原初の竜でも友達が欲しい   作:伊つき

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ワンパンチ

 衝突する金属音。ルシアが拳を振るい、ヴァレッタが剣で薙ぎ払う。刃と篭手が火花を散らす。

 その中で。ヴァレッタは相手と競り合うことで()()を掴んだ。

 

 自分が攻めれば相手は軽く跳ぶ。ぶつかれば反動が少ない。斬撃を繰り出せば相手がいかに捌こうとその身体に、懐に切り傷が増える。

 何より、動きが遅い。抵抗がないに等しい。日々戦い、尚且つ強者としての感覚が告げている。

 

 ―――コイツ、弱ぇえ!!

 

 ヴァレッタは抑えようとしても口元がニヤけた。何せ手応えが無さすぎる。間違いなく相手は雑魚だ。

 そんな奴がそれらしい文句をつけて乱入し、正義の味方のつもりでいやがる。出しゃばりもいいところだ。こういう思い上がりは早めに潰して分からせてやらねぇとなぁ!

 

「オイオイオイ!Lv.1の駆け出しが何のつもりだぁ?ダメだろぉ、身の程ってのを弁えねえとさぁ!!」

「……っ!」

 

 ヴァレッタに圧されるルシアは苦い表情を浮かべる。

 決して無策で突っ込んだ訳ではない。だが、攻撃を当てるどころか繰り出すことすらできない現状では、ルシアの()()を破綻させる。

 ルシアは恩恵(システム)を完全には把握していない。故に、力量差を見誤ってしまった。

 

「ほらほら、どんどん追い込まれてもう後がねぇぞ~!?どうすんだぁ?なぁ、おい。チビィ!」

「……大丈夫です」

 

 次第に防御すら剥がされ、そこに蹴りを入れられるルシア。転がった先ですぐさま膝をついて身を起こし、まだ諦めていないその瞳でヴァレッタを捉える。

 今まで勘違いした格下が挑んでくることを幾度か経験しているヴァレッタ。

 

 大抵は相手が途中で無謀な挑戦をしたと気付き、この先に待つ未来が死しかないことに絶望して気力を失っていく。だが、目の前の雑魚(ルシア)は中々そんな状態には至らない。何故か屈しない。

 その上謎の自信に溢れる彼女に、ヴァレッタが訝しむ。顔を顰めた。

 

「あぁ?」

「私には、強くてカッコイイお友達(ヒーロー)がいます!」

「……っ!」

 

 ルシアの叫びと共にヴァレッタが認知している索敵範囲に気配が飛び込んでくる。戦場に、視界に入り込んできたその影は初手からヴァレッタに突撃してきた。

 空から拳が降ってくる。

 

「うらぁ!!」

 

 叫びを上げながら拳を振るうルノア。跳躍を経て、勢いをつけたその鉄拳は空を切り、軽く後退するだけで避けたヴァレッタは。薄着の戦闘服(バトルクロス)を纏った女の、視覚的に五月蝿い金色の髪に目を眩ませ、鬱陶しい感情を表情にそのまま載せる。

 溜息をついて舌打ちする。

 

「んだよ。もう一匹いたのかよ」

「来てくれると信じてました。ルノアさん」

「うっさい。オラッ!」

「あいたっ」

 

 ルノアに小突かれてルシアが自身の頭を腕で覆う。

 ルシアだけを大切に想っているルノアに、参戦しない理由などない。ルシアが動いた時点でルノアは諦めと決意を決めるしかなかった。

 ルノアは悪態をつく。同時に、泣き出したくなる現状を嘆く。

 

「あーあ、ほんともう……あんた馬鹿なの?んで私も馬鹿。最悪。今日死んだらルシアのせいだかんな」

「……っ!はい!」

「嬉しそうに返事すんな!」

 

 元気のいいルシアにルノアが呆れる。彼女にとってはルノアが自分の意思に最終的に従ってくれたこと、敵わないことをわかった上で、死を覚悟してでも自分の為に来てくれたことが何よりも嬉しい。

 

「行きましょう!ルノアさん」

「あーもー、まあやるしかないよな!ちくしょう!」

 

 ルシアの掛け声にルノアが叫び、諦めも意味も込めて自分を叱咤する。これで2対1になったが、新たに現れたルノアの方を見遣ってヴァレッタは口角を上げた。

 

「ハッ。わかるぜ?お前も大したレベルじゃねえだろ。さぁどうすんだ?雑魚が増えたところで状況は変わんねえぞぉ」

 

 参入してきた際の多少の衝突。それだけでヴァレッタはルノアの大体の実力を測れた。わかりやすいのは身体能力、つまりレベルだ。

 実力だけでなく観察眼まであちらが上。ルノアは焦燥して拳を構えながらも、隣にいるルシアに一瞬目線だけを寄越して詰め寄った。

 

「ちょ、何か作戦ないの!?考え無しに挑むあんたじゃないでしょ!」

「勿論です。作戦()あります」

「……なんか引っかかる言い方だなぁ。まあいいや、とりあえず教えてよそれ。覚悟は決めてきたけど出来れば私、まだ死にたくないし!」

 

 ルノアの悲痛な願いにルシアは目の前の敵から意識を外さずに、強い意志を示す。

 

