原初の竜でも友達が欲しい   作:伊つき

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繁華と白い息

【アストレア・ファミリア】の本拠(ホーム)、『星屑の庭』にて。

 ルシアはアストレアに声を掛けられた。

 

「ルシア。もし良かったらバイトしない? ガネーシャのところにうちから1人貸せないかってお願いされたの。他のみんなは治安維持活動で忙しいから是非貴女に行ってもらいたいのだけれど」

「えっ。いえ。結構です」

「ちなみに三食付くらしいわよ」

「行きます。是非。いやぁ~なんだか凄く労働したい気分になってきました。今から肩バッキバキですよ」

「それ持ちネタなの? ルシア」

 

 恒例になってきたそんな会話をしたのが昨日の話。

【ガネーシャ・ファミリア】の闘技場における怪物祭(モンスター・フィリア)、その準備にルシアが駆り出されることになった。とは言ってもそれは口実でアストレアとガネーシャの狙いはシャクティと交流を持たせることにある。

 

 そして、翌日。ルシアは闘技場建設や怪物祭(モンスター・フィリア)の為の物資を運んだり、言われた仕事をこなした。

 その帰り、シャクティはルシアに接触する。

 

「ルシア。今日は来てくれて助かった。感謝する。何か困ったことはないか?」

「大丈夫です。シャクティさんがとても丁寧に教えて下さったので」

「そうか」

 

 一日付きっきりで責任を持って仕事を教えたシャクティ。

 とはいえ、ルシアの手を借りなければいけなかった理由など当然ない。ここからが本来の目的だ。

 

「では今日はこれで」

「ルシア。最近は闇派閥(イヴィリス)の動きが活性化している。1人で帰るのは危険だ。【アストレア・ファミリア】の本拠(ホーム)まで送ろう」

「おや。いいんですか?」

「無論だ」

 

 仕事を終えてルシアが帰ろうとしたところにシャクティの提案。これが本来の目的。この帰り道でルシアとコミュニケーションを取り、どうにか自殺願望に解決の糸口がないか探りたい。

 ルシアが承諾してくれるか少し不安材料ではあったが、快諾してくれて助かった。

 彼女自身も駆け出しで、力のない自身が1人で出歩くのは危険だと自覚しているようだ。

 

「シャクティさんは優しいですね」

「……これくらいは当然だ」

「流石です。普段憲兵として都市に暮らす皆さんを助けているのも凄いです」

 

 暗黒期。

【ゼウス・ファミリア】と【ヘラ・ファミリア】、この二大派閥がオラリオから去った後、闇派閥(イヴィルス)の活性化と治安の低下によって迷宮都市オラリオは、安心して暮らせない時代を迎えた。

 都市に暮らす人々、加えて力のない冒険者も過酷な環境に苦しめられている。

 

 いつしか人々はいつ終わるかもわからないこの状況を暗黒期と呼び、【ガネーシャ・ファミリア】は憲兵的な活動を開始した。

 団長であるシャクティも人々の暮らしを守るために日々尽力している。

 今はそれが功を奏してルシアに不審がられることはなかった。複雑な気持ちだ。

 

 ルシアの命を救うことではあるが、本人の意思は無視している。

 女神と主神、そして自分の身勝手だが彼女を想う気持ちを見透かされないようにしなくてはいけない。

 だが、その為に普段憲兵的な活動をしている訳では無い。だから、複雑だ。

 

「ルシア。少し寄り道していかないか」

「私は構いませんが、シャクティさんは忙しいのでは?」

「急いでいるなら誘わない」

「確かに。そうですね。それに、シャクティさんも寄り道するくらいの息抜きは必要でしたね。普段、力のない私達のために尽くしてくれていますし」

「……っ!」

 

 意表を突かれた。

 シャクティが言葉に詰まる。思わずルシアを見たくらいだ。

 失礼だが、彼女がそのようなことを言うタイプだとは思っていなかった。

 

