ヴィヴィアンの論説は放送されていた。
都市中に響いている。
なぜならロキとフレイヤ以外も牽制したいからだ。
ギルドの会議に合流しなかった者も話は聞いた。
ヴィヴィアンよりアルフィアを優先したルシアとザルドがそのうちの1組だ。
「……良かったのか。女神ヴィヴィアンの元に向かわず」
「アルフィアさんが万が一リョーカさんに負けていたら早急に回復魔法を施す必要があります。優先順位としては上です。それに……話は聞けましたから」
「そうか。……あの話が本当なら、奴は俺達と戦ったあとに……神になったことになる。やはり奴には勝てないのか……」
「ヴィヴィアン様の話を鵜呑みにする必要はないかと」
「そうか。そうだな」
ルシアの言葉を受けて、ショックを受けていたザルドは顔を上げる。
そして、引き続きアルフィアを求めて歩く。
ダンジョンへ向かう前、ルシアはアルフィアの出現場所を聞いていた。
そこに行ったがいなかった。
しかし、大きく抉られた地面とそれが続く先にいると睨んで今ザルドと向かっている。
すると。
「……!いました!」
「アルフィア……そうか、負けたか」
ザルドが口にした通り、アルフィアを見つけはしたが倒れ伏せている。
仰向けになって大の字に天を見上げたまま微動だにしない彼女を見て、彼女が何も言わずともザルドは察して、目を伏せた。
望んでいたことなのに、彼女の敗北はどこか虚しい。
自分たちの時代は終わったのだと再認識し、息を深く吸った。
だが、同時に嬉しくもある。
【静寂】を倒すほどの新星が現れたんだ。
こんなに喜ばしいことはない。
「アルフィア。生きているか」
「……そんなことも判断がつかんというのではあれば、勘の鈍りも末期症状だな」
「ダメージはそこまで負っていないようだな」
「皮肉で判断するな。これでも死の間際を二度はさまよった」
倒れ伏せたままのアルフィアに睨まれ、ザルドはとてもそうは見えないくらい口が回ると思うも声には出さなかった。
代わりにアルフィアの視線がザルドの隣に移る。
「……テイマーの小娘か」
「テイマー?……あぁ、なるほど」
心当たりがないことを言われ、挨拶しようとするも困惑が先に来てしまったルシアは暫く考えて、アルフィアが考察した結果の1つなんだろうなと納得した。
その反応を見てアルフィアは頭の中で可能性を1つ潰した。
「彼女はルシア・マリーン。聞けば驚くだろう奇怪な存在だ」
「……なんだ、その物言いは。勿体つけるな。腹が立つ」
「そうか。ならば言う。この女はドラゴンとハイエルフのハーフで、全癒魔法を使える。俺達を有益な味方だと判断し、呪いや病気ごと治してくれるとのことだ」
「待て、一気に言うな。なんだその情報量は。貴様。塵芥になりたいのか?」
「お前が勿体つけるなと言った」
「ま、まあまあ……そんないちいち煽り合わなくとも……」
最強同士の火花が散って、冗談じゃない。
2人の喧嘩が始まれば手が付けられない。
ルシアが割って入って止めるが、なぜ仲裁する羽目になってるんだ?とやりながら困惑した。
この2人、いつもこんな感じなんだろうか。
「あの、ルシアです。えっと。概要はザルドが言った通りで……とにかくアルフィアさんの傷と病気を治しに来ました。ただ、確実に治せるわけではないのでそれだけご認識お願いします」
「……貴様らの説明は聞くに耐えん雑音だ。全く状況が理解できん……と言うのも癪だ」
正直意味不明な事ばかり言われ、流石の【静寂】のアルフィアでも混乱したが、最強の自分が惑わされることにも腹が立つ。
理解できないことを理解出来ないで終わらせたくはない。
それは向上的な価値観ではなく、シンプルにプライドで怒りが勝るからだ。
私はアルフィアだぞ?舐めるな。
このまま状況を飲み込めず、話に置いてかれてたまるかと。
アルフィアはフィンのように処理できないことは一旦置いておいたり、無理やり理解することにした。
「……なるほど。貴様はなぜかモンスターとエルフのハーフで、規格外の回復魔法を使うと。それで私達を治すと、そう言うのだな?」
「あ、はい。大体はそういう話ですね」
「噛み砕きすぎだろう」
「す、すみません」
