原初の竜でも友達が欲しい   作:伊つき

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自爆兵は予測済み

【ヘルメス・ファミリア】が闇派閥(イヴィルス)の本拠地と思わしき施設を三箇所発見。フィンを筆頭に罠だとしてもそこを抑えることを決定した。

 そして、当日。【ロキ・ファミリア】が一箇所。【フレイヤ・ファミリア】が一箇所。最後のひとつを他の有力派閥が担当し、【アストレア・ファミリア】つまりはルシアもそこに配属となった。

 

「ルシア。作戦を提供した時点でお前は役目を果たしている。現場にまで着いてこなくともよかったんだぞ」

「いえ。現場指揮はいないよりいた方がいいです。フィンさんも全体は操れても細部まで従えにくいです」

 

 合図があるまで待機する中で、シャクティがルシアに話しかける。

【ガネーシャ・ファミリア】も【アストレア・ファミリア】も第三の拠点を強襲する部隊の連合に組み込まれている。

 

 他は、ヘルメス、ディオニュソス、イシュタルなど有力派閥を寄せ集めている。これで数の理と平均値を用いてようやく【ロキ・ファミリア】、【フレイヤ・ファミリア】と肩を並べて一つを任せられるだろうという結論に至った。さらには、【ヘファイストス・ファミリア】が後方支援(バックアップ)についている。

 まさに磐石。少なくとも現在のオラリオにこれ以上の戦力は無い。

 

「ところでルシア」

「はい、なんでしょう?」

 

 再びシャクティに声をかけられてルシアが振り返る。

 突入する施設は目前、時間も迫ってきている。シャクティはルシアにだけ聴こえるように声量(トーン)を落とす。

 ルシアもそれに気づいて何の話をするのか検討がついた。自分とシャクティ、輝夜、ルノアだけが共有してる秘密についてだと。

 

「お前は【殺帝(アラクニア)】を竜の力で押し退けた。その際は一撃だったと聞いた」

「まあ、はい。結果的にですけどそうですね。それが何か?」

 

 いきなり何の話だと、突拍子もないなと内心ルシアが思う一方で、シャクティの表情は徐々に警戒感を増し、緊張を生む。

 彼女には少し気掛かりがあった。これまで、他に優先すべきことがありすぎて無視してきたこと。本来なら、秩序を重視する派閥の冒険者ならば、真っ先に確認すべきこと。

 

 それは、驚異。その度合い。初めて出会った時。まだ、シャクティの中でルシアが友達でもルシア・マリーンでもなかった、印象を備える前のもっと初期の話。

 ガネーシャから説明を受け、ハイエルフとモンスターのドラゴンのハーフだと耳にしその存在に驚愕したその段階で。

 

 聞いておくべきだった。答えてもらえるかどうかは関係なく、一番最初に判明させておくのが大事だった。

 今はもう、答えが返ってくるであろう関係性の今はもう、どんな返答が返ってきても意味は無い。

 それでも。尋ねる。

 

「お前は人と竜どちらかに身体的特徴を寄せられると【黒拳(こっけん)】から聞いた。その割合も自在に操れると」

「………」

 

 なんとなくシャクティがどの方向性に話を持っていきたいのか、察しがついたルシア。自在に操れる訳ではない、など細かい訂正箇所はあるが自覚した上で押し黙る。

 今は聞き入るのが正解だからだ。今後、彼女との関係を続けていくためにもここは横槍を入れてはいけない部分(タイミング)

 

 今、ルシアに求められているのは誠実さ。

 だから、何も言わずに待つ。彼女が核心に触れて、それに応えて、仮に怯えられても、自分にその意思はないことを示して完全な味方と認識してもらうために。

 シャクティは、重い口を開く。

 

「お前はどこまでモンスターになれる?それに【殺帝(アラクニア)】を退けたお前の本当の実力は……どうなっている」

 