「大丈夫です。死なせません。ルノアさんだけは、必ず」

「……っ!」

 

 既に決意を固めているルシアに、ルノアが息を呑む。

 対峙する強敵を前にルシアは告げた。

 

「相手がLv.5で()()()()()()()()です。ルノアさんに貰ったこの篭手、早速活用させていただきます」

「別にいいけど……何する気?」

 

 武器を装着したところで焼け石に水だ。レベルの差は絶対。特殊なスキルでもない限り覆ることは殆どない。

 それはヴァレッタも当然理解している。故に、耳打ちで話し合う二人を煽る。

 

「あぁん?ハハッ!いくら作戦会議しようが天地がひっくり返ってもLv.1がLv.5に勝てる道理はねーぞ!今のうちに命乞いでもしときなぁ!まあ……してもぶっ殺すけどな」

 

 ヴァレッタは殺る気だ。ルノアの忠告通り、戦場に自ら参戦した時点で彼女の標的となり、逃れられない。戦力差があるなら尚更だ。

 だが、そんな絶望的な状況下でもルシアはいつも通りの声音(トーン)で落ち着いている。

 

「ルノアさん、攻撃は全て私が担当します。ルノアさんは相手の攻撃を受け流してください」

「……?普通逆じゃない?」

 

 ルノアが首を傾げる。彼女の言い分は最もだ。

 無論、防御も大切だが相手にダメージを与えなければ勝てない。だから、やるならルノアが前衛、ルシアが後衛が定石となる。

 

 だが、ルシアからすればその模範解答は力量差が如実に表れるだけの愚策と捉えている。かといってルシアにもLv.1とLv.3でLv.5に勝てる算段がある訳ではない。

 これは、()()が編成に含まれてるからこそできる、友を絶対死なせない為の何でも利用する策だ。

 

「ドラゴンの力を使います」

「……っ!」

「私は、本来恩恵(ステイタス)で授かったアビリティよりも(パワー)があります。ですが、それを発揮しようとすると腕が竜化します」

 

 サラッと宣言したルシアにルノアが目を見開くが、彼女が反応する前にルシアは説明を加える。

 

「私は人と竜、どらか一方に外見を寄せられます。まあ限度はあるので普段から肌に鱗があったりしますが。つまり、少しドラゴン寄りになればモンスターとして戦うこともできますし、人間とモンスターの中間……人型のまま衣服の下である程度モンスター化し、その力を限定的に使うこともできます」

「でも、そんなことしたらあんたの正体が……!」

「はい。なので今までは使えませんでした。でも、この篭手は内側まで頑丈に出来ています。ゴブニュ様にそう注文しました。ので、拳から手首辺りまではこれで本来に近い形に戻せます」

 

 そう言ってルシアは意識を腕に集中する。すると、篭手が怪異のようにひとりでに動き、少しその容貌が膨らんだ。ルノアは目を見張る。

 ルシアは自身の腕に覚えのある感覚が戻ったのを確認して敵であるヴァレッタ、Lv.5を捉える。

 

「そして、私の本来の拳が通用する相手、その上限がちょうどLv.5となります」

「はぁ!?それってあんたは本来Lv.5くらいってこと!?」

「……その辺は後ほど説明します。生きてこの状況を切り抜けられれば、になりますが。問題は私の攻撃をどうやって当てるかです。威力(パワー)は同格にできますが、脚部を竜化しないとLv.1の鈍足のまま」

 

 次々と衝撃発言をするルシアにルノアが驚愕するが、そこを追求されている余裕はないとルシアは躱し続ける。ルノアの反応は最もで、ルシアにも説明責任があるが、今は後回しにしなければ命の危機に直結する。

 とはいえ、ルシアの言う通り、拳だけ元に戻しても向上するのは力だけ。それで万事解決とはいかない。

 

 周囲には逃げ遅れた人々、遠巻きに戦闘を見ている野次馬までいる。それらに気を遣っていなくとも行事(イベント)をやるほどの繁華の中で存分にその力を全て振るうというのは無理だ。

 

 故に、ある程度はLv.1のままでやりくりする必要がある。モンスターの力は万能ではない。

 社会を構成しているのは人間で、ルシアはその渦の中にいるのだから。ただ、焼け石に水という訳でも、勝機が全くないという訳でもない。

 

「幸い相手は私達を侮って油断しています。ルノアさんが攻撃を凌いで私が懐に入り、私が攻撃します。もしかしたら慢心で受けてもらえるかもしれません。それで1発。無防備で受けてくれるとより()いです」

 

 視線の先にいるニヤけた面の格上は盤面を支配していると確信している。自分を脅かすものはこの場に何一つないと高を括っているのだ。

 掬うべき足があるとすればそこだ。相手はルシアが半怪物(モンスター・ハーフ)とは知らない。

 

「私達の狙いは彼女が一定以上のダメージを負って撤退を選択すること。勝つのは無理なので退けます。ただ……一発目を当てた段階で私は警戒される。その後、どうやって戦闘不能に追い込んで撤退させるか、一発目は出来るだけ全力で打撃を叩き込んでそこからの動きを鈍らせますが、それが上手くいってもかなり厳しいですね」