「まあいい。そもそも私は貴様を信用するかどうかも決めていない。ザルドを手懐けたからといって……いや、奴の強さは私が知っている。味方につけたことは認めるが、貴様の回復魔法とやらが最も信じられん」
アルフィアが早口で畳み掛ける。
相当ご立腹のようだ。
やはりもっと丁寧に説明した方が良かった。
「あっ。えっと」
「遅い。惑うな。説明責任を果たせ。大体私の病気を治すだと?そんなことのできる回復魔法があれば苦労しない」
「それはそうですよね。でも、私の回復魔法は奇跡を起こす可能性があって……確率は低いんですけどそれを引けば恐らく治せます」
「奇跡だと?その回復魔法を貴様が有しているというのか。どれほど高位のものか理解しているのか?」
「はい。神や精霊、エルフの長に近しいと」
「ならば信用に値しないのも理解できるはずだ。しかも成功するとも限らんとは、貴様の言うことが嘘でも真でもハッキリせん可能性もある」
「そ、それは……」
「だが、貴様を【サタナス・ヴェーリオン】で吹き飛ばした際に竜が現れた理由は理解した。貴様があの竜そのものだったという事だな」
「あ、はい」
ルシアは思った。
この人、凄い早口で畳み掛けるなと。
全く隙がない。
どれだけの人を言葉にねじ伏せてきたんだろうか。
「アルフィア。その辺にしておけ。終わらん。それと全癒魔法は本物だ。驚くことに俺のベヒーモスの呪いすら解いてしまった」
「……はぁ。貴様はなぜいつもそう……それを早く言わん」
アルフィアが脱力する。
疲れたんだろう。
戦闘も疲れたのに、その後に精神的にもっと疲れることをしてくれるなと睨まれた。
……半分くらいはアルフィアさんのせいでは?という考えをルシアは飲み込む。
「と、とにかく回復魔法かけますね」
「……あぁ」
思っていたよりも簡単に受け入れ、力を抜いたまま目を瞑った。
ベヒーモスの呪いを解いたとなればザルドが肩を持つ理由もわかる。
アルフィアにとって、それは絶大だった。
身を委ねるには十分な理由。
そして、口にも態度にも出さないが、その話を聞いて密かに期待し、少し胸が踊った。
……当然だ。
生まれたその時から悩まされていたものがスッキリ晴れる可能性があるのだから。
少し泣きそうにすらなる。
「では、いきます」
「あぁ」
「【アヴァロン・リビヴァル】」
「……」
アルフィアは受け入れた。
ルシアの魔法で癒される。
……暫くして、彼女は動かなくなった。
「あ、あれ?効いてませんか……?」
「いや。精霊の呪いによる火傷は消え、身体に傷1つない。長年の戦闘で蓄積された内傷も癒えただろう」
微動だにしないアルフィアにルシアが失敗してしまったかもと不安になったが、ザルドがフォローする。
そう、回復魔法は正常に作動している。
アルフィアの"
それは長い戦いの歴史で負った勲章ものも全て。
まるで思い出すら泡にように溶けた感覚に襲われるほど、身体が軽くなり、長年続いていた疲労感も消えた。
まさしく、【
完全回復。
傷を癒すだけでなく、整体的な改善も完璧なまでだった。
しかし、それらは全て"戦闘"で受けたもの。
確かに身体はこれ以上ないくらいに軽くなった。
まるで、"駆け出し"の頃のようだ。
そう、生まれて初めて味わう感覚ではない。
つまり高揚感は得られない。
既知の状態だった。
魔法の出来に感動はしたが、期待は裏切られた。
しかし、それは。
「……気にするな、娘。お前に非はない」
「……!アルフィアさん……」
アルフィアは気を遣ってくれた。
彼女の中で今回は自分に非があるとした。
期待しすぎた自分が悪いと。
もしや、と悲願を抱いてしまったのが悪いと。
そう判断した。
小娘はよくやった。
素晴らしい魔法だった。
そもそもルシアが回復させてくれたのは殆どが好意だ。
無論打算はあるが、それが建前であることくらいわかる。
ルシアが自身の無償の優しさに相手は不審に思うと考え、用意した建前だろう。
優しく賢い子だ。
「……ザルドとは違い、私のは先天性だ。後天性より癒しにくいのは理解できる。だから、気にするな」
「はい……。すみません。奇跡を引き当てられると思ったんですが」
「良い。そして、素晴らしい魔法だ。自信を持て。お前がその魔法を持ち、人類の味方として現れたことは喜ばしい」
「ありがとうございます。ザルドさんもそう言ってくださいました」
