぐれだし、アストレア様は正義を司ってるんだもの! 気まぐれとほっとけない精神においてアストレア様の右に出る神は居ないわ」

「言ってる場合かよ。ンなもん誇られても困るっての」

「さすがにこの食事量をこれからも賄うのは赤字になると思いますが……」

 

 そうこう言ってるうちにルシアは一週間分の食事を平らげてしまった。正義の眷属たち、その面々が唖然とする。

 しかし、一人の人族(ヒューマン)の姫様だけは額に青筋を立ててルシアに食ってかかった。

 

「おい、小娘。私達に何か言うことはないか? んっ?」

「………………大変美味でした?」

「違うわボケッ! 謝れ、マヌケエルフが!」

 

 ファミリア内での口の強さ、No.1。ゴジョウノ・輝夜もルシアの天然の前には無力。

 怒鳴りつけた後、これからこの大食漢エルフを抱えていかなくてはいけないという事実に頭を抱える。

 

「このままじゃうちは破産だぞ……」

「ライラの言う通りや思います。今すぐ拾ってきたところに返すべきではありませんこと?」

 

 ある意味大物のルシアに猫被りも剥がれ、珍しく苦戦している輝夜にライラが助け舟のボヤキを加える。

 輝夜はそれに賛同した。

 

「ダメよ、輝夜。ルシアがまた行き倒れてしまうわ。それに私、ルシアのこと気に入ったの」

 

 だが、主神であるアストレアが拒否する。

 

「……主神様がそう言うなら眷属である我らは従うしかありませんね。まったく。主神様の我儘には困ります」

「ごめんなさいね。輝夜」

 

 アストレアの言うことは絶対だ。輝夜も大人しく引き下がる。

 そんな副団長の憂鬱に団長のアリーゼも話を明るい方向に持っていこうと口を開く。

 

「まあ良いじゃない。私はルシアの加入、良いと思うわ! それに、アストレア様の意向なら受け入れるしかないんだから、そうと決まればこれからどうすべきか前向きに考えていきましょう!」

 

 アリーゼのポジティブな発言。

 それを可能とする性格は彼女の良いところでも悪いところでもあるが、今回に限っては他の面々も賛同した。

 

「ま、一理あるな」

「アリーゼの言う通りです。ルシアを受け入れることもまた、私たちの正義による行いです」

 

 アリーゼの言葉に頷くライラとリュー。

 ライラの視点から考えてもこのままウダウダ文句を言い合うより現状を受け入れて今後について考える、建設的な展開が望ましかった。そのことは当然、副団長である輝夜も口先の嫌味とは裏腹にわかっている部分ではある。

 

「それでいいかしら? 輝夜」

「……そうですねぇ。まあ本当に路頭に迷わせるほど、私も薄情ではありません。でも、毎度このぐらい食べられては面倒見きれません。少しは働いて貰いたいとは思いますね」

 

 アリーゼに尋ねられて、輝夜もようやく肯定する。

 とはいえ、問題点は提示しておきたかった。その問題点は団長であるアリーゼとしても共通認識だ。

 

「それはそうね。ただ甘やかすことは正義ではないわ。ルシア、私たちは貴女を受け入れる。でも、自分の生活は自分である程度賄って欲しいわ。どうかしら?」

「はい。それに関しては私自身も同意です」

 

 これにはルシアも賛同。そもそも当初は【アストレア・ファミリア】に厄介になるつもりのなかったルシアだ。いくら余裕がなく行き倒れたとはいえいつまでも助けてもらうつもりは本人にもない。

 故に労働の要請に対して二つ返事で承諾した。

 

「となると、ルシアの稼ぎ口を見つけねえとな」

「冒険者として育てますか?」

 

 ライラの言葉に真っ先に浮かんだことを提案するリュー。

 それを受けて、アリーゼが腕を組んで考える。

 

「そうね……うちは探索系のファミリアだけど、だからって冒険者になる道しかない訳じゃないわ。冒険者は命の危険があるし、他にも選択肢は沢山あるんだから他の職種を選択するのも一つの手ね。ルシア、貴女はどんな仕事がしたい?」

「そうですね。大食いチャレンジの賞金で食い繋いで行こうと思っています」

「真面目に聞いてるのよ?」

 

 小さい手で作った握りこぶしにグッと力を込めて、あたかも真面目に考えたかのようにキメ顔をキメるルシア。

 さすがにこの自由さには普段ふざける方が多いアリーゼも困惑した。

 

「真面目に言うと、希望はありません」

「なら冒険者でいいんとちゃいます? 商業や製作じゃその手のファミリアが業界占領してますし、無知で入れるほど甘い世界ではないですから」

「その点冒険者なら並の仕事よりかは稼げるし、初心者に比べりゃ経験豊富なアタシらが周りにいるからな。面倒も見やすいんじゃねえの?」

「私も同意見です。危険な仕事ですが、食いつなぐだけなら本格的な探索に連れていかなければいい。アリーゼ、どうでしょう?」

「そうね。私も冒険者がいいと思うわ。ルシアは冒険者でもいい?」

「構いません」

 

 二つ返事で応じるルシア。

 加えて、ファミリアに加入する上でファミリアに対する貢献や奉仕は、本拠(ホーム)内の家事で負担させようという話になった。

 主要メンバーで話し合う内容はこれで終わり、ここから細かいことは団長と副団長で決める。

 

「それじゃあ今日は探索から帰ってきたところだし、明日仕切り直して改めてルシアと探索に行きましょう」

「団長。ルシアの装備はどうする?」

「うちにある予備を持たせましょう。とは言っても最初は持たせるのはボウガンと防具くらいよ。ルシアをサポーターとして起用するわ」

「なるほど。パーティは?」

「私と輝夜。そして、ライラとリューよ。初日だからそこまで深くに潜るつもりはないわ」

「それがいいですね。まずは上層から。そのメンバーで固めるなら中層を見せるくらいは──―」

 

 アリーゼと輝夜が綿密な話し合いを練る中、ルシアの元にはリューとライラが歩み寄り、談笑する。

 そして、その日の探索の始末を終えた他の眷属たちも本拠(ホーム)の奥から居間へと戻ってきて、ルシアと初対面を済ませる。中でも同胞のセルティもリュー同様、同胞の加入に喜んでいた。

 ルシアと自身の眷属(こども)達、その会合を目の前にしてアストレアは微笑む。

 

 こうして、ルシア・マリーンが正義の眷属として迎え入れられた日は、夜まで賑わい続けた。

【アストレア・ファミリア】と彼女の眷属の物語(ファミリア・ミィス)が始まった。

 

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