「……要するに策はあるけど勝算はない。やるっきゃないってこと?やだなぁ。やだやだ。私の人生、こういう綱渡りばっかでもう懲り懲りだよ」

「大丈夫です。死ぬ時は一緒です」

「そっちの心配はしてないよ……」

 

 ルシアの考えはわかったが、緊迫感のある戦闘ばかりが起こり、尚且つそれが日常化しているルノアは、ルシアと出会ったことで新しい強敵、新しい世界を見せられて憂鬱になった。己の限界が初めて見えた気がする。

 そして、そこには軽い絶望があり、進路の変更という考えが過ぎる。

 

 ルシアは、隣のルノアがそういった連想に至っているのを察知し、彼女を感覚を麻痺させてあげようと考えた。自身の特殊な肉体と実績のあるこの頭脳をフル活用する。

 そうしてこいつといれば何でもできそうな気がすると錯覚してもらうのだ。

 

 これからもこんな場面が巡ってくるかもしれない。それが暗黒期。故に、ルノアを、友を守り抜く為には必要なこと。

 そこまで考えてルシアはお尻を叩いて促すイメージで、ルノアを焚き付ける。

 

「ルノアさんの言う通り、やるしかありません。いえ、やるっきゃない!行きましょう、一緒に」

「はいはい。わかったよ。いつまでもうだうだ言うのも性にあわないからね!腹括ってやるよ!行くぞ!!」

「はい!」

 

 ルシアとルノアが同じ構えを取る。

 臨戦態勢となった二人の手頃な敵(オモチャ)にヴァレッタは地を蹴った。

 

「仲良く死んじまいな、クソアマ共ぉ!」

「私は攻撃見切るだけ……私は攻撃見切るだけ……それだけに集中!集中集中集中!うらぁ!!」

「あぁん?」

 

 ルシアとルノアは同時に駆けたが、ルノアがステイタスを頼りに前衛に出てヴァレッタと衝突する。

 てっきり二人がかりで手数を頼りに突っ込んでくるものだと予測していたヴァレッタは訝むが、すぐに鼻をならして喪失した。最適解でなくとも勘ぐる必要は無い。

 

 相手は圧倒的な格下。もしくは思慮が足りず選択を誤るから格下に収まっている可能性すらある。

 お前らそんなんだから雑魚なんだよ!まあ何かしら策があったとしてもそんなもんで覆る戦況じゃねえけどなぁ!!

 

「なんだァ?てめぇから死にてぇのか?」

「うるさい!」

「おっ?」

 

 ヴァレッタが繰り出す攻撃をルノアは反応と反射、そして目で追ってただひたすらにそれに対応する。

 ここでヴァレッタは違和感に気付いた。ルノアは攻撃を受けているだけ。反撃の意思がない。他の選択肢を捨てて攻撃を捌くことに限定することで、総合力で勝負しないことで何とか同じ土俵にしがみついている。

 

 それでも、たった一つの処理でもルノアは必死だ。一本間違えれば首が飛ぶ。

 ヴァレッタは雑魚の虚しい抵抗に憐れみすら感じながら声高々に嘲笑した。

 

「死にたくねえから防御に専念しますってか?ハハハッ!惨めだなぁ、弱いってのは!だが、そんなことしたくらいで寿命が伸びることすらねえ。それが覆せねえ絶対的な差だっ!!」

「―――そうですね。数字とか物理とか()()モノは絶対です。だからこそ、()()も効きます……!」

「あ?」

 

 ヴァレッタの言葉を逆手に取るように、彼女の懐に潜り込んだルシアが告げる。

 だが、ヴァレッタからすれば逆手でもなんでもない。Lv.1に隙を突かれたところで気にする必要もない。

 

 というより、隙を突かれたのも警戒する必要がなかったからだ。つまりこれは隙じゃない。ただ認識してしなかっただけ。

 それを勘違いした間抜けにヴァレッタは舌を出して煽る。

 だが、ルシアが拳を振りかぶった後、次の瞬間。

 

「バーカ!防げねえけどそんな必要もねえ!てめぇの攻撃なんざ当たっても―――ッ!!!!?!?」

 

 爆裂音。まさにそう表現するのが相応しい。ルシアが拳をヴァレッタの無防備な腹に振り抜いた時、周囲の人間の耳にも入るくらいの轟音だった。

 その聴覚的な刺激は実際に撃ち込まれる様を目にした闇派閥(イヴィルス)の何人かは自分の事ではないというのに無意識に自らの腹を庇う度に、視覚的にも衝撃的だった。

 

 凄まじく重く、鈍く。響く、重低。目撃した市民らすらも簡単に想像できた。その突きがヴァレッタの内蔵にまで届いたのではないかと。まるで悪魔に身体の中まで握り潰されるような、そんな幻聴すら聴こえた。

 下から上へ持ち上げられるように、それでいて抉るように拡散した衝撃によりヴァレッタは殴打の直後、少し浮いた。

 

 その足はすぐに地に降りたが、力が入らず平衡感覚も失いふらついたかと思えば、ただ後退りしただけで済み、それが深刻すぎるダメージで逆に膝を、身体を折ることができなかったのだと、肉体の防衛本能なのだと、後から全身に走る激痛と駆け上がる不快感でようやく発覚した。

 ヴァレッタは、浮いていた踵を地につけたと同時に、勢いよく嘔吐する。

 