 シャクティの質問で時が止まる。ルシアからすれば予想していた通りのことを聞かれただけに過ぎない。

 無論、その内容が孕む危険性は承知しているがこの話の行く末はそんなに暗いものじゃないという確信がある。

 

 だが、シャクティからすればルシアの返答が遅ければ遅いほど冷や汗をかく。少し恐怖を覚える。

 この話題がこの目の前にいる、超強力なモンスターかもしれない存在の、逆鱗に触れたかもしれない。そう思うだけで。

 

「……それは」

 

 シャクティからすれば長く重く苦しかった沈黙を破って、ルシアが開いた口の動きに注目する。

 そして。彼女が告げる内容にシャクティは絶句する。

 

()()Lv.5。なりふり構わなければ恐らくそれが私の最大値です」

「……っ……ぁ……!」

 

 シャクティが息を詰まらせる。背筋が凍り、汗をかき、無意識のうちに恐怖で震え、呼吸が難しくなる。

 それを本人に悟らせてはならないという本能が、怪物に気付かれないように務める時の対応が、逆効果となりさらに詰まる。

 

 ルシアはそれらを感じ取っているが、その本能が警戒する行為を取るつもりもなければ、彼女の態度を、人間とモンスターの関係から考えれば仕方のないことだと理解を示している。

 

 何より、ルシアが放ったのはたった一言だが、そこに込められた意味は二重であり彼女の反応に納得がいくくらいの内容であることも事実。

 シャクティが提示した二つの問いにルシアは推定レベルとだけ答えた。それだけで肉体と強さ、両方に答えたことになる。だからこそ、シャクティは動揺している。

 

「……っ、ルシ、ア……っ!」

 

 勝てない。シャクティの脳裏には全てを押しのけその思考が優先された。

 無論、他に思うことも沢山ある。相手はルシアだ。もう友達で、信頼関係にある。だが、それでも。

 

 怖い。恐ろしい。ルシアがその気になれば【ガネーシャ・ファミリア】は滅ぼされる。

 数字だけ見れば下層の階層主であるアンフィス・バエナと同格かもしれない。指標(データ)だけで考えれば彼女達は充分勝てる戦力がある。

 でも、そういう問題ではないだろう。

 

 相手はルシアだ。討伐できるはずがない。したくない。少なくともシャクティは躊躇う。

 そして、団長であり指揮官である彼女の心が揺れれば【ガネーシャ・ファミリア】は機能の大半を失う。

 その状態で仮にアンフィス・バエナ級と戦えば、結果は分かり切っているだろう。

 

 その結末と同義のことが起こりうる。

 否、ルシアと敵対となると精神的なダメージがそこに上乗せされる。

 確定してもない未来だというのに、その事が、可能性が過ぎるだけで。シャクティは大事な局面が目の前に迫っている渦中で、嫌な想像を振り払う為に強く瞼を閉じる。

 

「大丈夫です」

「……っ!」

 

 シャクティの様子を見て、彼女の心情を感じ取ったルシアは敢えて触れずにいつも通りの落ち着いた声音で諭す。シャクティは目を見開いて彼女の表情を捉えた。

 穏やかで、真剣で、強い信念と意志を感じる、シャクティがよく知るルシア(とも)の顔だ。

 

 悪意にも、モンスターとしての本能にも、決して屈しない。まるでそう伝えるかのようにルシアの瞳は真っ直ぐシャクティを映している。

 シャクティもまた、友としっかりと向き合った。

 

「ルシア……」

「私はシャクティさんの敵には()()()なりません。それに人類の脅威にも。私を倒さなきゃいけないなんて状況は作りません。そんな時がもし来たら、自分で自分を倒します」

「……っ!」

 

 シャクティを安心させるために、ルシアは眼差しは真剣に、少しだけ口角を広げた、力強い笑みを作る。

 シャクティは彼女の意思を、思い遣りを汲み取れた。

 

 その上で、友の為なら自分自身を討つと述べた友に驚愕する。

 そして、すぐにそんなことを彼女に言わせてしまった自分への憤りと、彼女を想うが故に語気を強くしようと心に決めた。

 

