原初の竜でも友達が欲しい   作:伊つき

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冒険者マニア

 

「リョーカ・アーサ……君がザルドを除けたのかい?本当に?」

「えっと。正確には向こうが退いたというか……」

「だが、奴を負傷させたのも事実だ。この小娘はザルドと渡り合える」

 

言い淀むリョーカの代わりにオッタルが応える。

リョーカはそんな彼を見上げる。

そして、思う。

なんでこの人こんな話盛るんだろう、と。

 

「すまない、レディアーサ。きっとオッタルは【暴食】にダメージを負わせたことにかなり衝撃を受けてるんだ。彼らには因縁があるからね」

「し、知ってます。【暴食】と【猛者(おうじゃ)】、冒険者マニアの中では有名……」

「……"冒険者マニア"?」

 

ボソボソと喋るリョーカ。

フィンはザルドを退けたという強者の風格に気を使って話していた。

だから、聞き間違いか?と一瞬流そうとしたがやはりハッキリ聞こえたため、戻ってきた。

リョーカは、恐る恐るという様子で周りの反応をビクビクと怯えながら確認してこ、こくりと頷く。

 

「ぼ、冒険者を好きな人を……そう呼び、ます。私も、冒険者マニア」

「へぇ。驚いた。君が僕たちをってこともそうだけど、ザルドを退けるほど戦える君がそんな小物(ミーハー)なことに驚いたな」

 

フィンは遠回しに牽制している。

まだリョーカ・アーサという新星を掴みきれていない。

 

どこかアイズを彷彿とさせる独特な喋り。

ザルドに傷をつけた強さ。

 

それが敵か味方か何者なのかまだ判明していない恐ろしさ。

少なくとも大人しくオッタルについてきた時点で悪意の持ち主ではないだろうが。

 

……そんなことよりも気になるのが、あまりに威圧感(オーラ)がないこと。

最初にザルドを退けたということを再三事実か確認したのは、その要素の影響が大部分を占めている。

 

リョーカ・アーサ。

彼女は不気味だ。

ザルドに通用するくらい強いというのに、こうして非戦闘時に向き合ってる間はそんなことを感じさせない。

 

まるで無力な平民だ。

失礼ながら、何も出来ない一般人にしか見えない。

だから、彼女が冒険者マニアだと自称することにも驚いた。

 

口にした建前も本音ではあるが、1番は発言内容とは逆に彼女の今雰囲気に冒険者マニアという自称は解釈一致で似合っている。

いかにも冒険者を崇拝する一般人、もしくは駆け出しレベルの冒険者の出で立ちだから。

 

「あ、あの」

「ん?」

 

リョーカに声をかけられフィンが顎に手を当てながら見上げる。

すると……彼女は目をキラつかせながら自分を見ているではないか。

フィンは、一瞬で察した。

そして、「まさか」と苦笑いを浮かべる。

 

「わ、私が1番好きな冒険者、ブ、【勇者(ブレイバー)】で……えっと。あの。いつも……応援してます。い、言っちゃった……!」

 

告白と芋臭いお茶目演出の動き。

なんとなくもう予想できたが、まさか本当に自分の支援者(ファン)とは。

フィンは目を丸くする。

 

「驚いたな。まさか小人族(パルゥム)以外に応援されているなんて」

「しゅ、種族とか関係ありません……!ディムナの勇気とフィアナの伝承への敬意はもう本当に憧れで―――」

「はいはい。中断じゃ、そこで」

「……!」

 

ずっと見ていた鬼人が割って入る。

希少種族だ。

名を威吹鬼という。

興奮状態になったリョーカを遂に始まったかとでも言いたげに呆れた顔をしていた彼女はリョーカの口を塞いだ。

奥にいたエルフの男もフッと鼻で笑う。

 

「名のある冒険者とやらががん首揃えてリョーカのつまらん趣味の話をしにきたわけじゃなかろうて。そうじゃろ?」

「レディ・アーサ。私情を挟んでもらっては困る。我々の目的をお忘れなく」

「えっ。あっ」

 