「うっあっおえっぁぁ……!!」

 

 黄色い液体と白っぽい唾液の糸、そこに加えて水の如く漏れ出る吐血。噴き出した後、ようやく膝をつき、肘もついた。

 ヴァレッタは感覚と意識を手放してしまい、視線を上げることすら叶わない。地面を見つめて荒い呼吸で苦しんだ。

 

「あっ、かっ……はっ……んだ、何が起きて……あっ、がっ、オエッ、うっ……!っぁ……!あぁ!?うぁ……!はぁ……!?どういう……っ!ううっ。うっ!あぁ……!」

「ヴァレッタ様!?」

「馬鹿な!ヴァレッタ様が……!」

 

 闇派閥(イヴィルス)の幹部にしてLv.5という最上位クラスの実力を持つヴァレッタが。頭もキレ、実力に加えて参謀も務められる実質的な(リーダー)がやられることのない戦場で混乱し、戦闘不能に追い込まれている。

 彼女が連れていた闇派閥(イヴィルス)達も予期していなかった自体に困惑した。

 

 ヴァレッタも受け付けられない現実に錯乱し、まともな判断能力を失う。激痛が走っているのにも関わらず、構わず立ち上がろうとする。

 なぜなら、Lv.1の駆け出しに膝をつかされている現状が有り得ないからだ。

 

 思考を失い、狂った判断の上では何も処理できない。冷静に、マトモであれば察することができることも思い至らない。Lv.1の鉄拳で苦しむはずがない、故に立てる。

 視野が狭まった脳が勝手にそう結論づけた。しかし。

 

「ううああぁ……!痛っ、いて、うぐっ……ぐあ……ぁ……!っぁ……!……っ!…………っ!!ーーーっ!ーーーっ!」

 

 ヴァレッタは再び蹲る。相手を侮って無防備で受けたのがよくなかった。それは深刻なダメージへと繋がり、ヴァレッタを襲う。

 腹を抑えて唾液を垂らすヴァレッタ。その目には涙を浮かべる。それ程に耐え難い激痛。無理をした結果、呼吸すらままならない結果となった。

 

 とにかく最悪の気分を催す苦痛から解放される為に回復に専念するが、いくら肩で息をしようと血なまぐさい味が込み上げてくるだけ。寧ろ、その感覚が喉にまで直上し、再び血反吐を零してしまう。

 だが、それでようやく少し余裕が出来た。

 

「痛ぇ……!痛てぇ……!なんだ!?何が起こりやがった!なんで……!はぁ?意味が……っ!Lv.1の、Lv.1の……!?っぁ、コイツ!うあ……っ!」

 

 思考能力を若干取り戻しても尚、理解不能。身を起こしてもすぐに伏せてしまった。

 

「あ、有り得ねえ……っ!Lv.1……!Lv.1に私が……!あああぁぁぁ……っ!?っぁ……!」

 

 困惑に一通り馴染むと次に怒りを取り戻し、ヴァレッタは地に向けて吠えた。

 そこにルシアが歩み寄る。

 

「連打を撃ち込むことも考えましたが、全力の一発を選んで正解でした。一番いい形で入りましたね。頭を狙えば脳震盪を起こせたでしょうか?照準を考える余裕はありませんでしたが……いえ、そんなことはどうでもいいです。それよりも!」

「あぁ、追撃だ!ダメージで苦しんでる間に畳み掛けるよ!」

「あああぁぁぁ……!舐めんじゃねえよ!」

「「……っ!」」

 

 ルシアとルノアが追い討ちをかけようと走り出したところでヴァレッタが低姿勢のまま武器を大振りし、牽制する。

 あれほど苦しみ、最大のダメージが入ったにも関わらず、もう動き始める程に回復し始めた驚異的な生命力にルシアとルノアは一旦距離を取って、警戒する。その後退を確認してヴァレッタは再度腹を抱えて、剣を支えに上体だけ起こす。膝はついたままだ。

 

「クソ……クソ……!痛てぇ……!やりやがったな、てめぇら。なんだ?何……っ、しやがった?くっ、そ……!」

 

 ヴァレッタはまだ混乱している。やっとの思いで立ち上がることはできたが、足取りは不安定。そして、すぐまた体幹が屈してしまうも今回は剣を支えに耐えた。

 代わりに唾液が彼女の口から線を引いて落ちる。

 

「……っぁ!……っぁ!ま、魔道具(マジック・アイテム)か?あぁ!?いや、カラクリはどうでもいい。てめぇ、てめぇは絶対殺す!殺す!てめぇ……!あぁ!?この私に……てめぇみてぇな雑魚が!許さねえ。ぶっ殺してやっからなぁ!?」

 

 真っ先に取り戻した感情を、怒りを振りかざすヴァレッタ。苦痛は散々味わい、そこから脱却したい気持ちが先行した。故に、理性はまだ備わっていない。

 剣を振り回し、不安な足取りでルシア達ににじり寄るのが精一杯だ。それでも、彼女はLv.5、ルシア達は迂闊には近づけない。

 

「ヴァレッタ様!どうか冷静に!目的はこの者達に執着することでは―――」

「うるせぇ。死ね」

 

 自分を苦しめたルシアに固執して怒りに暴走していたヴァレッタを部下の一人が制止しようとした。が、瞬きの間に両断される。

 

