原初の竜でも友達が欲しい   作:伊つき

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チキチキ大聖樹

「さて、意味のない弁解があるならどうぞお好きに。先に申しておいてくれるとこちらも早々に無視できて助かります」

「やめないか。ルシアはルノアに連れ出されただけだ。ルシアを責めるのはおかしい」

「……その理論でいくと私は怒られてもいいってことにならない?」

「当然だ」

「当たり前です」

「ひえっ」

 

 炊き出しで暴れた闇派閥(イヴィルス)を沈静化させ、事態が落ち着いたところで後の処理は輝夜を除く【アストレア・ファミリア】に一任した。シャクティ、輝夜はルシアを一旦匿い、闘技場(コロッセオ)の一室に退散した。

 そして、一緒に回収されたルノアが糾弾されている現在に至る。ただ、ルノアは少し不満げだった。

 

「そりゃ……闇派閥(イヴィルス)とは戦っちゃったけどさ。でも、やっぱりルシアが一生謹慎っていうのには納得いかないよ」

「理由はどうあれ結果的にルシアを連れ出したことで今回の騒動に巻き込ませてしまった。その責任はある筈だ。違うか?」

「そ、それは……」

 

 論点をすり替えるなとばかりにシャクティが指摘する。それが正論だった為、ルノアは口篭った。

 炊き出しに参加するのは輝夜も賛同したことだが、本来は【アストレア・ファミリア】と共に行動していた。単独で遭遇し、命の危機に瀕したのはルノアが原因だ。この非難は呑むしかない。

 

「問題はもう一つあると思います」

「何?」

 

 往生際の悪いルノアは一旦置いておいて、輝夜は気になっていたことを議題にあげる為、前振りを用意する。

 そこに考えが至っておらず、なんの事かわからないシャクティが訝しむ。その様子を見て輝夜は説明することにした。

 

「ルシアはあの【殺帝(アラクニア)】を退け、炊き出しの強襲で被害を物損だけで収めた。その事実が残ってしまった今、危惧すべきことがありませんか。これでルシアは実績を三度築いたいうことになります。そんな人材を……【勇者(ブレイバー)】は逃さない」

「……っ!」

 

 輝夜が最後に声音を強めて告げた事にシャクティが目を見開く。

 彼女の言うことは最もで、重要な観点だったからだ。それでいてシャクティは見落としていた。確かに彼は人材を欲している。

 ルシアはもうその条件に一致しているはず。求められるのも時間の問題だ。それ程までにルシアは活躍してしまった。

 

「……確かにあの【勇者(ブレイバー)】が死力を尽くしてもこの現状、優秀な人材がいるなら声をかけてくるだろう。そうなればルシアは戦う機会が増え、ますます危険(リスク)を背負うことになる」

「厄介ですねぇ。何よりその元凶が本人とどっかの誰かさんの勝手な行動いうのが困ります。こっちがどんな思いで手を尽くしても本人達はその気がない言いはります」

「ちょっと。そんなにネチネチ文句つけたって私は反省しないからな!」

「なんだと。貴様。まだ自分がしでかした事の重大さがわからないか。どこまで愚かだこの青二才が」

 

 またしても言い合う二人に対してシャクティはもはや相手にしない。

 冷静に、話の流れの舵を取り、内心呆れながら表情には出さず、続ける。

 

「……とにかく【勇者(ブレイバー)】からの誘いがくれば断る他ない」

「どう言って断るおつもりですか?モンスターと人間の間に生まれてたので目立つことをすると迫害受けるんです~って言ってしまいますか」

「何故そう挑発的な言い方ばかりする。それに、奴に事情を打ち明けるのは得策ではない」

「……?」

 

 いい加減輝夜の態度に嫌気が差して軽く捌いた後に、シャクティは【勇者(ブレイバー)】と呼ばれる男を思い浮かべる。何度も交流し、得た印象と実際に発覚している性格からひとつの憶測があった。