 女神アストレアにルシア・マリーンのことは事前に聞いている。

 特殊な肉体、特殊な存在、特殊な血。

 間違いなく常人とは違う彼女について、本人と接触する前に情報を得ようとシャクティはアストレアに尋ねた。対するアストレアは、少し悩んで結論を出した時に少し微笑んだ。

 

『あの()は……沢山食べることが好きな素敵な女の子よ』

 

 背中には翼が生えているだとか、肌が鱗で出来ているだとか、胸の中に魔石があるのだとかそんなことよりもルシアのことをそう説明した。

 女神の言葉が脳裏に過ぎる。

 

「……? どうかしました?」

「い、いや。ただ……私はそんな大層なことはしていない、そう思っただけだ……」

 

 シャクティの視線にルシアが気づき、コテンと首を傾げる。

 彼女の純粋な瞳にシャクティは目を逸らす。

 そして、シャクティが言ったことは本当に思っている事だ。

 

 どんなに手を尽くしても、どんなに頑張っても、どんなに想いが強くても、理念が立派でも、足りない。

 足りない。とにかく足りない。足りないんだ、ルシア。

 力もどれだけあっても足りない。全員は助けられない。全員は救えない。

 ―――私の活動は、足りないんだ。

 

「本当に大したことはしていない。……やはり、寄り道はやめようか」

「……? よく分かりませんが、ここまで来たらどう帰っても一緒かと」

 

 もう既に最短ルートで帰る道からかなり外れていた。ルシアの言う通り、今から道を変えてもこのままのルートを進んでも着く時間に大差はないだろう。シャクティも言われて初めて気づいて辺りを見渡す。

 寄り道したルートは、食事処が数多く並ぶ賑わった大通り。人混みも多く、暗い世の中でもここでは皆明るい。

 

「あっ。それよりもどこかお店に入りませんか? いい匂いがしてきて食欲をそそられます」

「腹が減った? バカな。我々が提供した夕食はつい2時間前くらいだった筈だが……」

「……? 2時間も空けばお腹すきません?」

「いや、空かない」

 

 ルシアの胃袋がギュルギュルと竜の息吹の如く鳴り響く。

 発言も音も信じられないものを見るようにシャクティは瞠目した。

 このドラゴン、ひょっとして胃袋が異次元か? 

 

「ま、待て。今手持ちは……」

「あそこの店にしましょう。少し値は張りますが、1品1品とても沢山振舞ってくれるのでお気に入りです」

「帰るまで我慢しろ!」

 

 マズイ。このドラゴンといると(サイフ)破壊(クラッシュ)される! 

 

「ファミリアでも飯は食べるんだろう? 我々が用意する分だけでは足りないから用意していると女神アストレアから聞いている」

「ご飯は幾ら食べてもいいと思いませんか」

「思わん!」

 

 思わずツッコミをいれるシャクティ。あぁ、この感じ。ガネーシャがもう1人増えたみたいだ! 

 頭が痛い。申し訳ないが、【ガネーシャ・ファミリア】にルシアがいなくて良かったと安堵する。特殊な存在だからではない。ツッコミが追いつかないし、食費でファミリアが潰れかねないからだ。

 

 団員数No.1の大派閥が1人の大食漢に崩壊まで追い込まれたら迷宮都市の笑い者だ。

 同時に、【アストレア・ファミリア】に同情する。彼女の問題点は怪物(モンスター)の血がどうこうより腹ぺこなことなのでは? とも思えてきた。

 

「……ルシア。神バルドルに会いたがっていると聞いた。何故だ?」

 

 もう充分他愛のない話はした。だから、急な舵取りだが、シャクティは本題に入った。

 

「……」

 

 ルシアは黙る。質問が気に食わったのでも突然核心を突かれて驚いているのでもない。

 ただ、己の内をどこまでさらけ出すべきか見極めている()だ。

 やがて。ルシアは繁華な通り特有の芳ばしい匂いを吸って、少し上を向いた後、振り返ってシャクティと向き合った。

 

「生きてちゃいけない存在でも、最期くらい『救済』されてもいいと思いませんか?」

 

 ルシアが吐いたモノは白くて、冷たかった。

 

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