原初の竜でも友達が欲しい   作:伊つき

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紅の正義(ゆうき)を借りて

 

「この人、強すぎる……!」

「【レア・ラーヴァテイン】!」

「【魂の平静(アタラクシア)】」

 

市民を守るために戦うアイズとリヴェリア。

しかし、アイズの攻撃は簡単に躱され、リヴェリアの魔法は無効化される。

正直打つ手はない。

目下の課題であるダンジョンの方に勢力を割いたが、こっちは戦力不足もいいところだ。

 

それ程までに、この【静寂】のアルフィアは―――圧倒的。

 

「朽ちよ、冒険者共。恩恵が消えた者は特に。そして、貴様達が守ろうとしているこの都市の民達も……蹂躙してくれる」

「ひっ……!こっち見てるぞ!」

「いやぁ!?」

 

アルフィアの視線が動いただけで冒険者達が庇っている奥の避難所、市民たちが怯える。

その様子を見てリヴェリアが片膝をつきながら顔を顰める。

 

「なっ……よせ!」

「ならば止めてみよ。ん?」

 

アルフィアが耳を傾ける。

微かに聞こえる。

煩わしい―――"()"が。

 

「うえーん。ママぁ~!」

「子供……!」

 

瓦礫の中から這い出たアイズがその声の方を見る。

避難所から溢れ出た子供が、迷子になって戦闘区域に迷い込み、露店の屋根の下に隠れている。

それがアルフィアに見つかった。

マズイ……!

 

「よせ、アルフィア!相手はまだ子供だ!」

「関係ない。雑音は、消し去るのみ」

 

「―――させない」

 

どこからか、声がする。

その声の行方を3人が見る。

戦場に、歩み踏み込む者が1人。

 

「また来たか、【無音の女】」

「リョーカ・アーサ!来てくれたのか……!」

「……」

 

双方の反応を前に、リョーカは無言で剣に手をかける。

 

「なんで……」

「……?」

 

アイズが不思議そうに見てくる。

彼女には、リョーカが来てくれた理由がわからない。

戦う気のない者が剣を取る道理が理解できない。

リョーカには、アイズのその考えが読める。

その気持ちを察して、リョーカは彼女と目を合わせたあと、前方を向いて瞼を閉じる。

 

「……わかるから」

「えっ?」

「強い人達に踏みにじられて、苦しむ人達の気持ちが……わかるから」

 

リョーカは一つ一つ言葉を紡いだ。

それは、彼女の深い心理。

アイズもリヴェリアもその温かく穏やかなものに触れる。

 

リョーカ・アーサとは何者か。

 

その答えは単純。

ただの普遍的な人。

性格は平凡。

つまり―――普通に優しい、のだ。

 

「力も罪もない誰かから搾取しようとするのは、強者の驕りだ。抵抗できない人達の代わりに、私が皆の剣になる!」

雑音(ごたく)を述べるな。思い上がるな。前回の戦闘で自信をつけたか。愚か者め。前は貴様の力を試すため、手を抜いていたのだ。あれを私の実力だと思うな」

 

早口で畳み掛けるアルフィアに、リョーカは剣を抜いて……()()()()()()

 

「奇遇。私も、手を抜いていた。今度は倒してやる!」

「貴様……舐めるな、小娘」

 

アルフィアVSリョーカ!

その火蓋が切られる!

 

「連続【エーラ】!」

「【福音(ゴスペル)】」

 

リョーカが繰り出す風の斬撃の嵐。

しかし、前回とは異なりそれは完全に防がれてしまう。

 

「えっ……!?」

「言ったはずだ。手を抜くのは終わりだと」

「なら……!」

「……!」

 

即座に切り替えたリョーカにアルフィアが警戒する。

あの、【才禍の怪物】が。

なぜなら、リョーカが取った構えは前回の【必殺(ストライク・エーラ)】の構えだからだ!

 

「リョーカ・アーサ……ッ!その技は……!危険だ!よせ!」

「―――()()()()

「なに……?」

 

リョーカの呟きをリヴェリアは拾えなかった。

しかし、身体がはち切れんばかりの風圧に耐えながら、気弱な女だったとは思えないほどの気迫こもった眼力で、リヴェリアを見るリョーカ。

その瞳に宿るのは……"()()"。

 

「私、知ってる……っ!【九魔姫(ナインヘル)】の魔法。大好き。皆を、仲間を守る温かい……"()()()()"!!」

「なっ……!?」

 

リヴェリアは驚く。

なぜ彼女が自身の魔法を知っているのかと。

 

そして、同時に気付く。

彼女が必殺でダメージを受け負うのは()()()()が原因。

つまり、防御をしっかりしていれば問題はない。

 

「……」

「……!」

 

風が吹き荒れる中、頷くリョーカ。

リヴェリアは目を見開く。

 

そうか……!