 そこから導き出される答えから、ルシアの正体を彼にバラすことに対して、シャクティは警戒している。

 

 誰も彼女のそんな危機察知と態度に検討もついていない為、全員が眉をひそめてシャクティに注目。口を割るのを待つ。

 シャクティもそれを理解して、視線が集まったのを確認してから、告げた。

 

「奴は、勇者であって英雄ではない。モンスターを受け入れることは……ないに等しい。最悪討伐すらされかねん」

『……っ!』

 

 シャクティの分析。そして、その内容が的を射ているからこそ、受ける衝撃。

 輝夜は彼女の予測を否定せず、少し考え込んだ。当然、フィン・ディムナという男の人物像についてだ。

 

 その上で確かにあの男ならばその決断を下す可能性が大いにある。

 否、可能性などと揺らぐものではない。ほぼ確実であり、逆の選択をする程の慈悲をルシアには抱かないと言ってよかった。

 

 そこまで至って輝夜は自身の発汗を感じ、息を呑み喉を鳴らす。深刻な面持ちで顔を伏せたかと思えば、徐ろに視線を上げて遠くを睨んだ。

 最後に天を少し仰ぎ、口元を裾で隠して溜息をつき、普段の彼女の落ち着きを取り戻す。

 

「……まったく、次から次へと。やってられません。それもこれも問題ばかり起こす人があるせいとちゃいますか」

「す、すみません」

 

 輝夜の指摘に、今後起こりうる面倒な事の多さをルシアも自覚した。故に、いたたまれなくなり思わず謝罪を口にする。居心地も悪くなってきて、肩身が狭くなってきた。

 申し訳なさそうに萎縮するルシアに、シャクティが助け舟(フォロー)とまではいかなくとも、この議論の解決はまだ無理と判断して口を挟む。

 

「過ぎたことを言っても仕方ない。それにまだ起きてもないこともだ。【勇者(ブレイバー)】の件は置いおこう。それよりも今後のルシアについて話し合うべきだ」

「そうですね。向こうから声がかかってない内にあーだこーだ言うても意味ありません。とにかくルシアは当初の通り謹慎ということで、いいな?」

「……はい」

 

 勝手な行動もここまで。事態の発展と悪化を招いた責任をルシアも感じてはいる為、この場を設けられ、連れ込まれた時点で納得してなくとも渋々でも承諾するしかない。輝夜に確保されてからそれは理解していた。

 謹慎を受け入れたルシアが俯く。そのタイミングを見計らったように部屋の扉を軽く叩く音が聞こえた。シャクティがそちらに意識を割き、戸が開く。

 

「お姉ちゃん、ごめん。大事な集まりの中、お邪魔してもいい?」

「アーディ」

 

 入室してきたのはシャクティの妹、アーディ・ヴァルマ。半開きの扉から顔を覗かせたと思ったら中の様子を確認して即座に中に来て、扉を閉める。

 どんな状況か、何を話していたか、それらに関わらず情報を漏らさないよう徹底して身に染み込ませているが故の模範的な礼儀だ。彼女もガネーシャの憲兵(けんぞく)だとわかる。

 そんな彼女には当然シャクティが対応する。

 

「入ってきても構わない。何か用か?」

「うん。ちょっとルシアにね」

「わ、私ですか……?」

 

 突然名指しされてビクッと肩を揺らして反応するルシア。先程から良い話題とはお世辞にも言えない内容の問題児として扱われていたのもあって、嫌な予感がして顔を顰める。

 逆にアーディは度々姉から名は聞いていたし闘技場でも何かとその名を耳にしていたが、今まで面識はなく、ようやく初対面を迎えたルシアにパッと表情を明るいものに変える。

 

「わぁ!貴女がルシア!?あ、ごめんね。話には聞いてたけど会うのは初めてだからちょっと感動しちゃった」

「いえ。お気になさらず」

「私、アーディ!シャクティお姉ちゃんの妹だよ!よろしくね、ルシア」

「はい。よろしくお願いします」

 

