原初の竜でも友達が欲しい   作:伊つき

32 / 50
御下がりは最高でお揃いは正義

「はぁ~!?全癒魔法が発現して詠唱途中に精神疲弊(マインドダウン)で倒れてこれからは自粛することになったぁ!?」

「はい」

 

【アストレア・ファミリア】の本拠(ホーム)にて、訪問してきたルノアが居間のテーブルについていたところ、事情を聞いて机を叩いて大きな音を立て身も乗り出す。

 向かい側に座っていたルシアは簡単に頷いた。

 

「はいってあんた……それでいい訳?正義の為に活動して名誉を得るんだーって張り切ってたじゃん」

「えぇ、まあ……そうなんですけど……」

 

 ルノアの指摘にアストレアが応じる。同じく隣にいた、青筋を立てている輝夜を添えて。

 

「ルシアも最初は嫌がっていたのだけれど、三人で沢山話し合って最終的には私達が納得させてしまったの」

「あら、えらい元気なこと。声の仕事にでもついたらええんとちゃいます?ちょうど【ガネーシャ・ファミリア】が募集してた気がします、応募されてみては?」

「おい。もうそろそろ嫌味だって分かってきたからな?」

「なら黙れ。人様の本拠(ホーム)で声を張りあげる方が非常識だろう。それとルシアの件は仕方ないことだ。我々とて好きで縛り付けている訳では無い。これもルシアの為だ。既に本人の理解も得た」

「うっぐっ……」

 

 これに関しては輝夜が正論。ルノアも言い返そうとして口篭り、やがて押し黙る。

 そのやり取りを制止しようとしていたアストレアが鎮火したのを見て、安心したがいつまた爆発するか分からない様子に困ったように眉を顰めて自身の頬に手を当てる。

 不満ありげで消化不良だが、ルノアは気を取り直して頭の後ろで腕を回し、ルシアの自粛を嘆く。

 

「ちぇー、せっかくルシアをデートに誘おうと思ったのに今日どころかこれから先一緒に出かけらんないのかよ」

「……?デート、というのは逢い引きですよね。それは異性間でするものでは」

「なんだ、知らないの?女友達でも言うだよ」

「ほう。あぁ、なるほど。そういう……」

 

 ルノアに教わり、そこから文脈を分析。流行の表現、その文化を解読した。が、恐らくそんなに内部を分解する必要はない。

 ()()()()()()だと深いことを考えずに飲み込むのが正解だ。そこもルシアは頭ではわかった。

 

「良いですね、私も行きたかったです。ルノアさんとデート……」

 

 俯いて耽るルシア。もう叶わぬ光景をその瞼の裏に浮かべているのだろう。目を細めて、何もない所を見つめている。

 その様子を見てルノアはいたたまれなくなってきた。

 

「ねえ、別に私用で出かける分にはいいんじゃないの。何も一生引き篭ってろってのはやり過ぎでしょ。要するに魔法がダメって話なら、使わなきゃいいじゃん」

「そういう問題では無い。使用するかは関係ない。発現すること自体が問題だ」

「だったらこれからはステイタス更新しなきゃいいじゃん!」

「ええい!馬鹿め。ああ言えばこう言う、屁理屈を述べるな!」

「輝夜、落ち着いて……?」

 

 段階的に激化するルノアと輝夜の口論が、もはや建前の温厚な輝夜の口調を蹴破る勢いで荒っぽいものになっているレベルにまでなって、見兼ねたアストレアが苦笑いしながら止めに入る。それに、ルノアの意見もあながち間違っているとは思えなかった。

 アストレアは、輝夜に提案する。

 

「ねえ、輝夜。ルノアの言う通り、出かけるくらいはいいんじゃない?」

「おや、アストレア様。今の治安をご存知ではありませんか?自ら戦いに行かなくとも私用で歩いてるだけで危険に巻き込まれる。オラリオは昔とは違います」

「それは……」

 