リョーカ・アーサは冒険者マニア!

 

特にフィンが好きで、フィンが好きなら【ロキ・ファミリア】も好き!

故にその派閥にも詳しいのだ。

それがわかればやることは1つ!!

 

「アイズ!彼女を援護するぞ!」

「わかった!」

「【ヴェール・ブレス】!!」

「【吹き荒れろ(テンペスト)】!!」

 

「……!!」

 

リョーカの前に防御魔法が展開される。

同時に、風が強まる。

血の繋がりが、可能としたアイズの新たな可能性。

 

【剣姫】と【大英雄】の融合技(ユニゾン)!!

 

『くらえっ!!ストライク・エーラ……!!』

 

リョーカとアイズの声が重なり、直線上に狙いを絞って竜巻が放たれる。

標的はもちろん、アルフィア……!!

 

「チッ……!相変わらず無法な威力め!」

 

鐘の音が響く。

 

瞬きの後、リョーカの前方は遥か先まで地面が抉られ、景色が拓けた。

前回はこの必殺技でアルフィアに傷をつけた。

 

だが、今回は。

 

「この私が二度も同じ手でやられるとでも思ったか……?」

「思わない。だから、牽制の為だけに使った」

「……!」

 

元いた場所からかなり後退し、別区画(エリア)へ飛ばされたアルフィア。

今回は防御に専念し、無傷で乗り切ることに成功した。

しかし、そこに意識を割きすぎて場所を移動させられたことに気づかなかった。

抉られた地面を歩き、リョーカが砕けた剣を捨て、2本目の剣を抜いて余裕の歩みでアルフィアの元までやってくる。

 

「……なるほど。貴様も手を抜いていたと、張り合いではなくあながち嘘ではなかったということか」

「前は戦うだけでよかった。けど、今日は、倒す。だから、前とは違う」

「いいだろう。悪くない。もう少し貴様には楽しませてもらうことにしよう」

 

もう周りに傷ついて欲しくない人はいない。

リョーカが剣を構え、アルフィアも彼女に対して()()()戦闘体勢に入る。

 

「本気を出していなかったと言ったな?ならば、貴様の芸もその変わり映えのせん風の技だけじゃあるまい。私が気付いてないとでも思ったか?」

「……!」

 

アルフィアが見透かす。

リョーカは下唇を噛んだ。

が、すぐに不敵な笑みを返す。

 

「【火の彼(グレア)】を使って欲しいなら……使います。でも。だったらその()()()使()()()()()()は解いた方がいいかも。きっと、そんな余裕なくなるから」

「……!」

 

今度はアルフィアが瞠目する。

互いに、まさか看破されているとは思っていなかった。

 

「小娘め……」

「別に解かないならそれでもいい。こっちには好都合。どうする?」

「安い挑発だ。言われずとも解く。が、先に忠告したことを後悔することになるぞ」

「それは……お互い様、かも」

「……」

「……」

 

両者が睨み合う。

誰も割って入れないピリついた空気が流れた。

 

「来い……っ!【火の精霊(グレア)】!!」

「解除、【静寂の園(シレンティウム・エデン)】。【福音(ゴスペル)】―――【サタナス・ヴェーリオン】!」

 

業火が宿り、その斬撃は階層主をも遥かに凌ぐ一振で凄まじい爆炎を生み出す。

アルフィアの完全解放祝福雑音(ノーリミッター・ヴェーリオン)も常軌を逸した発動範囲だった。

 

互いに、規格外の威力がその空間を、区域を、周囲を―――吹き飛ばす。

 

残ったのは……アルフィア。

 

「見誤ったな、小娘」

「うっ……ぐっ……!」

 

地に伏せたリョーカが半身を起こそうとしながら顔を顰める。

さすがにアルフィアの方が上手だった。

強い。

強すぎる。

Lv.7、最強の冒険者、【才禍の怪物】、【静寂】のアルフィア。

いくらリョーカが特別と言えど、煽ったのは間違いだった。

 

「それで?さっきので品切れか?小娘」

「……っ!」

 

リョーカが身体を起こすのを待って、アルフィアが珍しく少し楽しそうに笑う。

完全に舐められている。

少なくともリョーカはそう感じ、砕けた剣を捨てた。

アルフィアを睨みながらなんとか立ち上がるリョーカ。

そして、3本目の剣を抜こうとする。

 

その時―――リョーカの手にはあるはずの柄を握る感覚が……()()()()

 

「えっ!?」

 

思わずリョーカが自分の腰を見る。

すると、そこには持ってきたはずの3本目の剣がなかった。

つまりどこかで落とした!