 握手を交わす二人。すると、ルシアの手を両手で包んだアーディが一気に距離を詰めて、顔を近づけてきてルシアは驚いて少し身を引く。

 アーディは目を輝かせながら興奮気味な様子だ。

 

「ちっちゃ~い!可愛い!頬っぺたぷにぷにしそ~!触ってもいい?」

「えぇ……あぁ、えっと……」

 

 今までに類を見てこなかった距離の詰め方と好感度の初期値の高さにルシアはただただ困惑する。

 今度は本当に助け舟を出す意味でシャクティが割って入った。

 

「……アーディ、その辺にしておけ」

「あっ。そっかそっか。怖いよね、初対面でこんならぐいぐいこられたら。ごめんね!」

「いえ。それより私に何か?」

 

 気を取り直して尋ねるルシア。切り替えの早さには自信がある。

 アーディも自分がなぜここに来たのか当初の目的を思い出した。

 

「そうだった!ルシアってフリテンの王森出身だよね?ハイエルフなんだもんね?」

「えぇ、まあ」

 

 事実なので肯定する。同時に顔を顰めた。その名にいい思い出はないし、単純に嫌いだからだ。

 迫害され、逃げ出してきたのがその証拠だ。故に、名を聞くだけで嫌な予感の的中を感じる。

 

「えっとね。今、オラリオに『大聖樹の枝』が出回ってるの。闇派閥(イヴィルス)がエルフの里を荒らして都市の外から仕入れて捌いてるの。それで、君の里の物も含まれてて……」

「はぁ。左様ですか」

 

 順を追って丁寧に説明するアーディに対して、ルシアは心底どうでもよさそうに明後日の方を見遣る。

 アーディは何やら部屋の外から物を取り出そうとしていてその憂鬱とした表情に気づいてないようで、シャクティが難しい顔をしてアーディを止めるか躊躇う。アーディも好意でルシファーの為に動いていると分かっているからとめづらい。

 

 彼女が何を持ってきたのかは定かでは無いが、ルシアはフリテンの名を聞くだけで気分が悪くなってきたので、それに関連する事だとわかった時点でもう興味が起こることもない。早く終わらせてくれないかと願うだけだ。

 そんなルシアが嫌な顔をしているのを他所にアーディはようやく引っ張り出せたある物を、傷つけないように細心の注意を払って部屋に持ち込む。

 

 しっかりと包装されたそれをアーディは、エルフにとって大事なものだと理解しているからこそ、丁重に扱った。

 が、その布の隙間から微かに覗くことのできた中身について、ルシアは強烈な衝撃を受ける。

 

 そして、オラリオに来てから一番の拒絶を宿して表情を歪める。

 シャクティがその変化を確認して制止しようとしたがもう遅い。恐ろしいことに何も知らないアーディは武器くらい長い枝を取り出して、見せた。

 

「それでね!フリテンの王森の『大聖樹の枝』も回収できたんだ。ハイエルフの森のやつだからちょっと苦労したんだけど、なんとか取り戻せて……!それを今日君に渡そうと持ってき―――」

「いいぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃいっ!?」

 

 全てがスローモーションになる。アーディが大聖樹の枝を取り出すのと同時にルシアが奇声をあげて飛び跳ね、部屋の隅に一瞬で移動する。部屋の中で取れるアーディとの距離の最大値を位置取り、まるで変質者を目撃した時のような嫌悪感と不快感を抱いた。

 全力で嫌な顔をして怯えた様子のルシアに、アーディは予想していなかった為、目を見開いて驚く。

 

「わっ!?びっくりした!何?何事?どうしたの!?」

 

 今度は事態を読み取れないアーディが戸惑って狼狽える。

 とにかく彼女の目から見てもルシアが尋常じゃない程に怯えてるのはわかる。思わず心配が買ったが、自分に何か失礼があった可能性にも思考を巡らせる。

 

