原初の竜でも友達が欲しい   作:伊つき

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奴の名は『黒神竜(こくしんりゅう)』、我々は【神殺し】を以て奴を殺す

 

死の7日間。

アストレア・レコード。

 

その事件の中で、多くの戦闘が終わりを迎えた。

 

闇派閥は半壊。

 

生存したのは邪神タナトスを始めとする複数の派閥と、オリヴァス。

ヴィトーは牢獄の中。

ヴァレッタは死に、ザルドは寝返り、アルフィアは倒れ、エレボスの計画もお釈迦になった。

信者は大半が拘束。

構成員は4割が拘束、3割が死滅、残り3割が逃げ延び雲隠れした。

最後の勢力はまだ暗躍する派閥(ファミリア)といずれ合流する事だろう。

 

とにかく、今回の騒動における闇派閥の作戦は大失敗と言っても過言ではない。

殆ど何も成し遂げることができず、失うものの方が多かった。

闇派閥の負けだ。

ヴァレッタなどの頭だけではなく、数も7割を失った。

 

エレボスの暗躍も終わり、降参した。

これにて死の7日間における闇派閥との対決は終わり。

 

死者数357人。

敵も合わせれば何倍にもなる。

後に、ルシア・マリーンは後悔を綴った。

 

 

とにかく。

死の7日間は、これにて全て終わっ―――

 

 

 

『ってねえよ。忘れんなカス共。女神ヴィヴィアンだ』

 

 

 

都市内放送でヴィヴィアンの声が響く。

 

各地で多くの者が反応した。

 

ヴァレッタを取り逃したと判断し、調査班を派遣して地上に戻ってきたフィン・アレン・ガレス。

 

アルフィアの居場所を探して都市を歩き回っていたルシアとザルド。

 

オリヴァスを仕留めきれず、地上へ戻ってきた【アストレア・ファミリア】、ラウル達【ロキ・ファミリア】、ルノア。

 

そして、1人、地上へ出て女神フレイヤに迎えられるオッタル。

 

迷宮都市の人々、冒険者達。

 

その全てが見上げる。

 

 

『まずは大抗争ご苦労さん。けど、私の事忘れてねぇよなぁ?都市の包囲網は解いてやったが、我々【ヴィヴィアン・ファミリア】は闇派閥と都市、どっちの味方でもねえ。なんならどっちとも敵だ。闇派閥倒して安心してんじゃねえぞ。本番はここからだ。2時間後に、ギルド会議室にて待つ。ロキ、フレイヤ。てめぇらは絶対ぇ来い。来ないなら総力あげてテメェらの派閥を潰しに行く。それとも都市の民を皆殺しにされる方が好みか?それとも都市そのものを潰してやろうか。私はどれでもいいぜ』

 

ヴィヴィアンは1拍置いて息を整える。

 

『私の目的は1つ、黒竜の討伐だ。今回はお前ら都市の派閥が私たちの邪魔にならないように牽制しに来た。今後一切、黒竜討伐に注力することは禁止するってな。私が法だ。力で分からせてやるから2大派閥は絶対に来い。来なければ、諸君らの本拠にバカ強えーアマゾネスが行くことになる。賢明な判断を祈る。じゃあな』

 

そこで放送が切れた。

各々がその足の爪先を真逆の方向に切り替え、同じ場所へ向かう。

その道中、美の女神は眷属の足を止める。

 

「オッタル。念の為よ。ステイタスを更新しておきましょう。相手はヴィヴィアン。どんな戦力を有しているかわからないわ。彼女は味方じゃない。できることはやっておきましょう」

「……わかりました」

 

オッタルは背中を見せて跪く。

フレイヤはその背中に触れる。

 

「オッタル。貴方は最悪のモンスターを単独で倒し、消耗していたとはいえザルドも戦闘不能まで追い込んだ。恐らくランクアップするわ。Lv.7になってヴィヴィアンの戦力に対抗しましょう」

「……!はい」

 

サラッと伝えられたランクアップにオッタルを静かに身を震わせ、フレイヤは少し口元を緩めながらステイタスを更新する。

 

そして、彼らは、集う。

 

「来たか。ロキ、フレイヤ」

「久しぶりやなぁ。ヴィヴィアン」

「相変わらず小さいのね」

 