仲間2人に止められて明らかに落ち込むリョーカ。

せっかく実物の最推しに出会えたというのに。

その興奮すら味わえない立場。

一気に暗い顔になる彼女に、フィンはこの3人の空気感の異質さに気づく。

 

「目的?なにかな、それは」

「おっと。追求されても割りませんよ、口が堅い方なので」

「マリウスくん……」

 

フィンに目敏く尋ねられるもはぐらかすマリウス。

元主人であるルシアも彼を見つめる。

そんな彼女に微笑して、彼は口角を上げたまま話を逸らす。

 

「それよりも、彼女の力を借りたいという話ではありませんでしたか?」

小人族(パルゥム)以外の者に支持されてることを知って、正直嬉しい。その喜びを僕も味わいたいし、彼女の気持ちにも応えてあげたい」

「それはもうどうぞお好きに。ただし、この事態が終わってからでもいいのでは?特に【暴食】と【静寂】は早急に止めねば」

「随分とその話に持っていきたがる。ザルドやアルフィアと彼女を戦わせることは君達の目的とやらにとっても都合がいいのかな」

「それはなんとも。私は何も言いませんよ」

 

両手を上げるマリウス。

彼からは何も聞き出せそうにない。

フィンも顔を顰めて、諦めた。

 

その時。

 

 

『オラリオに告ぐ。我は女神ヴィヴィアン』

 

「……!?」

 

 

突如、フィン達の集まりの元にも響き渡った。

そして、都市の有力な冒険者達も彼女の声明の内容を一言一句漏らさず聞いた。

しかも外が騒がしくなった。

窓から覗くと都市を囲んでいた闇派閥達が次々と倒されていると報告があがる。

それらは全て謎の派閥による、それもとてつもない数の新勢力による制圧だ。

フィンは状況を把握し、即座にリョーカに視線を向ける。

 

「これは一体……何がどうなってる。神ヴィヴィアンとは、君達の主神か?」

「い、いえ。ヴィヴィアンは私達の」

「レディ・アーサ。それは言わなくていい。我々の主神は女神グウィネヴィアです」

「それは開示できる情報というわけか。いい加減鼻に付いてきたな。その態度は」

 

フィンとマリウスが対峙する。

フィンは睨み、マリウスはフッと笑みを浮かべる。

この男がいる限り、今何が起きてるか女神ヴィヴィアンとやらとグウィネヴィアが何を企んでるのかは洞察できない。

今目の前にはいるが、リョーカ達から情報を得るのは諦めた方が良さそうだ。

 

「君達が女神ヴィヴィアンとグウィネヴィアの元で何を画策しているかは知らないが、少なくともザルドとアルフィアとは対立している。その一点にかけて、協力を要請してもいいかな?」

「フィン。この者たちを信用してもよいのか?共に戦い、背中を任せると?」

「だから、1点のみ信用すると言った。あくまでザルドとアルフィアの相手だけしてもらう。どうかな?一任してもいいかな」

 

ガレスの横槍も受けるが、すぐに納得させてフィンは尋ねる。

威吹鬼はどうでも良さそうに……いや、諦めて投げやりな様で後頭部で手を組んでぶらつき始める。

リョーカ、マリウスが顔を合わせ、リョーカは俯く。

その嫌そうな表情が引っかかるが、フィンが彼女に気を遣う前にマリウスが口を開く。

 

「それはもちろん。特に【静寂】の相手をさせてもらいたい」

「……【暴食】とはもう戦ったから、()()と?」

「さぁ?それもまたお答えしかねる」

「……」

 

皆がフィンを見た。

フィンはなんとなく彼らがなぜ【暴食】と【静寂】に拘っているかを看破している。

だから、マリウスの発言の意図を正確に読み取れた。

その返答ははぐらかされてしまったので、真意まではわからないが。

 

「リョーカ・アーサ。君はさっき、ザルドは自ら退いたと言った。ならば、気をつけてくれ。アルフィアはザルドほど甘くはない」

「……!」

 

