原初の竜でも友達が欲しい   作:伊つき

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妖精軍師の作戦

 

ダンジョン18階層。

 

【アストレア・ファミリア】が合流した。

 

しかし、彼女達の前には予想とは違う光景が広がっている。

 

「お、おい。私達……()()にきたんだよな?」

「あぁ。そのはずだが」

 

ライラと輝夜が唖然としている。

なぜなら。

 

「【ヘル・フィネガス】!!」

「轢き殺す!!」

 

フィンとアレンが何故かいくつもある地面の大きな穴に槍を手に飛び込んでいった。

あの穴は恐らくヴァルガングドラゴンによる仕業。

地上にはザルドの姿が見えない。

恐らくザルドは穴の中に、下に落ちた。

そして、ヴァルガングドラゴンは最も近くにいる冒険者―――つまりザルドに照準を集中させた。

彼を落とした方法は。

闇派閥から回収した自決装置を修復し、使い回し、18階層の地面に埋め込み罠として作動させ、突如彼の足元にできた落とし穴に、足場を失った彼はそのまま落とした。

ザルドを嵌めた。

落ちたザルドをフィンとアレンはその後を追った。

 

「【暴食】を罠にかけたの?一体誰がそんなこと……」

「私です」

「えっ!?」

 

まさかの返答が背後の仲間から聞こえてアリーゼが慌てて振り返る。

すると、ルシアが静かに挙手していた。

 

「回収した闇派閥の自決装置を使い回す発想は恐らくLv.7の彼にもない。そこに賭けて(トラップ)を仕掛けることをフィンさんに提案しましたが、物の見事に成功したようですね」

「えっ。ちょっと待って!?あれ、ルシアが考えたの!?」

「はい」

 

リャーナの言葉にルシアが頷く。

同時にルシアが述べる。

自決装置を無効化できたのは中の火炎石を遠隔で破壊したから。

ならば、回収した自決装置に新しい火炎石を装填すれば再利用が可能。

それを自決ではなく、罠に使っただけの話。

 

「ついでに言うとヴァルガングドラゴンを向こうが利用してくることを予想したのも私。

 

下層にいるヴァルガングドラゴンが近づいたものに照準を集中させる修正を利用しようと言ったのも私です。

 

【暴食】の習性上、喰われてダメージは与えられないでしょうが、捌くことを考えれば身動きは制限できるはず。

 

その状態の【暴食】に小回りの効くフィンさんとアレンさんが穴をあちこちに移動しながら遊撃する。

 

時間はかかりますが、そうやってチマチマつつき続ければLv.5のつつきに多少はダメージを受けてくるはずです」

 

ルシアがペラペラと饒舌に説明し始める。

ザルドは重力に引かれ、下の階層へといずれ降り着く。

しかし、その間にもヴァルガングドラゴンの砲撃を捌き続ける。

その行為を続けるとある程度は空中で捌き続ける必要があり、その間滞空時間が伸びて、穴の道中に居続ける。

そして、ヴァルガングドラゴンはあらゆる角度から砲撃で穴を、道を作っている。

それは交錯し、全ての道が繋がっている。

そのトンネルを利用し、フィンとアレンはあらゆる穴を移動し、遊撃している。

とはいえ、彼女もこの作戦がザルドの動きを止めることしかできないことはわかってる。

 

仮に倒せたとしても何日……いや下手すれば何ヶ月かかることやら。

それではフィンやアレンの体力がもたない。

 

特にフィンにはリミッターを解除させている。

だから、あくまでこの作戦は【暴食】を負傷・消耗させることと動きを封じて時間稼ぎすることが目的。

 

「なるほど。【暴食】の動きを止めて時間稼ぎし、その間に他を蹴散らすわけか」

「はい。その通りです。まあ、もう終わるみたいですけど」

 

ルシアが奥に目をやる。

【アストレア・ファミリア】の面々はどちらかといえば最初からそちらに意識を持っていかれていた。

 

なぜなら―――問題視していたモンスターが倒されようとしているのだから。

 

「うおおおおぉぉぉ!!」

 

モンスターはオッタルが薙ぎ倒していた。

その奥ではガレスがヴァレッタと戦っている。

 

「テメェらふざけやがって、どうせこの作戦(シナリオ)もアイツの仕業なんだろぉ?ルシアぁ!」

「ヴァレッタ、お主の悪事も今日で終わりにしてやるわい!」

 

【暴食】の足止めをしている間に強いオッタルがモンスターを確実に狩る。

ヴァレッタの相手は同じくLv.5のガレスが担う。

 

誰も苦戦などしない戦力の割り当てが完璧な組み合わせ。

そして、フィンに同行した【ロキ・ファミリア】はオリヴァスの相手をしており、その奥には邪神エレボスの姿もある。

 

闇派閥は地上の作戦が失敗した時点で雲隠れしたのが半数。

生み出したモンスターに賭けて一発逆転にかけるのが幹部連中。

全て予測済みだ。

だから、ヴァレッタ達は姿を眩ませず、ダンジョンに現れると睨んでいた。

誰が読んでたかって?