ギルドの会議室にて、眷属を連れてロキとフレイヤがヴィヴィアンの前に出た。

ヴィヴィアンは彼女たちをジロッと一通り見る。

 

「……あとはヘルメス、ヘファイストス、ゴブニュ、アストレアくれーか。ヘルメス以外小物だ。まあいい。ヘルメス以外は私の邪魔をする力はねえだろうしな。とにかく、お前たち2人に釘を刺す」

「釘を刺す、やとぉ?」

 

ヴィヴィアンの物言いにロキが突っかかる。

ヴィヴィアンはロキを睨みあげる。

 

「そうだ。私の『()()』はデケェ勢力を持った神々の抑圧。テメェらには迷宮攻略や都市の平穏に注力してもらい、今後一切黒竜には関わらないようにしてもらいたい。黒竜は私とグウィネヴィアで殺す」

『……!』

 

冒険者達がヴィヴィアンの殺気と威圧感に息を飲む。

ルシアとザルドは来ていないため、フィンだけがヴィヴィアンの言葉に訝しんだ。

 

「えらく黒竜にご執心なのね、ヴィヴィアン」

「悪いか?」

「いえ、貴女らしくない思想と思っただけ。貴女、人間にも下界にも興味なかったじゃない」

「ほんまや。それが三大クエストの黒竜討伐やて?人類の為に働く気にでもなったんか?」

「……は?」

 

ロキがそんなわけないやろと思いながら尋ねた言葉に、ヴィヴィアンは目を丸くする。

やがて、彼女は噴き出した。

 

「ハッ。この私が人類(ゴミ)如きのために世界救済しますってか?んなわけねえ。そんな神格(せいかく)じゃねえのはご存知だろうが」

「せや、知っとるで。試しに聞いただけや。そやったら争わんで済むからな。まあ期待はしてへんかったけど」

 

ロキは最初からヴィヴィアンが良い奴だとは思っていない。

彼女がなぜ黒竜に拘るのかはわからないが、それが崇高な目的の為に行われることでないのは確か。

 

「で、なんで黒竜討伐したいねん。理由言わずに邪魔すんな言われても緊急事態やったら仮に協力するにしてもそない気遣われへんで」

「……人類防衛ってやつか。ご苦労なこった。奴を狙う理由は言えねえな」

「あら。だったら私達も聞く耳持つ必要ないわね。多少は開示してくれないと平等(フェア)じゃないわ

 

「何か勘違いしてねえか?」

 

フレイヤの言葉を遮ってヴィヴィアンが椅子を蹴り飛ばす。

彼女は凄まじい眼力で全員を見渡した。

 

「こっちはお願いしてんじゃねえよ。命令してんだよ。この世全て、現状の勢力・戦力ならこっちは全部滅ぼせんだよ。平等じゃねえ。こっちが上で、力も上位存在だ。私が邪魔すんなっつったら邪魔すんな。するなら死ね」

 

ヴィヴィアンが唾を吐き捨てる。

凄まじい暴論。

横暴な態度。

正義などあったもんじゃない。

倫理も行方不明。

常識も存在しない。

理屈が通用しない。

 

それが、『ヤクザ』。

女神ヴィヴィアン。

 

 

「聞けないわね」

「あ?」

 

反論したのはフレイヤ。

ロキが思わず彼女を見る。

 

「貴女が言うように、私達に人類防衛とやらの使命があるように見えるのだとしたら明らかに個人的な事情と感情で黒竜討伐を独占しようとする貴女に委ねるリスクは犯せないでしょう」

「は?何が言いてぇ?」

「個人的な事情で黒竜を倒したいなら、その結果、周囲に、世界に被害が出ようとも貴女はいとわない。違うかしら?」

『……!』

 

フレイヤの指摘に一同が確かに、と目を見開き、ヴィヴィアンは冷めた目付きでため息をつく。

 

「図星のようね。だったら貴女には任せられないわ」

「どの口で言ってんだ。目的の為に手段を選ばねえのはテメェの専売特許でもあるだろうが。フレイヤ」

「……」

 

返された。

確かに人のことは言えない。

 

「色ボケ女神なんかに説き伏せられてたまるかよ。テメェらは『はい』か『イエス』で答えたらいいんだよ。どうせテメェら束になっても私の『アルキュオラ』には勝てねえんだからな」

「アルキュオラ?」

 