 もう手遅れの状況にシャクティは片手で目元を覆い、輝夜は他人事のようにあらあらまあまあとほくそ笑んで楽しんでいた。ルノアももう苦笑いと哀れむことしかできない。

 部屋の角に背を預けるルシアがアーディがなんとか事情を聞こうとするのより先に糾弾する。

 

「な、ななななんて物持ってくるんですか汚らわしい……!!」

「えっ。汚らっ。え?どういうこと?大切な枝じゃないの?ルシア、これ……」

「ちょ、なんで出すんですか!?しまってください!いや、しまっても嫌!キモ!キモイです。もう空気が気持ち悪い!空気に触れたから!あぁ、もう空気が。汚染です!環境破壊!換気早く!!」

「えぇ……」

 

 動転しすぎて荒れ狂うルシアに、アーディは対処に手をつけるより困惑が優先されてしまう。

 ルシアは落ち着かない動きと急ぎ足で窓を開けようとして転び、それでもすぐさま起き上がって他に気を取られることなくとにかく出来うる限り最速で換気した。その後もまだ枝を持つアーディを警戒してジリジリと距離を保ってまた定位置(すみっこ)にゆっくりと戻っていく。

 

「絶対それ近付けないでくださいよ。あと早急に処分してください。ていうかまず部屋から出してください」

「そ、そんなに……?おかしいなぁ。喜んでもらうつもりだったんだけど……」

 

 良かれと思って持ってきたものをまさかここまで拒絶されるとは、アーディも予想だにしていなかった。故に少し面食らう。

 エルフにとって大切な物だと教わっていたが、その事前知識が全てのエルフにとって該当するかどうかまでは考えが至らなかった。

 

 とはいえ、ルシアは特異な例だ。普通のエルフと違うといえば、エルフとして癖ありなだけのように聞こえるが、実際は戦争を経由して得た嫌悪感なのでそれより想定して対処するのは事情を知らないアーディには不可能だ。

 これは、アーディの善意が奇跡的にルシアが嫌がる結果に繋がったに過ぎない。だからか、この事態の責任をシャクティは感じる部分もあった。

 

「すまない、アーディ。ルシアは少し変わった事情を持ってるエルフなんだ」

「そうなの?よく分からないけど……なんかごめんね、ルシア」

「はい。もうそれは構わないので。はい。そんなことどうでもいいので。とにかく早く。その汚物(ゴミ)を。早く」

「そ、そうだね。そうだったね。すぐ片付けるね?ごめんね」

 

 もうアーディがどうこうという話ではない。アーディの不手際(ミス・アプローチ)などルシアからすれば、比較的どうでもいい。失礼よりも早急な処分という名の対処をして欲しかった。

 何事よりもそれを優先するルシアの押しに、アーディも気圧されて彼女の意思に従った。それが実際最適解でもある。

 

「はぁ……まだちょっと臭いますね」

「無臭だと思うが」

 

 鼻をつまんで誇示(アピール)するルシアに、シャクティがいい加減過剰に感じて味方をやめる。

 アーディも急いで大聖樹の枝を外へ出した。

 

「よい、しょっ。あっ。そうだ。これも言おうとしてたんだった!ルシア、この前闇派閥(イヴィルス)の幹部を捕まえてたよね」

「……えぇ。まあ」

「えっと。まだ臭い?」

 

 渋い表情をやめないルシアにアーディが苦笑いする。

 だが、これでは話が進まない。ルシアもそれはわかってる。ルシアにとっては既に印象は最悪のアーディ。アーディ・ヴァルマの人柄に多くが惹かれる中、ルシアは例外となった。

 それでも、いやだからこそ、話があるならささっと済ませてもらおうとルシアはアーディを催促する。

 

「お気になさらず。話を続けてください」

「あ、うん。その幹部がね。ギルドと【ガネーシャ・ファミリア】で尋問してるんだけど全然口を割らなくて……それで、何か要求がないか聞いてみたの」

「……なるほど。相手が求める物を用意する事で情報を提供してもらおうという訳ですか。定石ですね。それで、彼はなんと」

「それが……ルシアを呼んでくれって」

「はい?」

 