 輝夜の反論にアストレアは言葉に詰まってしまった。自分の方が筋が通っている、それが確定して輝夜はアストレアから目を背ける。

 輝夜と一緒に諭してきたアストレアが、ルノアの登場で譲歩してくれた。

 

 自分の為に輝夜に掛け合ってくれた彼女を見てルシアは、前とは違って輝夜の方が完全に正しいと頭では理解しつつも、少し勇気を出して彼女に頼んでみることを決める。

 顔を上げて、輝夜と向き合った。

 

「……あと1回」

「何?」

 

 声が小さいながらも輝夜は聞き取れて、だがその内容に敢えて顔を顰めて聞き直す。

 ルシアは、上唇と下唇をキュッと結んだ後、もう一度声が震えながらも握り拳を作って申告する。

 

「あと1回だけ許してください……私はまだルノアさんと遊んでません。私は……っ!オラリオに友達を、作りに来ました……」

 

 たどたどしく言葉を紡いでいく。

 誰もその邪魔をせず、黙って受け入れ続ける。ルシアもどんなに不格好でも、思うように発せなくても、決してやめはしなかった。

 

「ルノアさんと出逢えた時点で私の目的は達成しています……だから、これ以上は求めません。でも、最後にルノアさんとでーとだけは……行きたいです。お願いします」

 

 輝夜に頭を下げるルシア。対する輝夜は、さらにその表情を顰めながら押し黙る。恐らく、彼女の中で熟考しているのだろう。表には出ないが、ここまでの付き合いでルシアにはわかる。

 輝夜は、頑固なようでどんな物事にも脳内で一度試行(ワンクッション)を挟む。外部からはそれがわかりにくいだけだ。

 

「……まあいいだろう」

 

 暫くして輝夜が渋い顔をしつつ承諾した。

 その返答を聞いてルシアが目を見開き、ルノアが表情を明るくする。

 

「……!」

「よし!やったじゃん!」

「はい!」

 

 背中を叩いたルノアにルシアも満面の笑みで返して二人でハイタッチする。

 ただルノアはまだ納得していない。

 

最後の1回(ラスイチ)ってのは癪だけどなぁ」

「これでも譲歩した方です。不満があるなら撤回してもよろしやす、いかが致します?」

「あー!嘘嘘!寛大なご慈悲感謝致しやす。ハハ~」

「馬鹿にしてはりますよね?おい、貴様」

 

 輝夜が笑顔を張りつけたまま掴みかかる勢いで、迫ろうとしていたが、ルノアはそれをヒョイと躱す。

 危な~と口ずさみながら長椅子に座るルシアの後ろに回った。背後からルシアの顔を覗き込む。

 

「よっしゃ。早速行こうよ、ルシア」

「あ、あの準備してきてもいいですか?少し着飾ろう(オシャレしよう)かと」

「……?別にいいじゃん。今のままで」

 

 下から上まで普段通りのルシアを目で追って、ルノアがキョトンとした表情を浮かべる。

 対してルシアは、頬を少し赤く染めて目を逸らして照れたかと思えば、上目遣いでルノアを見つめてもごもごと喋る。

 

「でも、貴重な1回ですし。それに……デート、なんですよね?」

「あー……」

 

 ルシアの意図を理解し、直前の自分の言動(ムーヴ)を思い返す。もっと気遣い、汲み取るべきだった。そして、それは今からでも遅くはない。今もまた最適な選択をしなくてはいけない。

 わかってはいるが、こういうのは苦手なんだよなーとルノアは立ち上がって後頭部を掻く。ただ、模範解答の対応(レス)よりも優先したい事があるのをルノアは思い出した。

 

「うーん、それでもやっぱなし。あんたと一緒に入れる時間短くなるじゃん。それともその時間私から奪うつもり?」

「い、いえ!そういう訳では」

「じゃあいいじゃん。大丈夫だって、もう可愛いよ」

「……っ!」

 