ロキが顔を顰めると、ヴィヴィアンが隣にいるアマゾネスを顎でさす。

そのアマゾネスは笑顔で手を振る。

 

「オラがアルキュオラだべ!いやぁ~最近の若ぇ奴らは立派だべ、オラびっくりしただな!アルガナとヴァーチェも良かったンだが、ここにいるモンも一目で分かるべ!いい目をしてるだ!」

『……えっ』

 

ヴィヴィアンのヤクザ風雰囲気と紹介からはおよそ繰り出されないであろう親しみやすさ全開のアマゾネスが明るく挨拶した。

しかも口調がなまりすぎてて全然聞き取れない。

ヴィヴィアンは頭を搔く。

 

「あぁ~まあ、こいつはこういう奴だが、私の言うことは聞く。テメェらを潰せって命令したら潰す」

 

 

ヴィヴィアンは言う。

アルキュオラ・テオ。

 

アマゾネス。

神時代にゼウスやヘラのガキ同様に最前線で戦ってた冒険者だと。

既にLv.8へのランクアップの資格を得ており、現在はLv.6。

 

「死ぬほど前からランクアップを怠ってやがるが、馬鹿見てぇに強ぇ。ゼウスとヘラのガキがテメェらに協力するならともかく、現有勢力は間違いなく滅ぼせるぜ?」

 

ヴィヴィアンの紹介にアルキュオラは「いや~それほどでもねえべ!」と恥ずかしそうにする。

なぜ照れる?褒めてないが。

 

「三大クエスト以外にも4番目に強いだの5番目に強いだののモンスターが昔は20番目くらいまでいた。そのうちの10体はこいつが単独で倒してる」

「んだべ。確かにオラがやったべや。懐かしいだなぁ~!ま、でも皆に比べれば大したことはないべ!」

 

全員が思った。

大したことありすぎるのでは?

同時にこの女の強さが半端ないこともわかった。

 

「ま、こいつ抜きにしてもこっちはLv.7のヘラのガキをぶっ倒せるリョーカもいる。他にもスゲェ魔道具職人(アイテムメーカー)、忍者、Lv.5のアルガナとヴァーチェ、Lv.4の騎士、Lv.3鬼人。そして、Lv.2以下の木偶の坊が国家レベルで数を揃えてる。アルキュオラの援護(バックアップ)体制もバッチシって訳だァ……」

 

ヴィヴィアンが倒した椅子を正すのではなく、傾いた椅子に乗っかりケツを下ろす。

めちゃくちゃ行儀の悪い座り方をして、敵を見渡す。

 

「黒竜は私とグウィネヴィア……あともう1人で独占し、必ず殺す。私達は【黒竜討伐同盟】。その邪魔をする奴らは滅ぼす」

 

ヴィヴィアンはフィンが口を開こうとしているのを一瞥して、早口で繋ぐ。

 

「ちなみに、お前たちじゃ『今の』黒竜は倒せねえ。それは今後お前らがどれだけ成長したとしても、だ。まあ前の黒竜も無理だと思うがな」

「なんやて?そりゃ聞捨てならん。自分がウチらの子供達の何を知っとるねん。あんま舐めんなや」

「あぁ~~~、ピーピー喚くな。ご丁寧に説明してやるかよ。貴重な時間割くから有難く思え」

「説明?」

「テメェらじゃ絶対に倒せねえ理由だ。まず、黒竜のクソ野郎には神の力(アルカナム)は通じねえ。つまり恩恵(ファルナ)、ステイタスが効かない」

『なっ……!?』

 

全員が瞠目する。

衝撃の事実が淡々と告げられた。

 

「だからな。てめぇらがどれだけランクアップしようが無理なんだよ。Lv.12でも壁を殴ってるみてぇな感覚で全く攻撃が届かねえ」

「……!」

 

フィン、ガレス、リヴェリアが反応する。

 

「Lv.12……」

「フィン、まさか」

「いや、今は黙ろう。リヴェリア。すまない」

「……大丈夫だ。その判断は正しい」

 

フィンとリヴェリア、ガレスが小声で言葉を交わして、ヴィヴィアンはそれを一瞥してから再開する。

 

「そもそも奴に攻撃が通るのは神に頼らねえものだけ。神そのものも奴には何も通じない。そこで私達はリョーカを見つけた。アルキュオラは他勢力への牽制のためだけにいる」

 

