原初の竜でも友達が欲しい   作:伊つき

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冒険者たちの会合

 ギルド、【ロキ・ファミリア】、【フレイヤ・ファミリア】、【ガネーシャ・ファミリア】。そして、【ヘルメス・ファミリア】と【アストレア・ファミリア】。

 有力派閥をギルドが集め、都市の為の定例会議が開かれた。

 

 ルシアは、アリーゼと輝夜と共にそこに初出席する。が、彼女達が到着した頃は誰も来ておらず、一番乗りだった。

 遅れて【ガネーシャ・ファミリア】、【ヘルメス・ファミリア】が入室する。

 

「【ロキ・ファミリア】と【フレイヤ・ファミリア】、ギルドはまだか」

「シャクティさん」

 

 先頭を切るシャクティにルシアが駆け寄る。その後ろにアリーゼと輝夜がついた。

 自身を見上げるルシアにシャクティは忠告する。

 

「ルシア。そのうち【勇者(ブレイバー)】が来るだろう。奴に何を言われても気に止めるな」

「そうですねぇ。全て断るのが無難です」

「は、はい。それは……まあ」

「どういうこと?」

 

 二人に諭され、渋々な様子だが頷くルシア。

 話が見えないアリーゼだけが首を傾げていた。

 三人の醸し出す雰囲気を前にアスフィが居心地悪そうに肩を落とす。

 

「えぇ……既にこの面子でなんでちょっと不穏な空気出てるんですか?勘弁してくださいよ、これからもっと酷い人達が来るのに……」

「そういえば。お初にお目にかかります。【アストレア・ファミリア】のルシア・マリーンです。よろしくお願いします。【ヘルメス・ファミリア】の団長さんでよろしかったですか?」

「えっ?あっ、はい。これはどうもご丁寧に……。あっ。えっと。団長ではないです。団長は欠席で代理出席の副団長、アスフィ・アル・アンドロメダです。……ルシア?えっと、マリーン……さん?」

 

 まさか挨拶されるとは思ってなかったアスフィは慌ててルシアにお辞儀を返す。ただ、態度に出るほど困惑していた。ここに初対面で全く知らない人間が来るなど寝耳に水だったからだ。

 各派閥とも団長、副団長の二人が出席すると聞いていたが、ルシアは新人で何の役職もないと、【アストレア・ファミリア】の内情なら知っているアスフィには彼女がこの場にいるのは疑問でしかない。それを見透かされたのか、シャクティが説明した。

 

「【アストレア・ファミリア】の新人だ。【勇者(ブレイバー)】に呼ばれて今回の会議に参加する」

「【勇者(ブレイバー)】に……?えっ。怖っ」

 

 アスフィはルシアを見る目を一気に変える。困惑から畏怖だ。【勇者(ブレイバー)】と聞いて、それ程の人物が注目する者という印象に移行した。

 彼に呼び出される新人となれば、何かしら特別な才能があることを示唆している。ただのルーキーとして片付けるのは到底無理である。

 よりによって目をつけられているのが都市の中で最も曲者と呼んでも差し支えない男だと思うと、アスフィは目の前の小さなエルフを見て怖~と呟き後ずさった。

 

「やあ、呼んだかな?」

「ひぃ!?」

 

 下がってきたアスフィの背中をハイエルフが片腕で受け止めて、その隣にいる小人族(パルゥム)が一同に顔を見せた。

 この場の誰よりも小さな体躯だというのに彼の存在感は一気に場を支配した。そして、その実績と名声はこの場にいる優秀な冒険者達の注目を浴びる。

 まだ名乗ってさえいなくとも、ルシアにも彼が誰なのか一瞬で判断できた。

 

「すまない、【万能者(ペルセウス)】。通してくれ」

「い、いえ。こちらこそ入口にたむろしてすみません。すぐどきます」

 

 アスフィが入口をあけて三人組が入室する。

 小人族(パルゥム)の男が連れるのは長髪のハイエルフと剛腕のドワーフ。【ロキ・ファミリア】だ。

 その団長である小人族(パルゥム)のフィン・ディムナがルシアに目線を配る。

 

「それで。話を聞く限り、君がルシア・マリーンだね?」

「……はい。私がルシア・マリーンです。【勇者(ブレイバー)】、フィン・ディムナさん。初めまして」

「あぁ、すまない。最初にこちらから挨拶をすべきだったね」

「いえ」

「君の言う通り、僕がフィン・ディムナだ。よろしく」

「はい。よろしくお願いします」

 