 ルノアのまさかの返答に焦り、褒められたことに照れて俯くルシア。なにを見せられてるんだと虚空を眺める輝夜をアストレアが宥める。

 ルシアは恥ずかしい気持ちを誤魔化す為に立ち上がった。目は合わせられない。

 

「じゃ、じゃあ今すぐ行きましょう」

「よっしゃ来た。行くぞ!」

「ちょっと待って?」

 

 輝夜の相手をしていたアストレアが割って入る。二人は彼女の方を見た。

 

「アストレア様?なぜお止めに」

「あぁ。反対じゃないのよ。だから、そんな顔しないで?」

「それはまあ……。そもそも最初に折れて頂きましたし、そこの心配はしていませんが……」

 

 水を差すようなことをしてしまったのはアストレアにも自覚がある。先に謝罪を入れるが、ルシアとて彼女の人格を把握出来ない訳ではない。意図は掴めている。

 その上で、両者確認のやり取りを経由し、アストレアは改めて伝えたかった提案を告げた。

 

「今度、炊き出しがあるの。どうせなら二人でそっちを楽しんだらいいんじゃないかって思って。どうかしら?」

「炊き出し……?ってなんですか」

「農業系の派閥(ファミリア)の協力を得て、ギルドがオラリオの民衆の為に行う予定の行事だ。彼らに新鮮な食材を用いた料理を振る舞い、我々も運営側の現場として参加する」

「でも、ルシアは参加できなくなっちゃったでしょう?だったらお客さんとして楽しむのもいいんじゃないかって思ったの。ほら、ルシアって食べるの好きじゃない?だから、いい案だと思うのだけれど」

「はい。とても良いと思います。食べるの大好きです。はい」

「食いつきすぎだろ……」

 

 炊き出しの説明を受けて、興味を示し過ぎるルシアにルノアが少し引く。彼女の食への執着が凄いのはなんとなく彼女も気付いていた。

 ルシアの意欲を認知したアストレアは次に輝夜に確認を取る。

 

「輝夜はどう?許してくれる?」

「……アストレア様にその頼み方をされたら我々は敵いません。知っているでしょう?狡いお方だこと」

 

 輝夜が口元を隠して目を細める。

【アストレア・ファミリア】のメンバーは彼女の言う通り、例外なくアストレアを崇拝(そんけい)しており、輝夜やライラのように芯のある者はたまに反論することもあるが基本的には彼女にねだられたらもう首を縦に振るしかない。それ程に主神の我儘に弱い。

 

 それを自覚した上で、受け入れつつもせめてもの抵抗として皮肉を叩く輝夜だが、その奥にある優しさを見通しているアストレアは彼女に会釈する。輝夜は視線を逸らした。

 その後、溜息をついてなんとか納得しようと、主神の要求を飲もうと自己の中で処理する。

 

「まあ……我々の管轄内であれば、接客をするよりかは危険(リスク)も低いでしょうし?いいんとちゃいますか。ただし、あまりお店は回らないこと。食事は人目につかない決まった場所ですること。このくらいの規定(ルール)は定めときたいところですね」

 

 輝夜の補足にルシアが頷く。

 

「わかりました。その条件を飲みます」

「当然だ。これはお前の為でもある」

「……はい。本当にありがとうございます、輝夜さん。私を守ってくれて。その上我儘まで聞いていただいて」

 

 ルシアは輝夜の本質を理解している。そして、ルシアが言葉の裏を読み取り、馬鹿正直に感謝するので輝夜も自覚して自分が嫌になる。

 今日はよく息をついてしまう。

 

「そうですね。本当に。私も甘いようです」

「……じゃあもうちょっと外出くらい許してくれてもいいじゃんか」

 

 ボソッとルノアがボヤいたその瞬間、輝夜の視線が恐ろしい早さでルノアを強烈に捉える。

 

「何か言われました?」

「げっ。地獄耳」

「やかましいわ、馬鹿め」

 