「そんなことはさせん。()()()。すまなかった、ルシア。私の弱さがお前に余計な不安を煽らせた。これからはお前を誰よりも……いや、ルノアがいたな。ならば二番目だ。世界で二番目にお前を信じることにしよう」

 

 起こりもしない最悪の事態など忘れ、シャクティは先程までの態度から一変、曇りなき微笑を浮かべてルシアに誓った。

 シャクティはルシアを友と認識し、受け入れ、味方になってくれた。それに加えて信頼を得ることが出来た。この友情に底は無い、深まることしか知らない。

 

 必要な過程を経て、シャクティが辿り着いた答えが望んでいたモノそのものだったことでルシアは彼女のその柔らかい表情に、自分も笑みを返して頷く。

 二人の仲は冗談を言い合える程に。ルシアはそれを感じて分かりにくい真面目な声音(トーン)でふざける。

 

「残念ながら、世界で二番目はアストレア様です。出会った頃、私の正体をわかっていながら手を差し出してくれたあの日から、私を信じ愛をくれています」

「そうか。そうだな、そうだった。なら三番目だ。そこは譲らん」

「はい、勿論」

 

 二人は笑い合う。この瞬間からシャクティの中でルシアは決して人類を脅かしたりはしないと、確信を得た。

 定刻が迫る。作戦開始の時だ。二人は改めて、敵の拠点を捉える。

 彼女達が与するガネーシャやアストレアを中心とした派閥連合部隊もいつでも突入できるよう待機体制となった。

 そして。

 

『突入する!』

 

 フィン・ディムナからの合図を確認したシャクティが自身で率いる部隊に指示を出す。同時に【ロキ・ファミリア】と【フレイヤ・ファミリア】も動きだし、三拠点同刻制圧が始まった。事前に打ち合わせた順番にシャクティやアリーゼを筆頭にして、まるで騎兵隊のように高速で施設内を進行していく。

 施設内に蔓延る闇派閥(イヴィルス)の構成員を実力ある冒険者達が薙ぎ倒し、拘束する。美しい程に手際よく流れ作業を構成し、各々の指示が飛び交った。

 

「ネーゼ!マリュー!イスカを連れて散って!私達本隊は奥まで行く!」

「一人たりとも逃すな!全員無力化し、捕縛しろ!」

「……」

 

 進軍すればするほど人員は割かれる。制圧というのはただ敵を手当り次第に倒すだけではない。捕縛や占拠、つまりは抑えるという工程が必要なのだ。忙しく、人手もいる。

 ルシアは無言でアリーゼについていき、周囲を見渡し観察する。事前調査は充分にした。だが、現場とは情報量が違う。

 

 一度通った道だからと忘却するのは良くない。後退することもある。施設の構造、内容全てを把握する為にルシアは視線を動かし続ける。

 自分を目掛けて向かってくる敵は倒しているが、Lv.1の自分より優秀な冒険者が周りに沢山いる。この状況下ならば、自分にできること、やるべき事は他にある。そして、それを求められている筈だ。

 ルシアは自身が携えてきた作戦を脳裏に浮かべながら、敵の動きも注視した。予測が正しければ彼らがこれから取る行動は……。

 

「道が開ける!最深部!」

「……!」

 

 アーディの掛け声を聞いてルシアは敵を一人殴り倒したと同時に振り返る。すると、確かに施設内で最も到達が遅く、厳重な部屋が、その扉があった。

 冒険者達はその凄まじい力で進軍の勢いのまま複数でその扉を突き飛ばし、開ける。超速の戦況で興奮状態にある、故に過剰な程に大きな音が響いた。

 

 そして、隙間が発生し、部屋の中が少し見えたその時から一人の女の姿が確認できた。

 その女もこちらを認識するやいなやいやらしい笑みを浮かべる。

 

「よぉ。来たな、冒険者共」

「【殺帝(アラクニア)】!」

 