 フィンが差し出した手をルシアが掴む。握手を交わし、ルシアが深く頭を下げた。

 ルシアを呼び出した張本人の登場。【アストレア・ファミリア】とシャクティはその対面に息を呑んだ。ルシアもまた、目の前の男が噂の【勇者(ブレイバー)】かと意識する。

 が、二人が交流を深める前にフィンの後ろに控えていたエルフの女性が前に出た。

 

「ルシア・マリーン」

「……っ!」

 

 それだけでも高貴さを覚え、実際厳格たる声音だったが、エルフであるルシアにとっては誰よりも通る声。誰が話していても耳で広える、エルフにとってそれだけ重要な人物。

 ルシアはフィンに丁寧にもう一度頭を下げて、彼女の方へ駆け寄った。

 

「挨拶が遅れました。申し訳ありません。ルシア・マリーンです。リヴェリア・リヨス・アールヴさん」

「そんなに形式ばらなくていい。同じハイエルフだろう」

「……いえ。私は種としては同じですが、王族ではなく田舎貴族のようなものなので。こちらの方が若干身分は低いかと」

「気にするな。というより普通にしてくれると助かる。正直ハイエルフの冒険者がこのオラリオにもう一人出てきたのを私は喜んでいる。気兼ねなく接することのできる同胞は貴重だからな」

「なるほど。でしたらあまり畏まらないようにします」

「そう宣言するのもまだ距離を感じるが、まあいいだろう。これからお前とは手を取り合い、同業者として歩んでいきたい。よろしく頼む、ルシア」

「はい。……こちらこそ。喜んで」

 

 微笑むリヴェリアに深くお辞儀するルシア。末永い付き合いを願われたが、自身の事情と輝夜達の方針を考えると複雑な気分だ。濁してこの場ではその手を取るしかない。

 フィン、リヴェリアとルシアの挨拶が終わったのを見て【ロキ・ファミリア】の幹部3人、最後の一人ガレスが寂しそうに自身の髭を撫でる。

 

「なんじゃ。なんだかワシだけ疎外感(アウェー)を覚えるの。小娘、ちとワシとも交流してくれんか」

「えっ。あっ。【重傑(エルガレム)】、ガレス・ランドロックさんですよね。えっと、その……」

「ルシア。相手をしなくていい。ガレス、ルシアを困らせるな」

 

 挨拶くらいはしようと思っていたが、まさか向こうからそれ以上を要求されるとは予想しておらず戸惑うルシアに、リヴェリアが助け舟を寄越す。ガレスを一喝した。

 叱られた当の本人は全く響いていないのか快活に大笑いする。

 

「ぬははは!悪いな、冗談じゃ。噂のルシア・マリーンもさすがに事前調査無し(ノーマーク)のワシには対応できんか!」

「……あぁ、なるほど」

 

 ガレスの発言を受けてルシアも彼の意図を理解した。要はからかわれただけだと。

 そして、試されたのだ。有力者達が口を揃えて呟くその名を、有する者が、本当に死角など何もないのかと。

 そういう読み合いは不快といより疲れる。

 ルシアの顰めた表情からそれを読み取ったのか、フィンが謝罪する。

 

「ガレスが悪いね。これでも僕とリヴェリア同様君の功績を買ってるんだ」

「あぁ、そうなんですか。それはどうも」

「さて、君とは積もる話が山ほどあるが……そろそろノイマンと【フレイヤ・ファミリア】のご到着かな?」

 

 フィンがルシアから目を離して他の参加者を待つ。ようやく解放されたと思いたいが、フィンは背中を向けてる時でもルシアを意識している。それをまた、ルシアも察知している。

 本当に疲れる。常に観察されてる。分析されてる。彼以外からの視線も感じるが、やはりフィンという男の洞察が凄まじい。ルシアはずっと気を張りっぱなしだ。

 

 どこから何を分析されてどんな事にありつくのかわかったものじゃない。例え大したことないことで目をつけられても油断はできない。隠し事ややましい事があるなら何も漏らさない、発信しないのが正解だ。

 言動だけじゃない。行動まで注意しなければ。

 ほぼ全員がルシアを観察しているこの異常空間でルシアは神経を張り詰め続けた。

 

「……っ」

 

 汗すら浮かべて強ばった顔を浮かべるルシア。そんな彼女をシャクティが不安そうに顔を顰め、輝夜が表情をピクリとも動かさない、そんな中で。

 黒髪で機嫌の悪そうな猫人族(キャット・ピープル)の男が現れる。

 

