「えっと……何があったの?」
「なんでルシアは目を隠してんだ?」
ルシアが気絶から戻ると、目隠ししたルシアが部屋から出てきアリーゼとライラが困惑する。
「それは……」
「……」
アリーゼ達に尋ねられて言い淀むアストレアは、輝夜を見る。
彼女だけは先に部屋に読んで、事情を話してある。
……呼び出した時点で嫌な顔をしていたが。
『アストレア様。なんとなく予想はつきます。またルシアに特別な何かが起きたと』
『そうなの。ねえ、輝夜。心して聞いてね―――』
『その前に。私には流れでルシアの正体がバレたからといって、度々秘密の共有者にするのはやめていただきたい。私にも背負える限度がある」
「そ、それは……」
「私はアストレア様に都合のいい相談者ではない」
「……!」
輝夜に睨まれ、アストレアの息が詰まる。
彼女からすれば、勝手に拾ってきたものを成り行きで受け入れただけなのに仲間のように扱われるのが癪だ。
せめて巻き込んだ側としての自覚は持って、相談するにしてももっと申し訳なくして欲しい。
尤も、相談されること自体ごめんだが。
「ご、ごめんなさい。輝夜。貴女にばかりそんな思いを……頼ってしまって、ごめんなさい」
「いえ。まだ許容量は超えていないので、今回はいいです。次回からもこう簡単に呼びつけられては困ると思い、言ったまで」
輝夜は瞼を開ける。
「では、要件をどうぞ」
「あぁ……えっと、とても言いづらいのだけれど……」
「今に始まったことじゃないでしょう」
「え、えぇ。でも、本当に今回も驚くというか【規格外】で……ルシアのスキルにとんでもないものが生まれたの」
「とんでもないもの?」
輝夜が眉間にシワをよせる。
このアストレアがここまで勿体つけるほどの代物。
段階をもって告げなければ衝撃で卒倒しかねないレベル感なのは肌感覚でわかる。
輝夜は少し息を飲み、奥で横になっているルシアを一瞥する。
どうやら気を失っているらしい彼女は、ピクリともしない。
まさか、スキルの影響で……?
「昏睡とかではないわ。ただ気絶して寝てるだけよ」
「そうですか」
輝夜は安堵して脱力して、息を吐く。
その様子をアストレアに見られ、困ったように微笑まれて咳払いを1つ。
「それで、発現してすぐルシアが倒れるほどのそのスキルとは?」
「えぇ、それは―――」
アストレアが瞼を閉じて、1拍置く。
彼女が再び開眼した時、珍しく真剣な眼差しだった。
「スキルの名は、【
「なっ……」
輝夜は、言葉を失った。
思わず寝ているルシアを見る。
アストレアは補足説明をした。
その説明の内容に輝夜は驚きながら、固まる。
アストレアは言う。
神の力である『千里眼』がレアスキルとなってルシアに発現した。
これは通常ありえないこと。
地上の神秘。
神ですらわからない現象。
人には余りあるその力は、ルシアの脳内容量を破壊したと、アストレアは告げた。
「ルシア……」
全てを聞いた輝夜は眠るルシアに寄り添う。
彼女の髪を指に通してあげた。
ルシア・マリーンの特別性は忌々しくもある。
だが、毎度毎度本人も苦しいはずだ。
それでもひたむきに生きて、皆が享受している【普通】を自分は味わえないと割り切れない。
気持ちは分かる。
ルシアと比べれば話の規模は違うが、輝夜も生まれの特別な境遇を振り切って【普通】を求めて旅に出た者だ。
彼女の頭の痛み以外に、心の痛みも理解はできる。
本人だって望んで力を手に入れてるわけではない。
ランクアップは申し出たが、こんなこと予想できないだろう。
なのに、突然頭が割れるような痛みに苛まれた。
同情せずにはいられない。
「ルシア……」
「輝夜……」
ルシアの頭を愛おしそうに撫でる輝夜。
その様子を我が子を慈しむように眺めるアストレア。
暫くルシアを憐れみ、輝夜は気を取り直してアストレアと向き合う。
「ちなみに、今回のスキルのことは皆には」
「伝えないわ」
「……そうですか」
また秘匿か、と思いながらも自分が逆の立場でも同じことをする。
輝夜は視線を落としたあと、ため息を1つ挟む。
