原初の竜でも友達が欲しい   作:伊つき

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勇者と腹ぺこの同盟

「一同、集まっているな。これより始める。だが、その前に。なんだ現状の体たらくは。闇派閥(イヴィルス)に足下を掬われているばかりではないか」

 

 対闇派閥(イヴィルス)の定例会議が始まるやいなや切り出したロイマン。その苦言は、日頃彼がしてくる過剰な要求と態度が矛盾しており、アレンがそこを指摘しつつ怒りを露わにする。

 

「さっさと害虫を駆除してえなら、闇派閥(イヴィルス)も追ってダンジョン攻略も進めろなんざ、間抜けな注文を押し付けるんじゃねぇ豚が。『遠征』に行った帰りに走り回らせやがって……頭の中身まで畜生に変わりやがったのか?」

「し、仕方なかろう!男神(ゼウス)女神(ヘラ)が消えた今、都市の内外にオラリオの力を喧伝するのも急務!でなければ、第二・第三の闇派閥(イヴィルス)を生み出しかねん!迷宮(ダンジョン)の『未到達領域』に辿り着き、都市(オラリオ)の威光を示さなければ世界にも余計な混乱が……!」

 

 一瞬にして形勢が逆転。痛いところを突かれたのか、責め立てる側が弁明に代わっている。

 そこにさらに畳み掛ける。

 

自分(てめぇ)の趣味の(わり)(いす)が後生大事だと、素直に吐きやがれ。その脂ぎった体で権力にしがみつきやがって」

「アレン、やめよう。話が進まない。率先していがみ合う必要はない筈だ」

「その口で俺の名を呼ぶんじゃねえ、小人族(パルゥム)。虫唾が走る」

「意思の疎通さえできない眷属の態度、神フレイヤの品格が疑われるな」

「―――殺されてぇのか、羽虫」

 

 さすがに長ったらしく聞くに絶えない罵倒が飛んでいた。少なくとも全員の前ですることではない。故に、フィンが制止するも無視。

 さらにはリヴェリアとの間に鬼気迫る空気が流れてしまう。

 そんな中で。

 

「一つ、よろしいでしょうか?」

 

 ルシアは短い腕、小さな手を掲げた。

 それを視界の端に捉えた瞬間から、いや、声が耳を掠めた瞬間から、来たか、とフィンは反応せざるおえない。

 

「ロイマン、彼女が先日言ったルシア・マリーンだ」

「おぉ!そうだったのか!いやはや、駆け出しながら見事な成果だった。今の都市は人手が足りん。優秀な人材の出現は大いに助かる。ギルドを統括するロイマンだ。今後とも奇怪な策で闇派閥(イヴィルス)を翻弄してくれ。頼むぞ」

「はい。ご挨拶が遅れて申し訳ありません。【アストレア・ファミリア】、ルシア・マリーンです。戦闘力では皆さんのお役に立てませんが、作戦考案の方で尽力させていただきます」

 

 ロイマンに紹介され、また彼自身に声を掛けられ、ルシアは必要最低限の挨拶とお辞儀をする。

 その姿にロイマンは感動した。

 

「な、なんと礼儀正しい……まるで冒険者の鑑だ。それにエルフが私にこのような態度をとってくれるとは」

「……?あぁ、なるほど」

 

 一瞬、ロイマンの言っていることがわからなかったが。彼の発言、そして先程のアレンが彼にかけた酷い名称。エルフの気質、それらを全て踏まえて考え至り、なんとなく彼がどのような扱いを受けてきたのか予想できた。

 その分析をしたルシアの様子を、自身の身体をまじまじと見て後から皆と同じ印象を抱いたのではないかと危惧したロイマンは少し面倒な問いかけを投げる。

 

「なんだ?やはり私になにか思うところがあるか?」

「いえ。どちらかと言うとエルフという種族の特質に抱くものがありました」

 

 端的に答えるルシア。危うく口を滑らせてエルフはそこまで好きではないと言いそうになったが、リヴェリアが視界に入って止めた。

 ちょうどいいところで抑制できた。ここまでなら彼女も顔を顰めつつだが渋々同意してくれるだろう。

 