「何を入口でたむろしてやがる。どけ、クソ勇者御一行」

「着いてそうそう態度が悪いぞ、アレン。多忙で疲労困憊なのは分かるが、最低限の礼儀だ」

「うるせえよ、羽虫ババア。同じ派閥(みうち)でもねえのに説教垂れてんじゃねえ」

 

 リヴェリアに注意されても反省するどころか暴言を重ねてきたアレンにリヴェリアは呆れる。

 

「……全く」

「少し、いいでしょうか」

 

 リヴェリアが片目を閉じて腕を組み、嘆息しながら道を譲る。彼女の呆れながらも諦める時の癖だ。

 だが、リヴェリアがアレンの悪態を看過してもルシアは見過ごせなかった。断りを入れてリヴェリアの影から姿を見せてアレンの前に立つ。

 

 目の前に現れた低身長のエルフにアレンはおよそ人に向けるようなものではない、本来なら相手する価値もないといったような視線でルシアを捉える。いや、明らかに圧倒的弱者の相手が、この場に居合わせるハズのない軽蔑に値する者が視界に入ったことで驚きを覚え瞠目しているというのが正しい。

 アレンとルシア。凄まじい身長差の間に流れる空気に緊張感が走る。

 

「なんだ、お前。なんでここに子供(チビ)がいる」

「【アストレア・ファミリア】、ルシア・マリーンです。【女神の戦車(ヴァナ・フレイヤ)】、【フレイヤ・ファミリア】のアレン・フローメルさん。初めまして、よろしくお願いします」

「アストレアだと?お前が?」

 

 アレンにとって【アストレア・ファミリア】といえば気に止めることもないというのは前提であるが、強いて述べてもただの中堅派閥という印象だ。女だらけという特徴は認識しているが、正直どうでもいい。

 だが、少なくとも最近勢いをつけてきている派閥が新米の加入を許すというのはイメージが結びつかない。

 

 そんな余裕を見せるほどの実績などまだないはず。その態度はアレンの癇に障る。

 が、それも意識することではない。

 今は何より目の前の雑魚から嫌な予感がする。いかにも愚かそうな子供っぽいのが尚更。そして、その予想はアレンからすれば的中する。

 

「初対面で失礼を重々承知ですが、先程の態度は不快です。リヴェリアさんへの謝罪を要求します」

「……は?」

 

 目を見開くアレン。もはや怒りを覚えるより先に驚愕した。

 対峙しただけで、感覚でわかる。こいつはLv.1だ。駆け出しだ。雑魚以下だ。

 

 それがなんだ?意見してきた?噛み付いてきた?誰に?(Lv.5)に……?

 同じ域に達した冒険者達の意見すら嫌悪し、跳ね除けるアレンにとってこれ以上の侮辱はない。我に返ると共に冷静になり、その状況の許せなさを認識して青筋を立てた。

 

「おい。俺の耳は正しいか?駆け出しが何命令してやがる。轢き殺されてえのか……!」

「よせ、アレン」

 

 アレンが入口で他の冒険者と衝突している間、後ろで待機していた猪人(ボアズ)の男、オッタルが彼を制止する。

【フレイヤ・ファミリア】の団長にして、アレンよりも格上。それでいてもアレンは彼にも噛み付く。睨む。

 

「……っ。オッタルてめぇ」

「誰がどの逆鱗に触れようとも無視しろ。時間は有限ではない。効率良く動け。さっさと席に着くぞ」

 

 オッタルが合理性を優先する考えを提示し、指示を出すが、逆にそれが更なる怒りに火をつける。

 が、アレンも俯瞰的になれない訳では無い。

 

「てめぇにも指図される謂れはねえぞ、オッタル。だが、()()には賛成だ。雑魚(ゴミ)に構ってる程暇じゃねえ。最短の動きで最速に終わらせる。闇派閥(イヴィルス)のカス共のせいでまだ走り回らねえといけねえからな」

「……言葉数の多い奴だ」

 

 要はオッタルが正しいことを言ったということは認めているのだ。だが、一言で済むものを、それで終わらせるには彼のプライドが許さない。

 全て咀嚼し、自身にも考えあっての事だと、聡明さを表現して自分を言い聞かせないと自分でも自分という暴走車を止められない。

 

 そこに多少同情もしているので、オッタルはこれ以上は言わない。席に着こうと移動するアレンの後に黙って続いた。

 しかし。

 

「待ってください」

「……?」

「あ?」

 