 互いに悪態をつくルノアと輝夜。これももう二人の恒例のやり取りとなってきた。相性が悪いのももはや周知だ。

 アストレアもそろそろ愛想笑いだけで済ませるようになった。

 そんな険悪な雰囲気もあったが、とにかく話は纏まった。ルシアは最終確認の意味も込めて繰り返す。

 

「では、改めて。炊き出しの日に一緒に行きましょう!」

「うーん、また後日かぁ。今日あんた誘える前提だったんだけどなぁ」

 

 ルシアはその気になってしまったが、ルノア的には未だ不満が残る。今日もルシアとの予定を勝手に確定させていた為、これで暇になってしまった。

 どうしたものかと頭を悩ませたところでルノアは思いつく。そして、ニヤつき、とある企みを抱いた。

 

「そうだ、炊き出しに合わせてさ。必要なもの色々買いに行こうよ!」

「は?」

「えっ。でも……」

「デート前準備ってやつだって!ほら、行くぞ!」

「おい、貴様何を勝手に……っ!出かけるのは炊き出しの日だと、おい!貴様……っ!!待て、逃げるな!今さっき交わしたモノを数秒で反故にしよって、話が違―――」

 

 散々反対もされた上で妥協する為の交渉を長々とやったというのに、ルノアは今ここでルシアの手を引いて【アストレア・ファミリア】の本拠(ホーム)を後にする。そして、本拠(ホーム)の庭くらいまでは追いかけてきた輝夜が恐ろしいことに腰に差した刀の柄を掴んだところでアストレアが慌てて止めて、その隙にルノアはステイタスでルシアを抱き抱えて全力で駆けた。

 輝夜から見て、彼女達の背中を見失った頃に、ルノアは減速する。ルシアを下ろして汗を拭いながらさらに街の方へと向かう。

 

「はい、振り切った!ヤベェ、やっちまった~!でも、私あんた以外何もないんだから別にいいか」

「ルノアさん!?」

「このまま炊き出しの日まで私んちに泊まりな!」

「えぇ!?」

 

 ルノアの横暴さと思い切りの良さにルシアは振り回される。

 さすがに引け目を感じて来た道を見返すルシア。早く戻らないとという焦燥感もありながら、ルノアの思惑も理解出来て、尚且つ彼女の願望も無下にしたくないものだ。

 

 それになによりルシア自身が本心ではルノアと同じ気持ちだ。

 戸惑いながらもルノアを見上げるルシアに、ルノアは自分の身勝手さを悪用して宣言する。ルシアが口を開く前に。というか誰の意思も介在させない。

 

「はい、決まり。確定!ハッ、1回で終わって溜まるかっての。何回だって出掛けようよ、ルシア……!」

「……っ!」

 

 手を差し伸べて、大きな笑顔を向けるルノアにルシアが目を奪われる。その表情を前にしてルシアの天秤は完全に傾きの行方を確定させた。心の中でその音が響く。

 ルシアは()()()になることを選んだ。ルノアが思い描く当たり前のように外で遊べる日々。ルシアもまた同じ未来を望んでしまった。

 

 いや、最初から望んでいたが抑えていた。最初は不満があったのだから当然だ。

 アストレアと輝夜に念押しされて納得したと自分に言い聞かせていた。彼女達に恩義を感じているから、気を使っていた。

 でも、まだ、やっぱり挑戦を諦めたくなかった。ルノアとの日々だってまだ続けたい。

 

 だから、手を取った。そんなルシアの様子に満足げなルノアは悪友を手に入れて、悪戯っぽい笑みを共有する。輝夜達に恩を仇で返すことになってしまったその結果を経て、二人は少なくとも炊き出しまでの間はそう過ごすことにした。

 大通り(メインストリート)を歩く二人。

 

 直近までの行動は決めたところで、ルノアが通りがかった店の展示物(ショーウィンドウ)を傍目にして、おもむろに足を止める。

 そして、何かを思い出したように自身の荷物を探りつつ、ルシアに尋ねる。

 

