『ガウ……ッ!』
「ルシア。あれがヘルハウンドよ」
「はい」
ルシア、初めての
アリーゼ、輝夜、ライラ、リュー。Lv.3とLv.2、つまりは第二級冒険者で構成されたパーティは、駆け出しであるルシアを抱えても余裕で上層を突破し、中層へと突入していた。
13階層。
灰色の岩石が転がり、岩盤の壁と天井に囲まれた空間。湿度も少し高い。
『
再前衛のリューがヘルハウンドを抑え、中衛のアリーゼがモンスターを実物を見せて説明する。
黒い体表に真紅の瞳。鋭い牙に迷宮によって研がれた爪。犬のように見えて、その一回りも二回りも大きい四足獣。それがヘルハウンドだ。
そして、サポーターであるルシアに一番必要な情報。優先して採取して欲しい素材を教える。
ルシアもヘルハウンドの火球対策に纏っているマント型の装備、サラマンダー・ウールで自分の身を守りながら近寄って確認する。
「やはりこのパーティなら何の問題もなかったな。団長」
「そうね。でも、ダンジョンはどこだって危険。特に私たちが捌いたモンスターの攻撃がルシアに流れ弾しないように気をつけて」
「へいへい」
「肝に銘じています」
迷宮探索は順当。ルシアも勤勉だった。
帰りも油断は禁物だが、大丈夫だろう。そう思った。
「それじゃあ、帰りましょうか」
「はい」
アリーゼがルシアに中腰のまま会釈し、ルシアも頷く。
【アストレア・ファミリア】の探索はあっという間に終わった。
魔石を換金し、ルシアは無一文から多少マシになった。
「おかりなさい、みんな。ルシア、初めての探索はどうだった?」
「皆さん。とても親切でした」
「そう」
ルシアの返答にアストレアが微笑む。
「ルシア。慣れないことで疲れたでしょう? 何でも準備はできているわよ。お風呂にする? それとも食事に―――」
「食事でお願いします」
「食い気味すぎるだろ……」
アストレアの言葉を最後まで聞かずに回答するルシアに少し引くライラ。
「育ち盛りで良いですね。羨ましい限りです」
「輝夜。分かりづらい嫌味を言うのは止めなさい。ルシアが気付きにくいし可哀想だ」
「気づきにくいから言うてるんです」
輝夜の矛先がルシアになり、リューがルシアを庇う。
だが、リューに心配されている当の本人は嫌味など気にしない。なぜなら、彼女の脳内はご飯でいっぱいだからだ。
「ご・は・ん・ご・は・ん」
「……わかったわ。ルシア、すぐに用意するわね。でも、その前にステイタスを更新しておきましょうか。最近物騒だから、アリーゼ達はともかくルシアのステイタスは少しでも上げておきたいわ」
大好きな食事を前に小躍りする腹ぺこエルフに苦笑いするアストレア。
ゼウス・ヘラの
駆け出しの少ないステイタスの持ち主こそ、細かいステイタス更新が重要になる。
故に、アストレアは誰よりも優先して、腹ぺこエルフの音頭を連れて奥の部屋に入る。
「どうせ女しかいねえんだしここでしてきゃいいのに」
部屋に入っていくルシアの背中を見送り、ライラが感じたことをそのまま口に出す。
「彼女はエルフだ。それに、その中でもかなり高潔なようです。エルフでもあそこまで肌を隠す者はそういない」
「あー、確かに。ルシアっていつもかなり着込んでるわよねっ!」
ルシアは初めて【アストレア・ファミリア】に来た日から首から上以外全て隠していた。両手ですら肌を見せないように手袋を装着している。
そんなルシアの服装をリューとアリーゼが思い浮かべる。
「どこかのエルフは肩も脇も足も出してるのにエラい違いですね」
「輝夜。それは私のことですか」
輝夜の視線は、リューの
「他にハレンチなエルフがいはります?」
「なっ!? ハレンチ……っ!? 取り消しなさい、その言葉!」
「あーあ。ま~た始まったよ」
「いつもの景色ね! 良いじゃない、平和の証だわっ! 輝夜、リュー。沢山やっちゃいなさい」
「いや、止めろよ。団長だろアンタ」
小柄なライラでは間に入ってもあまり止まらない。団長であるアリーゼが全く機能しないが故にリューと輝夜の口喧嘩が始める。
【アストレア・ファミリア】の日常風景。卑屈な
「あらあら。またやってるわね」
「アストレア様」
自身の眷属達の声に微笑むアストレア。そんな彼女の前に
上半身の衣類を脱ぎ、主神にのみ露わにするルシアの白い肌。その身体は、どんな眷属やどんな人間とも異なっていた。
「週末、オラリオの外へ出る許可をギルドに申請したいです。アストレア様の許可も必要なので欲しいです」
「……バルドルを探しに行くの?」
「はい」
ステイタスの更新を行う最中、ルシアからのお願い。その内容の目的はアストレアにはすぐにわかった。
確認して、合っていたことで彼女は表情を顰める。ルシアの即答も相まって、尚更に。
「【アストレア・ファミリア】、お気に召さなかったかしら?」
「いえ。とてもいい
そんな、客観的な感想。どうして言うの? 貴女も一員なのに。そんな気持ちをアストレアは口から出さずに飲み込む。
背中を見せているため、ルシアの表情がわからない。彼女は今、どんな気持ちでどんな表情で喋っているのか。神であるアストレアですら少し怖くて覗けない。
「行き倒れていたところを救っていただき、感謝しています。ですが、食いつなぐ為にやむを得ず加入させて頂いただけですので」
「案外頑固なのね、ルシア。1年で辞めてしまうの?」
依然、光の神バルドルを求めるルシア。
つまりは彼の眷属としていつかは
「
「ずっとここに居たらいいのに」
「私を抱えていてもいいことはありません」
「……それは貴女の背中に翼があるから?」
アストレアが目線を下ろす。ルシアの背中には小さな双翼。さらに、彼女の肌は人間にはない鱗があり、皮膚は硬い。今は隠していて見えないが、本人曰く、爪は鋭く、短いが尻尾も生えているらしい。
ルシアは、
ルシアが
理由は簡単。ルシアが今まで出会ってきた神にルシアの秘密を看破できなかった神はいないからだ。
加えて、ルシアがアストレアの眷属となる上で彼女に
そんなルシアをどうして自身の眷属にしたのか。それはアストレアが司る『正義』の心だ。
ルシアを受け入れる存在は神といえど、そうはいない。神々にとっても
だから、自分が受け入れてあげたい。その想いからルシアに手を差し伸べ、受け入れた。
だが、異端である彼女を抱え込むことは必ず問題になる。それはアストレアも分かっていた。
ルシアは、言葉で表すならば【
とにかく、ハッキリしていることは1つ。自分が受け入れないと、彼女は誰にも受けいれられない。だから、
「翼だけではありません。私の胸の中には魔石が。正義を行使する
「それは……。いいえ、それでも。私は貴女を受け入れるわ、ルシア。貴女さえ良ければいつまでもここに居ていいのよ。気が変わったらまた教えて頂戴?」
「……わかりました」
決してそんなことは起こらない、そんな意味が籠っているような短い沈黙の後の簡単な返事。
アストレアは、どうにかこの
そして、ステイタスが更新される。
ルシア・マリーン
Lv.1
力:I0→I10
耐久:I0→I1
器用:I0→I3
敏捷:I0→I1
魔力:I0→I5
《スキル》
【
・魔石が割れにくくなる。