 まあ、確かにエルフの悪い所としてある、と。

 だが、エルフ特有の同種への盲目的な視点はなくあの特徴な同族意識もそれ程ないとまで言うと、同種に関心のないことがバレて先程の交流が無駄になる。危ねーと思いながらルシアは彼女に適当に会釈した。

 

「全く。お前達にもこんな時期があったというのに、もはや懐かしいな……」

「てめぇに都合がいいだけだろ。権力の豚が」

 

 ルシアはそんなつもりはなかったが、ロイマンが飛び火させたのでアレンが悪態をつき、また険悪さが再開する。

 どうしても舵を戻される状況にルシアは一瞬、溜息をついて天を仰いだ。が、この後まさか口撃の矛先が自分に向くとは思いもよらなかった。

 

「大体ちょっと頭が切れるくらいで何様のつもりだ。ここがどういう場かわかってるのか?意見しようなんざ億万年早ぇ。Lv.1は黙ってLv.5の俺の言葉でも聞いてろ。聞いてもノロマの愚図だ。尚更だろ」

 

 アレンに苦言を呈されてもルシアは何も返さない。彼とは向き合ってはいるが、何も言い返すことはないし、その必要もない。

 何故かは、すぐに発覚する。

 

「アレン。残念ながら君のその思想は通らない。今日に限ってはね」

「何?」

 

 フィンに横槍を入れられ、アレンが眉をひそめる。

 ここでようやく説明できると判断して、フィンは机上で肘をつき、両手を組んでその奥にいるルシアを捉えた。

 

「ルシア・マリーン。彼女はここ数ヶ月直近においては、ここにいる誰よりも実績を残している。失敗ばかりしている僕らよりよっぽど有能だ。今、最も都市に貢献していると言っても過言ではない。故に、彼女には発言権がある」

「工業区への襲撃を被害者0物損0で制圧し、ダンジョンで闇派閥(イヴィルス)の幹部を捕獲、先日の炊き出しにおいての強襲では被害者を一桁に抑えて【殺帝(アラクニア)】を退けた。これがルシアの1ヶ月未満で築いた功績だ」

「なっ……」

 

 フィンの弁護の後、間髪入れずにシャクティが資料(データ)を展開する。記録は、ギルドのものだ。

 ファミリアが報告する、それもギルドからの信頼が厚い正義の使者達からとはいえ、ギルドも簡単に申請を通す訳ではない。それ程厳重に管理しているのはアレンも認知している。

 それは逆に言えば、つまり。ルシアの実績は本物だということだ。これにはアレンも唖然とするしかない。

 

「……有り得ねえ。Lv.1がLv.5を退けられるわけがない」

「戦闘には賞金首狙いの【黒拳】も参加していた。二人は友達だ」

「それで納得できるか。Lv.3の喧嘩屋なんざいてもいなくても変わらねえだろ」

「だからこそ、‎退けたのが凄い。その時あるものだけで状況を打開する。素晴らしいね。作戦考案能力が高いとは聞いてるけど、一体どんな策略を用いたのか実に興味深い」

「ははっ……それはひ、秘密で……」

 

 まさか自分が半分ドラゴンで、その力を使いましたとは言えない。少し苦しいが、濁した。

 何かしらの作戦で乗り越えたと思われてるのはシャクティの手腕が成した技だろう。が、それにただ踊らされる【勇者(ブレイバー)】ではない。報告ではそう記されていても、いや記されているからこそ、その作戦の内情に疑問を持つ。

 

 詰めが甘いな、ルシア・マリーン。この内容は後から考えただろう?そう訴えるような目付きに彼の瞳を捉え、ルシアは頬をにひくつかせた。

 もう愛想笑いするしかない。そう諦めてしまうのは簡単だが、頭を回転させなければ。

 丁寧に、丁寧に対応していかなくては。この男に全て見透かされる。

 

「それで、続きを聞こうか。お願いできるかな?」

「あ、はい」

 

 もっと攻めてくるかと思ったが、話を本来の流れに戻した。

 気を張ってると察知したらすぐに追求を避け、身を引く。どうやらこちらの状態を早い段階で完璧に看破するようだ。

 