 待ち構えていたのはヴァレッタ・グレーテ。

 冒険者達の登場に、その面子をじっくりと眺めて、見覚えのある小さなエルフを通り過ぎた時、視線をそのエルフに戻した。そして、ルシアに釘付けになり、髪をかきあげてニヤケ面を貼り付ける。

 

「フィンの奴はいねえがお前が居たかぁ……!あの(アバズレ)、結構やるじゃねえか。ハハッ!また会えて嬉しいぜぇ?ルシアァ!!」

「どうも」

 

 ヴァレッタに名指しされ、その執拗さが露見したにも関わらず、ルシアは淡々と返す。

 悪名高く、強く残忍なあの【殺帝(アラクニア)】に目をつけられたとなっては多くの冒険者が震え上がるようなものだが、Lv.1とLv.5という戦力差がありながらもルシアはまるで動揺していない。その態度にヴァレッタは面白みを感じなかった。

 

「……シケた反応しやがって。まあいい。えらく早い到着だったが、こっちも準備は万全だぁ。飛んで火に入る夏の虫ってな。出てこい、てめぇら!」

 

 ヴァレッタの呼び掛けにローブを羽織った者たちが大量に出現する。部屋はあっという間に彼らによって占拠され、形勢は逆転。今度は冒険者が退路を絶たれ、追い込むつもりが追い込まれた。

 場に居合わせたのは先行したガネーシャとアストレアの精鋭部隊。

 

 敵の構成はヴァレッタ率いる闇派閥(イヴィルス)の戦闘構成員。それと、オーバーサイズのローブで体型(シルエット)を隠しているが、戦闘を得意とするような肉付きをしていない者も、ルシアは目敏く探し当てる。

 その正体に見当はついている。

 

 だが、その気づきを公にして敵に報せるのも、特徴を見分けて個別に対応するのも、こちらの作戦が勘づかれるので得策では無い。

 そこまで考えて、ルシアはこっそりシャクティの隣について小声を出す。

 

「シャクティさん。敵はなるべく鹵獲を目的(メイン)に、倒すのではなく無力化でお願いします」

「了解した。各員!闇派閥(イヴィルス)は拘束しろ!」

 

 シャクティの命令を全員が承諾する。そして、それを合図にして乱戦が開幕した。味方も敵も入り乱れる。

 ルシアも戦禍の中、自分の元に流れ着いた者達が、起き上がると同時にルシアを発見して襲ってくるのを適当に相手して味方に託す。ルシアは戦闘よりも観察に意識を割いていた。

 

「貴様の相手は私だ!」

「いいぜ。遊んでやるよ、かかってきな」

 

 この場の誰よりもステイタスが高い【殺帝(アラクニア)】にはシャクティが衝突する。レベル差はあるが、彼女が一番実力が近い。

 ルシアは、ライラと通りすがった。

 

「ルシア!」

「わかっています」

 

 何か『臭う』と、仕草(ジェスチャー)で伝えてくるライラにルシアは相槌を返す。

 シャクティを相手する中で、ヴァレッタがこちらに視線を送っているのがわかる。その口元には笑みが。

 直接向かってこないのは、盤面で勝負しようという挑戦状。彼女は理解しているのだ。腕っ節でねじ伏せても自身は満たされないと。

 

 そんな結果のわかりきった、ステイタスの差でやる前から決まっているような戦いで、当たり前の勝利を得ても意味はない。やるなら同じ土俵で、相手の得意分野で。そうして潰して自尊心を高めたいのだろう。

 恐らく前回の対峙の後、彼女はルシアに対しては情報収集に徹した。執着していてもすぐには接触してこないで距離を取り、準備して機を待つ。

 

 これが彼女が都市で通っているその二つ名、【()()】たる所以。性格とは裏腹に慎重で頭脳派だ。逆に言えば、闇派閥(イヴィルス)全盛期、彼女でさえもそう徹するしかないほどに敵味方共に実力者(バケモノ)が多かったか。それが生き残る術だったのだろう。