 突然の指名にルシアも困惑する。

 この前捕まえた幹部のことは覚えている。細い目の薄顔の男だ。どうやら自分に敗れたのをよっぽど根に持っているらしいというのは今のやり取りだけで理解できた。

 非常にめんどくさい事だ。それに。

 

「アーディ。それは……」

「うん。分かってるよ、お姉ちゃん。ルシアが相手なら何か話す、()()って言われたけど私も応じるつもりどころか要求されたことルシアに伝えないでおこうって思ってたの。でも、私達もちょっと手詰まりで……」

「そういうことですか」

 

 シャクティが指摘しようとしたように、相手の要求を一方的に聞くなど以ての外。それが駆け出しの冒険者の呼び出しで、仲間を売る行為なら尚更だ。無論、差し出す訳にはいかない。

 それが例え交渉役、尋問であっても同様だが、ルシアは肝が据わってる。どうも飲み込みがよく、応じる雰囲気を感じさせた。

 が、勝手に決めるルシアでもない。

 

「分かりました、と言いたいところですがどうしましょう?」

「……何かと厄介事が降ってくる」

 

 輝夜に確認するルシア。

 呆れた様子の彼女だが、一概にルシアだけが悪いとも考えなかった。ルシアの特異性が厄介事を呼ぶのは簡単に予測できたはず。

 その上で、簡単にある程度の活動と自由を認めてしまった自分にも落ち度があると後悔した。

 

「下手に機会(チャンス)を与えたのが仇になったいうことですねぇ。私とした事が。我ながら甘すぎた」

「えっ。何?何の話?何かあったの?私、この話持ってきたのまずかった?」

 

 ルシアの肉体の事も、四人が秘密を共有していることも、今何を問題視しているのかもアーディは知らない。

 把握できていない話が濁されながら進められていく様子を前にただ戸惑った。

 ルシアが詰まり、シャクティが誤魔化す為に口を回す。

 

「あぁ……えっと……」

「大した話ではない。それよりも、他にも捕獲した闇派閥(イヴィルス)がいただろう。そっちから何も聴き取れないのか」

「まあルシアに会いに来たということは、喋りはするけど良い情報を何も持ってなかったってところでしょうねぇ」

「うーん、悔しいけど当たり。闇派閥(イヴィルス)側でも情報統制はしっかりしてるみたい」

「幹部の側近まで行き届いてるとなると確かにかなり厳重ですね」

 

 ルシアも敵の手腕に唸るしかない。

 状況の共有が全員に行き渡ったところで、結局は振り出しに戻った。

 

「えっと。それで、ルシアは行けないの?なんで?」

『……』

 

 回答に困る。素早く対応しなくてはいけない場面。でなければ、アーディが訝しむ。

 が、どうも上手い誤魔化しが出てこない。ルノアは苦手分野で、シャクティと輝夜も出し尽くしてきた。

 

 全員が内心で思考を巡らせる。沈黙が長く続けば続くほどアーディが全員を見渡し眉をひそめ、表情を曇らせていく。

 そこで、苦し紛れにシャクティが口を開こうとしたその時。ルシアが先に口火を切る。

 

「実は、あの幹部に私は大層惚れられてまして」

「えっ、そうなの!?」

『……っ!?』

 

 聞いたこともない事を言い始めるルシアにアーディ以外が同時にルシアを見る。もちろん真っ赤な嘘だ。さらっと言ってのけた上に内容も状況を打開するためとはいえ自惚れもいいところなのでシャクティと輝夜が固まってしまう。

 そんな周囲を気にもせず、ルシアはさっそく演技を始めた。輝夜の真似事で袖を使って目元を隠し、わざとらしく泣いてみせる。

 

「はい。どうやら一目惚れのようで、それはもう情熱的にアプローチされまして。多分私じゃないと嫌だと我儘を言っているのもそれが理由です。ただ私はその好意が受け取れず……するとそこで彼は!執拗に迫ってくるようになったんです!それがもう辛くて……!よよよ……」