「で、このルシアの千里眼。ステイタスに記された【予言】というは?」
「その名の通り、ルシアが不思議な力に乗っ取られてルシアではない言葉で話始めるわ」
「えらい詳細ですね。……もしや、もう使ったとか?」
「ルシアの意思ではないけれど……」
「……なるほど。して、その内容は?」
アストレアがメモを取った羊皮紙を見せてくれる。
『―――【刻、一刻】。【予言】の開始。【27階層に悪夢、来たれり】』
『―――【刻、二刻】。【予言】の再開。【灰色の厄災、正義の使者を食い尽くす。今は遠き森の空。友を灼き滅ぼす】』
その内容を見て、輝夜は。
「なるほど。前半はよくわかりませんが、後半は……」
輝夜の言う通り。
後半は間違いなく【アストレア・ファミリア】の予言だ。
しかし、【灰色の厄災】というのはよくわからない。
理解できるのは、何らかの状況に陥り……【
「リオン……そうか。私達は、リオンに……」
「ま、まだ決まったわけでは……あるわね」
「やはり神である貴女にはこれをただの世迷言として処理できませんか。神の力ですもんねぇ。私達より貴女の方が詳しい」
「えぇ。千里眼の予言は未来の事実を伝えるだけ。だから、言われたらもう……」
「覆すことは?」
「できなくはないと思うわ。そうでないと未来の事象を伝える意味ってないと思わない?」
「確かに」
輝夜は納得し、考え込む。
アストレアの様子からして千里眼について知識はあるが、あまり直面したことはないのだろう。
あるいは、地上に降りた時、そのような
まあいずれにせよ、そこは今論点ではないし、考えても仕方ない。
考えるべきは【アストレア・ファミリア】の未来をどう回避すべきか。
そして、またしてもこんな能力を備えてしまったルシアをどうするか。
「これはドラゴンの方ではなく、ハイエルフの方の話でしょうか?」
「そうね。きっとそっちが関係しているわ。基本的にルシアの
「フリテンの王森か……あの従者の男を問いたださねばならん。尤も、口を割るとは思えんが」
「それに今は都市の外にいる。大派閥のヴィヴィアンの方は見つけやすいでしょうけれど……グウィネヴィアの方は」
「厳しいですね」
もしくは本人に聞くか、と思いながら輝夜はルシアを見る。
とはいえそれも後回しだ。
今、注視すべきは。
「確かこの予言とやらは12回使えばルシアは死に至ると……そう記載がありましたよね?」
「……そうね。そうみたいね」
アストレアも頭を抱える。
問題は2つ。
この予言という能力はルシアの命を脅かし、その上限は12回だというのに既に2回も消費していること。
そして、もうひとつはルシアが気絶したことで今は千里眼の効力が切れてるが、また彼女が意識を取り戻した時に再開するか否か。
もし、彼女が覚醒時に常に千里眼が作動するなら、彼女は先程の頭痛と永遠に付き合っていくことになる。
まずもってそんなことは人間には不可能だ。
それはモンスターでも変わらない。
つまり、もしそうなったらルシアを待つのは死、あるのみ。
……千里眼は、2つのルートでルシアの命に鎌をかけるもはや呪いの域だ。
神が使用する時と違い、その神々しさよりは負の側面が目立つ。
「……あと10回。予言が為されれば、我々はこの
「……っ!!輝夜!!」
珍しく主神が荒々しく声を上げて、立ち上がる。
そんなアストレアを一瞥したあと、輝夜はシーっと唇に人差し指を当て、愛おしそうに寝ているルシアの頭を撫でた。
彼女を見つめるその眼差しを見れば分かる。
口にしたのは副団長としてファミリアの為に本来想うべきことではあって、彼女個人の願いではない。
寧ろ、彼女の本心は逆にある。
「輝夜……」
アストレアは、微かに目が赤くなっている輝夜が、ハイエルフとドラゴンのハーフを撫でているそんな絵画のような光景を夕焼けに照らされながら見つめる。
「ルシア……死ぬな。死ぬな、ルシア……」
輝夜は、ルシアを撫でながらそう何度も唱えて項垂れる。
ルシア手を両手で包み、頭を彼女の胸に沈めた。