「……えっ?」

 

 まさかヴァレッタに斬られるとは思っていなかった闇派閥(イヴィルス)の男は困惑したままの表情でその首が地に転がる。

 その光景を見てルシアとルノアは驚愕した。

 

「なっ!?」

「……っ!仲間を!」

「あぁ?ハハッ。私が屈辱を味わったってのにやり返さねえなんて私の気が済まねえだろうが……!そんな事もわかんねえ輩は死んで当然なんだよ。私の気分を害する奴は皆殺しだ」

 

 ルシアとルノア、そして敵も味方も見境なく殺せるヴァレッタと距離を取る闇派閥(イヴィルス)の動揺を置き去りにして、ヴァレッタは気持ち良く高笑いを響かせる。

 そんな彼女の様にルシアは腸から煮え返るような憤りを表情にまで昇らせた。眉間にシワを寄せて相手を鋭い視線で捉える。

 

「……そうですか。【殺帝(アラクニア)】、資料(データ)通りの性格ですね。やはり私は貴女のような人種(タイプ)が一番嫌いです」

「奇遇じゃねえか。私も今、てめぇがフィンのクソ野郎の次に殺してぇ……!絶対ぶっ殺す項目(リスト)の名誉二人目はてめぇだ!!」

 

 声を荒らげながら宣言したヴァレッタが剣を手にルシアに肉薄しようとする。

 しかし、戦闘に移るにはまだ早かった。ヴァレッタは自身の身体がようやく歩行が可能になったくらいだと気付く。

 

「うっ……ぐっ!クソ……!」

 

 苛つきばかりが増し、酷い内出血で真っ赤になっていた腹は血色の悪い大きな痣になりつつある。その痣を抑えてヴァレッタは表情を歪めた。

 

「はぁ……!はぁ……!あぁ、クソ。ずっと痛みやがる。んで痛む度にイライラする。殺意が沸く!けどよぉ、だんだん慣れて(ひいて)きて冷静にもなってきたぜ」

 

 呼吸も整い、ヴァレッタの視野は戻ってきた。目の前のルシア達よりも今日の目的を思い出し、無力な市民達に目を向ける。

 

「あぁ、癪だがさっきの奴が正論だな。てめぇら小粒に執着するよりもっと騒ぎを起こさねえと意味がねえ。あ~殺しちまったが、ま、そこは冷静になった今でも殺すな。論より気分だ。私をイラつかせるってのが一番の大罪だぜ」

「こいつ……!」

 

 理性的に作戦を理解する頭は持ち合わせていながら、自身の欲求を異常に優先する壊れた倫理観も併せ持っている。

 そんな相手にルノアは表情を歪めて構えた。だが、当のヴァレッタはもう彼女達の相手をマトモにする気はない。

 

「おい、野郎共。冒険者のクソより民の奴らを狙え。な~に、目の前の雑魚共(こいつら)もその辺の冒険者もLv.5の私が抑えつけといてやるよ。特にチビのエルフ!てめぇは念入りになぁ!!」

「……っ!何をするつもりですか!?」

 

 ルシアが尋ねるもヴァレッタは意地汚い笑みを浮かべるだけ。

 

「ハハッ。何だろうなぁ?当ててみろよ」

「……っ!何であろうとやらせません!」

「ルシア!」

 

 一人先行して突っ込むルシアをルノアが制止する。

 だが、その手は届かず。向かってくるルシアにヴァレッタはしめたとばかりに中指を立てて部下の後ろへと下がっていく。

 

「バ~~~~カッ!挑発に乗りやがってマヌケが。てめぇ一人で突っ込んだら私には勝てねえ。それに、距離を詰めたら守るモンも守れねえぞぉ!?」

「えっ……?」

 

 ヴァレッタの発言から嫌な予感を抱いたルシア。それでももう遅い。ルシアの予想通り、というよりは一瞬過ぎった相手の選択肢は的中した。

 闇派閥(イヴィルス)はローブの下から次々と魔剣を取り出し、その刀身が日光で煌めく。存在感を見せた魔剣の数々に駆け出していたルシアが急停止して、目を見開く。

 

「それは……!」

「まず……っ。そうか、魔剣!ルシア、炊き出しに参加してた一般人(みんな)がヤバい!」

「気付くのが遅せぇよ!やっちまえ!!」

『ハッ!!』

 

 ルノアが敵の狙いに勘づいたが、ヴァレッタの言うように時はもう既に遅い。

 闇派閥(イヴィルス)の標的は市民。彼に向けて魔剣を振るおうとしていた。

 

「くっ……。ルノアさん!!魔剣を一本でいいので奪ってください!!」

「はぁ!?なん……いや、分かった!!」

 

 ルシアの指示、その意図をルノアは瞬時に理解できないが、そんなことを言ってる場合じゃない。何も考えずに従う。その判断を一瞬で下したルノアのおかげで、彼女は敵が魔剣を用いて猛威を振るう前に距離を詰めることができそうだった。

 無論、先の宣言通り、冒険者の相手をするヴァレッタが妨害の為に前に出てくる。

 

「させる訳ねえたろうが!」

「こっちのセリフです!」

 