ヤバい!ヤバい!ヤバい!

リョーカは焦る。

冷や汗が大量に出る。

なぜなら。

 

「け、剣がないと……わ、私は……」

「どうした?さっきの衝突で武器を落としたか?素手(ステゴロ)の勝負でも構わんぞ、私は」

「えっ。いや……それは」

「……」

 

アルフィアが瞼をピクリと動かす。

明らかにリョーカの様子がおかしい。

さっきまでの威勢がまるでない。

最初はブラフかとも思ったが、気弱なこの女が自信を見せている時にこれほど狼狽えるのは性格的に考えにくい。

剣がないだけでこの慌てよう。

まさか……この女。

 

「そうか。貴様。……()()()()()()?」

「~~~~~~っ!!」

 

指摘すると、面白いくらいに顔が真っ青になったではないか。

どうやら図星らしい。

 

「なるほど。大英雄は、剣士だったと聞く。それでお前は……そうかそうか」

「……っ!」

 

アルフィアが笑う。

リョーカが焦る。

目を泳がせた彼女が出した結論は……。

 

「グ、【グレア】!!」

「……!!」

 

両腕を開いて構えたリョーカ。

何やら叫ぶからまた何かの芸かと思い、アルフィアも構えた。

……しかし、数秒待っても瓦礫が自然に少し崩れただけ。

 

「どうやら本当に"()()"になったようだな。面白いカラクリだが、貴様の力は中々欠点が多く不便だ」

「グレア!……っ。エ、エーラ!エーラ!」

 

リョーカが何度も呼びかけるが、何も起きない。

精霊達にとって、剣を持たないリョーカに価値はない。

【彼】かも?と誤認することがない。

今のリョーカは……ただの"人"だ。

 

「エーラ!エーラ……!」

「リョーカ・アーサ……!……?何をしている?」

「何、あれ……」

 

リヴェリアとアイズが追いついたが、その時に見たのはリョーカがただポーズを取ってるだけの珍妙な景色。

傍から見ればただの変人だ。

それでも、至って本人は真剣。

リョーカは空気に向かって訴える。

 

「エーラ!エーラ!お願いっ。力を貸して、エーラ……!」

「……もうよい。気持ちも冷めた」

「……っ!!」

 

遂にアルフィアがこの茶番に耐えられなくなった。

リョーカが怯えて後退る。

すると、瓦礫に足を引っ掛けて彼女は転けた。

……もはや、彼女は凡人だ。

 

「……剣」

「なに?どうした?アイズ」

「剣だ!剣だよ、リヴェリア!剣がないと、あの()、力を使えないみたい……!」

「お、落ち着け。あの()だと……?リョーカ・アーサはお前より歳上だぞ」

 

呆れるリヴェリアだが、そこじゃない!

そこは今どうでもいい!

アイズは辺りを見渡す。

きっとどこかにリョーカの剣が埋まってるはず。

瓦礫を動かして……ダメだ!子供の身体じゃ小さすぎて上手く力が入らない!

 

「お前も手伝ったらどうだ?小娘」

「……っ」

 

アルフィアに顎で煽られるリョーカ。

そんなことをしたら、背中を見せたら殺される。

いや、もう打つ手がない。

殺されるのを待つしか―――。

 

「そうだ!私の剣……!使って……!」

「アイズ!それは……!」

 

アイズが自身の剣を鞘から取り出す。

そして。

 

「使って、()()()()……!」

「……!」

 

アイズが投擲した剣が弧を描き、リョーカの目の前に突き刺さる。

リョーカはそれを……迷わず手に取った!

 

「えっ?この剣……そうなの?本当に?凄いね。うん」

「……誰と話している?」

「うん。わかった。やってみるね。ありがとう」

 

アルフィアが話しかけるもリョーカには聞こえていない。

アイズの剣を手に取ったその時から、リョーカの意識は誰にも認識できない領域にいる。

 

―――精霊と繋がれる者だけが到れる領域に。

 

「【グレア】!」

「……!」

 

リョーカが剣を高く掲げる。

すると、周囲から火の手が集まった。

闇派閥が多くを傷つけ、都市を傷つけ、街についた火の粉が。

リョーカの剣に集約され、鎮火される。

都市の火事は全て収まった。

代わりに、リョーカの剣に豪炎が宿る。

 

大英雄の一振となって―――。

 

 

「【マキシマム・グレア】」

「【サタナス・ヴェーリオン】」

 

 