ヴィヴィアンは言う。

リョーカは大英雄アルバートと同じ力を持つ。

恩恵は刻まれているが、彼女のステイタスは飾りだ。

大してアテにはしていないし、これからもすることはない。

リョーカの攻撃は黒竜に通る。

が、あくまで()()()()

攻撃がダメージになるほどの威力があるかはまた別問題。

単にバリア的なのを突破することができるだけで、そこから先はこれから対処する。

なにせ黒竜は単純に強いからだ。

それでも彼女はいないよりマシ。

そして、彼女を仲間に引き入れたことにも意味がある。

 

「私達は『今の』黒竜を殺す術を持ってる。だが、『倒す術』はねえ。だから、リョーカみてぇなのを集めて倒す。まあ、世界中探してこいつしかいなかったから、あんま意味ねえけどな。とにかくリョーカを育ててせめて奴にかすり傷くらいはつけてみせる」

「……」

 

リョーカが俯く。

かすり傷程度をつけるために彼女は拘束されている。

 

「『今の』黒竜は神を食った。黒神竜(こくしんりゅう)ってとこだな。以前もLv.12でも手がつけられなかったが、今の奴は神の力(アルカナム)を使ってくる。さらに手がつけられねえわけだ。神々がなりふり構わず力を使っても負けることはねえが勝つこともねえ」

 

なぜなら、神の攻撃は通じないから。

 

「今、奴は眠ってるが次期に起きる。なんせ神を食ったからな。腹痛中ってわけだ。が、次期に消化する。その時が人類の終わりだ。だが、私達が殺すから安心しろ」

「ちょ、ちょい待ちぃ!いや、情報量多すぎるわ!何がなんて……!?」

「っぁ~……んだよ。説明してやったのに理解しろカスが」

 

ヴィヴィアンは悪態をつくが、こんな情報量を処理できるわけがない。

それなのに淡々と一気に話された。

もはや全員置いてけぼり。

唖然として固まっていた。

フィンだけが混乱しながらもそれを一旦置いておくことができる。

彼だけが今、聞かなければいけない事を的確に判断し、冷静に対処出来る。

 

「女神ヴィヴィアン。質問だ。全ての処理できないことはこの際一旦置いておく。貴女の話が事実だとして、その『黒神竜』を貴女は殺せると言った。貴女ならそれが可能だと。その根拠は?」

「……マジか。お前、"良いな"。ホントに人間(ガキ)か?神々の半数より優秀じゃねえか。ま、中の上くらいだがな。まあそれはいい。いい質問だ。答えてやるよ」

「良いのかい?感謝する」

 

フィンの頭の回転の良さを評価して、ヴィヴィアンが質問に答えるくらいは許してくれた。

彼女は話す。

 

「私達の中に【神殺し】のスキルを持った元人間(ガキ)がいる。そいつは人でありながら神威(かむい)を纏え、人でありながら神を殺せる。神を殺せるってことはぁ、つまり……神と同化して神になった黒竜も殺せるってわけだ」

「なっ……」

 

ヴィヴィアンの回答にフィンも固まってしまった。

遂に処理の限界を超えた。

しかし、彼とリヴェリア、ガレスは考え込む。

その異常で無法なスキルを持つものに心当たりがある……かもしれない。

だが、憶測の域を出ない。

まさか彼がと思いながらも黙る。

 

「説明は以上だ。わかったか?そもそもお前たちは対黒竜においてお話にならないんだよ。つまりお呼びじゃねえし、参加できるほどの格もねえ。黒竜の被害から人々を守るのは好きにしたらいいが、討伐には参加するな。邪魔だし、奴は私達が狩りたい。私達の計画の邪魔になればそれも許さん」

 

ヴィヴィアンの話は、ここで終わる。

 

「以上だ。質問は受け付けない。お前達には肯定しか許されない。許されるとしても、肯定するほどの力がない。資格がない。お前達は黙って私たちが黒神竜の糞をぶっ殺すのを指を咥えて見てるか、迷宮探索にでも熱中してりゃいいんだ。わかったな?」

 

全ての者を圧倒するほどの『事情』を持ってこられ、反論は許されていたとしてもできるわけがない。

これが、ヴィヴィアンが都市に来た目的。

【黒竜討伐同盟】における、ヴィヴィアンの『役割』。

他の勢力に対する牽制だ。

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