「おっ。ねえ、そういえばルシアって武器持ってるの?」

「持ってませんけど……いつもファミリアにある予備を借りてます。まあサポーターなのでナイフくらいしか持たされてませんが」

「ふぅん。じゃあ、作るか」

「はい?」

 

 話が見えないまま道沿いの店に入るルノアに、ルシアが困惑しながらも後を追って入店する。中は武器や防具が数多く陳列されている。

 一通りの多い大通りに面する店はそこに構えるだけでも知名度(ブランド力)と大金が必要になる。

 

 つまり、武器を売るなら誰もが知っているような名の通った鍛冶師系ファミリアが出店している可能性が高い。そんなルシアの予想は完全に合致し、値札の価格が飛び抜けていた。

 商品の値段に面食らうルシア。ルノアは値段を見ていないが、見たら仰天するだろう。

 

 ここは相場よりも高い。無論、その分質も良いが。高級店を選んでしまったのはルノアの経験の浅さからだろうと思いつつ口にはしない。彼女が()では買い物をしない為、慣れていないという事情を知っているからだ。

 そんな気を遣うルシアを他所にルノアが壁に貼り付けられた紙の前で足を止めて自分の荷物からグローブを取り出す。そして、それをルシアに差し出した。

 

「はい。これ、私が昔持ってたグローブ。あんたにあげる」

「は、はぁ……?いいんですか。貰っても」

「本人があげるって言ってんだからそらそうでしょ。前から思ってたんだよね、あんたは危険(リスク)を抱えて、いつ迫害されるか分からないにしては無防備過ぎるな~って。路地裏(スラム)だったら格好の(カモ)だろ」

「それでグローブを?」

「そ。もう使ってないし、私最近素手だからな。まあでもボロボロ過ぎてそのまんまじゃ使えないけどね。あんた、拳に良いモン持ってるし使いこなせるでしょ。それに手を守る意味もあるんだよね」

「なるほど」

 

 そう言って半ば強引にルシアにグローブを押し付けてくる。ルシアも断る理由は無いので受け取った。

 それを確認して、ルノアは目の前の紙、そこに記された案内を指で差す。

 

「んでこれ!装備を改修する受付(サービス)、これ使ってそれ直そうよ」

 

 ルノアが提案する。どうやらその広告を見てこの店を選んだようだ。

 ルシアも初めて見た事業(サービス)なので、目を細める。

 

「こんなのがあるんですね……」

「装備は高い割に冒険者は稼げないからなぁ。まあ性分ってのもあるけど私が賞金首やってた理由の一つではあるよね。だからさ、皆ちゃんとした装備買える訳じゃないんだよね」

「なるほど。経済状況によって生まれた需要ですか。都市や迷宮の事情と彼らの商売はまた別ですからね。高騰も望んでることではないでしょうし、売れないのも困る。売る為の事業(くふう)が必要だったということですか。それで展開を」

「あー、多分そんな感じ?」

 

 商売人が考えることにまでは至らないので、ルノアは適当に相槌を打つ。逆にルシアは需要と供給、情勢と経済を読んでなんとなく業界事情を把握して納得するように頷いた。

 分からない話は置いておき、ルノアは補足する。

 

「私は使わないけどなんか駆け出しの鍛冶師が作る装備とかバベルで安く売ってるんだってさ」

「色々あるんですね」

「まあね。私は……ちょっと独特のルートから買ってたけどね。まああとはこうやって直し直し使ってる時もあったかな」

「なるほど。それで」

 

 ルノアが張り紙に惹かれた理由が分かった。ルシアは、ルノアの提案通りやってみようと思う。

 興味深そうにしているのはルノアにも伝わったのか、提案しておいてなんだがと言った感じで後頭部を掻く。

 

「本当は気前よく奢ってやろうかと思ったんだけど……案外余裕なかったんだよね。私、本当に格好付かないなぁ」

「いえ。このお古を貰えただけで嬉しいです。友達のお下がりなんて、初めてなので」

 