 裏を返せば、気を抜けばそこを突かれる。常に警戒し、張り詰めなければいけないということがわかった。最悪だ。

 内心嫌な気持ちになってきたルシアだが、だからといって投げ出すほど社会性を捨ててはいない。礼儀と社会良識を持ち合わせる彼女は、世間体も多少は自負している。

 フィンに尋ねられてルシアは仕切り直した。

 

「炊き出しの件でシャクティさんの現着が遅れた要因が気になり、後になって本人に聞いたところ、『爆発物』を警戒していたと教えて貰いました。そして、その指示を出したのはフィン・ディムナさん。理由は一連の工業区襲撃で盗まれた『撃鉄装置』は、魔石用品のように誰でも扱える爆弾を闇派閥(イヴィルス)や信者に普及させる為と、考えたから」

「……!よくわかったね、さすがだ」

「いえ。この憶測はシャクティさんと一緒に考えたのが大半ですし、シャクティさんの確定的な情報もありましたので、当然です」

 

 目を見開いたフィンの賞賛を軽く躱したルシア。

 話を聞いてた輝夜は、フィンが肯定したのを確認して、表情を変えずに苦言する。

 

「なるほど、理解しました。どうせなら、先に情報を共有しておいて欲しかったものですが」

「すまない。あくまで予想に過ぎなかったし、警備を厳重にして敵にこちらの警戒が発覚するのを恐れたんだ。それに、相手の動きを誘いにくくしたくなかった」

「……ルシアがいなければあの場では多くが死んでおりました。勇者様の中ではそれも予定調和であったと。多少の犠牲は仕方ないと?」

「やめてください、輝夜さん。最善は尽くされていました。それに、理屈()通っていますし、意図も理解を示せます」

「……!」

 

 ルシアの制止を受けて、輝夜が目を見開く。何より、彼女の発言は決してフィンを庇ってる訳ではなく、全員が読み取れるくらいの含みがそこにあった。

 故に輝夜も押し黙った。ルシアの静かな怒りが見えたからだ。

 

「はは、手厳しいね……」

 

 もっといい案があったのでは?と暗に告げているルシアの圧にフィンは苦笑いする。

 フィンの考えを決して否定している訳ではなく、同じ立場に立つことがある身からして戦場での判断の難しさを理解した上で、本当に他に手の打ちようがなかったのか疑問視している。

 だが、終わったことを責めていても仕方ないのも事実。この話は終わりにしようとルシアは軌道を戻す。

 

「続けます。その爆発物ですが、少し引っかかりを覚えます。特に、誰でも簡単に作動できるという点が。本当に爆弾が用途なのでしょうか?」

「どういうことだい?」

 

 フィンが顔を上げ、ルシアが答える。

 

「もっと拡張性があるのではないかと。とはいえ、私の専門外になるので確固たる予想がある訳ではありません。そこでアスフィ・アンドロメダさんに闇派閥(イヴィルス)が回収した素材で何が作れるのか、手当り次第に試作することを依頼したいです」

「私が!?手当り次第にって……思いつくもの全て作れって言ってます?」

「はい」

「えぇ……」

 

 突然の鬼畜な注文にアスフィが肩を落として酷い表情を浮かべる。

 そんな彼女を可哀想に思っての行動では無いが、反論があるのでフィンは制止する。

 

「待ってくれ。それは簡単には承認できないな。彼女は貴重な人材だ、確証のないことに拘束されては困る」

「言い分はご最もだと思います。確証……はありませんが闇派閥(イヴィルス)が信者を増やしているという点と関連があると思っています。誰でも使える、となると使用者は信者。ですが、武器ではなく罠、直接対峙し振るうものではないとはいえ信者が扱って冒険者に有効打を与えられるかというと正直微妙じゃないですか?」

 

 ルシアの疑問にフィンが顔を顰める。

 

「何が言いたいのかな?」

「我々が想定している現状の用途に、縛られるべきではないと思います。信者が使うという点で考えれば設置型の爆弾にそれほど効果があるとは考えられません。つまり、その用途についてもう一度考え直す必要があります。……手遅れになる前に」