今度は"突き"ではなく、"振り下ろした"。

リョーカが剣を振り下ろした瞬間、周囲の温度は一気に上がり、全てが灼けた。

 

焦土と化した地に立つのはただ一人の剣士。

英雄の姿だ。

 

「かはっ……!?馬鹿な……」

「……勝った。さすがに勝った、でいいよね?」

 

リョーカは両腕を重度の火傷に覆われているが、アルフィアは全身の至る所が灼けている。

何より、あの【静寂】が倒れ伏せている。

 

「なんという……本当にアルフィアを倒すとは。大したものだ。お前は」

「うん。凄かった。カッコよかった」

「うえっ。うひひひっ。しょ、しょうでしゅかぁ?」

「……急に気持ち悪い笑いをするな。どうした、本当に」

 

好きな派閥の冒険者に褒められ気持ち悪い反応が出たリョーカ。

気を取り直して彼女はアイズに剣を返す。

 

「これ、貸してくれてありがとう。良い剣だね。壊れなかった」

「わかるの?」

「流石だな。アイズの剣を使いこなしただけのことはある」

「えっ」

 

リョーカに剣の価値はわからない。

リョーカは精霊の加護を受けて戦える剣士というだけで、中身は一般人だ。

つまり、感性は普通。

 

今回はただ自分が使ったあとの剣はいつも壊れるが、壊れなかったから高価なんだろうなぁとなんとなく思っただけ。

……やっぱり高いんだろうかこの剣。

じゃが丸くん何個分だろう、とリョーカは考える。

 

「……治癒効かぬ火傷、妖精の呪いとはな。やるな、小娘」

「……!」

 

背後で倒れ伏せるアルフィアが呟く。

リョーカも振り返る。

 

「よくわからないけどその身体だから倒れてくれた。貴女が生まれたままの綺麗な体だったら……まだ立ってた。そうなってたら、また大技を使わないと。ここからまた頑張るのは、無理」

「安心しろ。歴戦の体には効いた。今の私では立てん。お前の言う通り、昔の私ならわからんが」

 

アルフィアも認め、顔を起こすのすらやめた。

どこか彼女は清々しい。

リョーカもアイズの剣を手に彼女を見下ろす。

 

「完敗だ。素晴らしい。思わず笑いが出そうなほどだ。お前は最高の逸材だ。誇れ。私もお前に期待する」

「……」

 

その期待とやらはあまり好きではない。

リョーカが顔を顰めるとは逆に、アルフィアは嬉しそうだ。

仰向けに倒れまま、彼女はリョーカを見る。

 

「リョーカ・アーサと言ったな。お前のような存在がいるなど微塵も予想していなかった。我々の知る後継達に何か残せればと淡い望みを授けに来たが、正直それができたところで【奴】を倒す未来(ビジョン)は見えん。自分のことではないのに、悔しいが、どう想像してもそのように予測できてしまう」

 

アルフィアは語る。

リョーカは、"えっ。この人めっちゃ急に喋る"と思った。

けど、【ゼウス・ヘラ・ファミリア】と【フレイヤ・ロキ・ファミリア】の関係は冒険者マニアなら常識。

後継にそれだけ情を抱いていたというのなら目頭ものだが、想像(イメージ)より【静寂】が喋るもんだからビックリの方が勝ってしまった。

 

「突如現れる新星。人々を救う救世。まさしく【英雄】だな、貴様は」

「あっ。人違いです」

 

一番間違われたら嫌な人に間違われてリョーカは渋い顔をする。

いや、感動的なシーンなのはマニアとしてはわかるのだが、自分がそこに当てはまるのは解釈違いというか。

それに、英雄扱いは嫌いだ。

英雄には絶対になりたくない。

それがリョーカ・アーサである。

 

だが、アルフィアは地獄を見て絶望していた。

その先に見たこの希望に対する否定を受け付けない。

リョーカの気持ちはガン無視で笑みを向ける。

 

「謙遜するな。お前なら【黒竜】に勝てる」

「―――そいつァ無理な話だな」

 

突如、割って入った声。

アルフィアもリヴェリア達もその女神を見る。

リョーカは彼女が視界に入ったその瞬間に、震え上がり、唇を青くした。

 

「ヴィ、ヴィヴィアン様……」

「よぉ。リョーカ。随分と派手に戦ったな。そんなことしていいって言ったか?あ?なぁ」

「いや、えっと……」

「こいつぁ仕置だな。もう一仕事終わされたら帰る。帰ったら沈めんぞ。いいな?」

「……はい」

 

リョーカはさっきまでの威勢をなくし、俯いて言われるがままに頷いた。

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