 まさか呼び止められるとは思ってなかったオッタルも含めて振り返る。

 だが、ルシアからすれば至極当然の憤りを覚え、燃えていた。それでも表面上では冷静に、真顔で淡々と要求する。

 

「まだリヴェリアさんに謝ってもらってません」

「ルシア、もういい。アレンのあれはいつものことだ。私は慣れている」

「いえ。私は納得できません」

「私を置いてなぜお前がそんなに食い下がる。気楽に接したいとは言ったが、そこまでする必要はないんだぞ。何をそんなに固執してるんだ」

 

 もはや当事者であるリヴェリアすら困惑する程、彼女も置いてけぼりにして食い下がるルシア。

 水に流し、執着もせず、賢い対応をしたと思っていたアレンはルシアの態度に一瞬で限界がくる。殺意を抱いた。

 

「こいつ……!」

「アレン」

 

 アレンが自身の半身程しかないエルフを秒で殺しそうになったところでオッタルが名前を呼ぶ。たったそれだけでアレンは舌打ちして踵を返し、乱暴に席に着いた。

 残ったオッタルが、ルシアと向き合う。

 

「ルシア……そうか、お前がルシア・マリーンか」

 

 噂、という程でもないが今回の会議の中でフィンがその名と人材を周知にさせていたのでオッタルも脳内の隅くらいでは認識していた。

 アレンへの自己紹介は部屋の外にいて耳に入れてなかった彼だが、物怖じしない姿勢を目にして一発でわかった。

 

「ルシア・マリーン。アレンに謝罪は無理だ。代理で俺が頭を下げる。それで妥協してくれ」

「……!」

 

 都市最強であり、団長。本来最もプライドが高いであろう者の下手にでた申し出にルシアも動揺する。

 オッタルの懇願にずっと様子を見ていたフィンも思うところがある。

 

「オッタル……」

 

 名を呟くフィン。

 頼まれてるルシアは、卑怯だと思った。完全に状況は向こうに傾いた。ここで折れなければこっちが悪者になる。

 何よりも悔しいのは本人にそんな目論見は1割程度しかなく、9割は真剣なことだ。

 こうなったら相手が提示する妥協案を呑むしかない。

 

「……わかりました。でも、リヴェリアさんにしてください」

「あぁ」

 

 ルシアは折れることにした。

 最低限の要望は伝えて、下がる。同時にオッタルはリヴェリアに歩み寄り、腰を折った。

 

「すまなかった、【九魔姫(ナイン・ヘル)】」

「あ、あぁ……」

 

 大物の後頭部をまさか目にする時が来ようとは、露ほどにも予想していなかったリヴェリアは、自身を巡っての言い争いの末ということもあり、どういう感情で応じればいいのかわからないままとりあえず適当に頷いた。

 もはや謝られたという気分ではない。困惑が完全に勝っている。

 

猛者(おうじゃ)】、オッタル。この場にいた誰もが、彼の、その格を見せられた気がした。逆に、噂に聞いて想定したよりもルシアは未熟。当然ではあるが、オッタルが上手なのは明らかだ。

 落ち着くべきところに落ち着いたところで、ルシアもリヴェリアに謝罪する。

 

「すみません。事態をややこしくして。余計なことをしてごめんなさい」

「謝ることはない。全ては肯定できないが、少なくともお前の優しさは感じた」

「さぁ。もう席につこう。ノイマンが来る」

 

 ルシアの過剰な請求を善しとする訳にはいかない。だが、少なくともリヴェリアはこの一連の流れでルシアを気に入るには十分な程、彼女の人間性を理解することができた。それは、フィンも同様。

 ずっとどんな人物か観察し、分析していたが、思った。どうやら良い人そうだ、と。

 

 そもそも都市の為に尽力する者に悪人がいるはずもないが、如何せん曲者が多いのは事実だ。

 ルシアもまた癖はあるが、芯は真っ当で、真っ直ぐと言える。フィンからすればそれが分かっただけで求めていた収穫の大半を占める。あとは、彼女の手腕。それをこれから始まる本番で確かめる。

 

 フィンの一言で皆が席につき、彼の言う通り、小太りで低身長なエルフの男が入室した。

 ロイマン・マルディール。ギルドの最高権力者、ギルド長。

 

 招集をかけた派閥、メンバーは全て出揃った。

 都市の命運を担う者たちを最後の砦とした現状。問題は山積み。語るべき事が多量にある中で、ロイマンはその重い腰を下ろし、彼の咳払いがこの会議の始まりを意味した。

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