 これは本心だ。友達すらできたことのないルシアにとって、お下がりはとても嬉しい。そもそも友達らしいやり取りが全て新鮮だ。

 表情や声音には出さず、落ち着いていて平常運転のように見えるが、内心では興奮している。

 ルシアは、貰ったグローブを見つめて、ルノアが使っていたのだと少しだけ思いを馳せた。そして、出来るなら彼女が使っていたそのままで使いたいと考える。

 

「これ、このまま使えないんですか?」

「あー無理。私が使い古したやつだからな。でも、改修したらまだまだ現役いけると思うよ。ただ私はそうまでしてももう使わないってだけで。だから、あんたが使いなよ」

「……ありがとうございます」

 

 素直に礼を言って受け取るルシア。初めてのお下がり、贈り物(プレゼント)を胸に抱き寄せて大事に持つ。

 静かに歓喜を噛み締めるルシアは、ルノアが口にした改修というのが気になった。

 

「でも、改修するってことは素材が必要ですよね?」

「そうだね。それもここで買っちゃえばいいよ」

「それもそうですね」

 

 ルノアの言うように改修を目的に入店したが、鍛冶師系ファミリアが営む店ならモンスターの素材くらいいくらでも売っている。

 つまり全てここで済ませられるという訳だ。まさに一石二鳥である。

 だが、問題があった。

 

「うーん……」

「意外と高いというか。割に合ってないというか」

「この素材でこの値段?って感じだね」

「はい。やっぱりダンジョンに行って自分でドロップアイテムを獲得するのが一番効率(コスパ)がいいですね」

「やっぱり?私はあんまダンジョン行かないからそこんとこ分かんないんだよね。いつもは裏で買ってたしここまで相場が高いとは思ってなかったなぁ」

 

 値札と睨めっこする二人。ウンウンと唸っては難しい顔をする。

 素材はダンジョンで採取するか、あるいは購入するとしてもバベルなどの公的な機関を通すのが通常だ。故に、個人やファミリアが扱う物となると代理ということもあり、値が張る。

 

 まあそれも自分の力では手に入れられない物を間接的に提供して貰っているのだから妥当と言えば妥当だが、ルノアのように実力はあるが急務なので欲しいと言った層には割高に感じてしまうのも無理はない。仲介手数料というのは力のある者と相性が悪い。

 さらに、ルノアはこういった正規店は不慣れだ。

 

「ごめん。私と一緒じゃいい買い物できないや」

「いえ。輝夜さん達とくれば色々教えて貰えるんでしょうけど……」

「ははっ。そりゃもう無理だ」

「ルノアさんが連れ出したのが原因なんですけど」

「はぁ~?でも、スッキリしたろ?」

「まあ……はい」

 

 自分が悪い時、ルノアは適当になりふざける。ルシアもそれを分かってて合わせた。本当はルノアのせいだなんてこれぽっちも思っていない。

 連れ出してくれたのは無論ルノアが自分の為にやったことでもあるが、結果的にルシアにとっても気持ちが晴れた部分はあった。だから、寧ろ礼を告げたいくらいだ。ルノアが、ルシアの本来の願望を引き出してくれた。

 

 だから、ルシアは清々しい笑みを浮かべた。ルノアも笑顔を返した。二人は互いの拳を合わせて肘を曲げて軽く突いた。

 その時、ルシアは自分の腕を目にしてある事を思いつく。

 同時に声が漏れた。

 

「……あっ」

「何?どうしたの?」

「いえ。もっと良い素材が簡単に取れるなと思いまして」

 

 真顔で不思議なことを言うルシアにルノアはただ疑問符を浮かべた。だが、次の瞬間、ルシアが起こした行動に瞠目する。

 ルシアは、懐からナイフ取り出すと周囲に人がいないことを確認して腕を捲り、竜の鱗がある肌を露出し、いきなり体表を削ぎ落とした。

 突然の自傷行為に、友に傷ついて欲しくないと言っていたルノアが驚愕する。

 