「そうか。そうだろうな。お前は素晴らしい。その魔法で多くの冒険者達を癒してやるがいい。痛みから解放されたいと誰もが望んでいる」
「……分かります。そして、わかりました」
アルフィアの言葉をルシアは一つ一つ真剣に受け取る。
その様子も好感が持てる。
アルフィアはルシアを一瞥し、また空を見上げた。
「私の病気は進行している。もう少し初期であればあるいは……あったかもしれん。お前のその『奇跡』、私以外には期待してやれ」
「はい。でも、アルフィアさんのことも諦めません」
「そうか」
「定期的に魔法をかけてもいいですか?」
「……頼む」
少し間を開けてそう答えたアルフィアは、瞼を開ける。
そして、軽くなった身体を起こし、立ち上がる。
「長年の戦闘の傷は癒えた。Lv.7で駆け出しの頃のような肉体の状態だ。病も完治はしなかったが多少はマシになった。素晴らしい。礼を言う」
「いえ」
「しかし、お前は私達が人類の為に役に立つから治すと言った」
「はい」
「悪いが、それには応えられそうにない」
「……!」
「私の病気の進行具合から考えて、これまでの傷がいえようとあまり戦いの役に立てるとは思えん。癒してもらったところ、悪いな。多少は戦えると思うが、やはり……」
「そうですね。持久戦は控えた方がいいと思います」
「……
アルフィアはフッと笑った。
ルシアをかかりつけ医として、人として認めた証だ。
「この身体ならば、これからも多少は役に立てるだろう」
「いえ、貴女たちは十分働きましたよ。すみません、もっと働けと鞭を打ってしまって」
「回復魔法が鞭か。物は捉えようだな。だが、お前の回復魔法は決して鞭ではないさ」
「……ありがとうございます」
ルシアは複雑な気持ちになりながら頭を下げる。
病気を治せるなら、と思ったがただ回復させただけではもっと働けと言ってるようだと気づいた。
途端に申し訳なくなる。
ルシアの気持ちを長年の経験値からすぐに見抜けるアルフィアは、彼女の肩に手を置いて「気にするな、娘」と言ってくれた。
ルシアは迷わず竜人の肩を持ってくれたことの方に目を見開き、アルフィアを見上げる。
すると、少し頬を弛めた彼女が待っていた。
「戦闘による傷を癒してくれたことは礼をしたい。小娘、要望はあるか?」
「あ、じゃあ……」
ルシアはおずおずと顔を上げる。
彼女の様子からなんとなく身体のことで不便に生きてきたことは察した。
そんな彼女の口から出るお願いも大体系統の検討はつく。
「お友達になってくれませんか?」
「……なるほど」
前言撤回。
意外なことを言われたが、すぐに背景を察した。
やはりあながち間違いではなかった。
アルフィアは……彼女と向き合う。
「フッ。私を友にしようなどと考えるのは変わった奴だぞ。だが、私のこの呪われし周囲に危険を及ぼす身体を受け入れるのならば、承諾してやらんこともない」
「……!」
ルシアは瞠目して顔を上げた。
彼女も特殊な肉体で不便に生きてきたことを知る。
それは、一緒にしてはいけないかもしれない。
彼女はあくまで人で、受け入れてくれる者がいる。
ルシアとは違う。
「小娘。いや、ルシア。お前はザルドとも同じ約束を交わしたのだろう」
「……!は、はい」
「ならば受け入れる者はいたということになる。少ないからといって、覚悟を持ってお前を受け入れた者の存在を無下にするな」
「……はい。そうですね」
確かに。
ルシアがこれまでの人生を悲観するのは勝手だ。
彼女の苦しみをアルフィアは理解できない。
簡単に意識を変えろという資格は無い。
だが、今既にいる者たちを無視するなというのも正しい。
アストレア。
ルノア。
シャクティ。
輝夜。
ザルド。
そして、アルフィア。
お前のその事情で6人もいることに感謝しろとまでは言わない。
しかし、今いる者たちをなかったことにしてはいけないのだ。
「ありがとうございます。大事なことに気づけた気がします」
「そうか。それよりも……私はまだ返事をもらってないが」
「あ、すみません!是非お願いします!」
「あぁ」
アルフィアの手をルシアは取った。
友達は、どんどん増えていく。
人間がもっと幼少の頃に済ませる過程を、ルシアはようやく歩き始めた。