 ヴァレッタが出てくるのは想定内。ルシアは彼女が駆けたのと同時に地面を思い切りぶん殴る。ルノアは、ルシアが振りかぶったのを見て跳躍した。

 ルシアの馬鹿力で辺り一帯に地割れが起きる。それによってヴァレッタは足場を失った。

 

「なっ!?てめぇ……!」

「ルノアさん!」

「よっしゃ、おらぁ!!」

 

 揺れでヴァレッタはふらつき、反応が遅れる。地割れに阻まれようと即座に脱出できるが、それよりもルノアの方が早い。

 彼女のタイミングをズラすのがルシアの狙い。ステイタスの差を他で埋めた。

 闇派閥(イヴィルス)の懐に潜り込んだルノアは彼らに鉄拳を叩き込む。

 

「なっ、なんだ!?うわぁぁ!!」

「よし一本取った!ついでコイツで……!」

「あっ。待ってください、ルノアさ―――」

 

 ルノアに殴り飛ばされた闇派閥(イヴィルス)が魔剣を手放し、ルノアはそれを落とす前に掴ま取る。

 そして、彼女は動揺し、対応出来ていない闇派閥(イヴィルス)に手に取った魔剣を振るった。闇派閥(イヴィルス)は吹き飛ぶ。

 

『うわああぁぁぁぁああーーーーっ!!!!』

 

 敵を多く蹴散らしたルノア。その光景にヴァレッタが顔を顰める。

 その奥でルシアはあぁ……と目元を覆った。彼女の思惑とは異なる行動だったからだ。

 

「ちっ!前衛がやられた!でも、魔剣一本振るったくらいじゃ全滅はさせられねえ。何の解決にもなってねえぞぉ!」

「あぁ……!彼女の言う通りですよ、ルノアさん!使っちゃダメだったのに……!」

「えっ!?そうなの!?ちょ、それ先に言って……あぁ!壊れちゃった!どうしよう、ルシア!あ、一本落ちてる。ラッキー!」

「ノ、ノリで乗り切り過ぎでは!?」

「ふさげた漫才(コント)しやがって……!何から何までムカつくじゃねえか、テメェら!それともあれか?殺しがいがあって私を楽しませてくれる最高の奴らってかぁ?アハハ!!」

 

 高らかに笑い、剣を地に突いて体勢を立て直したヴァレッタ。

 ルシアはそんな彼女を傍目に、彼女の近くで魔剣を回収したルノアに指示を飛ばす。

 

「ルノアさん!それを向こうに遠投してください」

「わ、わかった。おらぁ!!」

「……よし」

 

 頭上を超えて放物線を描く魔剣を確認して、見送ったルシア。ヴァレッタがにじり寄る。

 

「何が良しだ。何も好転してねえだろうが。……何を狙ってやがる?」

 

 彼女は未だ自分に有利な状況に余裕は見せているが、ここまでのルシアの行動(ムーヴ)を目にしてその思惑を探るようにした。

 さすがは【殺帝(アラクニア)】、言動や抑揚(テンション)とは裏腹に知能が高い。

 

 ルシアは事前に得た情報との照合に納得する。もはや、彼女の態度は隠れ蓑(ブラフ)なんじゃないかとさえ思う。

 そんな知能犯の格上が問い掛けを投げてきた。こちらに余裕はずっと無いが、意味があるのでルシアは挑発することにした。

 

「さぁ?当ててみたらどうですか」

「……っ!」

 

 ルシアが首を傾げたのを見てヴァレッタは衝撃を受けて目を見開いた後、口角を上げた。そして、目元を抑えて天を仰ぎ、大爆笑する。

 面白いと感じた訳ではない、これは格下に舐められた態度を取られたことに対する怒りだ。

 

「ハハッ。あぁ~マジで最高に苛つくじゃねえか。てめぇはさっきからよぉ!」

「それはどうも」

「スカした顔してんじゃねえぞ!」

 

 語尾の勢いと共に顔に被せていた手を払って憤りを露わにきたヴァレッタに、ルシアは冷静に返しながら脳裏で思考を巡らせる。

 ルシアの挑発に乗ったヴァレッタは剣を手にルシアに突撃してくる。

 Lv.5に襲われたらルシアは瞬殺される。ルノアが焦ってヴァレッタに立ち向かう。

 

「ルシア!」

「てめぇもいい加減弁えやがれ!」

「……っ。ヤバ!」

 

 妨害しようとしていたルノアに、標的が変わり、今更勢いを殺すこともできず、肉薄するヴァレッタに反応できずに剣で殴り飛ばされる。ルノアは肉弾となって瓦礫に突っ込んだ。

 

「ぐあっ!?」

「ルノアさん!」

「チッ!感覚的にLv.3くらいだろ、アイツ。クソ!それなら私との差を考えりゃ今ので仕留められただろうが……!ぐっ、ぁ……っ。腹に力が入らねえ。まださっきのが効いてやがる……!」

「……!」

 

 ルノアを吹き飛ばしたヴァレッタが表情を歪める。剣を立てて腹を抑えながら幾度か息を吐いた。

 そして、その様を捉えていたルシアに視線がギョロっと移り変わり、ルシアもギョッとする。標的がまた戻ったのを察知したからだ。それに負傷した状態でも彼女と正面から衝突したら勝負にすらならない。

 