「はぁ!?ちょっ、あんた何やって……!」

「……っぁ!」

 

 鮮血が垂れ、腕を抑えながらルシアが膝をつく。例え自傷でも痛いものは痛い。声にならない声を噛み締めることでなんとか飲み飲んで耐える。

 そして、慣れが発生したと同時に荒い呼吸を解放し、行動の理由をルノアに説明する。

 

「私は……っ、ここにある素材の元のモンスターよりも高位のモンスターです……!つまり!私自身を素材にすれば……より良いモノが作れる筈です……!」

「だからって正気の沙汰じゃないでしょ……!大丈夫なの?」

「はい、問題ありません。すみません。急に」

「いや、あんたがいいならそれでいいんだけどさ。ビックリはするよ」

 

 ルノアは強い困惑に襲われ、ルシアはポーションを腕にかけて床の血も拭き取り、何事も無かったように袖を戻す。

 本人が淡白な様子なのでルノアも深いことは考えないことにした。心配ではあるが、彼女の身体については分からないことが多すぎる。故に最終的には自己判断に委ねるしかない。

 当の本人は何事も無かったかのように話を続ける。

 

「それじゃあ、これを使って良い篭手を作ってもらいましょう」

「よっしゃ。さっそく鍛冶師に頼むか」

「……その素材はそこらの奴には扱えんぞ」

 

 突如、背後から低い男の声が割って入った。ルシアとルノアは目を見開いて、そちらを確認する。

 すると、白い髪に白い髭、年配の男が立っていた。そして、同時に男は神だと神威で二人は認識する。ルシアは相手が神と気付いてすぐに低くして尋ねる。

 

「存じ上げなくて申し訳ありません。どちら様でしょう?」

「なんだ。俺の派閥(ブランド)の直営店に来ておいて、俺を知らんのか」

 

 怒ってはいない。ただ淡々と男は会話を構成する。そういう神物(じんぶつ)だ。

 ルシアは男の言葉から周囲を見渡し、店内に紋章(エンブレム)を確認する。その下に刻まれた派閥の刻印を横目で捉えながら再度聞く。

 

「つまり……神様(あなた)はゴブニュ様御本人、ということでしょうか?」

「そうだ」

 

 ルシアの質問にゴブニュが頷く。それを受けてルシアは深くお辞儀した。

 

「それは大変失礼しました。そして、ただの客である私達に助言(アドバイス)までくださり、ありがとうございます。頂いた意見を参考に腕のたつ鍛冶師の方に頼んでみます」

「……アテはあるのか?」

「いえ」

 

 ルシアが首を振るう。ゴブニュは表情も声色も変えず、ただ目を細めた。

 

「そうか。そんなことだろうと睨んでいた。俺に預けろ、それを扱えるのはオラリオでも数えられる程しかおらん。そんな奴らを探すより今目の前にいる俺に頼む方が話は簡単だ」

「それはそうですが……よろしいのですか?神様直々に受けてくださるなど滅多にないような印象ですが」

「第1級冒険者の注文を常に抱えてはいる」

「あっ。えっと。お忙しいのでしたら他を当たりますが」

 

 この店がどういう店なのか、ルシアは入店した時から察している。鍛冶師系の派閥において有力だと。

 そのファミリアの主神ともなれば見ず知らずの、それも駆け出しの相手などすることはまずない。だが、何故かゴブニュは積極的だ。

 

「これを扱える鍛冶師で一見を受け付ける奴などほぼおらん。それどころか取り合う(コンタクトをとる)ことすら叶わんわ。それに、こいつに興味がある。俺にやらせろ」

「そ、そういうことでしたら有難い話ではありますけど……」

「なんだ。まだ何かあるか」

 