そんなものは決まっている。

 

「ルシアぁ!やっと現れたな!このクソアマが殺してやるぜぇ。ハハー!だから、こっち来て首晒しなぁ!」

「いえ、結構です」

 

ルシアが到着した事に気付いたヴァレッタがガレスの相手をしながら訴えるが、当たり前に振られる。

さて、次の作戦に移りますか。

 

「フィンさんの掲げた優先順位の順に取り掛かります。団長、【アストレア・ファミリア】はガレスさんの援護をしましょう」

「ガレスのおじ様を助けるのね!素敵な作戦だわ!さぁ、早速行きましょう!ゴーゴーゴー!」

「おい、アリーゼ!先に突っ走ってどうすんだよ!」

 

アリーゼが飛び出して、皆がその後を追う。

ルシアはついていかない。

ヴァレッタはガレスと【アストレア・ファミリア】で十分相手をできるはず。

とはいえ、トドメをさせるかはわからないが。

 

―――と、そうこう言ってるうちに。

 

「……ふん」

「あ、終わりましたか。流石です」

「次はどうすればいい?ルシア・マリーン」

 

モンスターを倒したオッタルが切り上げてこっちへ来た。

いくら都市最強Lv.6の彼といえど、あのレベルのモンスターを倒すのは骨が折れたはず。

この後の作戦も考えれば彼は相当な偉業を積むはずだ。

 

「フィンさん達が切り上げたら、代わりに下へ降りてください。消耗した彼ならきっと倒せます。ただし、殺さないでください」

「……了解した。だが、相手が相手だ。加減はできんぞ」

「もちろんです。できればでいいです。とどめを刺す時までは本気で大丈夫です」

「わかった」

 

オッタルが頷いて穴から降りた。

あとは入れ替わりで上がってくるフィンとアレンがヴァレッタ戦に加われば、ヴァレッタも殺せるだろう。

 

「―――いや、指揮官として君、有能すぎぃ」

「……!」

 

声がしたので振り返るといつの間にか奥にいたエレボスが近くにいた。

ルシアは彼と向き合う。

 

「ルシアちゃん……だっけ?君がこんなに凄いなんて正直誤算だったよ」

「そうですか?フィンさん達が強いので作戦を考えるのは楽でしたが。こんなの序の口です。エルフの森を3つ同時に墜とした時よりマシですよ」

「エルフって頭のネジが外れた種族だとは思ってたけど、君の王森は極め付きだな」

「それはどうも。もっと言ってやってください。他に悪口はありませんか?この世にある全ての罵詈雑言のレパートリーを発揮してもらってもいいですか?」

「……君、故郷嫌いなのか?」

「はい」

「頷いちゃったよ」

 

神であるはずのエレボスの方がルシアのノリに翻弄される。

いかんいかんとエレボスは首を振り、戦場を眺める。

 

「……正直完敗だ。ことごとく作戦が失敗してるから、当たり前っちゃ当たり前だが」

「悪を演じ、悪をまとめ、一掃する。エレボス様の計画もここまでですね」

「気付いてたのか?」

「まあ」

 

皆が必死に戦う中、戦場でまるで茶でも飲んでるかのごとく悠長に話す2人。

エレボスは後頭部をかく。

 

「まいったな。そこまで見透かされてたんじゃ勝てるわけないな」

「確信を持ったのはついさっきですけどね。作戦がことごとく失敗しても尚、ここで勝負に出る。理性を失っているといえば簡単ですが、合理性に欠ける行動です。ヴァレッタさんらしくはない。と、なると誰かが闇派閥に都合の悪い思想で物事を動かしていると考えるのが自然です」

 

闇派閥の幹部たちは雲隠れしてまた新たな計画を立て直すのではなく、今回の計画を最後まで駆け抜けることを選んだ。

理由は2つ。

 

ひとつはエレボスに唆されたから。

ふたつめはどんなに劣勢になってもアルフィアとザルドがやる気だったから。

 

2人が引かないとなると、ヴァレッタは2人の正気を疑いつつも迷いが生じる。

Lv.7の2人が味方でいるこの好機を逃していいのか?と。

 

ここでヴァレッタだけ逃げて、もし万が一天地がひっくり返って【静寂】と【暴食】が負けたら?