 それでもしないより良いと考えてルシアは構える。もうあとは拳を何回撃ち込めるかしか考えはない。

 策は尽きた。というより打てる手はもう全部切った。切り札などない。最善は尽くした。あとは藻掻くだけ。

 

 対峙するルシアとヴァレッタ、その奥で闇派閥(イヴィルス)が体制を立て直して魔剣を用意する。ヴァレッタは一瞬そっちを確認した後、剣先をルシアに向ける。

 ルシアは固唾を呑んだ。

 

「決めたぜ。先にてめぇからだ、チビ助。私に瞬殺されるまでにキッチリと魔剣で消し炭になる無辜の民って奴らを目に焼き付けて悔しがりながら逝っちまえ!!」

「―――させるか。愚弄」

 

 ヴァレッタが殺意を剥き出しにし、剣を振り上げて駆け出そうとした時、戦場に影が参入する。ルシアの視界には着物の柄が映った。

 降り立った大和撫子は刀で突きを繰り出し、敵は剣を盾にせざる負えなくなった。参戦した輝夜の横槍を防いでヴァレッタは後退する。

 

「……っ!新手!うっ……!ぐっ、クソ。腹が……!」

「輝夜さん!」

「全く。お前はいつも渦中にいる。……巻き込まれ体質言うやつですか?ますます引きこもるべきやと発覚した、いうことちゃいますか」

 

 ルシアの前に降り立ち、ヴァレッタの行く手を阻むように輝夜が現れた。炊き出しの警護にあたっていた【アストレア・ファミリア】が現場に現着したのだ。

 輝夜が身につけている紋章からヴァレッタがその正体を読み取る。

 

「クソ。また【アストレア・ファミリア】かよ。てめぇらに用はねえよ、乳臭ぇガキ共が」

「うわあああぁぁぁ!?」

「……っ!」

 

 次から次へと入る邪魔。ヴァレッタが悪態をついたところで彼女が連れていた闇派閥(イヴィルス)達が突然なぎ倒されていく。

 ヴァレッタは足元に部下が転がってきたことでハッとして自身の背後を見る。するととそこには闇派閥(イヴィルス)を制圧していく正義の眷属達が。赤髪の剣士と金髪のエルフ、アリーゼとリューだ。

 

「なっ!?てめぇら!なんで……!」

「【殺帝(アラクニア)】。お前の取り巻きが持つ魔剣を全て破壊する」

「何!?……っぁ。まさか……!」

 

 リューが宣言したのと同時に魔剣を一つ粉砕し、ヴァレッタはあまりにスムーズに闇派閥(イヴィルス)を攻略していく彼女たちに驚愕した後、その理由(カラクリ)に察しがついた。

 元凶であるルシアを見遣ると、彼女は不敵に笑っている。

 

正解(Exactly)。きっと気付いてくれると思いました。私達の団長はとても優秀なので……!」

「そう!私はこの世で最も賢く最も強い!そして、気高く美しい超絶美少女アリーゼ・ローヴェル!うんうん、ルシアはよく分かってるわ。私の次に英智ね……!」

「いえ。そこまでは言ってません!!」

 

 ルシアの賛辞にアリーゼが調子に乗って鼻高々と自己主張をしたところでルシアも元気よく否定を入れる。

 Lv.5との対戦という絶望的状況、人々の為に動き出す勇気は出たが、本当は足が震えていた。そんな戦場でも彼女が現れると活力を貰える。

 

 そういう空気感を持ってくる人望(スター)性と、底抜けにふざけ倒した言動が彼女の武器の一つだ。

 加えて、ルシアが浴びせた称賛も決して彼女を乗せる為だけに言った訳ではない。ちゃんと本音で事実。ルノアに投げ飛ばして貰った魔剣、それが彼女達の道中に発見され、アリーゼは敵は魔剣を有していると気付くことができた。

 

 連鎖的に敵の狙いも炙り出せる。この場に魔剣を持ってくる意味があるとすれば複数の魔剣による甚大な被害を生む為。となれば、敵が持っている魔剣は一本や二本ではない。そんなはした数を持ってきたところで有力派閥の冒険者には通用しない。それは相手も理解しているハズ。

 そこまで至って、魔剣を発見した時に、アリーゼは到着次第敵が持つ魔剣を片っ端から破壊することを優先する。そう決定した。

 

「私とリューで魔剣を破壊するわ!行くわよ、リュー」

「はい!シャクティ、輝夜。【殺帝(アラクニア)】は任せます!」

「はいはい。貴女に言われなくとも分かっています」

 

 輝夜がシャクティと共にヴァレッタと対峙し、アリーゼがリューを連れて闇派閥(イヴィルス)に突撃する。狙いは魔剣。敵の制圧は後回しだ。

 魔剣を取り上げては粉砕する。その一方で輝夜がルシアの隣まで後退、シャクティがルノアを迎えに駆け寄る。

 

「ルノア、大丈夫か?」

「あー、なんとかって感じかな」

 

 苦笑いしながらシャクティが差し出してくれた手を掴むルノア。

 ルノアを引っ張り上げるシャクティに今度はルシアが駆け寄った。

 

「ところでシャクティさん。どうしてシャクティさんがここに?炊き出しの警護は【アストレア・ファミリア】全員と、【ロキ・ファミリア】から一人派遣されると聞いていましたが」