 ライラの言う通り、ヴァレッタは何か企んでいる。暗黒期を生き抜く為に適応してきたかもしれない彼女だからこそ、余計に。さらに、ルシアの足元を掬おうと我慢できずに今か今かと打ち震えているのが証拠だ。

 

「……っ!」

 

 ヴァレッタとシャクティの戦闘を見守っていたルシアは、前者が後者を退け、余裕綽々の中、ニヤケ面で顎を使って部屋の奥を指したのを見た。そちらに注目しろと促され、ルシアは従う。

 すると、構成員を倒したアーディの元に新たな刺客が。その背丈は彼女の腰ほどしかなく、小人族(パルゥム)よりも華奢な身体(スタイル)だった。

 

「うわあぁぁ!」

「……っ!?」

 

 襲いかかってきた信者が、まだ年端もいかない子供だと気付いたアーディは不意打ちを防ぎつつ驚愕し、動揺した。

 

「子供!?こんな子供まで巻き込んで……!ナイフを捨てて!君みたいな子にナイフを持たせる人の言うことなんて聞いちゃダメだよ!」

 

 ナイフを構える子供を諭しながらにじり寄るアーディ。

 その子が安心するように武器も置いて、膝をつき、眉をひそめながらも精一杯の笑顔で安心させようと彼女に微笑む。できるだけ優しく声もかけた。

 

「私は君を傷つけたりしないよ?だから、こっちに―――」

 

 しかし、アーディが手招きしたのを見て、ヴァレッタが嗤う。

 

「―――ヒャハッ」

 

 馬鹿め。愚かな。滑稽だ。もうじき瞬く間にくる最高の光景に、その引き金となる少女の行動に。彼女達の距離感に。目が離せない。興奮する。

 さぁ、ドカンだ!

 

「………………かみさま。どうか、お父さんとお母さんに会わせてください……」

「あっ……」

 

 アーディの顔色が変わる。

 少女が取りだした装置を目にして、一発で件の爆発物の完成図なのだと、この構図も含めて理解した。そして、もう逃げられないことも。

 少女が装置を作動した。次の瞬間。

 

「あ、あれ……?」

「なっ!?」

 

 ……何も起こらなかった。少女は不思議そうに何度も装置を触るが、まるで反応がない。

 予想と違う事態に、ヴァレッタは呆気に取られる。が、すぐに気を取り直した。

 

「あ?なんでだ……上手くいかなかったか?『火炎石』と『撃鉄装置』で……いや、でも、んなハズは」

「試運転の時は上手く作動しましたか?」

「……っ!!」

 

 ひたすら首を傾げていたヴァレッタが凄まじく憎く記憶に残っている声を聞いてハッと目を見開く。彼女の声を耳にしただけで察しがついた。

 そう。

 

「まさか……!またてめぇか、ルシアァ!」

「はい」

 

 ヴァレッタの怒号にルシアは淡々と答える。

 一方、戸惑う少女の隙をついて彼女からナイフを奪い、緩く拘束したアーディは彼女達を遠巻きに観察する。

 

「ルシア……っ!てめ、何っ、何しやがったってめぇ……!あぁん?おい」

「……ルシアの言ってた通りだった」

「あ?」

 

 状況を飲み込めず、頭が回らず、煮えたぎる感情を制御できず言葉に詰まりまくりそれでも尚怒りを露わにするヴァレッタ。彼女の問いに、答えてる訳でもないアーディがルシアより先に口を開いた。

 ヴァレッタは最高に残酷な死に方をする筈だった、ここに今に、存在してる筈じゃなかった冒険者(アーディ)の面の方を見る。

 

「『火炎石』と『撃鉄装置』の組み合わせは『自決装置』!使用者は信者!貴女は、戦えない者を捨て駒にした!そんな残酷なこと、ありえないって。私たちの味方なのにそんな発想ができるなんて……。そう、ルシアにこのことを告げられた時は思ってた。でも!まさか!本当に……」