「うわぁ」

 

 ルシアの適当な発言を真に受けてアーディが事情(エピソード)にドン引きする。彼女の中で捕らえた男の評価が急激に下がった。

 闇派閥(イヴィルス)の幹部で数多の人を殺めてきただけでもう十分あってないような評価だが、アーディは優しい性格の為、そんな相手でも最低限に留めていた。厳しい人ならば人間として扱うこともないだろうが、アーディにそれはない。

 

 だが、『人』としての評価はともかく『男』としての評価は別だ。寧ろ、アーディはそちらの方が厳しいまである。加えて、彼女のような性格(タイプ)は一度相手の印象が下がるとそう再評価することはない。どん底に至ればもはや絶望的た。

 そして、今がその時である。

 

「と、いう訳で私は彼に嫌悪感を抱いています。なので精神的な理由で会えません。気遣って頂けると有難いです」

「そ、そっか。それなら仕方ないよね。うん。ごめんね?気が利かなくて」

「いえ。仕方ないことです。うぅ……ぐすっ」

「わわっ!泣かないで!?わかる、わかるよ。強引な男の人怖いよね?大丈夫。ここには女の子しかいないから。私が守るから。よしよし」

「ありがとうございます……でも、どさくさに紛れて抱きついて頬っぺたぷにぷにしないでください」

 

 抱き寄せてくるアーディを押し外す。ルシアとしてはもうアーディの印象は悪いのだが、本人はそういうのには鈍いようだ。

 その上でさらに純粋。アーディはルシアの嘘を鵜呑みにして、同じ女としてルシアの代わりに憤りを露わにする。

 

「それにしてもあの男、そんな人だったなんて!許せない、ルシアの気持ちも考えずに。好きなら寧ろ汲み取るべきだよね!私、相手に配慮できない男の人はやだな!」

「いや、そもそも闇派閥(イヴィルス)だが……」

「もうどこからツッコんでいいかわかりませんねぇ。とりあえず外道でも謂れのない罪を被せられるのは同情します」

 

 悪に容赦のない輝夜でさえも哀愁の念を抱く。

 シャクティの指摘も輝夜の呟きも聞き逃すほど興奮していたアーディだが、ふともう一つ伝言があってここに来たのを思い出した。

 

「あ、そういえば。【勇者(ブレイバー)】が今度の会議にはルシアにも参加して欲しいって言ってたよ」

「oh……」

 

 予想していた最悪の事態をさらっと通告されるルシア。これにはシャクティと輝夜も含めて頭を抱えた。

 決して悪意などない無知ゆえの無邪気な賞賛をアーディはルシアに送る。

 

「ルシアってば、凄いね。【アストレア・ファミリア】の新人なのに結果いっぱい残してるもん!あっ。大丈夫?ルシア。【勇者(ブレイバー)】も男だよね。男の人怖いね。私がついていって守ってあげるね。よしよし。可哀想なルシア……」

「ちょ。離してください。別に男性恐怖症担った訳では無いので大丈夫です!あの!シャクティさん、助けてください。どうなってるんですか!?」

「……自業自得だ」

「ていうか私のルシアにベタベタ触んないでよ!」

「事態をややこしくしないでくれます?」

 

 暫くダンマリだったルノアがおもむろに立ち上がってルシアの所有権だけは主張する。

 もはやルシアの柔肌を味わいたいだけの欲望の権化と化した、暴走気味のアーディが何かと理由をつけてルシアにすり寄り、ルノアがその度に暴れ回るようになった。地獄(カオス)になった空間により会議は崩壊。

 

 結局、【勇者(ブレイバー)】への対策も、気持ちの準備も整わないまま有耶無耶となった。

 そこから4人でこっそり集会するなどという怪しい行動を取れる訳もなく。まとまった時間を得ることでもできず。

 ルシアは、フィン・ディムナの元へと赴く。

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