残るのは振り出しに戻ったヴァレッタと、減った幹部、減った構成員の頭数だ。

 

そうなったらもうここで投資するしかない。

 

「このままいけばお望み通り、いえお望み以上の結果が得られます。闇派閥は勢力を8割は削られるでしょう」

「……それはいいが、リューちゃんの育成が上手くいかなかった。君に正疑問答を邪魔されたからね。だから、望み以上は言い過ぎだな」

「ご心配なく。『悪』に教えてもらわなくとも、我々が時間をかけても一緒に学んでいくので。余計なお世話です」

「ハハッ。そっかぁ。それはごめん」

 

適当に笑う神を横目で見るルシア。

そうこうしているうちに。

 

「もう終わりじゃ、ヴァレッタ!」

「貴女もここまでよ!」

「ち、ちくしょう……ちくしょぉぉ……!これも全部あいつのせいだ……!ルシアぁ……ルシアぁ……!」

 

ヴァレッタが追い詰められている。

Lv.5のガレスに、Lv.3のアリーゼ・輝夜・リューに囲まれている。

 

「クソ。こんなところで死んでたまるかっての。この私がぁ、お前らごときに殺されるなんてあっちゃならないだろぉが!!」

「奴が逃げるぞ!」

「追うわよ!」

 

不利を察したヴァレッタが後退を選んだ。

当然見逃すアリーゼ達ではない。

 

「逃がすか!居合の太刀!」

「かはっ……!?てめ……っ!!」

「輝夜ナイス!」

 

逃走ルートに回り込んだ輝夜によってヴァレッタは腹を斬られた。

走り出したその勢いのまま彼女は前方に突っ込むように倒れる。

が、直ぐに身を起こして身体を引きずりながらでも逃走を選ぶ。

 

「ヴァレッタ!」

「諦めなさい、貴女はここで終わりよ!」

「チッ!ふざけんな!!」

 

逃げるヴァレッタ。

追うアリーゼ達。

すると、ヴァレッタの前に1人の影が降りてきた。

 

「―――はい。邪魔するよ」

「ぐあっ!?てめぇは……!」

 

降ってきたのはルノアだ!

重力分をプラスしてヴァレッタを殴り後退させた。

 

「ルノア、貴様も来たのか!」

「えっ!?誰?」

「輝夜、貴女は彼女を知っているのですか?」

 

突然現れた無所属(フリー)のルノアにアリーゼとリューが困惑する。

 

「あ、そっか。あんたしか私のこと知らないのか」

「事情が事情だからな。言えるはずもない」

「ふーん。まあいいけど。それよりルシアに呼ばれるままに来たけどこれどういう状況?とりあえず殴ったけど」

「とりあえずで殴んなじゃねえよ!!」

 

こればっかりはヴァレッタの言い分が正しいと思う輝夜だったが、口にはしない。

ルノアは、知らねえよと、いつも悪事という名の理不尽を働く闇派閥に、理不尽返させても文句言えねえよな?と拳を構える。

 

「~~~~~~っ!」

 

逃げ道も塞がれたヴァレッタ。

ルノアや輝夜はLv.3。

突破できないこともないが、ガレスがもう追いついている。

それだけではない。

 

「ヴァレッタ!」

「……!」

「フィン!下の作戦が終わったか!」

 

包囲網にフィンとアレンが加わる。

下の階層でのザルド戦において、オッタルへのバトンタッチが済んだ2人が上がってきて合流した。

これでさらに包囲網は強化された。

Lv.5が3人に、Lv.3が4人。

 

「~~~~~っ!」

 

さらに絶望的な状況になったヴァレッタがさすがに少し青くなり始める。

そこにフィンが少し歩みを寄せた。

 

「……ヴァレッタ。君も潮時だ。長きに渡る君との因縁も、今日終わりにする!」

「フィ~~ン!フィン……!フィンフィンフィン!ふざけんじゃねえぞ、このクソ勇者様。誰が終わるかよ。てめぇのそのムカつく面、今日こそズタズタに斬り裂いてやるよ、フィ~ン!」

 

ヴァレッタが髪を掻きむしる。

この往生際の悪い闇派閥の賭けに利口なヴァレッタが乗った理由。

その1番がフィンがダンジョンに来て、対峙するという確証だ。

いつもは指揮官をしているフィンが現場に降りてきてしかも面と向かって殺し合える絶好のチャンス。

それがヴァレッタの最後の理性を崩壊させた。

リスクはあるが、フィンの首が取れればハイリターンだ。

この選択を正解にするために、ヴァレッタは剣を握る手に力を込める。

しかし。

 

「チッ……私もここまでか」

 

ヴァレッタが武器を下ろして諦めた。

フィンの首を狙ってこの作戦に参加したが、これだけの冒険者に囲まれてはフィンどころではない。

確実に死ぬシチュエーション。

だから、もう降参するしかない。

と、思わせて特大に口角を上げ笑みを浮かべた。

 

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