アリーゼ達が帰還し、ルシアとアストレアはルシアに発現した魔法について説明した。その内容を耳にした彼女達は最初複雑で様々な反応をしたが、最終的には祝福し、興味津々でいつものように彼女を囲った。
そして、皆でルシアの魔法を見てみようという算段になり、
ただ一人、スキルについても聞かされた輝夜はその輪の外でアストレアの隣で遠巻きに眺める。
「アストレア様。よろしいのですか?スキルのことといい、比較的マトモだという魔法の方でさえも全癒魔法なんていう壊れぶり。私は公表するべきでないと思いますが?」
「えぇ。私もそう提案したのだけれど、ルシアが決めたことだから……後は私にできること、あの
「……なるほど。もうお覚悟をお決めになったと」
輝夜が目を細めてルシアを見遣る。彼女の台詞にある含みにアストレアは苦笑いする。
相変わらずルシアには甘いとそう暗に告げているのだろう。
当の本人の周りで、眷属達が賑やかになる。
「私、全癒魔法なんて見るの初めてかも!」
「私も!」
「確か大昔に不老不死を目指した賢者だけが辿り着いたって聞いたことがある……!」
「ヤベぇ。なんかこっちまで緊張してきた。んなすげぇ代物拝めるなんてよ。チビりそうだぜ」
「ライラ、下品な表現はやめて頂きたい。ルシアに移ったらどうする。……かくいう私も初めて見るので少し興奮していますが」
表に出すかどうかは各々別でも、内心に興奮を抱えるのは共通だ。
だが、一つ疑問が生まれた。
「ていうか、全癒……って要するに回復魔法だろ?だったら健康体の奴にかけても意味ないんじゃないの」
「じゃ、じゃあ皆でアリーゼを攻撃する……?する?」
「……セルティ、あんたルシアが関わると時々過激になるわね」
リャーナがセルティから距離を取る。セルティは何故か血眼になって必死な形相だ。
ルシアの魔法の有用性を実証する上で、彼女の役に立ちたくて仕方ないのだろう。本人に制止されて従者のように尽くすのはやめたが、本能は抑えられないらしい。
そんな様子を傍目にライラがここぞとばかりに悪ノリした。
「おっ、日頃の鬱憤を晴らすか~?」
「なっ……!?日々正義の為に尽くしているアリーゼになんてことを……!ライラ、アリーゼに恨みなどない筈だ」
「なんでお前が勝手に決めんだよ……。てかあるだろ、一緒に暮らしてりゃ一つや二つ」
「私はアリーゼに恨みなどない!」
いつもの如くふざけるライラに冗談が通じないリューの叱責。各集団でやり取りを混じえる中、アリーゼが見兼ねてわざとらしく胸を張る。
「私は別にいいわよ!さぁ、皆かかってきなさい!全て薙ぎ倒して私が【アストレア・ファミリア】の最強無敵、加えて超~
「切り傷くらいで充分です。今日は魔法が正常に作動するかどうかの確認なので」
「痛っ!」
ルシアが手頃なナイフのその刃先でアリーゼの肌にかすり傷を付ける。結果的に
ルシアはそれを確認して自分の元いた立ち位置に戻る。
本人の言う通り、今回は全癒を期待するのではなく、まず回復魔法として最低限効果が表れるかどうかを試したいのだ。
故に、正常に使えるかもわからない魔法を頼りに大怪我を負ってもらっては困る。結果、治せませんでしたでは一大事になってしまう。
「では、行きます」
『……っ!』
他の面々とは異なり冷静に事を始めようとするルシアに、心の準備が間に合わない【アストレア・ファミリア】の団員達は喉を鳴らす。
ルシアは杖を構えた。そして。
「【生きる者よ、死にゆく者よ。我は其方等の生を願う、その命に咲く花を枯らさない】」
思い浮かべるは桃源郷。思い馳せるは満開の花畑。花弁が風に囁かれ、花びらが散り、空に舞う。その景色の中に聳え立つ白亜の塔が目を奪う。それは理想郷。
ルシアが脳裏に焼き付けたその光景のように現実でもルシアの足元に淡い桃色の花が咲く。
「【もし、呪われし我が身を受け入れるなら。其の身体を治そう。父の呪い、塔の呪い、龍の呪いを有した我が求める】」
「えっ」
「何、どうかした?リャーナ」
「あっ。いや。この魔力……」
詠唱の途中、リャーナが顔を顰める。
ルシアの様子が変だと同職が気付いた。そこで、アリーゼを始めとして皆がハッとしてルシアに注目する。
一人、セルティだけは魔力が異常成長気味に膨れ上がるルシアに見惚れていた。
「うん……凄い……」
「凄いっていうかこれおかしいよ!やっぱり全癒魔法なんてLv.1が使うものじゃないってて!」
「……っ、ルシア!」
「待て、団長!今止めれば
止めに入ろうとしたアリーゼを輝夜が制止する。
もう見守るしかない、それを察し、誰もがルシアをただ深刻な面持ちで見つめる。その間にルシアの詠唱は最終段階に入る。
「【理想を身に宿し者、我の名はマリーン。我は
魔力が高まり、ルシアの足元にマジックサークルの代わりのような花畑ができた。神秘的な雰囲気を纏い、誰も近づけない異様さを放つ彼女が途中から詠唱をやめてしまう。
だが、
加えて、本人は俯いてしまい、微動だにしない。
暫くは皆待っていたが、徐々に様子が変だと気づく。詠唱も再開せず、さすがに訝しんだアリーゼがルシアに駆け寄った。
「ルシア……?大丈―――っ!」
声を掛けたアリーゼが瞠目する。
「し、失神してる……」
『……っ!?』
アリーゼの呟きに一同が驚愕する。
そして、狼狽した。
「えっ」
「き、気絶したってこと……?なんで?」
「一体何が起きたのですか、アリーゼ!」
「ルシア……っ!」
皆が困惑する中、リューと輝夜がルシアの近くに来た。来てすぐ、その症状に目を見開いた。
輝夜がそれを口にする。
「マ、
「馬鹿な。詠唱の途中に!?」
『……!?』
リューが叫んだことで全員が状況を理解した。それと同時に共通認識が生まれた。今目の前に起きている事柄は異常だと。
詠唱を中断したのにも関わらず、魔力暴走は起こさず、沈黙した。
間違いなくLv.1が持つには過ぎた魔法。扱い切れるか不安はあったが、この結果は予想していなかった。できるはずがない。特異すぎる。
強力な全癒魔法がそうさせたのか。ルシアがそうさせたのか。
そもそもなぜそんな代物が彼女に身についたのか。ハイエルフだから、というだけで納得できる域をたった今超え始めた。ただ強力な魔法が備わっただけではないことはもう流石に誰もが察することができた。
だから、力のある者、アリーゼや輝夜、リュー以外は彼女に近寄らない。本能で察する不気味さと恐怖があるからだ。
「……」
俯いて動かなくなったルシア。
騒ぎ立てていた最初とは真逆の静まり返った緊迫感ある空間で、未だに癒えていないアリーゼの切り傷から流血が垂れ落ちた。その血滴だけが音を立てて葉を伝う。