 

 この問題はわからないで放置しておいていいものではない。それがルシアの意見だ。

 例え遠回りでも、個人に負担がかかりお前はやらないからそんなことが言えるのだと非難されようとも、そんなもの後で誰かを失って後悔するより何百倍もマシだ。

 

 だからこそ、ルシアは提案している。この提起の重要性を理解できないならこの都市(くに)はそれまでの牙城ということになる。

 迷宮を塞ぎ、世界の運命を担う都市が果たしてそれでいいのか。そんな疑問もあるが、分からない者にどれだけそれを伝えても意味はない。時に、組織的な構造が、本来敵とすべき者たちよりも仇となることもある。

 

 その時はどんなに手を尽くしても自分の力じゃ足りない。ルシアはそう確信している。

 しかし、目の前の男は、勇者と呼ばれ、または自称する小人族(パルゥム)は本当にそんなに愚かなのだろうか。今度はこっちが試す番だ。

 

「もし設置型の爆弾でなければ取り返しがつきません。最悪、冒険者すら失いかねないかと」

「確かに君の言うことも一理ある。しかし、それだけじゃ彼女を貸す理由にはならないな。【ヘルメス・ファミリア】の調査能力は必要だ。その頭の一角である彼女を遊ばせる訳にはいかない。それに、【万能者(ペルセウス)】の魔道具作製者(アイテムメーカー)としての腕前もすぐに必要になる。いつ何を頼むかわからない状況で早急に対応できない状態にされては困るな」

「……なんか私を取り合ってます?これ」

 

 当人のはずなのに置いてけぼりをくらっている、その状況にアスフィが困惑する。いくら共同戦線にいるとはいえ、【勇者(ブレイバー)】がアスフィの権利を有しているのも謎だ。

【ヘルメス・ファミリア】としてもここは自己の意思があることを主張しておきたい場面。アスフィは割って入ることを決める。

 

「あの、私のことなので私が決めたいのですが……。私はえっと、マリーン氏?の意見もわかります。途方もないような作業が待っているでしょうし、それはすごく嫌ですけど……最善を尽くさず誰かの犠牲を容認してしまう可能性がある方がずっと嫌ですから。正直、賛成です」

「……っ!」

 

 まさかの本人の援護を貰ってルシアが目を見開く。

 フィンもこれには降参する。

 

「そうか。参ったね。反論は出来るが、本人の意思となれば無視もできない」

 

 アスフィが介入してフィンは折れた。

 ルシアはアスフィに感謝する。

 

「ありがとうございます」

「いえ。嫌ですけど……誰かが死ぬよりマシです」

「……っ!」

 

 思わず下げた頭を上げる。

 そして、気付いた。この場にいる者の殆どが自分だけが抱いていたと思っていた他者の犠牲を容認できない感情を持ち合わせるのだと。

 

 今、その犠牲に敏感なのは自分だけではない。少なくともアスフィは自分とある程度同種だと発覚した。少し嬉しい。

 こんな人がいるならば、ルシアも物怖じせず、次々と議題を挙げることができる。

 

「それと、もう一つ。闇派閥(イヴィルス)が信者を増やしているというのも気になります。それも都市の外で、というのが」

 

 ルシアが新たな提起をする。加えて、この問題は先程の件と繋がりがあることも揶揄している。共通点は信者だ。

 フィンもそれをわかった上で親指を気にする。

 

「オラリオの外で信者を増やす事に違和感がある。それは僕も同じだ。都市の外で闇派閥(イヴィリス)が動いている。彼らの活動が世界規模に。つまりはこれからを見据えた展開。と、考えるべきかもしくはオラリオと世界、その両方で並行的に何かことをしでかすつもりか」

 

 フィンも考察を混じえる。だが、これはとっくの前に考え至って以降、今、手元にある情報では答えに行き着くことはないと判断して放置した案件だ。

 今回もそう結論付けるしかないと考えたフィンだが、それで終わらせる前に思い止まる。

 