「それは……。お前が飛び出した後、行方をくらましたと聞いて、心配になったからだ。【重傑(エルガルム)】に無理を言って代わってもらった」

「あぁ……なるほど。それは……えっと、すみません……」

 

 シャクティから事情を聞いてルシアは途端に申し訳なくなる。シャクティは全て輝夜から聞いている。当然、ルノアが発端だということも。

 ルシアに説明したあと、ルノアに非難の視線を向けたが、ルノアはそれに気付いて目をあさっての方向に逸らした。

 一同が揃い、言葉を交わしたところでヴァレッタがシャクティの所属を認識する。

 

「【ガネーシャ・ファミリア】~!?フィンどころか【ロキ・ファミリア】すら来てねえじゃねえか!あのクソ勇者……!」

 

 事前に入った情報と異なる現状にヴァレッタが悪態をつく。およそプライドが高いとやらない陽動役まで引き受けたのに、これでは意味がない。

 加えて、部下から耳打ちで本部隊の移動も失敗したと情報が入り、尚更という結果になってしまった。

 

 必要ならば自分が相応しくない役割を担うことも策士的な一面もあるヴァレッタなら厭わないが、【ロキ・ファミリア】が派遣され、フィンがいるかもしれないという前提がなければさすがに乗り気ではなかった。だというのにそっちも外れだ。

 もうここにいる理由が完全になくなってしまった。

 

「あぁ。ちくしょう。萎えたぜ。ここは退散だ。野郎共!なんでもいいから私を逃がせ!」

 

 ヴァレッタが部下に指示を出す。彼らは困惑するが、ヴァレッタにやれと言われれば最終的には頷くしかない。

 アリーゼとリューに魔剣を破壊されているが、制圧は後回しにされている為、まだ動ける者も多い。各々適当な武器を持って冒険者に雄叫びを上げながら立ち向かった。

 乱闘に発展する中でヴァレッタを逃がさまいとリューは強行突破しようとする。

 

「行かせるものか!」

「ハッ。ロキやフレイヤのとこのLv.5ならともかく、最高Lv.4のてめぇらじゃ私は捕えられねえ。悪いが、行かせてもらうぜ?……だが、その前に」

 

 乱闘を境に冒険者の対岸的位置取りに逃げ込んだヴァレッタは後ろ歩きで後退しながら最後にルシアを捉える。

 そして。

 

「ルシアぁ!」

「……っ!?」

 

 突撃その名を叫んだヴァレッタに戦闘中だったルシアが目の前の敵を相手取りながら目を見開く。

 固有名を把握されている。つまり、強く記憶されているということにこの場にいる全員も反応した。

 

『なっ!?』

 

 彼女達なら敵が名を覚える時、凄まじい憎悪が紐付けられていることくらい簡単に予想がつく。

 ヴァレッタはある意味で熱い、粘着質のある視線でルシアだけをその瞳に映し続ける。

 

「ルシア、ルシアぁ、ルシア……!そう呼ばれてたよなぁ、チビ助エルフ!!そうか、オリヴァスのクソが言ってたのはてめぇかぁ……。チビのエルフでLv.1で化け物みてぇな(パワー)!ピッタリ当てはまりやがる……!まあアイツの妄言はまだラリってるのを疑うがなぁ!でも、てめぇに執着する気持ちはよぉ~くわかるぜ」

 

 気になる文言を残しつつヴァレッタは徐々に後退していく。

 ルシアは状況を打破したが、また嫌な注目を集めてしまったことに顔を顰めて彼女と睨み合う。

 ヴァレッタは笑みを浮かべながら、それでいて執念と怒りを込めて叫ぶ。

 

「しっかり名前覚えたからな、ルシアぁ!アハハッ!てめぇだけは絶対ぇ殺す!フィンと一緒に執拗に狙い続けてやっからこれから覚悟しろよぉ~!じゃあな、クソ冒険者共ぉぉ!」

「待て!」

「リューさん!それに、アリーゼさんとシャクティさん。彼女を追うより場の制圧と避難誘導を。それが最優先です!」

『……っ!』

 

 ルシアの制止に全員の足が止まり、周囲を見渡す。まだ逃げ遅れた人々がいる。何より彼らの生活圏で起きている事件だ、放っておく訳にはいかない。

 ヴァレッタは冒険者の追手がないことを確信したのか背を向けて逃げた。もうその背中も見えなくなる頃となる。

 それをリューは悔しがりながらも目線を伏せて諦め、輝夜は敵集団を斬り伏せた流れのままルシアの隣に着く。

 

「戦場での判断においてはお前が一番正しいのはこれからも揺るぎない。その一点だけは私も従おう」

「輝夜さん……!」

「私も参入する!青二才、連携しろ。私の足を引っ張るなよ……!」

「それはこちらのセリフだ!!」

「あら、いつものやつね。本当に仲良いんだから!」

「「仲良くない!!」」

 

 言いたい事はいくらでもあるだろう輝夜がルシアの指揮の元動き始め、ルシアも彼女の理性的な判断に感謝する。

 そして、リューといがみ合い、アリーゼが的外れな感想を述べる。通常運転を見せる彼女達とルシアは戦場を乗り切った。

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