 中々自分に委ねないルシアに、ゴブニュが渋い顔をする。

 ルシアの方は依頼をする上で丁寧に話を進めようとする。故に、即座に何も考えず、委ねたりなどしない。

 相手は鍛冶を司る神。当然、その腕も一線を画し、相当の報酬が発生する。そういった懸念点を不透明にしながら相手に流される訳にはいかない、そう考えルシアは慎重になっている。

 

「予算の方がそこまで多くないので、そこが気になりまして」

「少しくらいはまけてやる。神に対する敬意を感じるその礼儀正しさに免じてな。足りん分は分割でもなんでも利用して構わん」

「ありがとうございます。一応このくらいは出せます」

 

 ゴブニュの眷属から書き物を借りて大体の資産から出せる金額を割り出し、それを提示する。

 ゴブニュは確認した。

 

「……確かに充分とは言えんが、遠慮する程でもない。印象通り、計画性のある性格(タイプ)だな?返済も2年程で済む筈だ」

 

 ゴブニュの分析にルシアが少しむず痒くなり、どうですかね?と首を傾げながら彼の眷属に見積もりや契約書を受け取る。向こうから申し出てきて、さらには譲歩までしてくれるというならルシアも承諾することにした。何より、神ゴブニュに装備を作って貰えるならそれ以上のことは無い。

 一通り貰った書類にルシアはサインして彼に渡す。

 

「後は俺に任せろ。……ところで素材はいいが、改修する元のモノがえらくボロいな。当然値は上がるが、同じようなものならそこらで新しく手に入るぞ」

「いえ。これを使いたいです。お願いします」

「そうか。わかった」

 

 大した差異もなくより上質に仕上げられる提案にルシアは首を振った。ゴブニュも受け取ったグローブを手に持って武器から様々なことを感じ取る。なんとなく事情を察したゴブニュはそれ以降何も追求せず、二つ返事で依頼主の要望を呑んだ。

 一部始終を見ていたルノアはルシアが自分に気を遣っているのだと考え、声をかける。

 

「ねえ。あの神様が言ってた通り、別に私のに拘らなくていいんだよ?」

 

 そう告げられたルシアは、ルノアがどういう思考に至ったのか理解する。なぜそんなこと言い出すのかといった疑問は持たず、ルシアは貰ったグローブが自分にとっていかに特別か、自分の思いを口にする。

 

「拘りますよ。言ったじゃないですか。お下がりは初めてだって。とても嬉しくて、どんな新品よりも気に入ってるんです」

「そ、そっか。あんたって曇りがないというか、結構恥ずかしい事言うよね」

「そうですか?」

 

 ルシア自身にその自覚はない。だが、ルノアの指摘通り、迫害や故郷の影響で少し世間とズレはある。そんなもの、ルノアにとっては些細な問題だが。

 とにかく、ルシアは自分の気持ちを素直に言葉にできる、そんな性格をしていた。

 

 無事に依頼もできて二人は退店する。

 ルシアは今一度ルノアに礼を言い、ルノアは礼を言われるほどか?と首を傾げる。結局、ルシアに多額の出費が発生したからだ。最初はそんなつもりじゃなかった。

 それでも、当の本人は全く気にしておらず、寧ろ嬉しい気持ちでいっぱいだった。

 帰り道、これから二人で過ごす時間にルシアは馳せた。

 

「楽しみですね。炊き出し。沢山食べたいです」

「……金、足りるよな?」

「あっ」

 

 ルノアがおそるおそる確認したところ、ルシアが足を止めて目が泳ぎ始める。上や下や色んなところに視線を動かすルシアは、最後に空を見上げて深呼吸をしたあと、笑顔でルノアに精一杯の愛嬌を振りまく。

 

「えへっ。奢ってください」

「うわ、嫌だって言いにくいじゃん。最悪」

 

 連れ出したことと金を使わせたことによる負い目で断りづらい状況を作ってしまったことにルノアが気づいた。

 全力で顔を顰めたルノアは、竜の胃袋に今から怯えた。

  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。