 なぜルシアを呼んだのか。今ここに彼女がいる意味を失念していた。

 そうだ、行き詰まっていたからこそ、別の視点や考え方(アプローチ)が欲しかったんだ。彼女は頭脳明晰タイプにして、自分と土俵(ぶんや)は同じ、盤面を読む者。

 

 彼女の発言を振り返り、逃しそうだった意見を掘り返すことにした。

 彼女はわざわざ言葉にしてくれたのだ。同じものは見えているが、フィンとルシアは角度が違うのだと。

 フィンは一番の相違点を突く。

 

「……これは僕の勘だが僕が抱いてる違和感と君のものは違う。いや、同じもの()感じてはいるが、他にもある。そう言いたげだね」

「はい。都市の外に勢力を育てることにフィンさんと同様の違和感も覚えますが、注視すべきは『着手』です。拡大させるなら敵対戦力の最大が集結している都市内が優先のはずです。だというのに都市の外に手を伸ばし始めた。これは裏返せば都市の中ではもう充分人手が足りているとも取れませんか?」

「……っ!!」

 

 最近の闇派閥(イヴィルス)は都市の外でも信者を増やし始めた。これは【ロキ・ファミリア】や【フレイヤ・ファミリア】、【アストレア・ファミリア】に【ヘルメス・ファミリア】、都市最大の情報網で手に入れたものだ。五大派閥の神々もつい先日その件を訝しんだところである。

 ルシアはそこをさらに鮮明に捉えていた。

 

「だとすると都市内の敵勢力、その規模の予測は最大数をもっと大きく見積もりべきかもしれません。それこそ、『数』は()()も有り得るかと」

 

 信者の傾向を見るに戦闘力をまるで持たない一般人が多い。頭数だけを揃えているというのは的を射ている。

 ただ、そんな有象無象を集めることの意味はわからない。それは、ルシアも同様。

 それでも、この違和感をそのままにはしておけないというのが二人の共通認識となった。

 

「今後を見据えてか、今、並行的に世界を揺るがす作戦を企ているか。この2点よりも既に都市内戦力が充分に潤っていて、いつでも事を起こせることの方が直近に迫る問題です。相手は資源も人手も着々と集め終えている。何を考え、何を起こそうとしているにしても準備期間は終えていることでしょう」

 

 敵が動き出すとしたらもうすぐそこだと告げるルシア。そして、舞台はオラリオだと。

 フィンも彼女の話に真剣に聞き入る。

 

「次に事を起こす場所は確定しているのです。ならば、我々がすべきことは事の内容を暴くこと。()、相手が何をしようとしているのかを把握することです。それも大体見えてきました。あとは爆発物の詳細とその対策だけです」

 

 ルシアの中ではもうある程度敵の思惑を打ち砕く策はできている。あとはその策を含めてルシアという存在を対闇派閥(イヴィルス)に用いる判断をフィンが、ギルドが、オラリオが容認するかどうか。

 特に戦況の殆どを一任されているフィンの承諾は重要だ。

 

「どうする?フィン」

「……」

 

 最終判断を委ねられたフィンにリヴェリアが伺う。

 暫く考え込んだ後、彼は決断した。組んでいた手を解き、肘も下ろして姿勢を改めてルシアと向き合う。

 

「ルシア・マリーン」

「はい」

「この戦いが終わるまででいい。君の知恵を借りたい。僕達……いや、都市の為に、そこに住まう民の為に作戦を考えてくれないかな?」

「……っ!」

 

 その誘いを受けて、目を見開いた後、ルシアは輝夜を見遣る。一瞬目が合ったが、特に表情に変化なく、正直どっちとも読み取れないがそれは容認しているようにも見えた。

 続いてシャクティに視線をやるとそちらも輝夜の態度を確認したあと、困ったように目を逸らしてしまった。

 

 ルシアが誰の確認を必要としているのか、その視線の動き(コンタクト)でフィンは理解する。この男がそこまで見ていることにルシアは輝夜の顔色が気になった時には既に頭になかった。

 ルシアは考える。二人の反応にはどちらに誘導する意思も感じなかった。

 

