原初の竜でも友達が欲しい   作:伊つき

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ヤクザ女神の抗争VSテルスキュラ

 

 大海を前に、背の低い女神は今いる孤島の主であるもう1柱の女神『カーリー』と対峙する形になる客席で態度悪く座っている。

 両足共に地についておらず、左足はあぐら、右足はそこに立てて右腕を乗せている。

 チビで見た目は子供。しかし、そのガラの悪さと神々に恐れられる悪い意味の名高さは未だ健在。

 

 その女神、ヴィヴィアン。

 

「カーリー」

「な、なんじゃ!?何かワシに用事か!?」

 

 えらく豪勢な食事でもてなされたヴィヴィアンはそれに一切興味を示さず、女の眷属を二人後ろに控えさせて、ただただ部屋から見える海を眺めている。

 その最中、突然その口が動き、それが自身の名であったことにカーリーは慌てて反応して決してその機嫌を損ねないようにビクビクと震えている。

 

「……っ」

「カーリー……!」

 

 カーリーの後ろに控えるこれも2人の女眷属。アマゾネスのアルガナとヴァーチェは主神の見た事ない怯えように狼狽を覚える。

 最初、目の前のカーリーより小さい女神が現れた時は、二人も威勢が良かった。それを慌てて止めたカーリーに苛立ちと困惑も感じた。

 しかして、今は。二人とも『恐怖』を感じている。

 女神ヴィヴィアンに、ではない。

 彼女が従える、彼女の後ろ、窓側に立つアマゾネスだ。

 

「「……っ」」

「……?」

 

 二人が息を呑み、そんな彼女たちをヴィヴィアンのアマゾネスは視線に気づいて彼女たちを見る。

 その視線に捉えられた瞬間、アルガナとヴァーチェは目を逸らした。

 そして、冷や汗を垂らす。

 マズイ。刺激してしまったか?と。

 そんなアマゾネス達を添えて、ヴィヴィアンだけが喋り出すことが許されている。今、ここはそういう空間だ。

 

「カーリー。私達の代わりの船は手配できそう?」

「も、もうすぐじゃ……!悪いの、主らが出たい海岸へ持ってくるのに時間がかかっておって……!」

「ん?……あぁ、ごめん。別に急かしてない。聞いただけ。あっ。あとそれと、そこのアマゾネス」

「「……っ!?」」

 

 急に矛先が自分たちに向いて驚愕するアルガナとヴァーチェ。

 カーリーは何か眷属がやかしたかと思って大量の汗が流れて2人を勢いよく見る。主神に視線で刺された二人のアマゾネスは勢いよくブンブンと首を横に振った。

 その一連の流れを目にしつつヴィヴィアンは言う。

 

「……悪いけど、うちのアマゾネスはそれらしくないし、ここの趣向には全く合わない。アマゾネスの祖に足を向けて寝ちゃうくらいらしくない奴だから、気を張るだけ無駄。まあ……無理か。引くくらい強いの、恩恵(ファルナ)がある程度育ってるとわかるんだっけ」

 

 自身の眷属であるアマゾネスを一瞥するヴィヴィアン。

 背が恐ろしく高く、しかして女神の言うように『らしくない』穏やかな雰囲気を有する彼女は、その通りに朗らかな笑みを浮かべてテルスキュラのアマゾネスであるアルガナとヴァーチェを驚愕させた。

 

「んだ!実力が近ぇと気付くべさ。オラも神時代でそうだったべ。若ぇ頃は【ゼウス・ファミリア】や【ヘラ・ファミリア】によくおっかねぇ奴っぺ沢山いたっちゃなぁ~!」

「そうなんだ。その頃のこと知らないし、私ファミリアとか()()()()から、眷属になった人間達……子供達のことよく分かってなくて」

「……っ!?……?」

 

 ヴィヴィアンと言葉を交わすは、【ヴィヴィアン・ファミリア】の団長にしてアマゾネス、アルキュオラ・テオ。

 二つ名は【剛心】、または【剛身】。Lv.6。尚、ランクアップ可能。

【ゼウス・ファミリア】、【ヘラ・ファミリア】が活躍した、神々の地上降臨から間もない所謂『神時代(しんじだい)』の冒険者。

 そんな二人の会話は違和感が凄い。

 ファミリアを持ち、眷属を有するヴィヴィアンがそれらに興味が無いと口にする矛盾。

 契約を交わしている筈なのに、お互いにあまり関係が深くなさそうな様子だ。

 特にテルキュオラの発言は、まるで彼女の言う『若ぇ頃』は【ヴィヴィアン・ファミリア】ではなかったとでも言うようだ。

 それに関してはヴィヴィアンが眷属を従えて現れた時からカーリーは違和感を覚えていた。

 