 

 敵の狙いをルシアはある程度絞り込んでいた。そして、その可能性を仲間に提示した。

 それは、恐ろしい予測。幾らなんでもそんな残酷なことが起こるものなのか。アーディはそんな発想が出るルシアに怯えた。

 

 小さくて華奢な外見と裏腹に闇派閥(イヴィルス)もやらないのではないかということまで平然と言ってみせた。実際その予想は的中したが、それはそれで闇派閥(イヴィルス)と同一の発想があるという事実が残る。

 だが、今は何よりも、目の前で起きようとしていたのが信じられない。

 

 ルシアと闇派閥(イヴィルス)を一緒くたにしたことを今は猛省する。思いつくのとそれを実行に移すのでは、まるで違う。

 神経を疑う。最悪で最低な評価さえ付ける。あまりにも惨い。

 そして、怒りに満ち溢れる。

 

「酷いよ。あんまりだよ。絶対に許せない。貴女達だけは……!闇派閥(イヴィルス)!絶対にあなた達の時代を、終わらせる!!」

 

 アーディは叫び、宣言する。そこには強い意志が含まれる。

 少女を物のように扱おうとしたこと、その命を軽く吹き飛ばそうとしたこと、罪のない力のない人々を利用しようとしていたこと。

 その全てがアーディの逆鱗に触れた。

 武器を拾い、構えて吠えた彼女を前にヴァレッタはそんなアーディになど目もくれず、それ以前にルシアに防がれたという事実に衝撃を受けていた。

 

「……ふざけんな」

 

 ヴァレッタはボヤく。

 徐々に我に返り、その度に思い描いていた光景が儚く砕け散ったことに憤りを覚えた。故に、髪をかきあげて苛立ちを露呈させる。

 

「ふざけんな!ふざけんな!ふざけんな!おい、ルシアァ!てめぇ、何しやがった。お前のせいで計画が全部台無しだろうが……!」

「そうですか。それはよかったです」

「てめ……っ!」

 

 怒鳴られても飄々と躱すルシア。

 その態度がヴァレッタの機嫌を逆撫でし、ルシアを殺そうと今にも踏み込みそうになったが、その隙を逃さず武器を構えていたシャクティが視界に入り、踏ん張って止まる。勢いに任せて地を蹴っていれば、ルシアに到達する前にシャクティが割って入り、二人で十字を描く構図となりヴァレッタは下半身に致命傷を負っていた。

 

 咄嗟の判断で冷静さを取り戻し、踏ん切りが効いたヴァレッタは、その(かん)に周囲を固めた冒険者に舌打ちしながら、前方の直線上にいるルシアへの殺意に待てを食らった。突っ込めば袋叩きに合う。さらに逃げ場もない。

 ステイタスの差があっても相手が相手だ。自分より弱くても雑魚の群れではない。その他の利を全て失っても切り抜けられる自負はさすがにしない。頭が切れるヴァレッタなら尚更だ。

 

「~っ!おい、貸せ!」

「ヴァレッタ様!?」

 

 衝動を抑えなければならない、その事で得た煮えたぎる苛立ちを抱えたまま、信者から自決装置を奪い取る。

 作戦が上手くいかない訳がねえ。そういう算段だった。激情を晴らせないならせめて納得がしたい。

 相手が、あのチビが何をしたのか、理解しておかないと。ただ手玉に取られるだけなど屈辱以外の何でもない。

 

 せめて、最低限は必要だ。同じ土俵くらいには立っておかないと、駆け出し(ルーキー)に見下されたままなんざ認められる筈がない。

 落ち着かない手元の動きで自決装置を弄るヴァレッタ。だが、装置は作動どころか、手に取ったその瞬間から壊れた時特有の軽い感触があった。

 ヴァレッタはそれを焦った動きで触る。

 

「なんで動かねえんだ……有り得ねえ。止められる筈がねえ。完璧だったろ、私達の策略は……!」

 