 ならば自分の意思に従うしかない。

 自分がしたいこと。それは、炊き出しの日にルノアの前で叫び、【殺帝(アラクニア)】に立ち向かった時にもう表明している。

 だから。

 

「わかりました。でも、条件があります」

「何かな?」

「……」

 

 ルシアは承諾した。輝夜は瞼を閉じる。

 提示されるのを待つフィンに対して、ルシアは過去に見てきた戦場を想起した。自身の策で地平線の先まで人々がおよそ人だったとは思えない屍となり荒野に広がってる様を。

 故に、もう二度と誰の命も盤上で転がしたりはしない。

 

「作戦を提供するのは今起こっている闇派閥(イヴィルス)の暗躍が解決するまで。それと、私は絶対に人殺しを良しとする作戦提供をしません。それを承諾してください」

「……!」

 

 ルシアの要求にフィンは驚く。予想していたこととは別のこと。そして、彼女の人間性が思ってたよりも潔癖だったことに。

 思いもよらないその内容に少しの間だけ気を取られたフィンの隣でリヴェリアも同様の反応をしたが、先に我に返って来たのは彼女。

 

 リヴェリアは嬉しいと素直に思った。都市に現れた同位の同種の、その崇高たる思想に。故に頬が少し緩む。

 フィンは横目でそれを一瞥だけして仲間が、特にあのリヴェリアが、そう彼女の気持ちも考慮に入れていつもの熟考に入る。

 

 とはいえ彼らは既に方針と返答の内容を固めている。

 かなり前向きに。

 否定的なのはまたあの猫人族(キャット・ピープル)だ。

 

「敵も殺さねえだと?甘ったれてんのか、てめぇ」

「……いや。寧ろ、求めていた姿勢かもしれない。条件を飲もう」

 

 状況も現実も理解してない、ルシアの背景を知らない上にアレンの視点から見るとルシアはそうとしか映らない。アレンはルシアの態度を心底気に入らないと感じたが、フィンは異なった。

 その姿勢は、背景(バックボーン)を知らなくとも【ロキ・ファミリア】にとって()現状に合致(マッチ)しているように捉えられた。

 

 混沌の中に長く身を置き、その中である程度冷めていなければいけないことに慣れきった、そんな時に彼女のような存在が忘れてはいけなかった初心を取り戻させてくれるのではないかと。

 それに、それだけではない。混沌に適応した今の自分達と外部から来た純粋さを持つ彼女が同じ期間(タイミング)に同居することに意味がある。

 

 そんなもう少し自己肯定を上げてもいい程の現実的な自己分析と、自己の価値観を折って新しいものを受け入れる姿勢を示す程に。現状から抜け出しかつての都市、否、これまでに類を見ない平和という甘っちょろい幻想を。未来に見出したいという彼のもがき苦しみながら求める理想。

 

 そして、何より、新たなに現れた存在が仲間にとって少し特別だということも視野に入れてくれたフィンにリヴェリアは彼の苦労も思いやりながら隣を見る。

 

「フィン……」

 

 彼の承諾を受けて、ルシアは丁寧に腰を折り頭を下げる。

 

「ありがとうございます。よろしくお願いします」

「それはこちらのセリフさ。頼むよ。君がいれば僕は指揮系統に徹底できる。凄く助かるよ」

「いえ」

 

 ギルドや有力派閥と協力関係にあり、その指揮を担う実質的な戦場での責任者(リーダー)と手を結んだルシア。

 この二人の繋がりも、ここにいる全員の繋がりも今だけかもしれない。それでも、いやだからこそ、今都市と世界を脅かす闇派閥(イヴィルス)という存在は許してはならない。

 

 彼らを倒し、この暗黒期の闇を晴らすのだと。それだけは信じられる、全員の共通認識だ。

 今だけ手を取り合うということは逆に捉えればそういう事なのだ。

 

 だから、手を取り合えないある程度対立関係にある状況の方がマシ。それを目指すべき。今の超えてはならない一線を超えた者たちの好きにはさせておけない。

 こうして、迷宮都市オラリオの連合にルシアも正式に加わった。

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