まさかあの憧れの【勇者(ブレイバー)】からそんな温かい忠告を受け取るとは。

感動モノだが、それを味わうことは彼女には許されていない。

彼女はマリウスの視線を浴びて下を向き、その時に目に入った自らの剣を目にしてまた嫌そうな顔をして、自身の腕をさすりながら地面を見つめてしまう。

その様子をフィンとルシアは眺めるが、今は彼女を気にかける余裕はない。

 

「フィンさん。女神ヴィヴィアンなる者がこちらの利となるかはわかりませんが、彼女は闇派閥も倒すと言っていました」

「あぁ。それに我々の目下の課題である包囲網も解いてくれた。これは好都合だ」

「はい。ダンジョンに現れた神の力の影響を受けたモンスターの討伐。それと」

「ヴァレッタ達を見つけ出し、これを機に闇派閥を叩く」

 

意見は簡単にまとまった。

そうと決まれば人員をどう配分するかだ。

 

「問題は【暴食】と【静寂】がどちらに割り振られるかだが」

「多分【静寂】は地上……」

「レディ・アーサ!!それは言ってはなりません!!」

『……!?』

 

全員の視線がボソッと呟いたリョーカに集まる。

リョーカはギョッとする。

同時に自分は言ってはならないことを言ったと気づいた。

それより早くマリウスが鬼の形相でカッとリョーカを恐喝し、リョーカはビクッと肩を震わせた。

マリウスのその慌てようと反応の早さ。

フィンはその態度から見抜いた。

 

「なるほど。アルフィアとザルドもリョーカ・アーサを狙うなんらかの理由があり、それを君達は知っている」

「……っ」

 

図星だ。

リョーカが目を逸らした。

フィンはマリウスを睨む。

 

「問いただしても……答えは得られない」

当然(ウイ)

 

マリウスが片目を瞑る。

ならばこの者から情報を得ようとするのは時間の無駄。

 

「わかった。地上のアルフィアは君に任せる、リョーカ・アーサ」

「……!【勇者(ブレイバー)】が……私に」

 

リョーカが瞠目し、震える。

彼女は初めて戦いに意義とやりがいを見出す。

 

「やってくれるかな?」

 

フィンの言葉に皆の注目が集まる。

応援していた冒険者達からの期待の眼差し。

支援者(オタク)冥利に尽きるにこれ以上なし!

リョーカの気分(テンション)が上がるのは間違いない。

 

「が、がんばります。私が【静寂】を食い止めます!」

「レディ・アーサ……」

 

マリウスが天を仰いだ。

オッタルが目を光らせている以上、彼に横槍は入れられない。

フィンはマリウスの反応を見て勝ちを確信。

とはいえ、リョーカ・アーサの人柄には良さを感じ、彼女をただ利用しようとは思わない。

 

「アルフィアは1人で相手できる存在じゃない。君の力がどれほどか未知数だが、仮にアルフィアに対抗できたとしても1人では行かせられないな」

「ならば私がついていきます。あと【アストレア・ファミリア】にも協力要請を」

「そうか。僕達も行きたいけれど……女神ヴィヴィアンの眷属や都市の混乱の収集、ダンジョンのモンスターに、他の闇派閥の対処。やることは山積みだ」

「リヴェリアとアイズが現場の対応をしとる真っ最中のはずじゃ。その足でアルフィアの元に向かってもらってはどうじゃ?」

「そうだね。それがいい。現地で2人と合流してくれ。いいかな」

「わかりました」

 

ルシアが頷く。

そして、マリウスと……リョーカを見た。

ルシアとリョーカ。

ルシアが彼女に近づく。

 

「私は【アストレア・ファミリア】のルシア・マリーンです。腕っ節は弱いですが、頭は良いです。私の仲間と共に貴女の護衛とサポートをさせてください」

「あ、はい。よろしくお願いします」

 

リョーカは頭を下げてお辞儀した。

律儀だなと思い、ルシアも「いえいえ、こちらこそ」と礼儀を返した。

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