 理解ができないことによる焦燥感を覚えながら、装置を解体する。

 すると。

 

「……っ!これは……!」

 

 ヴァレッタは目を見開いた。

 装置をバラすと出てきたのは大胆なヒビ割れを起こした『火炎石』。それを発見した途端、ヴァレッタは全て(カラクリ)を理解した。

 

「そう。工業区から盗まれた『撃鉄装置』、それは相手の手に渡った時点でどうしようもありません。なので、我々は『火炎石』に目を向けました。『火炎石』も魔石と同じ。硝子のように繊細な成分でできた石です。ならば、有効なのは『音』。私達は、火炎石を()()で破壊することで自決装置を使用不可にした」

「なっ……」

 

 施設内のスピーカーを指差すルシア。あれは、ギルドが都市に配備した公共物だ。つまり、都市中に普及されていて、何かを流せば()()まで行き届く。

 その仕草だけでも大体を把握出来たヴァレッタは空いた口が塞がらない。ヒビが入った火炎石から液漏れを起こし、手に持つ装置から垂れる水滴が落ちる中、唖然とする。

 公共音声を具体的にどのように利用して事態を防いだのか、ルシアは説明を続ける。

 

「火炎石で稼働するその機構を利用し、火炎石が割れる周波数の超音を聞き取りにくい音(モスキート)で流してます。動力源に不備があれば、物は動かない。通常の用途から外れた発想、それを用いた発明は流石でしたが、自身の開発物を信頼し過ぎたそちらの負けです」

「……有り得ねえ、そんなこと。待て。まずなんで自決装置だって分かった?工業区から盗まれたモンだけじゃ特定できねえだろうが」

「残念ながら、こちらには優秀な魔道具作製者(アイテムメイカー)がいるので。それに―――」

 

 理屈はわかっても納得はいかない。それに、闇派閥(こちら)の作戦を潰す案よりも、まず前提として看破したことの方がおかしい。

 そう述べるヴァレッタに、今日はルシアがフィンに要請して休ませている有能な協力者を思い浮かべながら、自身の過去にまた馳せた。

 

「私は、貴女よりも、そして誰よりも残忍で最悪な参謀を知っています。その者は己が保身の為に、他国を完膚なきまでに跡形も残らないほど捻り潰した。人を人とも思わず、ゴミのように荒野に死骸を転がす、そんな作戦もたてたことがあります」

 

 ルシアが視線を下げる。淡々と、その策士について述べる。

 

「その者は主が求めるがままに敵を徹底的に撲滅し、自国の民から涙一粒まで搾り取り、侵略(せんそう)に明け暮れ、彼らを枯れ果てるまで追い詰めました」

 

 それは、大きな罪だ。ルシアは彼女を恨んでいる。犠牲になった者達も、およそ人の死に方をしなかった者達も憎んでいるだろう。

 本人さえも過去の自分を許さない。でも、その発端は迫害だ。だから、償いで死を受け入れはしたが、夢は捨てなかった。

 勝手で最低だが、自分の人生という観点も持ち合わせている。

 そして、それは誰か。それは。

 

「罪深きその名は『妖精軍師』、ルシア・マリーン。私は以前貴女よりも残忍な策略家でした。だから、貴女が思いつくようなことは私も思いつくんです」

 

 同業種だからこそ、発想を辿ることが出来る。

 そう主張するルシアは、説明を終えて不快感を表情に浮かべ、ヴァレッタを捉える。

 

「私は、その妖精軍師と呼ばれていた女が大嫌(だいきら)いです。そして、あいつを彷彿とさせる【殺帝(アラクニア)】、子供を人殺しで使い捨ての道具にしようとしたお前()―――絶対に許さない」

 

 ドスを効かせた声の強さに仲間達は彼女が今抱いてる感情を初めて感じ取り、ようやく気付いた。

 

「私は今、怒っています」

 

 仲間に、冒険者に初めて見せる激情。ルシアは、アーディよりもずっと前に怒りに満ちていたのだ。

 

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