「こ、こちらからも聞いてもいいかの。ヴィヴィアン」

「ん。なに?」

 

 肘をつき、手のひらに頭を預けるヴィヴィアンに、カーリーが恐る恐る声をかける。

 ヴィヴィアンは海に向けていた目を瞬きを一度挟んでからカーリーに移した。

 

「お主、いつ地上に降りてきたんじゃ……?妾はてっきりお主は下界に興味がない神だと思っておったが……」

「……」

 

 指摘されてヴィヴィアンはまた海に視線を戻す。

 カーリーはまたマズったか?と焦った。

 しかし、違和感は気になる。下界に降りてきたのもそうだが、眷属を持つのもヴィヴィアンの印象ではない。

 女神ヴィヴィアンは子供達を忌み嫌い、興味の対象ではなく見下す対象としていた珍しい神だったはずだ。

 証拠に、多くの神々が子供達と呼ぶ下界の者達をヴィヴィアンは『人間達』と呼んだ。

 ヴィヴィアンとは、プライドの高い女神だ。

 少しの沈黙の後、彼女は口を開いた。

 

「降りてきたのは最近。特に理由はない。でも、今は目的があって活動してる」

「目的……?なんじゃ、その目的というのは……」

「教えない。教える義理がない。―――()()()はただ、黙って船を貸せばいい」

「……っ!!」

「「……っ!?」」

 

 急に温度が下がった。

 声音が低くなかった。

 動いたヴィヴィアンの瞳はモンスターが産まれるような効果音が聞こえてきそうだった。

 そして、何よりここまで感じなかった底が冷えるような威圧感と支配感。女神ヴィヴィアンは間違いなくどんな相手でも震え上がらせるほどの雰囲気を有していた。

 あのカーリーが、為す術もなく下手に出る。それに悔しさを覚えるアルガナとヴァーチェだが、その感情は一瞬で恐れに移行した。

 そして、思い出す。

 女神ヴィヴィアンがテルスキュラに上陸し、それをあのカーリーが一瞬で受け入れて下手に出た時に暴れそうになったアマゾネス達を小声で制した時の言葉。

 そう。

 

 ―――『やめんか!奴は『ヤクザ』じゃ、『ヤクザ』!喧嘩を売るでない!あれと抗争なんぞに発展するなんざ考えとぉもない。妾は嫌じゃぞ……!』

 

 血相を変えてガチ焦りする女神を眷属たちは初めて目にした。

 神が口にした、『ヤクザ』という言葉。

 それは、神々の間でのみ流行る下界の子供達には理解できないもの。

 故に、アマゾネス達は「やくざ……?」と首を傾げた。

 そして、今に至る。

 

「あぁ~~~~~~~~~~。ッ!気が変わった。クソが。喜べ、アルキュオラ。てめぇの願い叶えてやる。この趣味の悪ぃ闘国を潰す」

「……………………へっ?えっ?」

 

 髪をかきあげて天井を仰ぐヴィヴィアン。

 急に流れが変わったカーリーが呆気にとられて固まる。

 が、そんなタイムラグも良くはないとヴィヴィアンは教えてやった。

 

「オラ、いけ。テメェら」

『……っ!?』

 

 指示が飛ぶ。

 アマゾネス達は殺気を感じる。

 だが、感じてから動いてるようでは遅い。

 否、『片方』は遅くはないが、動いても無駄である。

 

「んたべ?言ったべさ。ヴィヴィアン様は優しいお方だべ。オラが若ぇ連中のことを想ってるのちゃーんとわかってるんだべさ」

「……っ!?こいつ、攻撃が効かない!?」

「ヴィヴィアン様が優しいとか本気で言ってるでごしゃるか~!?絶対団長殿だから言えることでごじゃる。ていうか同胞が~とかじゃなくて若手の心配っていうのがなんとも団長殿らしいでごじゃるなぁ」

「……っ!?いつの間に……!」

 

 アルガナに肉薄するアマゾネスNo.1アルキュオラ。

 小細工を使って格上のヴァーチェの背後を取る目元以外装束で隠す女忍者の眷属、Lv.3+純血正当後継忍者の『御門(みかど)』。

 共に、【ヴィヴィアン・ファミリア】。

 嬉々としてこの以上環境に置く狂わされたアマゾネス共をヴィヴィアンは合図などせず、発言で意志を示しただけで全員が動き出し、『制圧』を開始する。

【ヴィヴィアン・ファミリア】の特徴は物量。その構成員数は【ガネーシャ・ファミリア】をも凌ぐ。

 強者はたった3人。歴戦のアマゾネス団長、恩恵の絶対差を覆す隠密特攻に長けた本場本物の忍者、そしてもう1人。副団長の男が作った凄まじい数の魔道具(マジック・アイテム)を団員達は用いて、格上のアマゾネス達を数と道具の物量で叩き潰す。

 涙目のカーリー。

 相手が悪いと判断してすぐに離脱し、別の戦場へいった御門。

 

 そして、アルガナとヴァーチェという強者を1人になっても大丈夫な更なる化け物がぶちのめす。

 

 ―――我ら、思想も目的も、何もかも誰も一致していない。ヤクザ女神が率いる利害関係だけの派閥。

 

「っあぁ~~~~。仮派閥【ヴィヴィアン・ファミリア】だ。ヨロシクゥ……」

「た、助けてカーリー……ッ!!こいつ、何か変だ!!」

「こいつ、攻撃は効いてるのに響いてない……っ!た、耐えているだけ……。その能力が、その一点だけが異常……っ!!アルガナ!!」

 

 ヴィヴィアンがようやく食事に手をつけ、その周囲では眷属達が戦っている。自身の足元にアルガナが吹き飛ばされてきたが、気にせずホコリが被った肉を食いちぎった。

 戦っているといったが、それは否である。一方が一方を一方的に殲滅しているというのが正しい。主に1人の圧倒的強者が原因で。

 ヴィヴィアンは、ゼウス・ヘラの時代に活躍した名高い冒険者を借り物の眷属とし、カーリーに『挨拶』をした。

 挨拶って大事。挨拶ができる奴は商売もできる。

 

「いやぁ、若ぇのも中々やるべ!オラリオでもねえのにこんな逸材……捨ておけねえ。ヴィヴィアン様~!オラ、こん奴らの面倒みてぇべ!」

「あ、そ。じゃあそういう方向性でやって」

「さすがヴィヴィアン様!恩に切るべ~!!」

 

 叫びながらもどんどん攻撃を受けてるアルキュオラ。

 しかし、どんなに殴られても流血しても飛ばされても笑顔で会話する。耐えることにおける鬼。

 そんな異常者が攻撃力もそこそこある。

 アルガナとヴァーチェは幾度かぶちのめされている。それでも、恐らくすぐには屈しない。ヴィヴィアンはそう予想する。

 アルスキュラの戦いは基本長期戦。気長に待つとするしかない。

 どうせ長くても1週間もすれば相手の心の方が折れるだろう。

 1ヶ月は余裕で戦い続ける化け物を前にしてるんだ。それは必然となる。

 故に、戦い始めてすぐはテルスキュラ勢力も善戦するだろう。

 その間、カーリーも多少は抵抗する意志を見せてくる。

 今は自分に脅えているが、眷属の力で力関係が変わるのが下界の厄介なところだ。

 ヴィヴィアンは再び天を仰いで震えた声を出す。

 

「っあぁ~~~~~~~~。めんどくせぇ……船だけかっぱらえばよかった……。グウィネヴィア待たせちまうなぁ。……まあいいか。逆ギレすりゃビビって受け入れるだろ」

 

 どうせ相手は小心者だ、とカスみたいな考えを浮かべてヴィヴィアンはハッと笑う。

 1週間は足を止めなきゃいけない状況になって、彼女は魚でも釣るかぁと呟きながら席を外した。

 道中、眷属の忍者に「おい、先にオラリオにいけ」と告げ、「えぇ~!?パシリでごしゃるかぁ!?酷い主人でごじゃるぅ」などと口答えするのでガンつけたら「い、いやぁ!主神殿の役に立てるなんて拙者、忍者として失禁するくらい身に余る光栄でごじゃる!ヴィヴィアン様バンザーイ!忠誠を誓うでごしゃる~!」と喜んで使いに行ってくれた。

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